【子ども脱被ばく裁判】きょう仙台高裁で控訴審第2回口頭弁論~前回期日で原告団代表「福島地裁が逃げた被曝問題、きちんと判断して」
- 2022/02/14
- 07:06
原発事故後の福島県内の被曝リスクや行政の怠慢を正面から問うた「子ども脱被ばく裁判」の控訴審。第2回口頭弁論が14日午後、仙台高裁101号法廷(石栗正子裁判長)で行われる。昨年10月に行われた第1回口頭弁論では、原告団代表の今野寿美雄さんが意見陳述。「放射能と子どもの安全教育の問題について、裁判所の血の通った判断を出してください。福島地裁が徹底的に逃げた問題について、きちんと判断してください」と訴えた。提訴から今夏で8年。低線量被曝の健康リスクや不溶性放射性微粒子による内部被曝の危険性など「原発事故による被曝」とそれに伴う国や地方自治体の怠慢を訴える裁判が仙台で続く。

【津島で雪を食べた息子】
「福島地裁判決は、私たちが訴え続けた放射能の危険や不安、子どもの未来を国や福島県の言い分をなぞって否定するだけで、読んでいてくやしさと虚しさがこみ上げました」
「放射能と子どもの安全教育の問題について、裁判所の血の通った判断を出してください。福島地裁が徹底的に逃げた問題について、きちんと判断してください」
一審原告を代表し、今野さんは仙台高裁の法廷で意見陳述をした。
「提訴から7年以上が経過し、多くの子ども原告は安全な場所で教育を受ける機会や補償を得られないまま、中学校を卒業していきました。残った子ども原告も、再来年の3月には卒業を迎えます。この間、さまざまな事情から訴えを取り下げざるを得ない原告も出てきてしまいました。しびれを切らし、子どもとともにより安全な場所に避難し、そこで教育を受けさせる母親原告もいました」
当時、女川原発(宮城県)に単身赴任。浪江町で暮らす妻子は他の町民と同じように津島地区に避難した。被曝リスクから逃れるはずの避難が、実はより汚染の酷い地域への移動だったことが後に分かる。
「原発事故当時5歳の息子は、2011年3月12日早朝から15日早朝まで、浪江町津島地区の県立津島高校津島校の体育館に避難していました。放射性プルームが流れ、高濃度の汚染地帯となり、現在も帰還困難区域に指定されている区域です。息子は雪を丸めてアイス代わりに食べたそうです。その話を聴いたとき、愕然としてしまいました」
「それから半年くらい経った後から、息子は万年風邪のような症状が2年くらい続きました。月に2回、通院しました。医師からは『免疫低下です』と言われました。あのとき、SPEEDIの情報が浪江町に知らされていれば、津島地区よりさらに遠くへ避難していたはずです。息子を被曝させてしまった…。悔しさとともに福島県に対して激しい怒りを持っています。今でも、福島県民だけが年20ミリシーベルトの放射線被曝を強要されています」
原発事故発生以降、今野さんは一貫して「子どもは自分で自分を守れない」と口にしている。わが子を被曝リスクから守れなかった悔しさは一審原告に共通する想いだ。
「子どもたちを守るのは私たち大人です。大人の責任です。大人としての最低限の義務です」

一審原告を代表して意見陳述した今野寿美雄さん。「放射能と子どもの安全教育の問題について、裁判所の血の通った判断を出してください」と訴えた
【「無用な被曝避けるべき」】
弁護団は控訴理由書の概略を述べた。
▼井戸弁護士
「『学校環境衛生基準』には、放射性物質に関する基準がない。被曝についての基準が定められるべきであり、定められていないのは国の怠慢。子どもは環境基準のレベルで被曝から守られるべき。裁判所は正面から判断していただきたい。確かに空間線量は下がったが、土壌汚染濃度は容易に下がらない。土壌中の放射性セシウムの大部分が不溶性の微粒子を構成している。この微粒子を体内に取り込んで内部被曝すれば生物学的半減期は数十年にも及ぶと考えられており、深刻な危険がある。子どもをモルモットにするなど断じて許されない。避けることができる無用な被曝は避けるべき。国は答弁書で『年1ミリシーベルト程度の被曝は法的保護に値しない』と主張している。裁判所は『被曝は可能な限り避けるべき』という当然の原則を再確認していただきたい」
▼光前幸一弁護士
「この訴訟の大きな争点は、福島県民が原発事故で受けた被曝量をどのように測り、低線量内部被曝が健康に及ぼす影響をどのように考えるか。県民健康調査の結果を公正な科学に根ざして検証することが極めて重要だ。検査結果に関する情報の非公開度は目に余る。専門家証人の尋問などによる十分な審理を求める」
