【131カ月目の汚染水はいま】「内容もやり方も問題!」海洋放出の〝安全偏重チラシ〟に福島県内で怒り噴出~文科省副読本に紛れさせ学校に直接発送
- 2022/02/27
- 09:20
経済産業省資源エネルギー庁や復興庁が作成した原発汚染水の海洋放出計画に関する〝安全偏重チラシ〟を文科省が放射線副読本に紛れさせて被災3県の小中高校に予告なしに直接、送りつけていた問題で、福島県内からも怒りの声が噴出している。チラシは、海洋放出による海洋への悪影響を「事実とは違う認識」、「謝った情報」と一刀両断。現役教師も「こんな曲解したチラシを配るとは…」と憤る。しかし、海洋放出計画を事実上容認している内堀雅雄知事同様、県教委は「国がそれなりに調べて作ったもの」として回収や配布中止を学校に求めないという。

【「さらなる『安全神話』生み出す」】
25日午後、郡山市民有志が「チラシの配布中止と配布済みチラシの回収」、「経産省や復興庁への厳重な抗議」を市に申し入れた。
申し入れ書では「一方的に安全性を記述しているのみで、私たちの不安、心配、危惧からは大きくかけ離れております」、「放射性物質が身の回りにあるからといって放射性物質の安全性を意味しません」、「取りのぞかなければならないものは徹底的に取りのぞけるのか、大いに議論、疑問視されているところです」などとして、チラシの内容について「福島県民の感情を無視し、さらなる『安全神話』を生み出すことになる重大な問題」と厳しく指摘している。
市教委を通さず直接、学校に届けたことにも「不信感と困惑を抱かざるを得ません」とした。
申し入れに参加した市民からは「科学的な立証のない表現でごまかしてしまうのは、県民として国民として親として容認できません。回収を望みます」(男性)、「教育委員会を通さず学校に直接、配られたのは地方自治に反します。国に厳重に抗議して欲しい」(女性)、「こんなチラシに金をかけるのであれば、トリチウムの分離研究などに充てるべきです」(男性)などの声があがった。
しかし、対応したのは市長でも教育長でもなく秘書課長。「私もチラシを見させていただきました。今後の対応につきましては検討させていただきます。皆さんの想いはしっかり受け止めさせていただきます」と答えるにとどまった。
チラシを問題視しているのは郡山市民だけではない。今月4日には共産党の福島県議団が県知事や県教育長に回収と国への抗議などを申し入れ。10日には同党福島市議団が市長や市教育長に申し入れている。いわき市議会の鈴木さおり市議(創世会)は28日の一般質問で取り上げ、市の対応を質す予定だ。


郡山市役所2階の応接室。市民有志がチラシ回収の申し入れに集まった。しかし、現れたのは市長でも教育長でもなく秘書課長だった
【反対意見を「事実とは違う」】
問題となっている「チラシ」とは、経済産業省資源エネルギー庁の「復興のあと押しはまず知ることから」と、復興庁が作成した「ALPS処理水について知ってほしい3つのこと」の2種類。
エネ庁のチラシでは、海洋放出計画について「浄化処理した水を安全に処分していきます」として「発生した汚染水は、ALPSという装置で浄化処理した『ALPS 処理水』として、今後安全に海に処分する方針です。これによって、『環境や生物が汚染される』といった、事実とは違う認識が広まる『風評被害』を心配する声もあります。その影響が出ないよう、国は、安全性を伝える取組を続けていきます」と表記。海洋放出に反対する人々の声を「事実とは違う認識」と一刀両断。両論併記ではなく、安全面ばかりが強調された内容になっている。
復興庁も同様だ。
「トリチウム(三重水素)は身の回りにたくさんあります」、「トリチウムの健康への影響は心配ありません」、「取り除けるものは徹底的に取り除き、大幅に薄めてから海に流します」、「世界でも既に海に流しています」と表記。「謝った情報を広めて、苦しむ人を出さないために」とも書かれている。これではまるで、海洋放出に反対している人々が漁業者などを苦しめているかのようだ。専門家が指摘する海洋生物への悪影響や有害化学物質に関する懸念も「謝った情報」に含まれると受け取れる。
このチラシは以前、批判が噴出したことを受けてデザインを修正した経緯がある。
中通りの小学校教諭は「海洋放出を危険だと言う声を『偏った知識だ』と伝えるような内容で、曲解しすぎている。福島県内でこんなチラシを配るとは…。しかも市教委を経ずに配るとは教育への介入。内容もやり方も問題だ」と憤る。
「教育委員会を通さずに学校に直接、チラシを届けるなど聞いたことがない。これが許されるのなら、政治的に偏った内容の文書をいくらでも子どもたちに配れることになってしまう」


