【11年目の汚染水はいま】「偏った教材で子どもを誘導するな」「放射線副読本自体に問題あり」 海洋放出の〝安全偏重チラシ〟問題で福島県内の県議、市議から異論噴出
- 2022/03/10
- 22:44
原発汚染水の海洋放出計画に関し、経済産業省資源エネルギー庁や復興庁が作成した〝安全偏重チラシ〟を文科省が放射線副読本に紛れさせて小中高校に直接、送りつけていた問題で、福島県内の県議や市議らから異論が噴出している。いわき市議会では女性市議が「子どもたちの考えを誘導するもので、教材としてふさわしくない」とチラシはもちろん、放射線副読本そのものの問題点を厳しく指摘。福島市議会でも「政府側の主張のみを伝える偏ったチラシ」と問題視された。しかし、肝心の県教委は「配布の中止や回収を行う予定はない」などと静観の構え。県民の危惧をよそに、海洋放出に向けた既成事実だけが着々と積み上げられていく。

【「チラシは正確さに欠ける」】
「放射線副読本には問題が多い。国の考え、教師の考え、親の考えを押しつけるのは教育ではない」
2月28日のいわき市議会。一般質問に立った鈴木さおり市議(創世会)は、〝汚染水チラシ〟を厳しく批判した。
「小学生にはエネ庁の、中学生には復興庁のチラシが配られた。安全という言葉が数多く書かれていて、まるで政府による一方的な安全概念の押しつけのよう。危険性については書かれていない。都合の良い表面的なことしか触れていなくて、あまりにも短絡的。取り除けない物質が何種類もあるし、排出されないトリチウムもある。それを『科学的根拠に基づいて』と言い切ってしまうのは無責任だし、子どもたちの考えを誘導することになる」
「教科書検定基準では、『話題や題材の選択及び扱いは、児童又は生徒が学習内容を理解する上に支障を生ずるおそれがないよう、特定の事項、事象、分野などに偏ることなく、全体として調和がとれていること』、『図書の内容に、児童又は生徒が学習内容を理解する上に支障を生ずるおそれがないよう、特定の事柄を特別に強調し過ぎていたり、一面的な見解を十分な配慮なく取り上げていたりするところはないこと』とうたっている。チラシは、この基準さえ満たしていない。チラシの情報は正確さに欠ける。教材としてふさわしくない」
これに対し、内田広之市長も「2つの点で問題がある」と応じた。
「ALPS処理水の放出について合意形成の途上にもかかわらず海洋放出を前提とした記載になっている点。もう1点は、県や市の教育委員会に事前に協議なく各学校に送付されてしまった点。私から文科省や経産省、復興庁の幹部にご意見を申し上げた。現段階で使用を控え、学校保管とするよう市教委から通知している」
鈴木市議は「放射線副読本は改訂されてもなお、子どもたちの考えを操作するような表記が目立つ」と副読本そのものもっかいしゅうするよう迫ったが、内田市長は「副読本の回収は検討していない」としたうえで、次のような見方も口にした。
「事故発生当時の様子や事故の深刻さを伝える情報など記述が不十分なんじゃないかと思える部分もある」


小学生向け(上)も中高生向け(下)も、文科省の放射線副読本は原発汚染水の海洋放出について安全面からの記述だけが盛り込まれている
【喜多方市も「いったん回収」】
いわき市は「県教委とも協議しながら授業での活用について慎重に判断していきたい」との考え。また福島市も、10日の福島市議会で「国や県教委の動向を注視している」との考えを示した。
〝汚染水チラシ〟問題を取り上げたのは佐原真紀市議(ふくしま市民21)。鈴木市議のような厳しい表現ではなかったが、「処理水放出には反対意見があることには触れられておらず、政府側の主張のみを伝える偏った教育広報が強化されている」として、当局の姿勢を質した。
これに対し、古関明善教育長は「放射線副読本の補助資料として科学的な知識を身につけ理解を深めることを目的としたものであり、その内容や科学的な妥当性については作成・配布した国が説明責任を果たすべきものと考える」としたうえで「ALPS処理水の処理については様々な意見があることから、慎重に扱うべきものと捉えている」と答弁した。福島市内では、既にチラシを配布して生徒が持ち帰った中学校が3校あるという。
「すでに各家庭において廃棄・紛失したことも考えられるが、各学校に混乱を招くことのないよう、既に配布したチラシについてはいったん回収することを考えている」
「チラシを活用した授業を行う場合には、海洋放出に反対している団体があることや、汚染水に対する不安が大きい現状をふまえて授業を行うよう指導する」(古関教育長)
海洋放出に肯定的な木幡浩市長は答弁しなかった。
喜多方市は県内でいち早くチラシの配布を中止した。
「小中学校にお願いをしていったん配布を中止。既に配ったものについても可能な限り回収して学校で預かるようにした」と学校教育課の担当者。今後については「まだ決まっておらず、検討しているところ」。
喜多方市では2月8日、喜多方復興共同センターと福島県教職員組合耶麻支部が連名で遠藤忠一市長などに宛てて申し入れ。配布の中止や回収を求めた。この時まで市教委はチラシの配布を把握しておらず、慌てて各学校に確認したという。
しかし、市教委を通さず国が直接、放射線副読本とチラシを各学校に送ったことについては「納得いかない。なぜそうなってしまったのか」と歯切れが良いが、チラシの内容に話が及ぶと「国のやり方が問題だったのでいったん配布を止めたのであって、内容云々ではない」、「内容に関してのコメントは差し控えさせていただきたい」と担当者の口が途端に重くなった。
共産党市議の1人は「市教委は遠慮しているかもしれないが、遠藤市長は『海洋放出につながるようなチラシは配布するべきではない』と明確に言っている。ぜひ内堀知事にも、そう伝えて欲しい」と話す。

