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【福島原発かながわ訴訟】「原発事故被害の語りにくさが被害を見えにくくさせている」避難当事者や弁護士、研究者が横浜でシンポジウム

シンポジウム「終わらぬ原発事故~見えにくくされる被害と集団訴訟の意義~」が20日午後、JR新横浜駅近くの「スペース・オルタ」で行われた。リモート参加した宇都宮大学国際学部准教授の清水奈名子さんが講演。神奈川県内に避難した人々が国と東電を相手取って起こした「福島原発かながわ訴訟」の村田弘原告団長や弁護団事務局長の黒澤知弘弁護士を交えて、原発事故被害の実相が見えにくくなっている現状や、被害者が被害を語りにくくなっていることについて語り合った。訴訟を物心両面から支援している「福島原発かながわ訴訟支援の会」(ふくかな)の主催。
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【「無責任施策で被害増幅」】
 「原発事故被害が見えにくくされている。当事者が被害を語りにくくなっている」
 清水さんの講演は、そんな言葉で始まった。
 福島県に隣接する栃木県にも、多くの避難者が身を寄せた。一方、栃木県内にも県北地域を中心として大量の放射性物質が降り注いだ。避難者の支援活動を続ける傍ら、清水さんは当事者の話に耳を傾けた。それは後に2冊の証言集(2014年版、2017年版)にまとめられた。それらは授業の教材としても活用しているという。
 「福島県から栃木県に避難した方、栃木県で深刻に汚染された地域から避難した方。福島県にとどまった方、栃木県内の放射能汚染が深刻な地域でも残って暮らしている方…なるべく多様な当事者の声を伺うことを重視した」
 実名は記さなかった。事前に原稿を見せ、依頼があれば部分的な削除にも応じた。「そういう過程を経て私たちが読むことのできる証言は氷山の一角であって、最も深刻な被害は語られていない可能性がある」。
 それでも履修する学生にとっては貴重な教材だ。「ほとんどの学生が授業を履修したことで初めて原発事故について詳しく学ぶ。小中高の授業で原発事故についてほとんど学んでいない。副読本は配られるが配られただけ、配られたことも記憶していないという学生もいる」からだ。ましてや、履修していない学生にはなおさら、原発事故被害の実相は届きにくい。
 清水さんは「東電や国、自治体による無責任が被害を増幅させた」と指摘する。たとえば政府の避難指示区域と実際の汚染地域の地図は一致しない。「その結果、リスク評価が自己責任化された。避難するかしないかを自分で決めなければならなくなった。避難先から帰還した人も、避難中の苦労を周囲になかなか理解してもらえない。『経済的に余裕があるから避難できたのだろう』と言われてしまう。こういう二次被害が、政府や東電の無責任な施策によって深刻化していった」。
 今も続く原発事故被害を若者たちに語り、伝える。それはこれからも続く。

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リモート参加した宇都宮大学の清水さんは、講演で「知ってしまった者の責任として考え続ける、話し続ける責任がある。私たちの世代が黙ってしまったら、次の世代にさらに負担をかける」と強調した=新横浜の「スペース・オルタ」

