【女川原発運転差止請求訴訟】仙台地裁が宮城県への調査嘱託を一部採用 「裁判所が避難計画の実効性に踏み込む可能性出た」と原告団
- 2022/02/19
- 05:17
東北電力女川原発2号機(宮城県女川町、石巻市)の再稼働に関し、宮城県や石巻市が策定した原発事故発生時の広域避難計画には実効性がないとして石巻市民17人が東北電力を相手取って起こした「女川原発運転差止請求訴訟」で、仙台地裁(齊藤充洋裁判長)は16日、原告側から出されていた内閣府、宮城県、石巻市に対する調査嘱託申し立てのうち、宮城県に対する調査嘱託を一部採用する決定をした。全面却下であれば避難計画の実効性に関する実質的な審理の道が閉ざされてしまうため、原告団も弁護団も裁判所の決定を歓迎している。次回期日は2022年6月8日11時。その前の5月までには、宮城県からの回答が裁判所に寄せられることになる。

【調査の主眼は「600人の要員」】
原告側は昨年11月1日に提出した調査嘱託申立書で、宮城県や石巻市が策定した女川原発事故発生時の広域避難計画が「検査場所の交通渋滞により、被曝のリスクが高い30㎞圏を長期間脱出できないこと」、「検査場所と受付ステーションの交通渋滞が重なり、避難所にたどり着くことができないこと」、「避難者の耐久時間を無視していること」―の3点において実効性に欠けること。そして、それらの点を調べないまま「女川地域原子力防災協議会」が広域避難計画を「具体的」、「合理的」であるとの判断を下したこと―を立証するため、内閣府や宮城県、石巻市に対する調査嘱託(A4判で計12ページ)を裁判所に求めていた。
仙台地裁は、16日付の決定で「質問状又は公文書開示請求等により、宮城県、石巻市及び内閣府から既にその回答を得たものと重複するか又はこれと関連する事項であると認められる…改めて調査嘱託をする必要性があるものとはいえない」などとして大半の部分を却下。
そのうえで、宮城県が昨年2月に策定した地域防災計画(原子力災害対策編)の「避難退域時検査等の実施」に関し、緊急時対応として「東北電力(本訴訟の被告)から約600人の要員が派遣される」とされている点について、「東北電力が検査場所に派遣する約600名の要員を招集するか否かは、誰が何に基づいて決定するのか」など7項目について宮城県に対し回答を求めている。宮城県は3ヶ月以内に裁判所に回答を寄せなければならない。
齊藤充洋裁判長は1月12日に開かれた第2回口頭弁論で「調査嘱託をどうするか。採用するのか却下するのか。あるいは、主張をさらにしていただいたうえで決めなければいけないのか。次回期日までにご連絡させていただく」と述べていた。
さらに「調査嘱託を採用するか否かによって、次回期日をどこに入れるのかが変わってくる。採用するのであれば回答が戻って来るまでに時間がかかってしまうのではないかと思う。もし却下するのであればそんなに先でなくても良い。裁判所で考えているのは、少し先のところに弁論期日を入れさせていただいて、2月に予定されている進行協議の状況によっては、間にもう1回進行協議をはさんで必要があれば主張なりをやらせていただく。そう考えています」として、第3回口頭弁論期日を6月8日に指定。今月21日午後に進行協議期日を設定した。



(上)(中)16日付の決定で、仙台地裁は宮城県に対し7項目への回答を求めている
(下)原告団長の原伸雄さんは調査嘱託一部採用を受け「今回の決定には希望を見出しています」と話した
【「採否は裁判のメルクマール」】
原告側弁護団長を務める小野寺信一弁護士は、第2回口頭弁論後の記者会見で次のように語っていた。