喜多方復興共同センターと福島県教職員組合耶麻支部の申し入れに対し、喜多方市の遠藤市長は「海洋放出につながるようなチラシは配布するべきではない」と答えたという
【県教委「回収予定ない」】
市町村から動向を注視されている福島県教委。だが、2月28日の県議会本会議で「国の責任のもとで作成し配布されたものであり、県教育委員会として配布の中止や回収を行う予定はない」との考えを改めて示した。
神山悦子県議(共産党)が「県内の公立学校に直接送付した国に抗議すべき」、「配布を中止し回収すべき」、「教育行政に対する国の政治介入だ」と質したが、鈴木淳一教育長は消極的な答弁に終始した。
「ALPS処理水に関するチラシについては、放射線副読本とともに直接国から各学校に届けられたもの。県や市町村の教育委員会に対して事前に連絡がなかったことについては今後改善していただくべきことと考え過日、国に対して申し入れを行った」
「チラシの配布が政治介入ではないかとのご指摘については、学校に直接送付されたことをもって教育行政に対する政治介入がなされたとは考えていない」
答弁によると、公立小中学校においては5割程度、県立学校においては7割程度が既に配布済みという。
小学生向けの放射線副読本では、汚染水の海洋放出計画について「この水は、ほとんどの放射性物質を取り除き、大幅に薄め、健康や環境への安全を確保する基準を十分に満たした上で、海に放出される方針です」
中高生向けでも「この水は、特別な設備などを用いてほとんどの放射性物質を浄化し、大幅に希釈することにより、健康や環境への安全を確保するための基準を十分に満たした上で、海に放出される方針です」
そして、双方に共通する表現がこれだ。
「放射線について一人一人が理解し、科学的根拠や事実に基づいて行動していくことが必要です」
このような一面的な副読本を使った授業を求め、副読本にこっそりとチラシまで紛れ込ませる国。それでも「教育行政に対する政治介入ではない」と県教育長が言い切るのだから、反対の声があるなか海洋放出に向けて既成事実が着々とつくられていくのも当然なのだろう。
(了)

【「チラシは正確さに欠ける」】
「放射線副読本には問題が多い。国の考え、教師の考え、親の考えを押しつけるのは教育ではない」
2月28日のいわき市議会。一般質問に立った鈴木さおり市議(創世会)は、〝汚染水チラシ〟を厳しく批判した。
「小学生にはエネ庁の、中学生には復興庁のチラシが配られた。安全という言葉が数多く書かれていて、まるで政府による一方的な安全概念の押しつけのよう。危険性については書かれていない。都合の良い表面的なことしか触れていなくて、あまりにも短絡的。取り除けない物質が何種類もあるし、排出されないトリチウムもある。それを『科学的根拠に基づいて』と言い切ってしまうのは無責任だし、子どもたちの考えを誘導することになる」
「教科書検定基準では、『話題や題材の選択及び扱いは、児童又は生徒が学習内容を理解する上に支障を生ずるおそれがないよう、特定の事項、事象、分野などに偏ることなく、全体として調和がとれていること』、『図書の内容に、児童又は生徒が学習内容を理解する上に支障を生ずるおそれがないよう、特定の事柄を特別に強調し過ぎていたり、一面的な見解を十分な配慮なく取り上げていたりするところはないこと』とうたっている。チラシは、この基準さえ満たしていない。チラシの情報は正確さに欠ける。教材としてふさわしくない」
これに対し、内田広之市長も「2つの点で問題がある」と応じた。
「ALPS処理水の放出について合意形成の途上にもかかわらず海洋放出を前提とした記載になっている点。もう1点は、県や市の教育委員会に事前に協議なく各学校に送付されてしまった点。私から文科省や経産省、復興庁の幹部にご意見を申し上げた。現段階で使用を控え、学校保管とするよう市教委から通知している」
鈴木市議は「放射線副読本は改訂されてもなお、子どもたちの考えを操作するような表記が目立つ」と副読本そのものもっかいしゅうするよう迫ったが、内田市長は「副読本の回収は検討していない」としたうえで、次のような見方も口にした。
「事故発生当時の様子や事故の深刻さを伝える情報など記述が不十分なんじゃないかと思える部分もある」