【被害記録の重要さ】
 清水さんは、こうも強調した。
 「原発事故被害を語ることは差別や分断を招くのだろうか。そうではないと思う。被害を語り、事故の責任主体(国、東電)に権利回復や人権尊重を求めることは、他の選択をする被害者にとっても権利回復や人権尊重につながるはず。異なる選択をしていても、政府の政策的失敗により被害を強いられた当事者という意味では同じ被害者。一部の被害者の権利を回復することが、他の被害者の権利、全ての人々の権利回復につながるということをもっと発信していきたい」
 しかし、残念ながら被害当事者の「語りにくさ」は続いている。
 「政府や自治体は、もう終わったことなのだとでも言うように避難者数すらきちんと調べようとしない。避難者の統計がないということは、その人たちは存在しないことにされてしまう。土壌調査、健康調査も不十分。『伝承館』の語り部問題に代表されるように、教育や伝承において加害責任や被害を語らせない。メディアも復興や再生、絆など前向きに取り上げることが被災地に寄り添った報道だと言わんばかり…。その結果、『風評被害を煽るのか』、『これ以上話してくれるな』という声が被害者の側からも出てくるようになってしまった」
 原発事故被害は決して「風評」ではない。しかし、被害が現実に続いていることを語る側が逆に加害者扱いされてしまう風潮があるのも現実。「被害当事者が抱える原発事故被害の語りにくさが、被害を見えにくくさせている要因になっている」。
 だからこそ、記録することが重要だ。裁判での闘いも、貴重な記録となる。
 「集団訴訟のもう一つの意義は、やはり被害の記録が残るということ。記録の不在が被害の不在へと転化されてしまう。戦争も原発事故も、加害者は記録を破棄したり隠蔽したりする傾向にある。次の世代にどう伝えていくかが大事」
 清水さんは「日本における人権と民主主義が形骸化している。人権規範の担い手を増やしていかないといけない事態になっている。非常に追い詰められている」としたうえで、講演をこう締めくくった。
 「知ってしまった者の責任として考え続ける、話し続ける責任があると思う。私たちの世代が黙ってしまったら、次の世代にさらに負担をかけるということは明白。一見、無力に思える一人一人の地道な努力の積み重ねが、どこかで転換点を招くかもしれない。そのときのために、絶望的な状況であってもあきらめず、できる範囲で準備をすることが必要ではないか」

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「かながわ訴訟」原告団長の村田さんは3つの数字を挙げながら「これだけ裁判などで訴えても、なかなか伝わらないし、どんどん無視され、無いものにされていく虚しさ」も被害の語りにくさの背景にあると吐露。弁護団事務局長・黒澤弁護士は「被害者の泣き寝入りが拡がっていて、東電がそこを利用している」と指摘した。

【「無視され、無いものに…」】
 シンポジウムでは、「かながわ訴訟」原告団長・村田弘さんと弁護団事務局長・黒澤知弘弁護士も加わり、清水さんと3人で座談会形式で語り合った。
 「棄民政策が一直線に走っていて、その車輪の下で避難者は声をあげられずに苦難に耐えている。原発避難者の置かれている状況をひと言で言えばそうなる」と村田さん。
 原発事故の被害者がなぜ声をあげられないのか。「『原発事故被害はもう終わったんだ』という大前提があって、それに基づいて被害者がいろんな分断され尽くされているという現実がある。福島県内に居る人たちは放射能の問題を話すことはほとんどできない状態。みんなそう思っているんだけど、それを言っちゃったら風評被害になるんだと。放射能の危険性を口にすると〝歩く風評被害〟なんて現実に言われている。『保養』という言葉すら使えないんですよ。そのくらいの圧力がかかっている」と指摘。
 一方、当事者としてのつらい心情も吐露した。
 「当事者が表に出てしゃべらなければ誰も分からないよといつも言われるが、なかなか言いにくい。つらいんですよ、やっぱり。思い出すのもつらいような体験をしている。忘れたいとも思わないが、思い出したくもない。言っても理解されないだろうという想いもある。これだけ裁判などで訴えても、なかなか伝わらないし、どんどん無視され、無いものにされていく虚しさ…。そういうものが皆ないまぜになっちゃっているものだから、なかなかね」
 そして、こう自分を奮い立たせた。
 「われわれ当事者自身も伝えていかないといけない同じことが繰り返されるともう1回確認して、嫌がらずに自分の尻を叩いてやっていかなきゃいけないな」
 黒澤弁護士も、被害の実相をどこまでオープンにするべきか悩ましいという。
 「証言集をまとめる際に被害の実態をそのまま書けないという話があったが、裁判でも同じ。プライベートな部分を公開の法廷に出しきれないということがかなりある。被害実態を出し切れないなかで、しかし周囲の理解を得なければいけないという葛藤。それはいまだに解消されず、むしろ日を追うごとに声をあげにくくなっている。ここを打破しないと被害の実相に迫り切れない」
 「被害者の泣き寝入りが拡がっている。しかも、泣き寝入りしていることを周囲に言えない」と改めて指摘した黒澤弁護士。「東電がそこを利用している。かつて我妻栄という民法学の学者がいたが、原子力災害が起こったときに1人の泣き寝入りも許さない仕組みをつくって賠償するべきだと政府に答申している。そこが今なし崩しになっている。そこを司法が取り戻せるかどうかだ」と述べた。



(了)
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鈴木博喜

Author:鈴木博喜
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