「今日の期日で調査嘱託について裁判所の判断がなされるだろうと考えていたが、裁判所はまだ採用するかどうか判断がかたまっていないようです。私たちは矢継ぎ早にいろいろな書面を出しました。上岡直見先生の意見書も非常に充実している。3人の裁判官が双方の主張を十分に読み込めていない、もう少し時間をくださいと私は好意的に受け取りました。争点ははっきりしている。しかし調査嘱託を採用するということは、判決そのものではないが、裁判所が中身に入って判断しようとしているという姿勢の表れになるだろうと思う。被告はそれ以外の総論のところで勝負をしたい。各論には入りたくない。こちらは総論の穴は全部埋めたので、あとは裁判所が避難計画の中身に入り込んで判断するのかしないのか。そのひとつのメルクマールが調査嘱託を採用するかしないかです。そういう意味でも慎重になっているのかなと思っています。ある意味では今日の期日までに言いたい事はほとんど終わっちゃったので、スピードが速いので裁判所がオロオロしているということかな」
甫守一樹弁護士も、取材に対し「メルクマール」という表現を使っていた。
「必要性なし、ということで却下される可能性は十分にあります。避難計画と人格権侵害の恐れとは関係ないと判断すると決めてしまえば、調査嘱託など必要ないことになりますから。逆に調査嘱託の必要があると判断すれば、東北電力の主張を採用しないことが明らかになってしまうので、その辺は慎重になっているのは分かります。だから結構、メルクマールなんですよ。中身まで踏み込んじゃうと…。非常に厳しいんです。だから、ここが勝負どころです」
仙台地裁の決定を受け、原告団と弁護団は連名で「避難計画の実効性について裁判所が判断する可能性が出てきたという意味で意義がある」、「内閣府と石巻市に対する調査嘱託は却下されたが、同じ内容で情報公開請求をし、開示結果を証拠として提出しているので支障ない」、「宮城県が『未定』、『不明』と回答したら、検査場所は要員の点で実効性がないことが明白になる」などとするコメントを発表した。


第2回口頭弁論後の記者会見で「裁判所が避難計画の中身に入り込んで判断するのかしないのか。そのひとつのメルクマールが調査嘱託を採用するかしないかだ」と語っていた小野寺信一弁護団長。発表したコメントでは「避難計画の実効性について裁判所が判断する可能性が出てきた」などと裁判所の決定を評価した
【「避難計画は最後の砦」】
原告団の原伸雄原告団長は常日頃「原発再稼働を止めるには政治を変えるか裁判に勝つ以外にないということで頑張っているところです。再稼働で原発のリスクが大幅に増すことは明らか。福島の悲劇を繰り返さないために裁判で歯止めをかけて頑張っていかなければなりません。この裁判で国民の常識が通用する結果を得るために頑張り抜いていかなければならないと考えています」と口にしている。
第1回口頭弁論では意見陳述に立ち、法廷で「万が一のとき、放射能被曝を最小限にするためには、住民にとって避難計画が最後の砦です。裁判所において、最後の砦についての徹底した審査と明確な判断がなされるよう心から期待致します」と述べた。
実は2019年11月、宮城県と石巻市の再稼働同意差し止めを求める仮処分を原さんたちは仙台地裁に申請している。だが仙台地裁は2020年7月に、仙台高裁も同年10月に棄却した。「避難計画の実効性は全く審議されないままここまで来てしまった」との想いがあるだけに、今回の裁判では「避難計画の実効性をとことん審議する場にしていきたい」との並々ならぬ決意がある。裁判所が宮城県に対する調査嘱託を採用したことで、原発事故発生時の避難計画に果たして実効性などあるのかを具体的に裁判所が判断する可能性が生じたとみている。
電話取材に応じた原さんは「確かに内閣府と石巻市に対する調査嘱託は却下されたが、一部(宮城県)だけでも採用された意味は重いし、うれしい。もし全面的に却下されていたら、避難計画の実効性に関する実質的な判断の道は完全に狭まってしまっていたでしょう。場合によっては、次の弁論期日で結審されていたかもしれません。今回の決定には希望を見出しています」と話した。
