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【浪江原発訴訟】2人の原告代理人が意見陳述 提訴4年、5月に現地進行協議。6月からは原告本人尋問が始まる予定~福島地裁で第10回口頭弁論

福島県双葉郡浪江町の町民が申し立てた集団ADRでの和解案(慰謝料一律増額)を東京電力が6回にわたって拒否し続けた問題で、浪江町民が国や東電を相手取って起こした「浪江原発訴訟」の第10回口頭弁論が1月31日午後、福島地裁203号法廷(小川理佳裁判長)で行われた。原告(町民)側の代理人弁護士が「建屋水密化による結果回避可能性」や「町民が抱く被曝不安の合理性」について意見陳述。被告(国、東電)側は改めて争う姿勢を見せた。次回期日は4月22日。5月には裁判官による事実上の現地検証が予定されており、6月からは原告に対する本人尋問が始まる。2018年11月の提訴から4年。いよいよ裁判の大きなヤマ場を迎える。
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【「水密化で過酷事故防げた」】
 この日は、原告側が第29、30準備書面を陳述。被告国は第12、13準備書面、被告東電は第12、13、14、15準備書面を陳述。原告代理人の真野亮太弁護士が「結果回避可能性」について意見陳述した。
 真野弁護士は「本件事故前において、被告東電は、主要建屋が存在する敷地高を超える津波が到来することが想定される場合の対策として『建屋の水密化』を実際に検討していた」、「規制機関(原子力安全・保安院)は敷地高を超える津波が到来することが想定される場合の対策として、実際に『建屋の水密化』を是認している」などと主張。①原子炉施設の安全性を確保するために講じるべきであった対策は防潮堤・防波堤の設置②津波が敷地に侵入することを容認したうえで建屋等の全部の水密化を行うことは合理性・信頼性のある対策とはいえない─とする被告国の主張に反論した。
 稗田亜衣弁護士は「被ばく不安の合理性」と題して意見陳述。原発事故発生当時、浪江町で暮らしていた原告たちが抱く放射性被曝に対する不安は決して〝漠然としたもの〟などではなく、合理的であると主張した。
 「スリーマイル島やチェルノブイリでの原発事故だけでなく、本件事故後に実施された調査研究でも、原発付近に居住していた者が被曝について不安を抱き、その不安が長期間にわたって残存することが認められている。このことは、原告たちが被曝に関して不安を抱くことが合理的だということを意味するにほかならない」と稗田弁護士。
 「仮に低線量被曝の危険性について専門的な情報が与えられ、それを理解できたとしても、それが直ちに不安感の除去につながるわけではない。専門家によるデータに基づく評価と、一般人によるリスク評価は全く違うもの」、「突如として原発事故に遭遇した原告たちが恐怖感や不安感を抱き続けることは、むしろ心理学的にみれば論理的な帰結」、「人間は、場合によっては危険がないかもしれなくてもアラームを鳴らす方向で考えるようになっているという『エラーマネジメント理論』がある。つまり、人は放射線被曝によって悪影響が生じると考えて行動するようになり、そのことが不安感や恐怖感となって強いストレスになる」などとして、「漠然とした不安に損害は発生しない」とする被告側の主張に反論した。
 被告側は今後の準備書面などで原告の主張に反論する構え。弁論は25分ほどで終わった。

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この日の弁論では、原告(町民)側の代理人弁護士が「建屋水密化による結果回避可能性」や「町民が抱く被曝不安の合理性」について意見陳述した

