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【原発事故と国連特別報告者】グローバー氏の2012年訪日調査 福島県庁や福島県立医大の杜撰な対応「やり取り記録文書つくらなかった」

福島第一原発事故の発生から1年8カ月後の2012年11月に行われた国連特別報告者アナンド・グローバー氏の訪日調査について、福島県や福島県立医科大学が当日のグローバー氏とのやり取りを一切、記録として残していないことが分かった。原発事故対応を記録した行政文書については、保存期間を過ぎたとの理由で多くが廃棄処分されているが、今回はそもそも記録文書が作成すらされていなかった。山下俊一氏との意見交換についても「メモも録音も一切ない」。福島県の杜撰な対応に避難当事者や弁護士から疑問の声があがっている。
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【知事表敬は実現せず】
 筆者は9月、国連特別報告者アナンド・グローバー氏の訪日調査に関して、福島県に対し「福島県庁や福島県立医大への訪問日時や対応者、お互いの発言内容など当時の対応記録の全て」、「事前に政府もしくは国連から寄せられたアポイントの文書」など5項目の公文書開示を求めた。
 その結果、延長を経て、10月25日付で福島県国際課から65枚、福島県立医大から4枚の文書開示が決定された。
 開示された文書によると、グローバー氏は2012年11月19日午前8時すぎに新幹線で福島駅に到着。浪江町民が暮らしていた二本松市の仮設住宅や福島県立医大、福島県庁を訪問。それぞれ1時間ほどやり取りをしている。翌20日朝には環境省が福島駅東口近くに開設した「除染情報プラザ」を訪れた。仮設住宅や「除染情報プラザ」には県職員は同行しなかったという。
 しかし開示されたのは、日程調整などのために福島県国際課と外務省人道人権課との間で交わされたメールばかり。
 2012年10月10日付のメールでは、外務省人権人道課が「昨年(2011年)の秋頃に国連側から打診がなされ、我が国としては受け入れる方向で検討していたもの」、「先方は、今回の訪日において、我が国における健康の権利の確保への取組、特に東日本大震災からの復興過程における健康の権利への取組に関心があるとのこと」などとして、「訪問先の具体的な提案及びアポイントの取り付けをお願いできれば幸いです」と要請している。
 また同月22日付のメールでは、外務省側が「県庁、福島県立医科大学に加え、可能であれば仮設住宅訪問及び住民との皆様との対話、学校等の除染作業の視察をさせていただければ」、「福島県立医科大学については、原発事故による健康被害等、県民の健康確保に向け政策提言を行う等主要な役割を担っていると側聞しているとのことで、同大学関係者との面会をアレンジしてほしいとの要請が来ております」と福島県国際課に説明している。
 グローバー氏は当時の佐藤雄平知事への表敬訪問も希望していたが「11月19日に県議会が開かれる見込みになってきた」、「知事・副知事日程の確保が難しくなる」として、県側から断っていた。

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開示された公文書の一部。福島県立医大でのグローバー氏と山下氏とのやり取りなど、当日の記録は「作成していない」として不開示。当時の佐藤雄平知事への報告も、事前に来県予定が示されただけだった

【山下氏は何を語ったのか】
 外務省と福島県とのメールのやり取りは、確かに生々しい内容ではある。
 訪日調査直前には、福島県国際課側から「どういう経緯で日本に来るのかがよくわからない」、「特別報告者という存在の位置づけがよく分からない」、「報告の結果、本県に対して改善要求などが出されたりするのか」などの質問が外務省に対して送られており、グローバー氏の訪日調査を警戒していた様子が伺える。
 しかし、肝心の「福島県立医科大学との意見交換」や「福島県との意見交換」で、グローバー氏から具体的にどのような質問があり、それに対して医大や県側がどのように答えたのかを記した文書については「作成していない」として開示されなかった。
 県立医大では当時の山下俊一副学長と救命救急センターの長谷川有史助教、県庁では当時の保健福祉部地域医療課の下重修主幹ら3人が対応したが、「発災から間もない時期でバタバタしていたこともあり、当日のメモも録音も一切残していない」(福島県立医大放射線医学県民健康管理センター)というのだ。担当者は「山下先生にも確認したが、やはりメモも録音データも無いとのことだった」と話した。
 また、当時の佐藤雄平知事に対しても、来県前の2012年11月12日付で「訪問目的」や「スケジュール」、「意見交換内容」などがA4判2枚で報告されただけで具体的な内容について詳細に報告されていなかった。
 グローバー氏は2013年5月、国連人権理事会に訪日調査報告書(いわゆるグローバー勧告)を提出。「健康管理調査は、年間 1mSv 以上の全ての地域に居住する人々に対し実施されるべき」、「子どもの健康管理調査は、甲状腺検査に限定せず、血液・尿検査を含む全ての健康影響 に関する調査に拡大すること」、「全ての避難者及び地域住民、とりわけ高齢者、子ども、妊婦等の社会的弱者に対して、 メンタルヘルスの施設、必要品及びサービスが利用できるようにすること」などを求めている。
 これに対し、日本政府は「アナンド・グローバー氏の報告書には、科学的、法的見地からみて事実誤認がある」などと反論した。
 では、山下俊一氏は当時、グローバー氏に対してどのような説明をしたのか。政府と同じように「事実誤認がある」と反論したのだろうか。記録文書が残されていない以上、検証もできない。しかも、その理由が「バタバタしていた」では、福島県民は納得するだろうか。

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2012年11月の訪日調査に際し、福島県立医大副学長としてグローバー氏と面会していた山下俊一氏。しかし「メモも録音も一切残っていない」。山下氏が何を語り、どんな説明をしたのか。福島県民は検証すらできない

【「被曝を甘くみないで」】
 当日のやり取りが一切記録として残されていなかったことについて、福島県から京都府に〝自主避難〟し、今年5月に発行された冊子「国際社会から見た福島第一原発事故~国際人権法・国連勧告をめぐって私たちにできること~」の編集の中心となった女性は「記録を残していないとは驚きです。健康の権利に関する国連特別報告者グローバー氏の訪日調査対象だった福島県庁と福島県立医大とのやり取りが、今回の開示請求によって明らかになることに期待していたのに…」と落胆した。
 「グローバー氏の公式報告書に対し、日本政府は『非科学的だ』と受け入れを拒否しました。その根拠が何だったのか、政府の反論文書を読んでも全く分かりません。原発事故被害者の健康被害を避ける人権という視点も見られませんでした。しかも、グローバー氏の訪日調査は公式なもの。個人の来日ではありません。福島県には、国連加盟国の自治体として誠意を持って対応する義務があるはずです。記録のない調査をもとに、日本政府はどうやって、あの公式反論文書を書いたのでしょうか?私たち原発事故被害者の声を聞こうとしないばかりか、国際社会に対しても不誠実な対応をするとは、どういうことでしょうか?被害者たちの健康被害は切り捨てて、年月が経てば自然消滅すると甘くみているのでしょうか?被曝という次の世代にも繋がる健康被害を甘くみないで欲しいです」
 また、「原発賠償京都訴訟」や「子ども脱被ばく裁判」などの代理人を務め、「ダマリー特別報告者の訪日調査実現を目指す有志弁護士グループ」にも属している田辺保雄弁護士も、「国連特別報告者が福島県庁まで来てのに、調査内容について記録として残していないのは不自然だ。なぜ正式な記録をつくらなかったのか説明するべき」と語っている。



(了)
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鈴木博喜

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