▼古川健三弁護士
「避難するのか屋内退避するのか。何を食べ何を飲んだら良いのか。子どもを屋外で遊ばせて良いのか…。正しい判断のために最も重要なのは正確な情報だ。しかし、一審判決は抽象論に終始して何の判断もせず、国や福島県の情報隠蔽を追認した。浪江町では国からも福島県からもSPEEDI情報が提供されなかったために高線量の津島地区に多くの町民が避難してしまい、無用な被曝を余儀なくされた。国や福島県がSPEEDI情報を提供してさえいれば、被曝せずに済んだ当事者が現に存在する。一審判決は根本的に見直されなければならない」
▼田辺保雄弁護士
「ICRPの2007年勧告が示した年20ミリシーベルトまでの『参考レベル』は、児童生徒などの生命や健康を守るという観点からは許容されない考え方。文科省による2011年4月19日通知より前に福島県が学校再開を決めたことによって子どもたちが少なく見積もっても数倍高い放射線量にさらされたことは明らか。裁判所は住民を被曝から守るという観点で国や福島県などに違法な行為がなかったかを判断していただきたい」
▼柳原敏夫弁護士
「2011年3月11日までの日本政府も法体系も、原発事故による備え、救済に対する備えが全くなかった。ノールール状態で、原発事故後においてもなお、解決が図られず放置されたままである」
「裁判所は一審原告たちは原発事故前も以後もこの国の主権者、人権の主体であるという大前提をふまえて、国の出した指示命令勧告などの人権侵害という違法性について正しい判断をするべきだ」
▼崔信義弁護士
「原発事故後の国の政策は『年20ミリシーベルト』が基本となっている。年100ミリシーベルトまでの被曝については健康リスクが証明されていない、リスクがないとする理論的な根拠として国は『連名意見書』を提出した。一方、一審判決は内部被曝のリスク、特に不溶性放射性微粒子についてまったく考慮していない。控訴審ではこの点について正面から取り組んでいただきたい」

井戸謙一弁護士は一貫して「避けることができる無用な被曝は避けるべき」と訴える
【一審「被曝危険存在せず」】
「子ども脱被ばく裁判」は2014年8月29日に提訴。2つの訴訟が併合され審理されてきた。
1つは「行政訴訟」(通称・子ども人権裁判)。
福島県内の公立の小・中学生である子どもたち(原告)が、福島県内の市や町(被告)に対し、被曝という点において安全な環境の施設で教育を実施するよう求めている。
もう1つは「国家賠償請求訴訟」(通称・親子裁判)。
2011年3月11日当時、福島県内に居住していた親子が、国と福島県に対し『5つの不合理な施策』(①SPEEDIやモニタリング結果など必要な情報を隠蔽した②安定ヨウ素剤を子どもたちに服用させなかった③それまでの一般公衆の被曝限度の20倍である年20mSv基準で学校を再開した④事故当初は子どもたちを集団避難させるべきだったのに、させなかった⑤山下俊一氏などを使って嘘の安全宣伝をした)によって子どもたちに無用な被曝をさせ、精神的苦痛を与えたことに対する損害賠償(1人10万円)を請求している。
2020年3月4日には、原発事故直後に福島県の「放射線健康リスク管理アドバイザー」に就任した山下俊一氏(長崎大学教授、福島県立医科大学副学長)の証人尋問を実現させた。
しかし、福島地裁(遠藤東路裁判長)は昨年3月1日、原告たちの訴えを全面的に却下(門前払い)し、棄却する判決を言い渡した。
安全な環境の施設で教育を実施するよう求めたことについて、遠藤裁判長は「年20mSv基準は直ちに不合理とはいえない」、「甲状腺検査(県民健康調査)によって発見された甲状腺がんの症例増加が、本件原発事故に伴う放射線の影響によるものであると認めるには足りない」、「原告らが通う公立中学校については、除染・改善措置を講じながら、当該学校施設において教育を実施することは可能」などと列挙したうえで、「教育委員会の裁量権を逸脱、濫用した違法があるとはいえず、人の健康に維持に悪影響を及ぼす程度の放射線に被ばくする具体的な危険が存在するとも認められないから、原告らの生命、身体に係る人格権に対する違法な侵害があるとは認められない」と棄却した。
弁護団長を務める井戸謙一弁護士は、第2回口頭弁論にあたって次のようなメッセージをホームページ上に公表している。
