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【129カ月目の汚染水はいま】届かぬ市民の想い、「海洋放出」への溝埋まらず 事故加害者の「規制基準以下にするから安全」に強い反発~いわき市で意見交換会

「原発汚染水」の海洋放出方針に反対している福島県の市民団体「これ以上海を汚すな!市民会議」(織田千代、佐藤和良共同代表)が11月27日午後、いわき市に資源エネルギー庁原子力発電所事故収束対応室の福田光紀室長を招き、意見交換会を行った。同団体主催の意見交換会は3回目。①汚染水の総量と地下水の止水②東電の海洋放出計画の問題点③陸上保管④県民公聴会の開催─の4つのテーマを立てて福田室長に意見や質問をぶつけたが、昨年9月今年6月の意見交換会同様に官僚側は海洋放出の必要性と安全性を繰り返すばかりで、市民との溝は埋まらなかった。
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【「ご理解いただきたい」】
 「繰り返しになるが、放出するにあたって規制基準を下回るようにしっかりと浄化・希釈をする」
 この日、福田室長が何度も口にした言葉が「浄化」、「希釈」、「規制基準以下」の3つだった。前任の奥田修司氏と異なり高圧的な物言いではないが、話の内容は同じ。市民の声に耳は傾けるが政府の方針は変わらない。「汚染水」や「処理水」という言葉の定義も含めて、平行線だった。
 「いわゆる燃料デブリに触れた水、そして雨水や地下水が原子炉建屋のなかに入っています。これらの『汚染水』を『多核種除去設備(ALPS)』で規制基準を下回るまで浄化をさせていただき、それを貯蔵タンクに保管しているという状況です。『ALPS』を通して規制基準以下になるまで浄化したものを『ALPS処理水』と呼んでいる」
 「『ALPS処理水』のなかには、まだ完全に規制基準以下になっていないものもある。したがって、規制基準以下になるまで何度もALPSにかけるのが大前提。しっかりと規制基準未満に浄化した後、海水で大幅に希釈する。100倍以上に希釈し、トリチウム濃度をしっかり下げる。規制基準と比較しても低いレベルまでしっかりと希釈する。そのうえで環境中に処分をしていく」
 会の冒頭、共同代表の織田千代さんは「ALPSで処理された水を基準値以下に薄めて海に流すと言われても納得できるはずがありません」、「原発事故を起こした側が決める基準値を誰が信じられますか?」、「海洋放出を決定する前に考えるべきことがある」と語っている。
 しかし、福田室長は一貫して「理解」を求めた。
 「皆様にご理解していただけるように、引き続きしっかりとていねいに説明を続ける。私たちは『汚染水』を処分することは考えていない。ALPSでしっかりと浄化させていただいて、放射性リスクを規制基準以下にまで下げて『処理水』の状態にしたうえで、そのうえで海水でしっかりと希釈させていただき、放出することを考えている。『汚染水』が海洋放出されるわけではないことはご理解いただきたい」
 「『汚染水』が放出されるのではないか、という話が多い。そういった状況になっていない。しっかりと規制基準のなかに収まるように浄化・希釈をするのが大前提だ」

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海洋放出方針撤回を求める市民。海洋放出の必要性や安全性を強調する資源エネルギー庁原子力発電所事故収束対応室・福田室長。原発避難者の住宅問題同様、国は市民の声を聴くだけ=いわき産業創造館・企画展示ホール