エネ庁だけでなく復興庁も海洋放出に反対する意見を「謝った情報」と子どもたちに伝えるチラシを学校に届けている。共産党の福島市議団は「子どもたちに安全を刷り込むような国のやり方は断じて許されない」と市に回収を求めた
【県教委「配布中止考えず」】
「今月4日、いったん保管してください、使用を控えてくださいと各学校に通知を出しました」
電話取材に応じたいわき市教委学校教育課の担当者は話した。
「放射線副読本とチラシが直接、文科省から各校に送られてきて、こちらで把握しきれないなかでの配布でした。今月に入り、市議からの指摘で初めて配布を知りました。副読本と同梱されて届けられたようです。既に子どもたちに手渡した学校もありますが、回収は難しい…」
副読本の発送については、事前に文科省から文書で連絡があったという。
「改訂と発送日などが連絡ありました。通常、チラシやパンフレットを子どもたちに配る場合には、市教委経由で学校に届けます」
しかも、内容は賛否両輪どころか「安全」側に偏っている。担当者は「賛否両論あるものについては配慮をいただければ良かったんじゃないかと思います」と国のやり方に疑問を呈した。
今後の取り扱いについては「県教委と協議し、方針を見定めたうえで考えたい」という。
会津若松市教委学校教育課も「市民団体からの申し入れもあったので、扱いについてどうしようか検討しているところです」と答えた。やはり市民からの問い合わせで初めてチラシ配布を知ったという。一方で教材として授業で使う可能性も示唆した。
「既に配布を終えた学校もあります。副読本と一緒に文科省から配布されたので、学校によっては今後、授業等で…」
担当者はこうも口にした。
「内容については…文科省で作って送ってきたので」
肝心の福島県教委も煮え切らない。
県義務教育課の担当者は「県としては配布中止は考えていません。配ってしまった学校もありますし…。今回は配布方法に難があったと思いますが、そうであっても使い方についてはそれぞれで判断していただく。元々副読本ですので授業で使わなければならないというものではないし、チラシも副読本の補助資料ですから」と話す。
県は「配布方法に難があった点については国に伝えた」という。しかし、チラシの偏った内容については口が重くなる。
「内容については云々しない?国が責任をもって、それなりに調べて作ったものなので…」
賛否を明言しないことで事実上の容認姿勢を貫くやり方は県教委も内堀雅雄知事も同じだ。
(了)

【「さらなる『安全神話』生み出す」】
25日午後、郡山市民有志が「チラシの配布中止と配布済みチラシの回収」、「経産省や復興庁への厳重な抗議」を市に申し入れた。
申し入れ書では「一方的に安全性を記述しているのみで、私たちの不安、心配、危惧からは大きくかけ離れております」、「放射性物質が身の回りにあるからといって放射性物質の安全性を意味しません」、「取りのぞかなければならないものは徹底的に取りのぞけるのか、大いに議論、疑問視されているところです」などとして、チラシの内容について「福島県民の感情を無視し、さらなる『安全神話』を生み出すことになる重大な問題」と厳しく指摘している。
市教委を通さず直接、学校に届けたことにも「不信感と困惑を抱かざるを得ません」とした。
申し入れに参加した市民からは「科学的な立証のない表現でごまかしてしまうのは、県民として国民として親として容認できません。回収を望みます」(男性)、「教育委員会を通さず学校に直接、配られたのは地方自治に反します。国に厳重に抗議して欲しい」(女性)、「こんなチラシに金をかけるのであれば、トリチウムの分離研究などに充てるべきです」(男性)などの声があがった。
しかし、対応したのは市長でも教育長でもなく秘書課長。「私もチラシを見させていただきました。今後の対応につきましては検討させていただきます。皆さんの想いはしっかり受け止めさせていただきます」と答えるにとどまった。
チラシを問題視しているのは郡山市民だけではない。今月4日には共産党の福島県議団が県知事や県教育長に回収と国への抗議などを申し入れ。10日には同党福島市議団が市長や市教育長に申し入れている。いわき市議会の鈴木さおり市議(創世会)は28日の一般質問で取り上げ、市の対応を質す予定だ。