なお、被告・東北電力は昨年11月30日付の意見書で「人格権に基づく差止請求が認められるためには、人格権侵害による被害が生じる具体的危険の存在が必要である」、「原告は、避難を要する放射性物質を異常に放出するような事故が発生する具体的危険の主張立証を一切していない」、「現時点で何らかの改善すべき点があるとしても、それによって直ちに避難計画に実効性がないという帰結が導かれるものではない」などとして、「調査嘱託の申立ては採用されるべきではない」と主張していた。
(了)

【調査の主眼は「600人の要員」】
原告側は昨年11月1日に提出した調査嘱託申立書で、宮城県や石巻市が策定した女川原発事故発生時の広域避難計画が「検査場所の交通渋滞により、被曝のリスクが高い30㎞圏を長期間脱出できないこと」、「検査場所と受付ステーションの交通渋滞が重なり、避難所にたどり着くことができないこと」、「避難者の耐久時間を無視していること」―の3点において実効性に欠けること。そして、それらの点を調べないまま「女川地域原子力防災協議会」が広域避難計画を「具体的」、「合理的」であるとの判断を下したこと―を立証するため、内閣府や宮城県、石巻市に対する調査嘱託(A4判で計12ページ)を裁判所に求めていた。
仙台地裁は、16日付の決定で「質問状又は公文書開示請求等により、宮城県、石巻市及び内閣府から既にその回答を得たものと重複するか又はこれと関連する事項であると認められる…改めて調査嘱託をする必要性があるものとはいえない」などとして大半の部分を却下。
そのうえで、宮城県が昨年2月に策定した地域防災計画(原子力災害対策編)の「避難退域時検査等の実施」に関し、緊急時対応として「東北電力(本訴訟の被告)から約600人の要員が派遣される」とされている点について、「東北電力が検査場所に派遣する約600名の要員を招集するか否かは、誰が何に基づいて決定するのか」など7項目について宮城県に対し回答を求めている。宮城県は3ヶ月以内に裁判所に回答を寄せなければならない。
齊藤充洋裁判長は1月12日に開かれた第2回口頭弁論で「調査嘱託をどうするか。採用するのか却下するのか。あるいは、主張をさらにしていただいたうえで決めなければいけないのか。次回期日までにご連絡させていただく」と述べていた。
さらに「調査嘱託を採用するか否かによって、次回期日をどこに入れるのかが変わってくる。採用するのであれば回答が戻って来るまでに時間がかかってしまうのではないかと思う。もし却下するのであればそんなに先でなくても良い。裁判所で考えているのは、少し先のところに弁論期日を入れさせていただいて、2月に予定されている進行協議の状況によっては、間にもう1回進行協議をはさんで必要があれば主張なりをやらせていただく。そう考えています」として、第3回口頭弁論期日を6月8日に指定。今月21日午後に進行協議期日を設定した。



(上)(中)16日付の決定で、仙台地裁は宮城県に対し7項目への回答を求めている
(下)原告団長の原伸雄さんは調査嘱託一部採用を受け「今回の決定には希望を見出しています」と話した
【「採否は裁判のメルクマール」】
原告側弁護団長を務める小野寺信一弁護士は、第2回口頭弁論後の記者会見で次のように語っていた。
「今日の期日で調査嘱託について裁判所の判断がなされるだろうと考えていたが、裁判所はまだ採用するかどうか判断がかたまっていないようです。私たちは矢継ぎ早にいろいろな書面を出しました。上岡直見先生の意見書も非常に充実している。3人の裁判官が双方の主張を十分に読み込めていない、もう少し時間をくださいと私は好意的に受け取りました。争点ははっきりしている。しかし調査嘱託を採用するということは、判決そのものではないが、裁判所が中身に入って判断しようとしているという姿勢の表れになるだろうと思う。被告はそれ以外の総論のところで勝負をしたい。各論には入りたくない。こちらは総論の穴は全部埋めたので、あとは裁判所が避難計画の中身に入り込んで判断するのかしないのか。そのひとつのメルクマールが調査嘱託を採用するかしないかです。そういう意味でも慎重になっているのかなと思っています。ある意味では今日の期日までに言いたい事はほとんど終わっちゃったので、スピードが速いので裁判所がオロオロしているということかな」
