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【129カ月目の浪江町はいま】原発事故で戻らぬ町民、存続のカギ握る移民政策~町政懇談会で浮き彫りになった「町消滅」への危機感

浪江町が10月と11月に福島県内外7カ所で開いた「町政懇談会」では、原発事故から間もなく11年が経とうとするなかで行政単位としての「町」消滅への危機感が浮き彫りとなった。町民の帰還率はいまだ6%にも届かず、今後飛躍的に帰還者が増えるとは考えにくい。むしろ、国民健康保険料など減免措置を国が打ち切れば、避難先自治体への住民票の大量転出が予想され「町残し」どころではなくなる。町は駅周辺の再開発プロデュースを建築家の隈研吾氏に託すなど移住者増に躍起だが、原発事故に壊され、翻弄され続ける小さな町の苦悩が伝わってくる。
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【「人を増やさなければ」】
 「町残しから持続可能な町づくりへ一歩前進させており、今年度から『浪江町復興計画【第三次】』がスタート致しました」
 10月と11月に福島県内外7カ所で行われた「町政懇談会」。吉田数博町長は開会のあいさつで「持続可能な町づくり」を強調した。震災・原発事故後の町政を担った馬場有前町長(2018年6月死去)は「町残し」が口癖だった。そこから一歩前進させるのだという。では「持続可能な町づくり」とは何なのか。
 「町残しが中核にあって、残すだけでなく引き継いでいく。そんなイメージです」
 仙台会場で取材に応じた吉田町長は、そう答えた。
 「普通の町にしていくことが『持続可能な町づくり』です。『普通の町』になるには何をしなければならないか。人を増やしていくということです。黙っていても何人かは集まるでしょう。でも、町としての形態を成す、納税をしていただいて町民サービスをする。そういったことが場合によってはなくなってしまう。そんな想いで持続をずっとしていく町をつくっていきたいという想いですね」
 説明会で示された町内居住人口(9月末現在)は1727人。しかし、この数字は復興事業の作業員など「町内に住んでいる人」の数であって、震災発生時から住民票を置いている「町民」はこのうち1237人。2011年3月11日現在の町の住民登録人口が2万1434人だから、帰還率は単純計算で6%を下回る。
 帰還困難区域以外の避難指示解除から4年以上が経過してこの数字。今後、町民の帰還が飛躍的に伸びるとは考えにくい。吉田町長は町民からの質問に「このままの人口でいきますと町そのものが持続できない。町民サービスができなければ町として存続できません」と答えている。町の存続のために移住者を増やすのが至上命題だ。そこで起爆剤として白羽の矢を立てたのが新国立競技場を設計した建築家・隈研吾氏だった。

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町は駅周辺の再開発を足掛かりに移住者増を狙う。プロデュースを隈研吾氏に依頼することで従来の浪江町とは全く違う街並みが出来上がるが、吉田町長は「町の存続のためにはやむを得ない」と語る