小学生向け(上)も中高生向け(下)も、文科省の放射線副読本は原発汚染水の海洋放出について安全面からの記述だけが盛り込まれている
【喜多方市も「いったん回収」】
いわき市は「県教委とも協議しながら授業での活用について慎重に判断していきたい」との考え。また福島市も、10日の福島市議会で「国や県教委の動向を注視している」との考えを示した。
〝汚染水チラシ〟問題を取り上げたのは佐原真紀市議(ふくしま市民21)。鈴木市議のような厳しい表現ではなかったが、「処理水放出には反対意見があることには触れられておらず、政府側の主張のみを伝える偏った教育広報が強化されている」として、当局の姿勢を質した。
これに対し、古関明善教育長は「放射線副読本の補助資料として科学的な知識を身につけ理解を深めることを目的としたものであり、その内容や科学的な妥当性については作成・配布した国が説明責任を果たすべきものと考える」としたうえで「ALPS処理水の処理については様々な意見があることから、慎重に扱うべきものと捉えている」と答弁した。福島市内では、既にチラシを配布して生徒が持ち帰った中学校が3校あるという。
「すでに各家庭において廃棄・紛失したことも考えられるが、各学校に混乱を招くことのないよう、既に配布したチラシについてはいったん回収することを考えている」
「チラシを活用した授業を行う場合には、海洋放出に反対している団体があることや、汚染水に対する不安が大きい現状をふまえて授業を行うよう指導する」(古関教育長)
海洋放出に肯定的な木幡浩市長は答弁しなかった。
喜多方市は県内でいち早くチラシの配布を中止した。
「小中学校にお願いをしていったん配布を中止。既に配ったものについても可能な限り回収して学校で預かるようにした」と学校教育課の担当者。今後については「まだ決まっておらず、検討しているところ」。
喜多方市では2月8日、喜多方復興共同センターと福島県教職員組合耶麻支部が連名で遠藤忠一市長などに宛てて申し入れ。配布の中止や回収を求めた。この時まで市教委はチラシの配布を把握しておらず、慌てて各学校に確認したという。
しかし、市教委を通さず国が直接、放射線副読本とチラシを各学校に送ったことについては「納得いかない。なぜそうなってしまったのか」と歯切れが良いが、チラシの内容に話が及ぶと「国のやり方が問題だったのでいったん配布を止めたのであって、内容云々ではない」、「内容に関してのコメントは差し控えさせていただきたい」と担当者の口が途端に重くなった。
共産党市議の1人は「市教委は遠慮しているかもしれないが、遠藤市長は『海洋放出につながるようなチラシは配布するべきではない』と明確に言っている。ぜひ内堀知事にも、そう伝えて欲しい」と話す。

喜多方復興共同センターと福島県教職員組合耶麻支部の申し入れに対し、喜多方市の遠藤市長は「海洋放出につながるようなチラシは配布するべきではない」と答えたという
【県教委「回収予定ない」】
市町村から動向を注視されている福島県教委。だが、2月28日の県議会本会議で「国の責任のもとで作成し配布されたものであり、県教育委員会として配布の中止や回収を行う予定はない」との考えを改めて示した。
神山悦子県議(共産党)が「県内の公立学校に直接送付した国に抗議すべき」、「配布を中止し回収すべき」、「教育行政に対する国の政治介入だ」と質したが、鈴木淳一教育長は消極的な答弁に終始した。
「ALPS処理水に関するチラシについては、放射線副読本とともに直接国から各学校に届けられたもの。県や市町村の教育委員会に対して事前に連絡がなかったことについては今後改善していただくべきことと考え過日、国に対して申し入れを行った」
「チラシの配布が政治介入ではないかとのご指摘については、学校に直接送付されたことをもって教育行政に対する政治介入がなされたとは考えていない」
答弁によると、公立小中学校においては5割程度、県立学校においては7割程度が既に配布済みという。
小学生向けの放射線副読本では、汚染水の海洋放出計画について「この水は、ほとんどの放射性物質を取り除き、大幅に薄め、健康や環境への安全を確保する基準を十分に満たした上で、海に放出される方針です」
中高生向けでも「この水は、特別な設備などを用いてほとんどの放射性物質を浄化し、大幅に希釈することにより、健康や環境への安全を確保するための基準を十分に満たした上で、海に放出される方針です」
そして、双方に共通する表現がこれだ。
「放射線について一人一人が理解し、科学的根拠や事実に基づいて行動していくことが必要です」
このような一面的な副読本を使った授業を求め、副読本にこっそりとチラシまで紛れ込ませる国。それでも「教育行政に対する政治介入ではない」と県教育長が言い切るのだから、反対の声があるなか海洋放出に向けて既成事実が着々とつくられていくのも当然なのだろう。
(了)
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