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【飯舘村長選挙】あす投開票。現職優位も根強い不満。「村民でなく『村』を守りたい村長いらぬ」。一方で「国の敷いたレールは曲げられない」とあきらめも

原発事故後初の福島県飯舘村の村長選挙は16日、投開票される。避難指示解除、村内学校再開に邁進する現職の菅野典雄氏(69)と、避難指示解除日の白紙撤回、村民合議による再検討を主張する元村議の佐藤八郎氏(65)の一騎打ち。期日前投票が行われた仮設住宅で一票に込めた想いを聴いた。現職優位がささやかれる中、強引な手法や多選への批判も根強い。小さな村だけあって「これまで頑張ってくれたから」と〝情〟で現職に投票すると言う村民も。村民の選択は現状維持か新風か。大勢は20時半ごろには判明する見込み。


【「避難解除みんなで話し合おう」】
 福島県伊達市の伊達東仮設住宅。父親の期日前投票に付き添った40代女性(結婚して福島市に在住)の言葉が、飯舘村民の置かれた状況や苦悩を如実に表していた。「子どもの身体を考えると村に連れて行く事には抵抗があるし、でも村に帰りたいという親の気持ちも分かる。だって、たまに村の自宅に帰ると表情が違うもの。本当にうれしそうだから」
 同じように子どもを育てている友人たちは村には戻らないと言っている。強引に避難指示を解除して「年寄だけの村で良いのかしら」。一方で狭い仮設住宅暮らしは、村民の心身に大きな負担を強いているのも事実。四畳半二間。壁1枚向こうの声やテレビの音も筒抜け。大きな家でゆったりと過ごしていた村の生活とはあまりにも異なる。
 「でもね、放射能のおかげで貯金なんか出来なくなってしまったのよ。今までは村の米や野菜をもらっていたから買ったことなんて無かった。たとえ月1万円でも貯める事が出来ていたの。でも、今はお金を出して買うしかない。今後も、いつになったら村の野菜を安心して食べられるのかも分からない。『もっと賠償金が欲しいのか』とか『原発長者のくせに』なんていうかもしれないけれど、多額の賠償金を手にしている人なんてごく一部ですからね。都会の人にはこれが理解してもらえないのよね」
 現職がこだわる来年3月末での避難指示解除。60代の男性は言う。「村民の意見なんて全然聴かないで国に(解除を)要望しちゃった。みんなで話し合って決めるべきでしょうよ。これはね、どっちの候補が好きとか嫌いとかの問題じゃ無いんだよ。いったん立ち止まるべきだと思うなあ」。
 50代女性は「東電に改めて謝ってもらいたい。無かった事には出来ませんよ。賠償金を打ち切りたいから村に帰したいんでしょ。冗談じゃないですよ」と怒る。その上で「原発事故の避難後にパニック障害になって入院していた。今も薬を服用しています。働きたくても長時間勤務はしんどい。自給自足が出来なくなった村に戻ってどうやって生活しろと言うのでしょうか。薬代もかかる。まあ、東京の人は私らが賠償金で遊んで暮らしていると思っているんだろうけどね…」と避難指示解除の一時撤回を求めた。 




(上)村民が分散避難しているため、仮設住宅の集会所に臨時の投票所が設けられた。お年寄りを中心に期日前投票が進む
(下)投開票日は16日。20時半ごろには村民の選択・審判の大勢が判明しそうだ

