【129カ月目の汚染水はいま】「反対意見を無視するな」「県民公聴会開け」~海洋放出に向け着々と進む既成事実づくり、福島の市民団体や自治体から懸念噴出
- 2021/12/28
- 09:16
政府が汚染水海洋放出方針を決定したことを受けて東電が着々と既成事実づくりを進めていることに、市民団体や自治体から懸念の声があがっている。市民団体は27日午前、福島県知事宛ての申し入れ書を提出。海洋放出設備に関する事前了解願いに同意しないことや県民公聴会の開催を求めた。同日午後の「廃炉安全監視協議会」では、いわき市の担当者が「関係者の十分な理解がないままに放出に向かって進んでしまうという印象が拭えない」と釘を刺した。肝心の福島県知事は「国の責任で」と繰り返すばかり。原発事故は民主主義をも破壊することが良く分かる。

【「県も代替案の検討を」】
11月に発足した市民団体「海といのちを守る福島ネットワーク」は27日午前、福島県の内堀雅雄知事宛てに「福島第一原発汚染水の希釈放出設備等の実施計画変更に関する事前了解について」と題した申し入れ書を提出した。申し入れ項目は次の3点。
①福島県民と県内農林水産業はじめ地域の社会経済を守るために、福島県として海洋放出反対の意思を表明し、本件事前了解に同意しないこと
②漁業者をはじめ福島県民の生業を守り、県民生活の安全・安心を確保するため、政府と東電に対し地下水の止水、トリチウム分離技術の実用化、大型タンクでの長期保管案やモルタル固化保管案等の汚染水対策を求めること
③廃炉安全監視協議会等で意見を集約するばかりでなく、県民の声を聴く県民公聴会を県として開催すること
東電は21日、汚染水の海洋放出実施に向けた「実施変更認可申請書」を原子力規制委員会に提出。その前日には「福島第一原子力発電所の廃炉等の実施に係る周辺地域の安全確保に関する協定」に基づき、福島県や大熊町、双葉町に「事前了解願い」を出している。東電・松本純一氏(福島第一廃炉推進カンパニープロジェクトマネジメント室長兼ALPS処理水対策責任者兼福島本部)は「今回は設備の安全性を規制委員会に審査していただくという申請。海洋放出の許可を求める申請ではない」と筆者に語ったが、原子力規制委員会はもちろん、福島県や2町が同意すれば汚染水の海洋放出に大きく前進することになる。福島県内市町村議会の7割が海洋放出に反対や慎重な対応を求める意見書を採択。世論調査でも反対の声が多いにもかかわらず、だ。
だからこそ、「反対意見を反映しない形で事がどんどん進んで行くということに非常に不安と懸念を抱いている。県民の意見をぜひ反映していただきたい。県が防波堤になって欲しい」(武藤類子さん)、「県も代替案を真剣に検討するべきだ。海に流した途端に加害者と呼ばれる立場になってしまう。今までの県知事の姿勢を乗り越えることが求められている」(中島孝さん)、「国の責任でやってくださいと言っているだけでは県知事としての責任を全うしていることにならない。県民の声を聴く公聴会などを県が率先して開いて欲しい」(佐藤和良さん)と内堀知事に求めているのだ。



(上)県政記者クラブで会見した市民団体「海といのちを守る福島ネットワーク」。東電の事前了解願いに同意せず、まずは県民公聴会を開いて意見集約するよう求めている=福島県庁
(中)「廃炉安全監視協議会」にリモート参加したいわき市の室拓也課長は「関係者の十分な理解がないままに放出に向かって進んでしまうという印象が拭えない」と釘を刺した=杉妻会館
(下)東電の松本純一氏(左)は取材に対し「大規模な説明会を開催するというような計画はない」と述べた=杉妻会館
【「放出に進んでしまう」】
東電による〝既成事実づくり〟に対する懸念は、何も〝一部の市民団体〟だけが抱いているわけではない。
27日午後に開かれた「福島県原子力発電所の廃炉に関する安全監視協議会」(廃炉安全監視協議会)の第7回会合。リモート参加したいわき市原子力対策課の室拓也課長が「2点ほど質問と要望をさせていただくが、その前に」と前置きして釘を刺した。
「先ほど、本日の会議の守備範囲というお話もあったが、本日は実施計画変更の内容についての説明という趣旨で開催されていると理解している。ALPS処理水の放出そのもの、それについての是非を議論する場ではないと考えているが、海洋放出を前提とした、あるいは海洋放出を容認したうえでの発言ではないというところはご理解いただきたい。先日、内田広之市長がコメントしたが、関係者の理解を得ることが重要。今はその過程の途上であると認識している。その途上にあるなかで技術的な内容でありながら原子力規制委員会への申請がなされて決定されるということになると、関係者の十分な理解がないままに放出に向かって進んでしまうという印象が拭えない。慎重を期した対応が求められている」
協議会のメンバーでもある福島県原子力安全対策課の伊藤繁課長が「協議会のそもそもの目的は安全性の確認なので、あくまでも設備について話し合う。いわき市の方も言っているが、海洋放出の是非は違う場で議論されるもの」と筆者に語ったように、名目上は確かに、汚染水海洋放出の是非を議論する場ではない。しかし、県のホームページで「国及び東京電力の取組状況について、多角的、継続的に厳しい目線で安全監視を行っています」とうたっている割には、この日も海洋放出を前提とした議論が粛々と行われており、それに疑問を呈したのはいわき市だけ。これでは、海洋放出実施に向けた既成事実づくりが着々と進められていると思われても仕方ない。
閉会後、筆者の取材に応じた東電の松本氏は「申請したからといって対話は終了というわけではない」と強調した。
「今後も皆様の声を聴き、対話をしていくという姿勢には変わりないし、やってまいる。意見を聴くのも必要だと思うし、他方、今年4月に決定された政府基本方針も重く受け止めている。それを両立させながらやりたいというのが私どもの基本姿勢。まずは漁業関係者の皆様、非常に重要なステークホルダーの1つなので、そういった方々を中心にということになろうかと思う。今のところ何か大規模な説明会を開催するというような計画はない」



