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【130カ月目の汚染水はいま】「海に流されたら困るけれど…」「俺たちがナンボ言ったって…」華やかな出初式の裏に横たわる漁業者たちの複雑な想い~浪江町・請戸漁港

原発事故で大量発生している汚染水の海洋放出計画に揺れる請戸漁港(福島県双葉郡浪江町)で2日朝、1年間の安全を祈願する出初式が行われ、大漁旗で飾り付けられた14隻の漁船が2年ぶりに沖合に出た。漁協は「海洋放出にはどこまでも反対」を掲げるが、国も東電も来年の海洋放出開始に向けた準備を着々と進めている。民意を無視した既成事実づくりに漁師たちは「国相手に騒いだって…」とあきらめの言葉を口にした。震災・原発事故から11回目の正月。大津波で壊滅的な被害を受けた港に再び迫る難題に、請戸の漁業者たちの想いは複雑だ。
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【「どこまでも反対続ける」】
 新春の港に花火が打ち上がった。昨年はコロナ禍で大幅に縮小された請戸漁港の出初式。漁業者や家族が見守るなか、市場前の岸壁で1年の安全を祈願する神事が始まった。
 請戸漁港は東日本大震災に伴う大津波で地区全体が壊滅的な被害を受け、昨年11月にようやく、復旧工事が完了したばかり。「試験操業」から「本格操業」に移行する前段階としての「拡大操業」が行われているが、そこに新たな〝大津波〟が襲いかかっている。原発事故後に大量発生している汚染水の海洋放出問題だ。
 相馬双葉漁業協同組合請戸地区代表の高野一郎さんはあいさつのなかで「施設が完成しても、請戸の漁業者が置かれている状況は依然、厳しいままです。福島第一原発から半径10キロメートル圏外は操業できるようになりましたが、それより内側ではまだ操業できません」としたうえで、海洋放出問題について次のように述べた。
 「さらに福島第一原発の処理水海洋放出問題がございます。原発から6キロメートルの地点にある請戸漁港は反対しかありません。全漁連、県漁連と姿勢を同じくし、どこまでも反対を続けていきます。将来、請戸の漁業を継承する漁業者のためにも、一丸となって立ち向かってまいりたい」
 政府は昨年4月、原発敷地内のタンクに貯蔵されている汚染水(燃料デブリなどに触れて放射能汚染した水、約128万トン)を「ALPS」(多核種除去設備)で処理し、海水で希釈した「処理水」として2023年をめどに海に流し始める基本方針を決定。それを受けて東電は全長約1キロメートルの海底トンネルをつくって海に流す計画を立て、地質調査を行うなど反対の声を無視する形で着々と準備を進めている。「関係者の理解なしには、いかなる処分も行わない」と福島県漁連に誓った約束など、完全に反故にしている。高野さんの言う「反対」にもかかわらず、海洋放出開始に向けた既成事実が積み上げられているのが現状だ。

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(上)神事の後、高野代表や吉田町長などが鏡割りをして新年を祝った
(中)請戸漁港の漁船が次々と沖合へ出た出初式。船を神酒や海水で清め、海上から苕野(くさの)神社に1年の無事を祈った
(下)あいさつで高野代表は汚染水の海洋放出計画について「反対しかありません」と述べた

【「『汚染水』と言わないで」】
 しかし、そこまで無視され侮辱されても、漁業者たちの口は重い。筆者が「汚染水」という言葉を口にすると、途端に表情がかたくなる。港には海洋放出反対を示すのぼりなどもなく、反対の意思表示をするための集会なども開かれない。むしろ、あきらめにも似た空気が漂っている。
 なぜなのか。漁師の1人が重い口を開いた。
 「そりゃ海に流されたら困る。困るけど、相手は国。国だからな。国が決めたことに俺たちがナンボ言ったって通るわけねえべ。通らないものをいくら騒いだって、俺たちがアホみたいだろうよ」
 別の漁師は「漁業補償を(全体で)何十億ともらっちゃってるからなあ…」と、金で黙らされていることを暗に示唆した。若い漁師も「原発と共存してきた歴史があるから、あんまりね…」と言ったきり口をつぐんだ。
 政府や東電は海洋放出による「風評被害」ばかりに焦点を当てている。ある漁師の妻も「10年経ってようやく少しずつ食べてもらえるようになったというのに、海に流されたらまた請戸の魚を食べてもらえなくなってしまう」と表情を曇らせた。実は相馬双葉漁協幹部の1人は、筆者にこうつぶやいた。
 「『汚染水』と言わないで欲しんだよ。そう表現されることが何より風評被害を招くんだ。あれは『汚染水』じゃなくて『処理水』なんだ。『汚染水』を海に流すわけじゃないんだから。処理しても放射能汚染は無くならない?でも、『処理するから大丈夫』と国が言うんだから、俺たちはそれを信じるしかないじゃないか」
 海洋放出への賛否を明言しないことで事実上容認している福島県の内堀雅雄知事も「風評払拭」ばかり口にするが、福島大学・柴崎直明教授東京大学・鈴木譲名誉教授など、海や海洋生物への実害を指摘する声も少なくない。

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(上)出初式で沖合に出た漁船から福島第一原発が見えた。受け漁港とは6キロメートルしか離れていない
(中)「希望の牧場・ふくしま」の吉沢さんは請戸の漁師たちに「一緒に闘おう」と呼びかけた
(下)国や東電は「処理水」の安全性を強調するが、海や海洋生物への悪影響を指摘する専門家も少なくない

【「あきらめてはいけない」】
 「浪江町を汚すな!福島の海を汚すな!」
 神事が終わり、大漁旗で飾り付けられた漁船が次々と沖合に出て行くと、港に大きな声が響いた。被曝を強いられた牛たちを〝原発事故の生き証人〟として飼育し続けている「希望の牧場・ふくしま」の吉沢正巳さんだった。吉沢さんは漁師たちを鼓舞するように叫んだ。
 「浪江町の未来、請戸漁港の未来、福島県漁業の未来は危機の淵にいます」
 「汚染水を流して安全安心な漁業などないと思います。汚染水の海洋放出に断固反対しよう」
 「汚染水は東電の責任でタンクに溜めろ、海に流すな」
 「海を汚すな、海に流すな」
 そして、こうも呼びかけた。
 「あきらめてはいけない、一緒に闘おう」
 その声は沖合の船からも聞こえた。漁師や家族たちは一様に冷ややかな視線を送ってはいたが、実はこんな声もあった。
 「言ってる内容は間違っていないよね。その通りだと思う。汚染水で請戸の海を汚されたくないよ」
 請戸漁港では7日から今年の漁が始まる。懸念とあきらめが複雑に絡み合ったまま、国や東電による既成事実づくりだけが粛々と進む。計画通りにいけば、来年にも海洋放出が始まることになる。浪江町の吉田数博町長は祝辞のなかで「漁業を取り巻く環境はいまだ厳しいものがある。『常磐もの』、『請戸もの』というブランドをさらに盛り上げていくよう、皆さまと一緒に努力を重ねていく」と口にしたが、海洋放出には明快には反対していない。「関係者の理解」という言葉も自治体も骨抜きにされた状態で請戸の海は新年を迎えた。



(了)
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鈴木博喜

Author:鈴木博喜
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