【原発避難者から住まいを奪うな】〝追い出し〟の是非など議論すらしない福島県議会 今回も共産以外賛成の公算~委員会で民事調停議案審査
- 2021/12/17
- 17:46
福島県が国家公務員宿舎からの原発避難者〝追い出し〟を加速させている問題で、9月県議会に続いて12月県議会にも民事調停申し立てに関する議案を福島県が提出。16日の県議会企画環境委員会(高宮光敏委員長)で審議された。しかし、他の議案に関しては饒舌な共産党以外の県議たちは質問も意見もなく沈黙を貫き、そればかりか質問を続ける共産県議に嘲笑交じりの野次を浴びせる始末。民主主義も建設的な議論も全くないまま、県当局の「退去要請に応じてもらえぬ」、「法的手段やむなし」を議会も追認する。議案は20日の委員会で賛成多数で可決される見通しだ。

【「2年間で退去と誓約した」】
12月県議会に提出された国家公務員宿舎関連の議案は2つ。
議案第41号は現在、国家公務員宿舎「東雲住宅」(東京都江東区)で暮らしている2世帯に対する民事調停申立で、建物の明け渡しと使用料などの支払いを求める。議案第42号は既に国家公務員宿舎から退去して新たな住まいを確保した2世帯(東京都江東区の「東雲住宅」と埼玉県さいたま市の「領家住宅」)に対し、未納使用料などの支払いを求める内容。
これとは別に、避難指示が出された浜通りからの避難者に対して、郡山市内の建設型仮設住宅の明け渡しを求める訴えを起こす旨の議案(第40号)も提出されている。9月議会でも、福島市内の建設型仮設住宅の明け渡しを求める民事調停議案が提出され、可決されている。
16日の企画環境委員会では、福島県生活拠点課の大野竜一課長が次のように説明した。
「議案第41号につきましては、平成29年(2017年)3月末の応急仮設住宅の供与終了に伴い、転居先を確保できなかった避難指示区域外からの避難者に対し、住まいを確保していただくための経過措置として2年間で退去する旨を誓約いただき、契約を締結のうえ国家公務員宿舎の使用貸付を実施いたしました。これまで戸別訪問などを通じて住まいの確保に向けた支援を続けてまいりましたが、供与終了から4年以上が経過しても再三の明け渡し要請に応じていただけないことや、未納となっている使用料等の時効が到来することから、明け渡しと使用料等の支払いを求めてやむを得ず調停の申し立てを行うものであります」
「議案第42号につきましては、国家公務員宿舎から退去されておりますが、未納となっている使用料等の支払いに応じていただけず、また時効が到来することから使用料等の支払いを求めて調停の申し立てを行うものであります」


福島県当局が県議会に提出した議案第41号。国家公務員宿舎「東雲住宅」の明け渡しなどを求めて民事調停を申し立てる内容。福島県生活拠点課の大野課長は委員会で「非現実的な主張をずっと繰り返して自主的な転居を認めない」などと説明した(画像加工は筆者)
【「避難者の主張は非現実的」】
これに対し、共産党の吉田英策委員は「入居者(避難者)のなかには経過やセーフティネット契約の内容が分からない、説明不足だったために契約を結んだということはないのか」と質した。
大野課長は「説明しました。意向確認もし、そのうえで使用申込書、宣誓書を提出していただき、契約を締結のうえ住居として使用していただいた。誓約書には『2年間で退去する』というのもある。1年ごとの更新で最大2年までという形で実施した制度ですので、避難者の方は十分ご理解のうえ入居されていたと思っております」と答弁。
吉田委員は「なぜ民事調停でなければならないのか」と続けたが、大野課長は「私も何十回と訪問、連絡したが、相手の方の応答は本当に少ない回数。対応を弁護士に委任されている方もいらっしゃって直接、連絡がとれない状況もある。『収入が増えれば都内で物件を探したい』とか、そういった非現実的な主張をずっと繰り返して自主的な転居を認めないと。こちらも都営住宅の入居案内なども随時お送りしているが応募されない。そのような状況で民事調停もやむを得ないと判断した」と従来の答弁を繰り返した。
避難者の言葉を「非現実的な主張」と一刀両断した大野課長は、別の質問に対しても「『23区内とか江東区内で今の国家公務員宿舎と同じ家賃で希望する』というような内容もあった。不動産会社にも確認したが、江東区の湾岸エリアで同じような条件というのはなかなか厳しい。隣県の千葉県とか埼玉県も同じ首都圏のなかで検討いただけないのかな、なんて考えてございます」と答弁。質問を続ける吉田委員に対し、他の委員から「段取りをふんでやってるんだから仕方ねえべ」などと嘲笑交じりの野次が飛んだ。
なお、請求されている使用料等の未納額は「2世帯合わせて約460万円」という。


