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【原発避難者から住まいを奪うな】本人尋問も証人尋問もあっさり却下 〝東雲追い出し訴訟〟2件目の結審、判決言い渡しは3月~第10回口頭弁論

福島県が昨年3月、原発事故で〝自主避難〟した4世帯を相手取り、国家公務員宿舎「東雲住宅」(東京都江東区)の明け渡しと未納家賃の支払いを求めて提訴した問題で、うち1世帯に対する第10回口頭弁論が27日午後、福島地裁206号法廷(松川まゆみ裁判官)で行われた。松川裁判官は、昨年11月の弁論期日で被告(避難者)側が申請していた避難者本人への尋問や復興庁被災者支援班の責任者、関東財務局東京財務事務所長、福島県生活拠点課長に対する証人尋問を却下。結審した。判決言い渡しは3月24日。別の1世帯に続く結審で、避難者には厳しい判決が予想される。
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【「尋問の必要性ない」】
 予想されていたとはいえ、松川裁判官はあまりにもあっさりと却下した。
 「裁判所としても必要性がないものと認めて却下致します」
 原告・福島県の代理人を務める湯浅亮弁護士が「(人証の)必要性はないものと考えます」と述べたのに続き、裁判所「も」と却下の判断を示すあたりに、松川裁判官の姿勢が如実に表れていると言えよう。却下の理由は示されなかった。
 被告・避難者側は昨年11月の弁論期日で復興庁被災者支援班の責任者、関東財務局東京財務事務所長、福島県生活拠点課長(いずれも氏名不詳)に対する証人尋問、そして被告本人の所在尋問(東京地裁での出張尋問)を申請していた。
 復興庁の官僚については「2017年3月末をもって災害救助法に基づくみなし仮設住宅の提供打ち切りを決定した経緯」などについて、関東財務局東京財務事務所長に対しては「2020年3月26日付本件建物の使用許可申請について使用許可を行った経緯」などを、福島県生活拠点課長には「2020年3月26日付の本件建物の使用許可申請を行った経緯」などを尋問する予定だった。被告本人尋問では「入居に至った経緯」や「福島県に帰還できない理由」を明らかにする方針だったが、松川裁判官は避難者本人の話すら聴く必要がないと判断した。
 この日の弁論では、避難者側の山川幸生弁護士が「避難者に対してどのように住居が提供され、提供をやめる際にどのような手当てがなされたのか。はっきり申し上げて、この法廷では具体的な事実関係がはっきりしていない。事実関係をはっきりとさせるためには、何のために福島県に(国家公務員宿舎の)使用が許可されたのか、許可を申請した者と許可を出した者に直接、尋問をする以外に判断ができない。もちろん、避難の経過については個別事情があるわけですから被告本人から話を聴く必要がある。当然、採用しなければならない」と意見を述べたが、裁判所の判断は覆らなかった。

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福島地裁の松川まゆみ裁判官は「裁判所としても必要性がないものと認める」として、証人や避難者本人への尋問申請を却下した=福島県福島市

【本質論に入らぬまま…】
 山川弁護士が法廷で指摘したように、この訴訟では「原発事故に伴う区域外避難者の住まい」に関する本質的な審理は全くなされなかった。
 昨年8月の弁論期日で陳述した第4準備書面では「被告のような『区域外避難者』も、『人為的災害』である本件原発事故によって避難することを余儀なくされた者(実質的には避難を強制された者)であって、国内避難民に相当する」と主張。区域外避難者への住宅無償提供が2017年3月末をもって一方的に打ち切られたことについて「社会権規約等の国際人権条約に違反して許されない」と批判。「現在においても本件建物等の占有権原を有していると解さなければならない」と訴えた。
 そもそも国家公務員宿舎を所有するのは国(財務省)であり福島県は原告となる立場にない、とも避難者側は訴えてきた。
 「明け渡し請求の根拠となっている国の使用許可自体が有効性を欠くというのがわれわれの主張。住宅セーフティネット契約を交わすという理由で使用許可を国に申請しているはずだが、被告と福島県との間に契約は結ばれなかった。使用許可を申請するにあたり、福島県はどういう使用目的を示したのか。国が明け渡しを求めているのなら話は別だが、明け渡しを求める権限は福島県には無い。家賃を肩代わりして国に支払う必要も無い」(平松真二郎弁護士)
 「原発避難者の住宅問題というのは訴訟で解決するのではなく、被害救済の観点からきちんと話し合いをして問題解決する、政策的に問題解決するのが本筋だ。国も原発事故を起こした当事者なのだから。自分で裁判をやりたくなかったというだけの話だろう。だから代わりに福島県にやらせた。原発事故の加害者である国が、被害者の代表である福島県に加害者のお先棒担ぎをさせようとしている。とんでもない話。国は正々堂々と出てきて、原発事故被害者である避難者と向き合うべきだ。それをしたくないから福島県に使用許可を与えているのではないか。そうだとすれば、そんな目的で与えられた使用許可が果たして法的に有効なものなのか。極めて問題だと言わざるを得ない」(山川弁護士)
 だからこそ、国や福島県への証人尋問が必要だったのだ。

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避難者側はこの日、第9準備書面を陳述。改めて「必要ない使用許可申請をわざわざ行うことで損害が発生し続けていると主張している」と福島県の主張に反論した

【和解「明け渡しが大前提」】
 「東雲住宅追い出し訴訟」は、国家公務員宿舎「東雲住宅」に入居している区域外避難者のうち、住宅の無償提供終了後に激変緩和措置として設けられた「セーフティネット契約」を結ばず、家賃を支払わず、転居にも応じていないとして2020年3月25日、福島県が4世帯を相手取って福島地裁に提訴した(県議会に提出された議案では5世帯だったが、1世帯は転居)。福島県は①国家公務員宿舎(建物と駐車場)の明け渡し②2019年4月1日から退去時までの家賃支払い─を求めている。避難者側は東京地裁での審理を求めて移送を申し立てたが却下。代理人が異なることもあり、福島地裁での審理が3つに分かれて進められている。
 2020年10月、今回の世帯についての第1回口頭弁論が行われ審理が始まった。別の1世帯は非公開での審理が続いていたが、今月17日に結審。3月2日に判決が言い渡される予定で、和解協議も進められている。今回、新たに弁論が終結したことで、避難元の福島県から訴えられている4世帯のうち2世帯に対する訴訟が結審したことになる。
 残り2世帯については昨年5月に第1回口頭弁論が行われ、その後審理が併合。2月4日に第5回口頭弁論が行われる予定だ。
 今回結審した避難者についても和解協議が始まったが、平松弁護士によると「県側は『明け渡さない限り和解に応じるのは難しい』と話しているが、仕事や収入の問題からすぐに明け渡せる状況にない。精神的にも追い詰められている」という。
 強制執行を伴う判決は避けたい考えだが、和解による決着は明け渡しが大前提となるため難しい。3月で原発事故発生から丸11年となるが、区域外避難者には厳しい司法判断がくだされるもよう。福島県の内堀雅雄知事の言う「避難者一人一人に寄り添う」とはほど遠い状況がさらに進みそうだ。



(了)
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鈴木博喜

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