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【女川原発運転差止請求訴訟】福島事故で分かった原発避難の困難さ 「避難計画に実効性などない」石巻市民が東北電力提訴~仙台地裁で第1回口頭弁論

東北電力女川原発2号機(宮城県女川町、石巻市)の再稼働に関し、宮城県や石巻市が策定した原発事故発生時の広域避難計画には実効性がないとして石巻市民17人が東北電力を相手取って起こした「女川原発運転差止請求訴訟」の第1回口頭弁論が8日午後、仙台地裁101号法廷(齊藤充洋裁判長)で行われた。原告団長の原伸雄さん(79)が意見陳述。一方、東北電力は137ページにおよぶ答弁書で「本件2号機において放射性物質を異常に放出するような事故が発生する具体的危険は存しない」などと反論。全面的に争う構えだ。次回期日は2022年1月12日14時。
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【試走で問題点が次々と…】
 「裁判所に対して、宮城県と石巻市が作成した広域避難計画の実効性につき徹底した審議を求めます」
 原告団長として意見陳述をした原伸雄さんは、ゆっくりと、大きく通る声で語り始めた。齊藤裁判長は「座っていただいてもどちらでも良いですよ」と言ったが、原さんは「立っていた方がやりやすい」と起立したまま陳述した。
 2018年4月、原さんたち石巻市民で「女川原発の避難計画を考える会」(以下、考える会)を結成。同年9月にはそれぞれの自宅から避難経路を実際に試走した。その結果「全くの机上の計画でしかないことが明らかになりました」。
 「それぞれの自宅から石巻市の避難計画が示す経路に従って道路状況、コンビニやガソリンスタンド、トイレ可能な施設などを確認しながら、一時集合場所、避難退避時検査場所から受付ステーションを経て最終避難場所まで車で走行してみました。その結果、検査所や受付ステーションでの大渋滞発生の懸念、そこでの時間はどのくらいかかるのか、全く足りない駐車場のこと、トイレやガソリン、食糧の確保など次々と問題点が浮き彫りになりました」
 原さんたちは試走で得られた課題を質問状にまとめたうえで、宮城県と石巻市に説明会の開催を求めた。「避難計画の実効性確保のためには宮城県と石巻市、住民との対話が欠かせないと考えた」からだ。
 しかし、宮城県と石巻市は説明会の開催には応じなかった。質問状への回答も、ほとんどが「検討中」だった。住民との対話は不十分、具体的な課題に対しては「検討中」。そんな状態で住民の命が守れるはずがない。
 例えば、一時集合場所からのバスでの避難についても、協定を締結した宮城県バス協会が「協力可能な範囲内で御対応いただくこと」になってはいるが、実際に搬送が想定される人数や必要台数については「取りまとめ中」。具体的な運用についても「バス協会と協議を進めてまいります」という有り様なのだ(2019年2月8日付で石巻市から「考える会」への回答より抜粋)。

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原告団長として法廷で意見陳述した原伸雄さん。「宮城県と石巻市が作成した広域避難計画の実効性につき徹底した審議を求めます」などと訴えた。「避難計画に実行性がない以上、再稼働は認められない」との闘いが始まった=仙台弁護士会館