【「住民票移さないで」】
 浪江町は2026年度の完成を目標に、JR常磐線・浪江駅周辺約8ヘクタールの再開発を進めている。その街並みプロデュースを隈氏に依頼。9月には「デザインの力による浪江町の復興まちづくりに関する連携協定」を締結した。
 なぜ隈氏なのか。
 「駅前もね、単なる国の補助金を使った再開発でなく、そこにストーリーを設けたりインパクトのある売り込みをしたい。だから隈さんについては高知県梼原町というところがあって、そこに彼の作品があるんです。おかげで震災前は隈先生の作品を見たいということで、台湾から観光客が5万人くらい訪れていたそうです。玉川村の建物もニュースになっていましたね。つまり、彼にはネームバリューがある。時の人ですから。自分たちの町にそういうものがあるということは、やっぱり俺らの町も捨てたもんじゃないなと。ちょっと帰ってみっかとね」
 町を存続させるためには、とにかく人口を増やさなければならない。今月12日には「ラッキー公園 in なみえまち」が道の駅なみえにオープンした。観光客を呼び、それを移住促進につなげる。なりふり構わぬ取り組みの背景には地方交付税の問題がある、と町議の1人は言う。
 「今は特例措置として地方交付税が震災前の人口で算出されています。これがいつまで続くか。こちらとしては、特例措置を未来永劫続けて欲しい。今の人口で計算されたら町が立ち行かなってしまう。そもそも、こういう事態を招いた原因は原発事故ですから。でも、国は早くやめたいんだよね」
 町内に住んで納税してくれる人を増やしたい。しかし、原発事故で全国に離散した町民は避難先で新たな生活基盤ができあがってしまい、被曝リスクもあって帰還は期待できない。国民健康保険料などの減免措置が終われば、町に住民票を残しておく〝メリット〟はなくなり、一斉に避難先自治体に転出する可能性が高い。町幹部の1人は「近い将来、減免はなくなるのだろう。そうしたら住民票を町に置いておくメリットはなくなる。そういう準備もしなければいけない」と話す。
 町政懇談会では、佐藤良樹副町長が「あくまで町民個人の判断だが」としたうえで「このまま住民票を置いていただくなかで、いずれ帰還をしていただきたい」、「いずれ町に戻って来ていただきたい」と本音を口にした。

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説明会で示された町内居住人口(9月末現在)は1727人。しかし、震災発生時から住民票を置いている「町民」はこのうち1237人。帰還率は単純計算で6%を下回る

【「合併よりまずは再生」】
 世界的建築家がプロデュースする再開発で、浪江町は慣れ親しんだ街ではなくなる。誰も知らない「シン・ナミエ」として生まれ変わる。
 吉田町長も「古くから住んでいる人から見たら、全然違う町になっちゃうと映るでしょう。それはやむを得ないことで、元の町ではないですよ。でも元の浪江町のアイデンティティを残していく。歴史も文化も大事にしていく必要はありますから。やれることをやっていく。その結果としてこうなったということです」と認める。
 あらるゆ手を使っても、果たして人口が増えるかどうかは未知数。町民からは「今の人口は浪江町ではなくて浪江村になっている。恐らく将来、町村合併の話が出るのではないか」との質問も出た。これに対し、吉田町長は「いまの双葉郡の復興の状況を見るときに、将来的に合併が取り沙汰されるのはやむを得ない、当然の話かな」と否定しなかった。
 「ただ、それぞれ自分の町の復興をしっかりやってから後の話ではないか。浪江町ですと8%しかまだ帰ってきておりません。数字的には8%ですが、以前からお住まいの方については6%か5%か。そういったなかで合併を急ぐことがどういったメリット、デメリットがあるのか、これから検討する必要があると思います」
 「皆さん好きで故郷を離れたわけではありません。自分たちの故郷が合併に伴ってなくなってしまうという、そういったものも考慮する必要があるだろうと思います。当面は、何年かかるか分かりませんが、しっかり自分たちの町村を再生させる。未来に向かって、さあこれからどうしようという段階になったときに合併もあり得るのかなと思います」
 吉田町長は取材のなかで「合併というのは究極の合理化。そのことが果たして町民のために良いのかという想いもある」と語っている。できれば町村合併は避けたいのだろう。町政懇談会の最終日、東京会場で自分に言い聞かせるように述べた。
 「いくら町が施設をつくっても施設ができただけで終わってしまう。そうではなくて、施設を利用して町民サービスを行っていく。サービスを通じて新しい方々に移住していただく。新しい方の居住を見据えてしっかり持続可能な町にしていきたい。ただ単に残すのではなくて、持続可能な町にしていきたい。前向きに取り組まなければ難局は乗り越えられない」
 間もなく、11回目の正月がやって来る。



(了)
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プロフィール

鈴木博喜

Author:鈴木博喜
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