東電は海底トンネル工事に向けた地質調査を行うなど、汚染水の海洋放出に向けて着々と準備を進めている。一方、福島県も海洋放出に反対することなく「国の責任で風評対策を」との姿勢を貫いている
【「国挙げて風評対策を」】
27日午前に開かれた年内最後の福島県知事定例会見。朝日新聞記者から汚染水海洋放出について問われた内堀雅雄知事はしかし、これまでの言葉を繰り返すばかりだった。
「先週、東電から原子力規制委員会に対しALPS処理水の放出設備等に関する実施計画の変更認可申請書が提出された。東電においては今般、示した計画の内容について関係団体等の理解が得られるようていねいに説明していくことが必要であると考えている。県としては今後、専門家の皆さんのご意見を伺いながら計画の安全面について確認を進めてまいります」
「ALPS処理水の処分については、漁業者の皆さんをはじめ多くの関係の皆さんから新たな風評を懸念する声など様々なご意見が示されている。政府においては関係団体等としっかり向き合ってていねいに説明を重ねていくことはもとより、日本全体の問題として分かりやすい情報発信に取り組むことが重要。これまで実施してきた関係者への説明会等でいただいた意見等をしっかり行動計画に反映させ、国を挙げて風評対策に取り組むことが何よりも重要だと考えている」
民意を無視し「廃炉作業の邪魔」、「海に流せばコストも安く済む」などと2年後の海洋放出に向けて着々と既成事実が積み上げられていく。被災県の知事も異を唱えず、理解を得る動きだけが加速していく。原発事故は民主主義をも破壊する。
(了)

【「県も代替案の検討を」】
11月に発足した市民団体「海といのちを守る福島ネットワーク」は27日午前、福島県の内堀雅雄知事宛てに「福島第一原発汚染水の希釈放出設備等の実施計画変更に関する事前了解について」と題した申し入れ書を提出した。申し入れ項目は次の3点。
①福島県民と県内農林水産業はじめ地域の社会経済を守るために、福島県として海洋放出反対の意思を表明し、本件事前了解に同意しないこと
②漁業者をはじめ福島県民の生業を守り、県民生活の安全・安心を確保するため、政府と東電に対し地下水の止水、トリチウム分離技術の実用化、大型タンクでの長期保管案やモルタル固化保管案等の汚染水対策を求めること
③廃炉安全監視協議会等で意見を集約するばかりでなく、県民の声を聴く県民公聴会を県として開催すること
東電は21日、汚染水の海洋放出実施に向けた「実施変更認可申請書」を原子力規制委員会に提出。その前日には「福島第一原子力発電所の廃炉等の実施に係る周辺地域の安全確保に関する協定」に基づき、福島県や大熊町、双葉町に「事前了解願い」を出している。東電・松本純一氏(福島第一廃炉推進カンパニープロジェクトマネジメント室長兼ALPS処理水対策責任者兼福島本部)は「今回は設備の安全性を規制委員会に審査していただくという申請。海洋放出の許可を求める申請ではない」と筆者に語ったが、原子力規制委員会はもちろん、福島県や2町が同意すれば汚染水の海洋放出に大きく前進することになる。福島県内市町村議会の7割が海洋放出に反対や慎重な対応を求める意見書を採択。世論調査でも反対の声が多いにもかかわらず、だ。
だからこそ、「反対意見を反映しない形で事がどんどん進んで行くということに非常に不安と懸念を抱いている。県民の意見をぜひ反映していただきたい。県が防波堤になって欲しい」(武藤類子さん)、「県も代替案を真剣に検討するべきだ。海に流した途端に加害者と呼ばれる立場になってしまう。今までの県知事の姿勢を乗り越えることが求められている」(中島孝さん)、「国の責任でやってくださいと言っているだけでは県知事としての責任を全うしていることにならない。県民の声を聴く公聴会などを県が率先して開いて欲しい」(佐藤和良さん)と内堀知事に求めているのだ。



