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【飯舘村長選挙】現職・菅野氏6選も投票率大幅減、高齢者票で逃げ切る。高まる「子育て世代」からの批判、進んだ〝村離れ〟

任期満了に伴う福島県・飯舘村長選挙が16日、投開票され、現職で2017年3月末の避難指示解除、2018年4月からの村内学校再開を進める菅野典雄氏(69)が、元村議で避難指示解除の一時白紙撤回、村民合議による再検討などを訴えた佐藤八郎氏(65)を581票差で破って6選を果たした。原発事故後の村政が〝信任〟された格好だが、強引な手法に嫌気がさした子育て世代の関心は低く、投票率70.84%は選挙戦となった2004年(90.09%)より20ポイント近く減少。得票率も約57%にとどまり、村への帰還を望むお年寄りの票を中心に辛くも逃げ切った格好だ。得票数は菅野氏が2123票、佐藤氏は1542票だった


【「『押し付け村政』やめろ」】
 届かなかった。
 午後9時すぎ、福島県川俣町の選挙事務所で会見を開いた佐藤氏は「前が見えない、暗い中で国、東電の言いなりのまま(原発事故が)終わりにされる。本当に残念な結果だ」と語り、逆転勝利を信じて集まった支持者らに頭を下げた。陣営の中には「何も言うことは無い」と涙を流す男性もいた。
 村が国と決めた「2017年3月末での避難指示解除」(帰還困難区域を除く)の一時白紙撤回を公約に掲げ、2018年4月からの村内学校再開も含め、村民の合議による再検討を主張した。「この公約は決して私個人の文章ではないんです。多くの村民の願いだった」と振り返る。「除染といっても村面積の15%しか出来ず、国は年1mSvをないがしろにしている。年20mSvを今後の基準とするかのようだ。私たち村民を被曝させている原発政策には怒りを感じる」。
 小さな村で〝しがらみ〟も強く、支援母体となった共産党への抵抗を口にする村民も少なくない中で4割以上の支持を得た事には「自立心のある村民がこれだけいたんだな」と語った。村民の〝信任〟を受けた菅野村長に対しては「選挙に勝ったからといって避難指示解除を強引に進めないで欲しい。今までのような上からの押し付けではなく、村民中心の村政に取り組んでもらいたい」と注文をつけた。
 「私のスタンスは今後もずっと変わりません。これまで以上に村民に何をしてあげられるのか、子どもたちが被曝させられないようにどう取り組んだら良いのか、皆さんと相談しながら考えたい」と語った佐藤氏。来秋、村議選が実施されるが、自身の出馬については「何か別な形も考えたい」と否定的な考えも示した。


落選が確定し、メディアの取材を受ける佐藤八郎氏。6選を果たした菅野村長には「上からの押し付けではなく、村民中心の村政に取り組んでもらいたい」と注文をつけた=福島県川俣町の選挙事務所