「今回の準備書面では、行政権行使の濫用逸脱の基準を提示し、この基準を超える国や福島県の裁量権行使は、許される範囲を超えて違法、無効であると主張する予定です。また裁量権行使の基準となるべき国際人権法の解釈の手法も提示する予定です。加えて、国及び福島県の主張に対する反論をしますが、とりわけ国が、「年1ミリシーベルトの被ばくをしない利益は法的保護に値しない」と主張した点について、反論を行います。控訴人の一人である父親の意見陳述も予定されています。議論は佳境に入ります。注目をお願いします」
(了)

【津島で雪を食べた息子】
「福島地裁判決は、私たちが訴え続けた放射能の危険や不安、子どもの未来を国や福島県の言い分をなぞって否定するだけで、読んでいてくやしさと虚しさがこみ上げました」
「放射能と子どもの安全教育の問題について、裁判所の血の通った判断を出してください。福島地裁が徹底的に逃げた問題について、きちんと判断してください」
一審原告を代表し、今野さんは仙台高裁の法廷で意見陳述をした。
「提訴から7年以上が経過し、多くの子ども原告は安全な場所で教育を受ける機会や補償を得られないまま、中学校を卒業していきました。残った子ども原告も、再来年の3月には卒業を迎えます。この間、さまざまな事情から訴えを取り下げざるを得ない原告も出てきてしまいました。しびれを切らし、子どもとともにより安全な場所に避難し、そこで教育を受けさせる母親原告もいました」
当時、女川原発(宮城県)に単身赴任。浪江町で暮らす妻子は他の町民と同じように津島地区に避難した。被曝リスクから逃れるはずの避難が、実はより汚染の酷い地域への移動だったことが後に分かる。
「原発事故当時5歳の息子は、2011年3月12日早朝から15日早朝まで、浪江町津島地区の県立津島高校津島校の体育館に避難していました。放射性プルームが流れ、高濃度の汚染地帯となり、現在も帰還困難区域に指定されている区域です。息子は雪を丸めてアイス代わりに食べたそうです。その話を聴いたとき、愕然としてしまいました」
「それから半年くらい経った後から、息子は万年風邪のような症状が2年くらい続きました。月に2回、通院しました。医師からは『免疫低下です』と言われました。あのとき、SPEEDIの情報が浪江町に知らされていれば、津島地区よりさらに遠くへ避難していたはずです。息子を被曝させてしまった…。悔しさとともに福島県に対して激しい怒りを持っています。今でも、福島県民だけが年20ミリシーベルトの放射線被曝を強要されています」
原発事故発生以降、今野さんは一貫して「子どもは自分で自分を守れない」と口にしている。わが子を被曝リスクから守れなかった悔しさは一審原告に共通する想いだ。
「子どもたちを守るのは私たち大人です。大人の責任です。大人としての最低限の義務です」

一審原告を代表して意見陳述した今野寿美雄さん。「放射能と子どもの安全教育の問題について、裁判所の血の通った判断を出してください」と訴えた
【「無用な被曝避けるべき」】
弁護団は控訴理由書の概略を述べた。
▼井戸弁護士
「『学校環境衛生基準』には、放射性物質に関する基準がない。被曝についての基準が定められるべきであり、定められていないのは国の怠慢。子どもは環境基準のレベルで被曝から守られるべき。裁判所は正面から判断していただきたい。確かに空間線量は下がったが、土壌汚染濃度は容易に下がらない。土壌中の放射性セシウムの大部分が不溶性の微粒子を構成している。この微粒子を体内に取り込んで内部被曝すれば生物学的半減期は数十年にも及ぶと考えられており、深刻な危険がある。子どもをモルモットにするなど断じて許されない。避けることができる無用な被曝は避けるべき。国は答弁書で『年1ミリシーベルト程度の被曝は法的保護に値しない』と主張している。裁判所は『被曝は可能な限り避けるべき』という当然の原則を再確認していただきたい」
▼光前幸一弁護士
「この訴訟の大きな争点は、福島県民が原発事故で受けた被曝量をどのように測り、低線量内部被曝が健康に及ぼす影響をどのように考えるか。県民健康調査の結果を公正な科学に根ざして検証することが極めて重要だ。検査結果に関する情報の非公開度は目に余る。専門家証人の尋問などによる十分な審理を求める」
▼古川健三弁護士
「避難するのか屋内退避するのか。何を食べ何を飲んだら良いのか。子どもを屋外で遊ばせて良いのか…。正しい判断のために最も重要なのは正確な情報だ。しかし、一審判決は抽象論に終始して何の判断もせず、国や福島県の情報隠蔽を追認した。浪江町では国からも福島県からもSPEEDI情報が提供されなかったために高線量の津島地区に多くの町民が避難してしまい、無用な被曝を余儀なくされた。国や福島県がSPEEDI情報を提供してさえいれば、被曝せずに済んだ当事者が現に存在する。一審判決は根本的に見直されなければならない」