(上)県政記者クラブで会見した市民団体「海といのちを守る福島ネットワーク」。東電の事前了解願いに同意せず、まずは県民公聴会を開いて意見集約するよう求めている=福島県庁
(中)「廃炉安全監視協議会」にリモート参加したいわき市の室拓也課長は「関係者の十分な理解がないままに放出に向かって進んでしまうという印象が拭えない」と釘を刺した=杉妻会館
(下)東電の松本純一氏(左)は取材に対し「大規模な説明会を開催するというような計画はない」と述べた=杉妻会館
【「放出に進んでしまう」】
東電による〝既成事実づくり〟に対する懸念は、何も〝一部の市民団体〟だけが抱いているわけではない。
27日午後に開かれた「福島県原子力発電所の廃炉に関する安全監視協議会」(廃炉安全監視協議会)の第7回会合。リモート参加したいわき市原子力対策課の室拓也課長が「2点ほど質問と要望をさせていただくが、その前に」と前置きして釘を刺した。
「先ほど、本日の会議の守備範囲というお話もあったが、本日は実施計画変更の内容についての説明という趣旨で開催されていると理解している。ALPS処理水の放出そのもの、それについての是非を議論する場ではないと考えているが、海洋放出を前提とした、あるいは海洋放出を容認したうえでの発言ではないというところはご理解いただきたい。先日、内田広之市長がコメントしたが、関係者の理解を得ることが重要。今はその過程の途上であると認識している。その途上にあるなかで技術的な内容でありながら原子力規制委員会への申請がなされて決定されるということになると、関係者の十分な理解がないままに放出に向かって進んでしまうという印象が拭えない。慎重を期した対応が求められている」
協議会のメンバーでもある福島県原子力安全対策課の伊藤繁課長が「協議会のそもそもの目的は安全性の確認なので、あくまでも設備について話し合う。いわき市の方も言っているが、海洋放出の是非は違う場で議論されるもの」と筆者に語ったように、名目上は確かに、汚染水海洋放出の是非を議論する場ではない。しかし、県のホームページで「国及び東京電力の取組状況について、多角的、継続的に厳しい目線で安全監視を行っています」とうたっている割には、この日も海洋放出を前提とした議論が粛々と行われており、それに疑問を呈したのはいわき市だけ。これでは、海洋放出実施に向けた既成事実づくりが着々と進められていると思われても仕方ない。
閉会後、筆者の取材に応じた東電の松本氏は「申請したからといって対話は終了というわけではない」と強調した。
「今後も皆様の声を聴き、対話をしていくという姿勢には変わりないし、やってまいる。意見を聴くのも必要だと思うし、他方、今年4月に決定された政府基本方針も重く受け止めている。それを両立させながらやりたいというのが私どもの基本姿勢。まずは漁業関係者の皆様、非常に重要なステークホルダーの1つなので、そういった方々を中心にということになろうかと思う。今のところ何か大規模な説明会を開催するというような計画はない」



東電は海底トンネル工事に向けた地質調査を行うなど、汚染水の海洋放出に向けて着々と準備を進めている。一方、福島県も海洋放出に反対することなく「国の責任で風評対策を」との姿勢を貫いている
【「国挙げて風評対策を」】
27日午前に開かれた年内最後の福島県知事定例会見。朝日新聞記者から汚染水海洋放出について問われた内堀雅雄知事はしかし、これまでの言葉を繰り返すばかりだった。
「先週、東電から原子力規制委員会に対しALPS処理水の放出設備等に関する実施計画の変更認可申請書が提出された。東電においては今般、示した計画の内容について関係団体等の理解が得られるようていねいに説明していくことが必要であると考えている。県としては今後、専門家の皆さんのご意見を伺いながら計画の安全面について確認を進めてまいります」
「ALPS処理水の処分については、漁業者の皆さんをはじめ多くの関係の皆さんから新たな風評を懸念する声など様々なご意見が示されている。政府においては関係団体等としっかり向き合ってていねいに説明を重ねていくことはもとより、日本全体の問題として分かりやすい情報発信に取り組むことが重要。これまで実施してきた関係者への説明会等でいただいた意見等をしっかり行動計画に反映させ、国を挙げて風評対策に取り組むことが何よりも重要だと考えている」
民意を無視し「廃炉作業の邪魔」、「海に流せばコストも安く済む」などと2年後の海洋放出に向けて着々と既成事実が積み上げられていく。被災県の知事も異を唱えず、理解を得る動きだけが加速していく。原発事故は民主主義をも破壊する。
(了)
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