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【保養相談会】100組超えた参加者。「保養」は県外移住出来ぬ家族の受け皿~熱意の裏側には受け入れ団体の葛藤や苦悩も

全国から40以上の団体が一堂に会する保養相談会が4日、福島県郡山市で開かれ、100組を超える家族が訪れた。一定期間、汚染地を離れて放射性物質を排出する「保養」。本来、国や行政が取り組むべきだが、この国ではこれら民間団体の熱意に支えられているのが実情だ。2017年3月末で自主避難者への住宅支援が打ち切られれば、保養の重要性はますます高まる。相談会場で、参加者の想いや受け入れ団体の苦悩を聴いた。相談会は5日もいわき市の「生涯学習プラザ」で開かれる。11時~15時。


【難しい県外移住。「せめて保養を」】
 スタッフが準備に奔走している中、会場入り口には早くも列が出来ていた。〝リピーター〟に交え、これまで保養に参加したことの無い母親もいた。「子どもが小学校でチラシをもらってきました。幼稚園に通っている時は無かった」。この日、相談会に訪れた家族は100組を超えた。福島第一原発の爆発から5年が過ぎたが、保養へのニーズは決してなくなってはいない。
 郡山市内に住む母親は、小学生になったばかりの娘を連れて会場を訪れた。「夫が福島県内で働いているし、住まいは持ち家。現実的に県外に移住するのは難しいです。せめて夏休みだけでも保養に参加出来れば、取り込んだ放射性物質を排出出来るのではないか、と考えています」。別の母親は夫を郡山市内に残し、2人の子どもと3月末まで会津若松市内に母子避難していたという。「お金も大変でしたけど、私1人で父親と母親を両方やるのは大変で戻って来ました。郡山は放射線量が下がったとはいっても、まだまだ被曝に対する不安があります。これまでも久米島や神奈川県相模原市などに保養に行きました」。
 「家を建ててしまったんです。もしアパート暮らしだったら、県外に移住していたかもしれません」。そう語ったのは本宮市在住の母親。夫は地方公務員。自分も働いている。夫は原発事故で仕事が増え、毎日のように日付が変わってから帰宅する忙しい日々。とても退職を迫ることは出来なかった。「それでも通学路など汚染への不安はあります。近所の子どもがザリガニを捕まえて来たのですが、池の汚染を考えるとゾッとしました。自分の子どもにはさせられない。でも保養に行けば、そういうことも含めてのびのびと遊ばせられますからね」。
 夫の仕事の都合で福島市から郡山市に転居した母親は、2人の子どもと一緒に会場を訪れた。「どうせならこれを機に県外に出たかったのですが、夫の負担を考えると出来ませんでした。一時期、関西の実家に身を寄せていたのですが、娘が『パパに会いたい』って毎日のように泣いたんです。保養なら同年代の子どもたちと遊べるし、とても楽しそうにしています」。

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わが子を連れて保養相談会に参加した母親。「県外移住は難しい。せめて保養に参加して一時的でも放射線から遠ざかりたい」と語った

【「保養」放棄した国や行政】
 叶わぬ県外移住。拭えぬ被曝への不安。その受け皿となっているのが全国の保養プログラムだ。福島を離れ、汚染の程度の低い土地で過ごすことで放射性物質を排出し、心身ともにリフレッシュするのが狙いだが、放射線による被曝リスクを念頭に置かずに子どもを参加させる保護者もいる。
 郡山市内在住の父親は「実は…」と本音を語った。
 「放射線量は下がりました。今は屋外で普通に遊ばせています。保養に参加させるのも、被曝云々というより夏休みの旅行です。うちは共働きですから、子どもを独りで留守番させるようになってしまう。どこかへ行かせたいという想いで関西の保養プログラムに参加させます」
 別の母親も「申し訳ないけど旅行気分です」と打ち明けた。
 「2011年に比べれば、放射線や被曝に対する気持ちは楽になっています。数値が下がっていますからね。全く不安が無いと言えば嘘になりますけど…」
 ある団体は参加者の負担を少しでも減らそうと、福島県から保養地までの往復の送迎バスを用意する。バスの費用だけでも1回の保養で50万円。食事なども含めると70万円は要する。カンパや行政からの助成金で会計はいつもギリギリだ。震災直後は全国から寄せられた寄付も、熊本地震もあって以前ほど集まりにくいのが実情。バザーで費用をねん出する団体もある。「少しでも子どもたちの被曝リスクを減らしたい」という想いが、スタッフを動かしている。だから、保養が「割の良い旅行」として扱われる事には、団体内でも意見が分かれるという。
 「観光目的の人は遠慮していただいています。最初にそこから説明します。福島が汚染してしまっているということに気付いてもらうための保養でもありますから。そういう人のおかげで、参加したい人の枠が埋まってしまっては本末転倒です」。ある団体のスタッフは厳しい口調で話す。一方、別の男性スタッフは「きっかけは何でも良いと思うんです。旅行気分であったとしても、結果として福島を離れることで被曝リスクから遠ざかることが出来れば、それで僕たちの目的は果たせると思います」
 尽きない悩み。これまで保養に参加したことの無い家族に、どうやって保養プログラムの存在を伝えるか。「保養は本来、機会均等であるべきです」とある団体のスタッフは話す。保養を主導するべき国や行政は役割を放棄し、汚染や被曝リスクを覆い隠すことに終始している。ベラルーシと違い、この国の放射線防護は民間団体の「熱意」と「苦悩」で辛うじて成り立っているのが現実なのだ。

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受け入れ団体側は、金銭負担や苦悩を抱えながらも保養に参加しやすいように間口を広げようと必死で取り組んでいる=郡山市・緑が丘地域公民館

【「危機感共有出来る場」】
 「地元のママ友には、保養の話なんか出来ませんよ。『まだ心配してんの?』と笑われてしまいます」
 須賀川市の母親には、小学生と幼稚園児の3人の子どもがいる。「あの頃は、まだ0歳の子どもを抱えて、移住出来る状態じゃ無かったですね」。母子家庭。放射性物質が降り注ぐ中、生きるのに必死だった。周囲が被曝リスクへの危機感を失っていき、保養は危機感を共有できる「もう一つのママ友」と出会える場となった。福島県外の食材をどのように手に入れるのか。そんな話題を地元のママ友にしたら〝おかしな人〟になってしまう。保養は、保護者にとっても重要な場なのだ。
 「今なら移住出来る。県外に出る事を考えています。子どもが中学校に進学してしまうと動きにくくなってしまいますから」。母親は、そう言って移住相談のブースに向かった。
 相談会を主催する「311受入全国協議会」共同代表の早尾貴紀さんは、来年3月末に迫った自主避難者向け住宅無償提供の打ち切りを見据えて、改めて保養の重要性を語った。
 「今は住宅支援があるから母子疎開出来ている。打ち切られれば不本意ながら福島に戻らざるを得ない家庭も出てくるだろう。帰還が進み『せめて保養だけでも』とニーズが高まった時に私たちが疲弊してしまって参加枠が足りなくなってはいけません」
 関西の団体スタッフは言う。「口には出さないけれども、潜在的な危機感やニーズはまだまだあると感じた。爆発当時、身重だった人や震災後に母親になった人が今日は多かったように思う」。
 安倍晋三首相は、東京五輪を見据えた公共事業中心型の「復興」しか頭に無い。
 切り捨てられる原発事故被害者の受け皿としての保養の重要性は、むしろこれから増すことになりそうだ。


(了)
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鈴木博喜

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