【「タンク増で廃炉作業圧迫」】
 7年前と比べて減ったとはいえ、今も地下水や雨水の流入によって日々140トンもの汚染水が発生している。いわき市議で、織田さんとともに共同代表を務める佐藤和良さんは「まずは止水だ」と強調した。
 「止水しなければ汚染水は発生し続ける。しかし、凍土遮水壁はすだれ状になっていて遮水機能を果たせていない。寿命が7年の凍土遮水壁ではなくて長寿命のコンクリート壁などにするべき。原子力推進機関であるIAEA(国際原子力機関)でさえ『早く止水して』と言っているのだから、本気で止水対策に取り組んで欲しい」
 福田室長は「汚染水を極力減らすというのが大きな課題。いかにして汚染水の発生を防ぐかだ」と同じ見方を示したが、ここから先が市民たちと違った。増える一方だからこそ薄めて海に流す、というのだ。
 「原発敷地内の貯蔵タンクは1000基を超えており、敷地を圧迫している。原子炉そのもののリスクを下げるには、なかにある燃料デブリを分析して取り出すことが必要。敷地内の余地をなくしてしまうと廃炉作業を圧迫するから、貯蔵タンクの数をこれ以上増やせない。いかにして汚染水を減らしながらタンクを増やさないかだ」
 しかし、燃料デブリの取り出しなど現実味を帯びていない。武藤類子さんは「何も汚染水を海に流すということだけをいま決めなくても良いのではないか。流してしまったら二度と元に戻すことはできない。いったん立ち止まって時間をかけて解決していったらどうか」と求めたが、福田室長の答えは「廃炉作業に支障をきたす」の繰り返しだった。
 海洋放出は「廃棄物その他の物の投棄による海洋汚染の防止に関する条約」(ロンドン条約)違反に違反していると再三、指摘されている。福田室長は「条約が禁じているのは、船などで廃棄物を沖合に持って行って海洋投棄すること。決して条約違反ではない」、「もちろんロンドン条約に違反していない形で進めていく。そのうえで規制基準を超えるものを流すことは全くない」と否定した。
 東電は海底トンネルを掘って沖合約1キロメートルで放出する計画だ。
 「地上に穴を掘り、そこから横にトンネルを出していく工事を考えている。岩盤を突き進んでいく計画で現在、どこなら掘れるか、どこなら岩盤が存在するのかを地質調査をやっているところ。海のなかで海底トンネルを掘のではないから原発事故で汚染された泥は触らない」と安全性を強調した。

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福田室長は10ページの資料を用意。海洋放出の必要性や安全性を強調した

【「『約束』反故にしていない」】
 市民たちは決め方にも問題があると考えている。
 佐藤和良さんは「漁業者に『関係者の理解なしには、いかなる処分も行わない』と文書回答しておきながら自ら反故にした。自分らの方針は絶対に正しくて、ただ従えというようなやり方は民主的な政府のやり方ではない」と質したが、福田室長は「『関係者の理解なしには、いかなる処分も行わない』という言葉を反故にしたつもりは全くございません」と反論した。
 大河原さきさんは「何度も要望しているが、政府として県民公聴会を開催するべき」と求めたが、福田室長は「「いろいろなやり方がある。どういったやり方が良いのか検討していかなければならない」、「お呼びいただければしっかりとご説明に伺う」と答えるにとどまった。
 武藤類子さんが「『お呼びいただければ』ではなく、エネ庁自ら一般住民が参加して意見を言える場をつくることが必要だ」と指摘したが、「いまも住民の方々に参加していただけるような車座的なものも開催させていただいている」、「いろんなやり方があると思う…」と繰り返すばかり。タウンミーティングの開催を求める声にも言葉を濁しただけだった。
 会場からは6人が意見を述べた。
 小名浜での市民集会にも参加した天野光さん(工学博士、元日本原子力研究所研究員)は「日本はこれだけ土木技術が発達している。汚染水が原子炉建屋内に入り込まないようにできる。外周に大きなコンクリート壁を造る計画はないのか?」としたうえで「多くの放射性核種が燃料デブリには存在する。汚染水に含まれる核種は64に限定されない。実際に海洋放出したときに海の生物から様々な放射性物質が検出されると思う。それは〝風評被害〟なのか」と質したが、福田室長は「原子炉建屋のなかに汚染水が入らないよう、専門家の方々に知見をいただいて凍土壁をつくった」と答えただけだった。天野さんは閉会後、「魚介類や海産物から様々な放射性物質が検出されることになるだろう。そうなったら福島の海は駄目になってしまう。微量だから、被曝線量が低いから大丈夫というのは受け入れられない」と語気を強めた。
 閉会後、取材に応じた福田室長は次のように答えた。
 ・漁業者との約束について「皆さまにしっかりご説明していくという活動を今まさに続けているところ。風評対策も含めて政府はしっかりやりますということを今まさにお伝えしている。対話を引き続きやらせていただく」
 ・ロンドン条約について「そもそも条約は陸地から出すことについては対象外。かつ、今回は規制基準以下にするので条約の言う『廃棄物』には該当しない。海水と同じ扱い。だから違反していないという認識」
 ・県民公聴会について「どういう方法が一番適切なのか。私たちも検討しなければいけないし、関係者の方々にも引き続きご相談しなければいけない。すぐに『タウンミーティングをやります』とはなかなか言えない」



(了)
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鈴木博喜

Author:鈴木博喜
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