【「避難計画など絵に描いた餅」】
 それでも内閣府は2020年6月17日、広域避難計画を含む女川原発の緊急時対応は「合理的・具体的と確認」。5日後の6月22日には国の原子力防災会議も、この「確認」を了承した。
 国がお墨付きを与えたら、自治体は突き進むのみ。宮城県は2020年8月、県内7カ所で住民説明会を開催したものの、原さんに言わせれば「出席者からは全会場で反対や疑問の声が相次いだが住民への説明はこれで終わり」。同年11月18日には宮城県の村井嘉浩知事が再稼働への「同意」を表明するに至った。
 原さんは「砦」という言葉を使って意見陳述を締めくくった。
 「万が一のとき、放射能被曝を最小限にするためには、住民にとって避難計画が最後の砦です。裁判所において、最後の砦についての徹底した審査と明確な判断がなされるよう心から期待致します」
 実は「考える会」の裁判闘争は2年前にさかのぼる。2019年11月、宮城県と石巻市の再稼働同意差し止めを求める仮処分を仙台地裁に申請したのだ。仙台地裁は2020年7月に、仙台高裁も同年10月に申請を棄却したが、原さんは「避難計画の実効性は全く審議されないままここまで来てしまった」と振り返る。閉廷後の報告集会でも、「避難計画の実効性をとことん審議する場にしていきたい」と改めて決意を口にした。
 そもそも原発事故が起きた際、事前の「計画」に基づいた「避難」など不可能だということは、2011年3月の福島第一原発事故を考えれば容易に分かる。あのとき、作業員として女川原発内で働いていた今野寿美雄さん(「子ども脱被ばく裁判」原告団長)は、そのことを身を持って分かっている1人だ。報告集会でマイクを握った今野さんは「避難計画など絵に描いた餅だ」と繰り返した。
 「あのとき、福島第一原発から放出された放射性物質は女川まで飛んで来て、作業員に3月15日まで外出禁止令が出たんです。そもそも道路が地震でひび割れし、津波で流された。車が駄目なら徒歩で避難する?避難している間に被曝してしまいます。どうやって避難するんですか?10年前のことを考えたらあり得ない。避難計画など絵に描いた餅だということが分かるでしょう。避難などできないんです。あのとき経験したはずなんです」

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開廷前の集会には女川町議の阿部美紀子さんも参加。「わが家では父(故阿部宗悦さん)と私たち夫婦、子どもの4人が原告になって闘ったが残念な結果になってしまった。皆さんにはぜひ私たちの意思を引き継いで闘ってもらいたい」と激励した

【「県や市を裁判に引きずり込む」】
 原告側弁護団長を務める小野寺信一弁護士は記者会見で、被告・東北電力が9月30日付で提出した答弁書について、2つの角度から解説した。
 「1つ目の主張は『人格権侵害を招くような重大事故を起こす具体的な危険性があるなら原告側で立証しろ。仮に広域避難計画に不備があったとしても、それ自体が住民に放射線被害を及ぼすものではない。重大事故が及ぼすのだから起こるか起こらないかをきちんと原告側で立証しろ、立証できないだろ』という点。3月の水戸地裁判決についても『具体的な危険の立証がないのに避難計画の不備だけで原告に人格権侵害を招く恐れがあるという判断は矛盾している』と言っている。重大事故が起こる可能性があるかどうかということと、実際に起きるか否かは別問題であるということ。福島の事故も具体的に予言した人はいない。しかし実際に事故は起きた。原告側で立証しなければ避難計画の実効性について言及できないということではない」
 「2点目は、東北電力は『一気に全面的に避難するわけではない。段階的に避難することになっているので原告が心配しているような交通渋滞が起こることはない。体調不良者が続出することもない。すんなり避難できる』と主張している。避難計画の実効性についてわれわれと議論するという態度は歓迎したいが、段階的避難についても実施は困難と考える。①交通渋滞で被曝の危険性が高い30km圏内を長期間脱出できない。②放射性物質の付着状況を確認する『検査所』や最終避難所を割り当てる『受付ステーション』での交通渋滞が重なって避難場所にたどり着けない。③避難者の耐久時間を無視している─が理由。これらを立証するため、被告・東北電力に対し『検査所』などに予定している600人規模の要員派遣の概要などについて求釈明をした」
 一方、宮城県や石巻市、内閣府に対する調査嘱託も申し立てた(主な内容は下記写真参照)。
 「裁判所から質問状を出して回答を求めてくれ、ということ。恐らく次回期日に、調査嘱託を採用するか否か裁判所の判断が出されるのではないか。この採用が最大の眼目ではないかと考えている」
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 小野寺弁護士は言う。
 「避難計画の作成当事者である宮城県や石巻市、内閣府をこの裁判のなかに引きずり込みたい。実質の当事者はあなた方なのだからきちんと回答しろということを、調査嘱託を採用させることで実現したい」
 注目の第2回口頭弁論は年明け1月12日14時から行われる。



(了)
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鈴木博喜

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