▼田辺保雄弁護士
「ICRPの2007年勧告が示した年20ミリシーベルトまでの『参考レベル』は、児童生徒などの生命や健康を守るという観点からは許容されない考え方。文科省による2011年4月19日通知より前に福島県が学校再開を決めたことによって子どもたちが少なく見積もっても数倍高い放射線量にさらされたことは明らか。裁判所は住民を被曝から守るという観点で国や福島県などに違法な行為がなかったかを判断していただきたい」
▼柳原敏夫弁護士
「2011年3月11日までの日本政府も法体系も、原発事故による備え、救済に対する備えが全くなかった。ノールール状態で、原発事故後においてもなお、解決が図られず放置されたままである」
「裁判所は一審原告たちは原発事故前も以後もこの国の主権者、人権の主体であるという大前提をふまえて、国の出した指示命令勧告などの人権侵害という違法性について正しい判断をするべきだ」
▼崔信義弁護士
「原発事故後の国の政策は『年20ミリシーベルト』が基本となっている。年100ミリシーベルトまでの被曝については健康リスクが証明されていない、リスクがないとする理論的な根拠として国は『連名意見書』を提出した。一方、一審判決は内部被曝のリスク、特に不溶性放射性微粒子についてまったく考慮していない。控訴審ではこの点について正面から取り組んでいただきたい」

井戸謙一弁護士は一貫して「避けることができる無用な被曝は避けるべき」と訴える
【一審「被曝危険存在せず」】
「子ども脱被ばく裁判」は2014年8月29日に提訴。2つの訴訟が併合され審理されてきた。
1つは「行政訴訟」(通称・子ども人権裁判)。
福島県内の公立の小・中学生である子どもたち(原告)が、福島県内の市や町(被告)に対し、被曝という点において安全な環境の施設で教育を実施するよう求めている。
もう1つは「国家賠償請求訴訟」(通称・親子裁判)。
2011年3月11日当時、福島県内に居住していた親子が、国と福島県に対し『5つの不合理な施策』(①SPEEDIやモニタリング結果など必要な情報を隠蔽した②安定ヨウ素剤を子どもたちに服用させなかった③それまでの一般公衆の被曝限度の20倍である年20mSv基準で学校を再開した④事故当初は子どもたちを集団避難させるべきだったのに、させなかった⑤山下俊一氏などを使って嘘の安全宣伝をした)によって子どもたちに無用な被曝をさせ、精神的苦痛を与えたことに対する損害賠償(1人10万円)を請求している。
2020年3月4日には、原発事故直後に福島県の「放射線健康リスク管理アドバイザー」に就任した山下俊一氏(長崎大学教授、福島県立医科大学副学長)の証人尋問を実現させた。
しかし、福島地裁(遠藤東路裁判長)は昨年3月1日、原告たちの訴えを全面的に却下(門前払い)し、棄却する判決を言い渡した。
安全な環境の施設で教育を実施するよう求めたことについて、遠藤裁判長は「年20mSv基準は直ちに不合理とはいえない」、「甲状腺検査(県民健康調査)によって発見された甲状腺がんの症例増加が、本件原発事故に伴う放射線の影響によるものであると認めるには足りない」、「原告らが通う公立中学校については、除染・改善措置を講じながら、当該学校施設において教育を実施することは可能」などと列挙したうえで、「教育委員会の裁量権を逸脱、濫用した違法があるとはいえず、人の健康に維持に悪影響を及ぼす程度の放射線に被ばくする具体的な危険が存在するとも認められないから、原告らの生命、身体に係る人格権に対する違法な侵害があるとは認められない」と棄却した。
弁護団長を務める井戸謙一弁護士は、第2回口頭弁論にあたって次のようなメッセージをホームページ上に公表している。
「今回の準備書面では、行政権行使の濫用逸脱の基準を提示し、この基準を超える国や福島県の裁量権行使は、許される範囲を超えて違法、無効であると主張する予定です。また裁量権行使の基準となるべき国際人権法の解釈の手法も提示する予定です。加えて、国及び福島県の主張に対する反論をしますが、とりわけ国が、「年1ミリシーベルトの被ばくをしない利益は法的保護に値しない」と主張した点について、反論を行います。控訴人の一人である父親の意見陳述も予定されています。議論は佳境に入ります。注目をお願いします」
(了)
スポンサーサイト