【「現職には国とのパイプがある」】
 「避難指示解除日の白紙撤回なんて絶対に無理だよ。国の方針なんだから。誰が村長になったって、国が敷いたレールは曲げられないんだよ」
 福島市の松川第一仮設で、70代男性は語気を強めた。この男性とて、現職の手法を支持しているわけでは無い。「原発事故から数カ月も経ってから村民を避難させて、何が『計画的避難』だよ。空間線量が40μSv/h以上もあったのに、学者を連れて来て『大丈夫だ』という講演会をやったんだ。村長は村民が大切なのか、村が大事なのか。どっちなんだろうね。でもね…」。
 50代女性も同じような意見を寄せた。「(佐藤氏の)言っている事は分かるんだけど、国を相手に果たして実行出来るのかしら」。期日前投票では「今まで進めてきた事を最後まで見届けて欲しい」と現職に投じた。別の70代女性はもっと厳しい言葉で現職を支持した。「どちらが勝っても国の方針は変わらないわよ。だいたい、村民の事をそんなに考えているのなら、どうして佐藤さんは4年前の選挙で闘ってくれなかったの?出来もしない事を口にするのは簡単。菅野さんにはこれまで築いてきた人脈があるからね。国とのパイプがあるんです」。そして、こんな言葉も。「ADR(裁判外紛争解決手続)に取り組んでいる人たちは、お金さえもらえば良いんでしょ?」。
 80代女性は、こんな表現で5期20年にわたって村政を担ってきた現職を支持した。「私たちにはね、今まで世話になった〝情〟があるのよ。若い人たちとは考え方の違いがあるわね」。別の70代男性も「この村は縁故が強いからね」と口にした。
 多くの村民が起こしているADRに関しては、現職が選挙運動の中で激しく批判を繰り返しているとの複数の証言がある。これには「原発被害糾弾 飯舘村民救済申立団」の関係者も怒りの声をあげる。「何で当然の権利を主張している俺達を責めるのか。村民同士が対立していては駄目なんだ。村政の流れを変えないと」。




(上)避難指示解除、村内学校再開に邁進する現職。「(対立候補の言うように)避難指示解除を白紙に戻すと復興が大きく遅れる」という趣旨のビラまで作って仮設住宅の村民に配っている。まるで脅しだ
(下)村と村議会の要請に応える形で決められた避難指示解除日。しかし「いったん白紙に戻して皆で話し合って決めたい」と語る村民も少なくない(飯舘村ホームページより)

【脅迫めいた選挙ビラも】
 無投票が続き12年ぶりの選挙戦となった村長選挙の争点は、2017年3月末と決めた避難指示の解除を生かすか、いったん白紙に戻すか。しかし、避難指示解除の対象になっていない長泥行政区(帰還困難区域)から避難している70代女性は複雑だ。「私らは帰る、帰らない以前の問題だからね。どちらを応援したら良いものか…」。
 本来、争わなくて良い事が対立軸となり、一部では村民同士の中傷合戦になってしまっている。これもまた、原発事故が生み出した悲劇。しかも現職は「避難指示の解除日は村と村議会が福島県の立会いのもとで国と決めた事であり、白紙に戻す事で復興が大きく遅れる」という趣旨のビラを配布。来年3月末に避難指示を解除しないと村民が不利益を被るかのような印象を与える内容で、村民の間からは「まるで脅迫だ」との批判もあがっている。
 60代男性は言う。「多選が過ぎましたね。とにかく変わって欲しい。避難指示解除の時期にしたって、国の方針に従っているだけですからね」。原発事故以前の菅野村政には、村民の評価は高い。一方で原発事故後の対応に関しては、現職を支持する村民ですら「すっかり変わってしまった。村民の声に耳を傾けなくなった」と口にするほどだ。
 12年前の村長選挙では、投票率は90.09%に達した。しかし、今回は原発事故で村民が全国に分散避難していることに加え、村内学校再開を2018年4月に決めるなど村の強引な手法に対する子育て世代の「怒り」や「あきらめ」が根強く、若い世代の投票率が大きく下がるのではないかとの懸念がある。村の将来を担うのは現職か新顔か。カギは子育て世代が握っている。自身も2児の父親である横山秀人さんが開設しているウェブサイト「飯舘村長選挙への投票を呼びかける村民の会」(http://iitate-senkyo.info/)を参考に、一票を投じて意思表示をして欲しい。
 投票は明日16日、飯舘村役場と福島市の飯野支所で7時から18時まで行われる。あきらめるか。村民が新たな村政を作っていくか。村民は非常に重要な選択を迫られている。



(了)
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鈴木博喜

Author:鈴木博喜
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