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【総選挙2021】温泉街で「しっかり」連呼 原発事故に触れたのはわずか1分間~岸田首相が福島市・土湯温泉で具体性欠く第一声

田んぼ、果樹園の次は温泉街─。第49回衆議院選挙が19日公示され、岸田文雄首相が原発事故から10年7カ月後の福島県福島市で第一声を行った。だが、マイクを握った場所は多くの人が行き交う福島駅前ではなく、今回も車で20分以上走った山奥にある温泉街。4年前の総選挙で田んぼをバックに応援演説を行った安倍晋三首相(当時)から〝逃げ〟の姿勢まで継承した形だ。しかも「しっかり」を連呼するばかりで具体性に乏しい演説。いまも課題が山積する原発事故問題に触れたのはわずか1分間。〝飛び道具〟の「岸田ノート」がもっとも目立った第一声だった。
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【新型コロナも「しっかり」】
 市街地から遠く離れた温泉街。観光協会前の狭い広場に、お年寄りたちが集まった。ソーシャルディスタンスなどどこへやら。岸田首相が到着する頃にはぎゅうぎゅう詰めの人だかりになった。
 「この選挙、皆さん一人一人が皆さんの未来を、そしてニッポンの明日を選び取る大変重要な選挙です」
 そう始まった応援演説は約20分間続いたが具体的な中身に乏しく、連呼されたのは「しっかり」の4文字ばかり。聴衆は実に30回近くにわたって「しっかり」を聴かされたのだった。
 新型コロナウイルス感染症への対応も「しっかり」、経済対策も「しっかり」、そして、温泉街の人々が最も気になる観光業対策も「しっかり」。何から何まで「しっかり」しか言わなかった。
 「万が一に備えて病床、ベッドの数をしっかりと用意しながら最悪の事態にもしっかり備えながらこれからを考えていかなければならない」
 「ワクチン接種、それから検査体制の充実、さらには治療薬の開発。これをしっかり進めていかなければなりません」
 「ワクチンによって安心を確保しながら、無料の検査を拡げるなどしっかり進めていかなければならない」
 「予防と検査と、そして治療。この一環の流れが出来上がる…ぜひしっかりと進めていきたいと思います」
 「Go Toトラベルをはじめ様々な取り組み。まずは感染状況をしっかり確認して、安心安全をしっかりと確認したうえでありますが、こうした取り組みを再開するべく準備を進めていかなければならない」
 「ぜひ日本の経済、しっかりとまずは大きくし、そして成長の果実を皆さん一人一人の所得、給与という形で分配していく。そして、皆さんに思い切ってお金を使ってもらうということになると、これがまた次の成長につながっていく。こうした成長と分配の好循環…」

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新首相が用意した〝飛び道具〟は「岸田ノート」。しかし、そこに原発事故被害者の声や復活を望む温泉街の声が書き込まれているかは分からない=土湯温泉観光協会前

【飛び道具は「岸田ノート」】
 確かに喫緊の課題は新型コロナウイルス感染症の問題だ。
 一方、事故発生から10年半が経ったとはいえ、福島第一原発の廃炉作業は緒についたばかり。強引に決められた汚染水海洋放出問題、帰還困難区域の除染問題、区域外避難者の住宅問題、甲状腺検査など、取り組むべき課題は山積している。
 だが、総選挙の第一声に福島を選んだ割には、岸田首相が原発事故に触れたのは次の部分だけだった。
 「さっそく先週は、福島をはじめ東日本大震災の被災地を巡らせていただきました。インフラ等においてはずいぶんと取り組みが進んでいるなと感じる一方で、福島においてはまだ原発の廃炉の問題、ALPS処理水の問題、また心のケアの問題…。まだまだやらなければならないことがあるなと痛感し、心に刻んだ次第です。ぜひこれからも福島の東北の未来のために頑張っていきたいと思います。東日本の復興なくして日本の再生なし。この言葉をこれからも心に刻んで頑張っていきたいと思います」
 土湯温泉では震災・原発事故後、地熱発電と小水力発電に取り組んでいるが、再生可能エネルギーへの言及も無し。汚染水海洋放出に関して何を「やらなければならない」のか分からない。「心のケアの問題」が何を指しているのかも分からない。
 むしろ能弁になったのは、〝飛び道具〟を出したときだった。
 「そして、ここに1冊のノートがあります。このノートはですね、自民党総裁選挙の際に『岸田ノート』と言って注目を集めたノートです。私が長年、皆さん一人一人の、国民の皆さんの声を書き留めて来たノートであります。もうずいぶん冊数を重ねて、最近また新しいノートに移っておりますが、このノート。このノートはこれからも私が国民の皆さんの声をしっかり聴いて、そして何よりも国民の皆さんと協力して、明日を切り開いていく。国民の皆さんとの約束の証であると私は思っています」
 岸田首相の言う「国民」には、原発事故被害者は含まれないのだろうか。

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福島県では、5つの選挙区すべてで自民と野党の一騎打ち。福島1区は前回、金子氏が小選挙区で勝利した。亀岡陣営は「2回続けて比例復活というわけにはいかない」と逆転をもくろむ。首相の福島入りを起爆剤にしたい考えだが…

【「党本部が決めたこと」】
 安倍晋三氏は首相在任当時、国政選挙のたびに「被災地・福島」を利用してきた。
 2017年10月の総選挙では、わざわざ稲刈りを中断させてまで黄金色の稲穂を残して田んぼをバックに応援演説を行った。
 2019年7月の参院選では、自民党を支持する果樹園でおにぎりや果物をほお張ってみせた。
 そして今回は温泉街。岸田首相もまた、人通りの多い駅周辺を避けるように遠く離れた場所を第一声に選んだ。福島市議の1人はこうみる。
 「街なかも大事だが、東京五輪が無観客になってしまって、国内外からのお客さんを手ぐすね引いて待っていた旅館業界のアテが外れてしまったからね。首相に温泉街に来てもらって観光に光を当てるのが一番大きい」
 この市議は「それに西山さんがね。これは邪推だけど」と言って笑った。西山さん、とは福島県議で自民党福島県連幹事長を務める西山尚利氏だ。公示日の朝、神社での必勝祈願を終えた西山県議は「あくまでこちらの推測だが…」と前置きしたうえで、取材に対しこう答えた。
 「岸田総理からはっきり伺ったわけではないが、昨年の総裁選で福島に遊説に入った。その時に、コロナ禍で厳しい観光地を実際に見て政策を立てたいということで土湯温泉に行った。それがGo To トラベルにつながった。その時に『皆さん、また土湯に戻って来ますよ』と演説している。今回総裁になって、党本部がそういう経緯を調べ上げて話が来た。俺たちじゃなくて党本部からの話。4年前の田んぼもそうだが、人通りの多い場所での演説も重要だが、第一声は全国に報道される。4年前は農家の皆さんの応援。2年前の参院選は果樹園だった。その時も同じ趣旨。温泉街は本当に厳しいですから。五輪も無観客になってしまって全然ですから。そこに総理も党本部も焦点を当ててくれたのではないか。コロナ禍からの復興も福島から始めると」
 お年寄りたちとのグータッチを終えると、岸田首相は車で福島駅に向かった。為政者が去った温泉街は再び人通りが少なくなった。



(了)
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鈴木博喜

Author:鈴木博喜
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