郡山市役所2階の応接室。市民有志がチラシ回収の申し入れに集まった。しかし、現れたのは市長でも教育長でもなく秘書課長だった
【反対意見を「事実とは違う」】
問題となっている「チラシ」とは、経済産業省資源エネルギー庁の「復興のあと押しはまず知ることから」と、復興庁が作成した「ALPS処理水について知ってほしい3つのこと」の2種類。
エネ庁のチラシでは、海洋放出計画について「浄化処理した水を安全に処分していきます」として「発生した汚染水は、ALPSという装置で浄化処理した『ALPS 処理水』として、今後安全に海に処分する方針です。これによって、『環境や生物が汚染される』といった、事実とは違う認識が広まる『風評被害』を心配する声もあります。その影響が出ないよう、国は、安全性を伝える取組を続けていきます」と表記。海洋放出に反対する人々の声を「事実とは違う認識」と一刀両断。両論併記ではなく、安全面ばかりが強調された内容になっている。
復興庁も同様だ。
「トリチウム(三重水素)は身の回りにたくさんあります」、「トリチウムの健康への影響は心配ありません」、「取り除けるものは徹底的に取り除き、大幅に薄めてから海に流します」、「世界でも既に海に流しています」と表記。「謝った情報を広めて、苦しむ人を出さないために」とも書かれている。これではまるで、海洋放出に反対している人々が漁業者などを苦しめているかのようだ。専門家が指摘する海洋生物への悪影響や有害化学物質に関する懸念も「謝った情報」に含まれると受け取れる。
このチラシは以前、批判が噴出したことを受けてデザインを修正した経緯がある。
中通りの小学校教諭は「海洋放出を危険だと言う声を『偏った知識だ』と伝えるような内容で、曲解しすぎている。福島県内でこんなチラシを配るとは…。しかも市教委を経ずに配るとは教育への介入。内容もやり方も問題だ」と憤る。
「教育委員会を通さずに学校に直接、チラシを届けるなど聞いたことがない。これが許されるのなら、政治的に偏った内容の文書をいくらでも子どもたちに配れることになってしまう」


エネ庁だけでなく復興庁も海洋放出に反対する意見を「謝った情報」と子どもたちに伝えるチラシを学校に届けている。共産党の福島市議団は「子どもたちに安全を刷り込むような国のやり方は断じて許されない」と市に回収を求めた
【県教委「配布中止考えず」】
「今月4日、いったん保管してください、使用を控えてくださいと各学校に通知を出しました」
電話取材に応じたいわき市教委学校教育課の担当者は話した。
「放射線副読本とチラシが直接、文科省から各校に送られてきて、こちらで把握しきれないなかでの配布でした。今月に入り、市議からの指摘で初めて配布を知りました。副読本と同梱されて届けられたようです。既に子どもたちに手渡した学校もありますが、回収は難しい…」
副読本の発送については、事前に文科省から文書で連絡があったという。
「改訂と発送日などが連絡ありました。通常、チラシやパンフレットを子どもたちに配る場合には、市教委経由で学校に届けます」
しかも、内容は賛否両輪どころか「安全」側に偏っている。担当者は「賛否両論あるものについては配慮をいただければ良かったんじゃないかと思います」と国のやり方に疑問を呈した。
今後の取り扱いについては「県教委と協議し、方針を見定めたうえで考えたい」という。
会津若松市教委学校教育課も「市民団体からの申し入れもあったので、扱いについてどうしようか検討しているところです」と答えた。やはり市民からの問い合わせで初めてチラシ配布を知ったという。一方で教材として授業で使う可能性も示唆した。
「既に配布を終えた学校もあります。副読本と一緒に文科省から配布されたので、学校によっては今後、授業等で…」
担当者はこうも口にした。
「内容については…文科省で作って送ってきたので」
肝心の福島県教委も煮え切らない。
県義務教育課の担当者は「県としては配布中止は考えていません。配ってしまった学校もありますし…。今回は配布方法に難があったと思いますが、そうであっても使い方についてはそれぞれで判断していただく。元々副読本ですので授業で使わなければならないというものではないし、チラシも副読本の補助資料ですから」と話す。
県は「配布方法に難があった点については国に伝えた」という。しかし、チラシの偏った内容については口が重くなる。
「内容については云々しない?国が責任をもって、それなりに調べて作ったものなので…」
賛否を明言しないことで事実上の容認姿勢を貫くやり方は県教委も内堀雅雄知事も同じだ。
(了)
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