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【民の声新聞が見た2021年の福島】「区域外避難者追い出し」「汚染水海洋放出」…原発事故後に続く民主主義破壊や人権蹂躙

未曽有の震災・原発事故発生から丸10年が経過した2021年が終わる。新型コロナウイルス対応に始まり、震災や原発事故からの復興とは全く関係ないレベルで開催された東京五輪。そして、その陰で着々と進められた〝自主避難者〟(区域外避難者)の追い出しや汚染水海洋放出の準備。2月には福島県沖を震源とするマグニチュード7・3の地震が発生し、原発事故後の行政文書が次々と廃棄されていることも判明した。109本に達した民の声新聞が見た2021年を振り返りたい。そこから見えてくるのは、原発事故による民主主義の破壊と人権の蹂躙だった。
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【被災県が県民相手に訴訟】
 昨年だけ無かった「今年の漢字」が復活した。27日午前に開かれた年内最後の定例会見。地元紙・福島民報の記者に促されるように、内堀知事は「機」を示した。しかも、今年はスライドまで用意して、なぜ「機」を選んだのか説明した。
 「今年1年、やはり振り返りますと、『危機』と『機会』、両方混ざり合った状態でありました。ただ我々は常に、この危機を乗り越えようということで、新型感染症にしても、あるいは東京オリンピック・パラリンピックにしても、様々な挑戦を継続して、『危機』を『機会』に変えていくための努力を続けてきました。まだ残念ながら感染症はオミクロン株の猛威もあって正に途上でありますし、福島の復興、地方創生も途上であります。来年においても、『危機』を『機会』に変えるための挑戦をしっかり継続していきたいと考えております」
 内堀知事はそう言うが、一方で「危機」に追い詰めた年でもあった。
 福島県は2020年3月、原発事故で政府の避難指示が出なかった区域から避難し、国家公務員宿舎に身を寄せた〝自主避難者〟(区域外避難者)4世帯を相手取り、明け渡しと家賃などの支払いを求めて福島地裁に提訴。今も裁判は続いている。
 それだけではない。国家公務員宿舎から退去できていない他の避難者に対しても、2019年3月末で入居期限が切れているとして家賃2倍の「損害金」を請求。さらに、本人の同意なく親族住所を調べて退去に向けた協力(要するに家賃等支払い)を求める文書を送りつけたばかりか、家庭訪問までした。「退去に応じなければ訴訟も辞さない」と親族に伝え、実際に訴訟を視野に入れた民事調停を申し立てている。
 原発事故被災県が避難した県民を相手に訴訟を起こすという愚行だが、福島県生活拠点課は「これまで戸別訪問などを通じて住まいの確保に向けた支援を続けてきたが、供与終了から4年以上が経過しても再三の明け渡し要請に応じていただけず、未納となっている使用料等の時効も到来することからやむを得ない」との姿勢を貫いている。

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原発事故被災県が避難した県民を裁判で追い出すという愚行に、避難当事者や支援者から怒りの声があがっているが、福島県は「やむを得ない」との姿勢を貫いている

【地ならし進む海洋放出】
 菅政権は4月、原発事故後にたまり続ける汚染水を2年後をめどに海洋放出する方針を決定。「ALPS(多核種除去設備)で処理したうえに海水で希釈して規制基準以下にするから問題ない」というのが国の理屈だった。
 しかし、そもそも福島県民は海洋放出に同意していない。いわき市小名浜や福島県庁前で市民団体が抗議のスタンディングを展開しただけでなく、県内の7割を超える市町村議会が海洋放出に反対、もしくは慎重な対応を求める意見書案を可決。
 いわき市の清水敏男市長(当時)は6月の市議会で「本市の再三の要望にもかかわらずいまだ十分な理解が得られたとは言えない状況の中、国が海洋放出を決定したことは誠に遺憾であり、現時点で承服できるものではなく、市議会5月臨時会において意見書が可決されましたことにつきましても重く受け止めている」と答弁。今月27日の「福島県原子力発電所の廃炉に関する安全監視協議会」(廃炉安全監視協議会)の第7回会合でも、同市原子力対策課の室拓也課長が「今は関係者の理解を得る過程の途上であると認識している。技術的な内容でありながら原子力規制委員会への申請がなされて決定されるということになると、関係者の十分な理解がないままに放出に向かって進んでしまうという印象が拭えない。慎重を期した対応が求められている」と釘を刺すなど、漁業者以外からも異論が絶えないのが現状だ。
 しかし、東電が約1キロメートルの海底トンネル工事に向けた地質調査を行うなど、海洋放出に向けた既成事実は着々と積み上げられている。肝心の内堀知事は4月の政府方針決定の際も、記者会見で「福島県自身が容認する、容認しないと言う立場にあるとは考えておりません」と発言し、記者クラブメディアを驚かせた。
 年内最後の定例会見でも「ALPS処理水の処分については、漁業者の皆さんをはじめ多くの関係の皆さんから新たな風評を懸念する声など様々なご意見が示されている。政府においては関係団体等としっかり向き合ってていねいに説明を重ねていくことはもとより、日本全体の問題として分かりやすい情報発信に取り組むことが重要」と言うばかり。
 県知事自ら民主主義に背を向け県民の想いは無視されたまま、海洋放出への地ならしが進む。

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原発汚染水の海洋放出計画を巡っては、福島県内外から反対の声が高まっているが、内堀知事ははっきりと反対姿勢を打ち出さない

【参院選、そして県知事選】
 総選挙は終わったが、2022年も〝選挙の年〟だ。
 夏に参院選、秋には県知事選挙が実施される。参院選には、県民健康調査検討委員会で8年にわたり座長を務めた星北斗氏が自民党公認で立候補する事態になった。本来、原発事故後の被曝による健康影響について議論する検討委員会は中立であるべきであり、政府与党が座長を〝一本釣り〟するということは、県民から「国の思うように仕切って来たのではないか」との疑念を抱かれても仕方ない。しかも、星氏を強力に推しているのが、復興大臣を務め早くから放射線のリスクを否定していた根本匠代議士(同じ郡山市)というから、ある意味分かりやすい構図だと言える。
 そして県知事選。今のところ現職の内堀知事三選が濃厚だ。
 パンデミック下の五輪開催にも汚染水の海洋放出にも異を唱えず、区域外避難者の切り捨てを進めるばかりか帰還困難区域の避難指示解除に関しても「帰還意思のある住民の生活環境しか除染しない」という国の方針にも物申さない。だから自公の〝信頼〟は厚い。県議会も共産党以外は「知事与党」だから、特に原発事故対応に関して議論が深まることはない。それが本当に県民にとって良いのか。改めて考える必要がある。
 2022年を迎え、3月になると震災・原発事故発生から丸11年になる。この間、被害者の人権は蹂躙され続け、各種裁判でも加害企業である東電が被害者を侮辱し、被害を頭ごなしに否定する言動が続いた。しかし、内堀県政は県民を守るどころか片方では原発事故被害を「風評被害」に押し込め、片方ではむしろ避難県民から住まいを奪おうとさえする。民主主義を破壊し、人権を蹂躙する原発事故から県民を守らない知事がこれからも〝君臨〟するのか。
 ちなみに、冒頭の「今年の漢字」は、記者クラブからの最初の質問だった。



(了)
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鈴木博喜

Author:鈴木博喜
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