【「なぜそんなに急いで戻す?」】
 子育て世代の怒りは凄まじかった。
 この日、福島市飯野町の仮設校舎で授業を続けている飯舘中学校では、恒例の文化祭「赤蜻祭」(せきしょうさい)。集まった保護者からは原発事故以降の「菅野村政」に対する批判の声が相次いだ。特に現1年生は、2018年4月に村内での授業が再開されると、村の学校に戻るか避難先の学校にとどまるかの選択を迫られる世代。保護者にとっても事態は深刻だ。
 ある父親は言う。「除染して放射性物質が無くなるんだったら村に戻って学校を再開するのも良いけれど、そんな事は無理だからね。娘を友達と引き離してしまうのはかわいそうだけど、村外の中学校に転校させる事になるだろう」。子どもたちの想いも保護者の意向も無視して決められた避難指示解除翌年の学校再開。「俺たちの意見も聴かずに村が勝手に決めてしまったからね。一方的だよ」と、おだやかな口調ながら怒りを口にした。
 「うちの子はギリギリ、この中学校で卒業出来るから救われました。1年でも学校再開時期が延びたのは本当に良かった。もし当初の方針通りに避難指示解除と同時に学校が再開されるようなら、うちの子にも影響していたから」
 2年生の母親はそう語った。しかし1年生を思うと喜んでばかりもいられない。「決め方が本当に強引で一方的でしたね。入学して半年後にいきなり学校再開の話を聞かされたんですから。もっと早く私たちに投げかけてくれていたら、入学する段階で村外の学校を選ぶ事も出来たんです」と菅野村長の手法に疑問を投げかけた。 
 和田節子校長によると、飯舘中学校の生徒数は88人。「本来、在籍しているはずの44.2%しか子どもがいません」。1年生は22人しかおらず、来春の入学性もさらに減ることが予想される。わが子を避難先の幼稚園や小学校に入園・入学させる保護者が増える中で、草野、飯樋、臼石の3小学校(川俣町の仮設校舎で授業中)も含めて学校をどうしていくかは、確かに喫緊の課題ではある。問題は進め方だ。3年生の息子を持つ母親は「なぜそんなに急いで子どもたちを村に帰そう帰そうとするのか」と語気を強めた。


飯舘中学校の文化祭で発表された「ふるさと学習」のディベートでは、村内に設置が予定されている学校(認定こども園から中学校までの一貫校)に関し、具体的な数字を挙げて「費用対効果が低い」と指摘する反対意見も出された=福島県福島市

【不十分だった投票機会】
 開票前、ある母親は言った。「私たち子育て世代は八郎さんを支持していますよ。ママたちが集まれば、やっぱり選挙の話になりますよね。子育て世代が投票に行けば逆転の可能性もあるんじゃないですか」。
 根強い怒り。しかし、それが投票行動に結びつかなかった可能性が高い。佐藤氏の関係者は「世代別の投票率を見てみないと正確な事は言えないが、どうやら子育て世代が投票に行ってくれなかった」と悔しがった。「菅野村長のやり方に嫌気がさして、村の事に関心を持たなくなってしまった。村なんか、どうでも良いという声さえ聞かれた」と話す関係者も。実はこれらは単なる〝恨み節〟ではない。システムそのものが投票しにくくなっていたとの指摘も少なくないのだ。
 村民が福島市をはじめ福島県外のも広く分散避難しているため、村は仮設住宅を巡回して期日前投票を実施した。しかし、時間は10時から17時まで。「これでは働いている人は投票出来ない」と佐藤氏陣営。しかも、投票日当日の投票所は2カ所だけ。村役場まで出向くか、福島市の役場飯野支所まで足を延ばさないといけない。汚染が続く村に子どもを連れて投票に行くのをためらう保護者が相次いでも無理はない。相馬市や二本松市など遠くに避難している村民にとっては投票所に行くだけでも大変だ。2013年の村議選では県青少年会館(福島市)にも投票所が設置されたが、今回はそれも無し。「若い村民の投票機会を奪うことが現職の狙いだったのではないか」との指摘すらあるほどだ。
 実際、福島市に避難している女性は「飯野支所に期日前投票に行ったら出来ないと言うので村役場までばあちゃんを連れて行ったが、本当に大変だった」と振り返る。仮設住宅での期日前投票はお年寄りばかりだった。役場ぐるみで現職に批判的な世代から投票機会を奪ったと批判されても仕方ない選挙戦ではあった。
 文化祭で、中学生たちは田植え踊りや和太鼓の演奏など日頃の成果を披露した。あと何回、友人と校歌を歌えるだろうか。6選を果たした菅野氏は「信任を得た」とますます国の帰還政策に追随していくだろう。将来、子どもたちが「なぜあの時、必死に闘ってくれなかった?」と怒るような事態だけは避けたい。今後も村民の厳しい監視の目が必要だ。


(了)
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鈴木博喜

Author:鈴木博喜
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