議案を審査するために開かれた福島県議会の企画環境委員会。しかし、原発避難者に対する〝追い出し調停議案〟について質問したのは共産党の吉田委員のみ。他の委員はモゴモゴと野次を飛ばすばかりで賛成意見すら言わない有り様。今回も民主主義からほど遠い審査となった=福島県庁
【親族への文書に「訴訟」】
委員会は午前11時に始まったが、今回は委員が改選(任期は2年)されて初の委員会ということで、冒頭30分間は委員や県幹部の自己紹介や部局の事業内容説明などに費やされ、実質的な審査は11時半から。
昼休みを挟み、午後1時に再開。午後2時半頃に委員会は閉会したが、原発避難者に対する民事調停議案について質したのは吉田委員のみ。他の委員は嘲笑交じりの野次を口にする一方で、議案に対する賛成意見を表明することもなかった。
一方、再生可能エネルギー問題や過疎化対策など別のテーマでは続々と委員の手が挙がり〝活発な〟議論が展開された。結局、〝避難者追い出し問題〟の質疑に費やされたのは、わずか計20分間程度。県議会では、原発避難者の問題はもはや「終わった話」になっていることが良く分かる。
もはやチェック機能を放棄した県議会に後押しされるように、県当局は原発避難者の〝追い出し〟を加速させている。
大野課長は委員会で「ご本人に連絡がとれないという状況もあったので親族に対する転居に向けた協力意思の確認という形で、解決を図るための手段として親族にも文書を送った。お送りした文書のなかには、直接『訴える』というような文言は入っていなかったと記憶しております」と答弁したが、昨年12月に実際に避難者親族に送りつけられた生活拠点課長名の文書には、次のような文言が入っている。
「御親族が自主的に転居されない場合は、訴訟など法的手段に移行せざるを得ません」
しかも、これまでの話し合いで「原発事故被害者団体連絡会」(ひだんれん)が再三にわたって「退去できない避難者の生活実態を調べたうえで個々の事情に寄り添った施策を検討して欲しい」と求めているが、実施されていない。
だから、委員会で大野課長が「世帯ごとの詳しい収入状況とか、そういうところまでは把握してございません」と答弁するのは当然なのだ。本当の意味で「寄り添う」ことをせず、「扉を何度叩いても応答がない」との理由で法的手段に訴える。しかも国や東京都ではなく避難元の福島県が避難した県民を被告にするという異常事態。それでも共産党以外の県議は問題視することも〝追い出し〟への賛意を明確に示すこともしない。
原発避難者を追い詰めているものの正体は、実は県議会なのかもしれない。
(了)

【「2年間で退去と誓約した」】
12月県議会に提出された国家公務員宿舎関連の議案は2つ。
議案第41号は現在、国家公務員宿舎「東雲住宅」(東京都江東区)で暮らしている2世帯に対する民事調停申立で、建物の明け渡しと使用料などの支払いを求める。議案第42号は既に国家公務員宿舎から退去して新たな住まいを確保した2世帯(東京都江東区の「東雲住宅」と埼玉県さいたま市の「領家住宅」)に対し、未納使用料などの支払いを求める内容。
これとは別に、避難指示が出された浜通りからの避難者に対して、郡山市内の建設型仮設住宅の明け渡しを求める訴えを起こす旨の議案(第40号)も提出されている。9月議会でも、福島市内の建設型仮設住宅の明け渡しを求める民事調停議案が提出され、可決されている。
16日の企画環境委員会では、福島県生活拠点課の大野竜一課長が次のように説明した。
「議案第41号につきましては、平成29年(2017年)3月末の応急仮設住宅の供与終了に伴い、転居先を確保できなかった避難指示区域外からの避難者に対し、住まいを確保していただくための経過措置として2年間で退去する旨を誓約いただき、契約を締結のうえ国家公務員宿舎の使用貸付を実施いたしました。これまで戸別訪問などを通じて住まいの確保に向けた支援を続けてまいりましたが、供与終了から4年以上が経過しても再三の明け渡し要請に応じていただけないことや、未納となっている使用料等の時効が到来することから、明け渡しと使用料等の支払いを求めてやむを得ず調停の申し立てを行うものであります」
「議案第42号につきましては、国家公務員宿舎から退去されておりますが、未納となっている使用料等の支払いに応じていただけず、また時効が到来することから使用料等の支払いを求めて調停の申し立てを行うものであります」