【原告団長が詩にこめた怒り】
 閉廷後の報告集会で、原告団の鈴木正一団長は「2018年11月の提訴から4年目に入り〝中だるみ〟も否めません。しかし、私たちの闘いは『正義の闘い』です。ADR(裁判外紛争解決)の集団申し立てに参加した1万5700人のうち864人が亡くなりました。私たちの原告団でも、既に11人が亡くなっています。皆さん、確かに疲れていると思いますが、団結して、勝利の日まで一緒に頑張りましょう」とあいさつ。
 副団長の1人、篠木健一さんは「地元紙の報道では、福島県は約3万6000人が避難生活を送っていると発表しているようだが…」として、次のように県の姿勢に怒りをぶつけた。
 「仮設住宅や民間借り上げ住宅を退去した人は『避難者』としてカウントされておりません。そういう人たちを含めると、避難者数は倍になると言われています。浪江町でも、2万人余りが今も避難を余儀なくされています。福島県は、なぜ原発事故被害と他県での被害の違いを発信しないのか。非常に疑問です。国のみならず県までもがわれわれを見棄てるのか」
 鈴木団長が昨年11月に自費出版した詩集「棄民の疼き」には、次のような詩が収められている。
 「ADRは 裁判をしないで 裁判の外で 早急に被災者を救済するために 国が定めた制度 そのADR打ち切りで 裁判の中で 争うこと自体 制度そのものの破綻を証明 腹の虫が呟く 法令を遵守しないで 恥じらうこともしない 国のツラを 見てみたい! 腹の虫が叫ぶ 無責任な国・傲慢な東電 理不尽は許さない! 核災の無残な実相を 国民に周知させてやる!」(2019年3月「沈黙破る 核災棄民」より)
 また、2021年9月に発表された「非日常の 日常化」では、原発避難という「非日常」が「日常化」してしまった怒りと哀しみが綴られている。
 「住民基本台帳の人口は 五千人減少 それは 避難先への 強制転出と いまだに漸増している 原発関連死者の人数 十年経ても 限界集落以下の ふるさと 再生」
 次回弁論期日は4月22日に開かれる。

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(上)原発事故被害者の怒りや哀しみを綴った詩集「棄民の疼き」を出した鈴木正一団長
(下)副団長の篠木健一さんは「国のみならず県までもがわれわれを見棄てるのか」と福島県の姿勢に怒りをぶつけた=福島市市民会館

【5月に現地進行協議】
 「浪江原発訴訟」は2018年11月27日に提訴。原発事故による損害賠償として「コミュニティ破壊慰謝料」、「避難慰謝料」、「被曝不安慰謝料」を合わせた1100万円、集団ADRの和解案を東電が違法に拒否したことによる精神的損害として110万円の計1210万円を一律に支払うよう求めている。
 2019年5月20日に第1回口頭弁論が開かれ、この日の弁論期日が10回目。原告数は徐々に増え、現在は308世帯721人が国と東電を相手に争っている。
 提訴の背景には、東電によるADR和解拒否がある。
 浪江町民は2013年5月29日、精神的損害に関する賠償の増額などを求め、集団ADRを申し立てた。2014年3月20日にはADRセンターが月額5万円の慰謝料加算などを盛り込んだ和解案を提示。しかし、同年6月25日と9月17日の2回にわたって東電が受諾を拒否。2015年1月23日には、和解案を受諾するようADRセンターが東電に勧告したが、それでも東電は、2月23日と5月20日の2回にわたって再度拒否。2015年12月17日にはADRセンターが改めて受諾を勧告した。しかし、またもや東電は2016年2月5日に受諾を拒否。2018年3月26日にも受諾を拒否したため、同年4月5日をもって集団ADRは打ち切られた。
 原発事故の加害企業が和解を6回にわたって拒否するという異例の事態。しかし、東電は今もホームページ上で「被害を受けられた方々に早期に生活再建の第一歩を踏み出していただくため、以下の『3つの誓い』を掲げ、各種取り組みを全社を挙げて実施してまいります」として「和解仲介案の尊重」を掲げている。
 これまでは書面でのやり取りが中心だったが、弁護団事務局長の濱野泰嘉弁護士によると、5月に裁判官が実際に浪江町を訪れる「現地進行協議」(事実上の現地検証)が行われるという。
 「裁判所と原告、被告国・東電の四者で月1回、テレビ会議を行っています。まだ具体的な日程やルートは調整中ですが、5月に現地進行協議が行われる予定です。請戸から常磐線・浪江駅の周辺、できれば帰還困難区域である津島地区までを巡り、裁判官に町の現状、決して元の町には戻っていない状況を実際に見てもらいたいと考えています。東電側も見せたい場所があるようで、次回4月の弁論期日までには、具体的な日時や視察場所が決まると思います」
 また、6月からは原告に対する本人尋問が始まる。10時から17時まで終日かけて1日4、5人の原告に対する尋問が行われる予定で、今のところ6、8、10、12月の弁論期日での尋問が内定している。原告側は、被曝不安に関する専門家への証人尋問も行いたい考えだ。



(了)
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鈴木博喜

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