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慣れぬ土地での避難生活を悲観して逝った母。「自殺で亡くなったのは原発事故が原因」~飯舘村民が東電を相手取り、損害賠償請求を提訴

80代の母親が避難先のマンションで自殺で亡くなったのは原発事故による避難が原因だとして、飯舘村から福島市内に避難中の遺族が17日午後、東電を相手取り約6000万円の損害賠償を求める訴えを福島地方裁判所に起こした。匿名を条件に会見に応じた遺族の男性は「お金じゃない。つらい思いをした母の気持ちを東電に忘れて欲しくない」と語る。慣れない土地での避難生活。先の見えない毎日…。追い込まれた末に、自ら命を絶った女性の悲しみは察して余りある。原発事故が招く被害は被曝だけではない。

【反物のさらしで自ら首を…】
 訴状によると女性は2013年3月、避難先の福島市のマンション自室で、洗濯物を干していた棒に反物のさらしを引っかけて輪を作り、ベッドに座ったままの状態で首をつった。起床した娘が発見、夫を呼び起こして救命措置を行う一方、119番通報をしたが助からなかった。死亡推定時刻は午前5時という。
 弁護団は、女性の自殺は「原発事故と避難生活により精神疾患を発症し、症状が悪化したのが原因」と断定。東電に対し、亡くなった女性の長女(50代)と夫(60代)の2人に、合わせて約6000万円を支払うよう求めている。弁護団は今後、専門医の意見書を提出するなどして原発事故と精神疾患発症の因果関係を立証する方針。
 提訴後、原告の男性と弁護団福島県庁の記者クラブで記者会見。中川素充弁護士は「人が亡くなるというのは、原発事故のもっとも過酷な被害だ。本来は、東電自ら被害の実態を調べて救済するべき。それをしないため、遺族が勇気を振り絞って立ち上がらないといけない」と語った。河合弘之弁護士も「原発事故による自死は83件もあると言われている。半端ない数字だ。これからも増えていくのではないかと懸念している。それなのに東電は『自殺する方が悪いんだ』と言わんばかりの態度で、自死するに至る深刻な理由を引き起こしたという責任感が無い」と批判した。


会見した原告の男性は「原発事故がなければ、母はまだまだ5年、10年と村で生きられた」と悔しさを口にした=福島県庁

【生活一変。「おらはもう駄目」】
 村で生まれ、村内の尋常小学校を卒業。夫と米や野菜を作り、酪農にも従事していたという。「物静かで、地味で堅実な女性だった」(訴状より)。40代の頃から目を患い、後に1級の身体障害者手帳を公布されているが、完全に視力を失ったわけでは無かったという。「卵焼きやラーメンなどを作って、孫たちにたべさせてたりもしていた」(同)。杖をつきながらではあったが、近所の家に茶飲み話に出かけることもあった。原発事故前から認知症のため特別養護老人ホームに入っていた夫のもとにも、月に何度か訪れていた。自宅に閉じこもることもなく、精神疾患を懸念するような状況ではなかったという。
 穏やかな生活が、原発事故で一変した。2011年6月に村から福島市内のマンションに避難したが、避難の必要性を理解できていなかった女性は「どこにも行きたくない」と嫌がったという。家族の説得で渋々、避難した女性の新たな住まいはマンションの4階。慣れ親しんだ自宅と間取りも異なり、視力の衰えた女性は外出することがほとんどなくなってしまった。不眠のため、睡眠薬を処方されるようにもなった。「避難によって慣れ親しんだ、かかりつけ医とも離れてしまったことも、女性にとっては心理的な負担にもなった」(同)。
 先の見えない避難生活。いつになったら村に帰ることが出来るのか。女性は次第に「死んだ方がまし」、「おらはもう駄目だ。居なくなった方が良い」、「みんなに迷惑をかけるくらいなら死んだ方が良い」などと口にするようになったという。避難してから1年余が過ぎた2012年夏には夫が死去。「早くじっちゃんの所に行きたい」と仏壇に手を合わせるようになったという。
 亡くなる前日には、原告の男性と村に墓参りに出かけた。墓前で女性は、夫に何を語りかけたのだろうか。避難先に〝帰宅〟すると「早くお迎えが来ないかなあ」などと話したという。そして翌朝。自ら命を絶った。不便な避難生活が始まってから1年9カ月が経過していた。


訴状を提出するため福島地方裁判所に向かう弁護団=福島市花園町

【「金じゃない。責任認めろ」】
 提訴後、福島県庁内の記者クラブで会見に応じた原告の男性は「悔しさでいっぱいです。まだまだ5年、10年と生きてもらえたのに…。原発事故がなければ、村で孫と暮らせていたんですから。つらい想いをした母の気持ちを東電に忘れて欲しくないので訴えることにしました」と言葉少なに話した。地元紙などの事前報道を受けて、既に「そんなに金が欲しいのか」などと他の村民から言われているという。そのため会見では顔は撮影せず、匿名で報道するよう願い出た。
 村役場に震災関連死の認定を願い出たが却下された。認定されれば生計維持者は500万円、それ以外の家族は250万円の災害弔慰金が支給される。「飯舘村は認定のハードルが高いと言われている」(中川弁護士)。母は単なる自死では無い。原発事故に殺された─。男性は、周囲とのあつれきを覚悟で妻と共に提訴に踏み切った。
 「眠れない、寂しいと毎日のように言っていた」と男性。河合弁護士は「年老いた母親が夜遅くに自ら命を絶った気持ち、残された家族の気持ちを察してもらいたい。そういう事を東電には分かってもらいたい。司法の場で東電の責任を認めさせる必要がある。まさに〝弔い合戦〟ですよ」と語った。
 会見後、男性は取材に対し「別に貧乏してるわけでなし、金じゃねえんだ」と語った。原発事故に「奪われた」命。取り戻すことは出来ず、金額で表現するしかない。せめて東電の責任を認めさせる事が供養につながる。ここにも、原発事故と闘っている被害者がいる。「関連死」という名の原発事故被害。原発事故は終わったわけでも過去の出来事でも無いのだ。



(了)
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鈴木博喜

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