福島県当局が県議会に提出した議案第41号。国家公務員宿舎「東雲住宅」の明け渡しなどを求めて民事調停を申し立てる内容。福島県生活拠点課の大野課長は委員会で「非現実的な主張をずっと繰り返して自主的な転居を認めない」などと説明した(画像加工は筆者)
【「避難者の主張は非現実的」】
これに対し、共産党の吉田英策委員は「入居者(避難者)のなかには経過やセーフティネット契約の内容が分からない、説明不足だったために契約を結んだということはないのか」と質した。
大野課長は「説明しました。意向確認もし、そのうえで使用申込書、宣誓書を提出していただき、契約を締結のうえ住居として使用していただいた。誓約書には『2年間で退去する』というのもある。1年ごとの更新で最大2年までという形で実施した制度ですので、避難者の方は十分ご理解のうえ入居されていたと思っております」と答弁。
吉田委員は「なぜ民事調停でなければならないのか」と続けたが、大野課長は「私も何十回と訪問、連絡したが、相手の方の応答は本当に少ない回数。対応を弁護士に委任されている方もいらっしゃって直接、連絡がとれない状況もある。『収入が増えれば都内で物件を探したい』とか、そういった非現実的な主張をずっと繰り返して自主的な転居を認めないと。こちらも都営住宅の入居案内なども随時お送りしているが応募されない。そのような状況で民事調停もやむを得ないと判断した」と従来の答弁を繰り返した。
避難者の言葉を「非現実的な主張」と一刀両断した大野課長は、別の質問に対しても「『23区内とか江東区内で今の国家公務員宿舎と同じ家賃で希望する』というような内容もあった。不動産会社にも確認したが、江東区の湾岸エリアで同じような条件というのはなかなか厳しい。隣県の千葉県とか埼玉県も同じ首都圏のなかで検討いただけないのかな、なんて考えてございます」と答弁。質問を続ける吉田委員に対し、他の委員から「段取りをふんでやってるんだから仕方ねえべ」などと嘲笑交じりの野次が飛んだ。
なお、請求されている使用料等の未納額は「2世帯合わせて約460万円」という。


議案を審査するために開かれた福島県議会の企画環境委員会。しかし、原発避難者に対する〝追い出し調停議案〟について質問したのは共産党の吉田委員のみ。他の委員はモゴモゴと野次を飛ばすばかりで賛成意見すら言わない有り様。今回も民主主義からほど遠い審査となった=福島県庁
【親族への文書に「訴訟」】
委員会は午前11時に始まったが、今回は委員が改選(任期は2年)されて初の委員会ということで、冒頭30分間は委員や県幹部の自己紹介や部局の事業内容説明などに費やされ、実質的な審査は11時半から。
昼休みを挟み、午後1時に再開。午後2時半頃に委員会は閉会したが、原発避難者に対する民事調停議案について質したのは吉田委員のみ。他の委員は嘲笑交じりの野次を口にする一方で、議案に対する賛成意見を表明することもなかった。
一方、再生可能エネルギー問題や過疎化対策など別のテーマでは続々と委員の手が挙がり〝活発な〟議論が展開された。結局、〝避難者追い出し問題〟の質疑に費やされたのは、わずか計20分間程度。県議会では、原発避難者の問題はもはや「終わった話」になっていることが良く分かる。
もはやチェック機能を放棄した県議会に後押しされるように、県当局は原発避難者の〝追い出し〟を加速させている。
大野課長は委員会で「ご本人に連絡がとれないという状況もあったので親族に対する転居に向けた協力意思の確認という形で、解決を図るための手段として親族にも文書を送った。お送りした文書のなかには、直接『訴える』というような文言は入っていなかったと記憶しております」と答弁したが、昨年12月に実際に避難者親族に送りつけられた生活拠点課長名の文書には、次のような文言が入っている。
「御親族が自主的に転居されない場合は、訴訟など法的手段に移行せざるを得ません」
しかも、これまでの話し合いで「原発事故被害者団体連絡会」(ひだんれん)が再三にわたって「退去できない避難者の生活実態を調べたうえで個々の事情に寄り添った施策を検討して欲しい」と求めているが、実施されていない。
だから、委員会で大野課長が「世帯ごとの詳しい収入状況とか、そういうところまでは把握してございません」と答弁するのは当然なのだ。本当の意味で「寄り添う」ことをせず、「扉を何度叩いても応答がない」との理由で法的手段に訴える。しかも国や東京都ではなく避難元の福島県が避難した県民を被告にするという異常事態。それでも共産党以外の県議は問題視することも〝追い出し〟への賛意を明確に示すこともしない。
原発避難者を追い詰めているものの正体は、実は県議会なのかもしれない。
(了)
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