甫守一樹弁護士も、取材に対し「メルクマール」という表現を使っていた。
「必要性なし、ということで却下される可能性は十分にあります。避難計画と人格権侵害の恐れとは関係ないと判断すると決めてしまえば、調査嘱託など必要ないことになりますから。逆に調査嘱託の必要があると判断すれば、東北電力の主張を採用しないことが明らかになってしまうので、その辺は慎重になっているのは分かります。だから結構、メルクマールなんですよ。中身まで踏み込んじゃうと…。非常に厳しいんです。だから、ここが勝負どころです」
仙台地裁の決定を受け、原告団と弁護団は連名で「避難計画の実効性について裁判所が判断する可能性が出てきたという意味で意義がある」、「内閣府と石巻市に対する調査嘱託は却下されたが、同じ内容で情報公開請求をし、開示結果を証拠として提出しているので支障ない」、「宮城県が『未定』、『不明』と回答したら、検査場所は要員の点で実効性がないことが明白になる」などとするコメントを発表した。


第2回口頭弁論後の記者会見で「裁判所が避難計画の中身に入り込んで判断するのかしないのか。そのひとつのメルクマールが調査嘱託を採用するかしないかだ」と語っていた小野寺信一弁護団長。発表したコメントでは「避難計画の実効性について裁判所が判断する可能性が出てきた」などと裁判所の決定を評価した
【「避難計画は最後の砦」】
原告団の原伸雄原告団長は常日頃「原発再稼働を止めるには政治を変えるか裁判に勝つ以外にないということで頑張っているところです。再稼働で原発のリスクが大幅に増すことは明らか。福島の悲劇を繰り返さないために裁判で歯止めをかけて頑張っていかなければなりません。この裁判で国民の常識が通用する結果を得るために頑張り抜いていかなければならないと考えています」と口にしている。
第1回口頭弁論では意見陳述に立ち、法廷で「万が一のとき、放射能被曝を最小限にするためには、住民にとって避難計画が最後の砦です。裁判所において、最後の砦についての徹底した審査と明確な判断がなされるよう心から期待致します」と述べた。
実は2019年11月、宮城県と石巻市の再稼働同意差し止めを求める仮処分を原さんたちは仙台地裁に申請している。だが仙台地裁は2020年7月に、仙台高裁も同年10月に棄却した。「避難計画の実効性は全く審議されないままここまで来てしまった」との想いがあるだけに、今回の裁判では「避難計画の実効性をとことん審議する場にしていきたい」との並々ならぬ決意がある。裁判所が宮城県に対する調査嘱託を採用したことで、原発事故発生時の避難計画に果たして実効性などあるのかを具体的に裁判所が判断する可能性が生じたとみている。
電話取材に応じた原さんは「確かに内閣府と石巻市に対する調査嘱託は却下されたが、一部(宮城県)だけでも採用された意味は重いし、うれしい。もし全面的に却下されていたら、避難計画の実効性に関する実質的な判断の道は完全に狭まってしまっていたでしょう。場合によっては、次の弁論期日で結審されていたかもしれません。今回の決定には希望を見出しています」と話した。
なお、被告・東北電力は昨年11月30日付の意見書で「人格権に基づく差止請求が認められるためには、人格権侵害による被害が生じる具体的危険の存在が必要である」、「原告は、避難を要する放射性物質を異常に放出するような事故が発生する具体的危険の主張立証を一切していない」、「現時点で何らかの改善すべき点があるとしても、それによって直ちに避難計画に実効性がないという帰結が導かれるものではない」などとして、「調査嘱託の申立ては採用されるべきではない」と主張していた。
(了)
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