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【原発避難者から住まいを奪うな】「追い出し、2倍請求は違法」国家公務員宿舎に入居する〝区域外避難者〟11人が福島県を集団提訴~住まいの権利裁判

2011年3月の福島第一原発事故で福島県の避難指示区域外から避難し、国家公務員宿舎から退去できずにいる11人が11日午後、住宅提供打ち切りや家賃2倍請求など福島県の施策で精神的苦痛を受けたとして、1人100万円の支払いを求める損害賠償請求訴訟を東京地裁に起こした。原発事故被災県である福島県は国家公務員宿舎「東雲住宅」の4世帯を相手に〝追い出し訴訟〟を起こし福島地裁で係争中たが、今回の11人は「原発事故という国難に対する根本的、本質的な救済の責任の取り方を問い直す」と立ち上がった。被曝リスクから逃れようと動いた人々に対する福島県の原発事故後の施策は正しいのか。原告たちは司法の場で明らかにしたいと考えている。
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【「知事の裁量権行使は適切か」】
 原告は福島県の避難指示区域外から避難し、都内や埼玉県内の国家公務員宿舎に入居し退去できないでいる(1世帯は退去済み)11人。①福島県知事が応急仮設住宅としての住宅無償提供を2017年3月31日で打ち切った②福島県が避難先で災害復興住宅を建設しなかった③2019年4月1日以降、福島県が原告らを不法占拠者として扱い、親族訪問などの嫌がらせをした―によって精神的苦痛を味わったとして、1人100万円、計1100万円の損害賠償を求めている。
 「福島県知事決定は国際人権法に適合するように解釈された災害救助法施行令第3条第2項に違反し、違法と言わざるを得ない」
 「福島県内に限定せず、多くの避難者が切望する福島県外の避難先において『復興公営住宅』を建設することこそ実質的平等の実現にかなうものであり、これをせず、被告がもっぱら福島県内にのみ建設したことは、『国内避難民』の現状に即して人間を実質的に尊重する態度とは到底言えない」
 「被告は、2020年12月ころ、国家公務員住宅から立ち退かない区域外避難者の親や親族の氏名、住所等を調査し、親等に圧力をかけて避難者本人に立ち退きの決断を迫るという挙に出た」(訴状より抜粋)
 ある原告は2020年12月16日午後、いわき市の実家に事前連絡なく県職員が訪問。45分間にわたって退去や未払い家賃の支払いを母親に迫ったという。
 「福島県の担当者は、母に対し、原告Aが期限後も居座り続けていること、1カ月約3万8000円の損害金が発生していて、多額の損害金が溜まっていることを述べ、滞納分を分割でもいいから支払ってほしい、払ってくれないと私たちは給料も払ってもらえない、翌年1月末日までに明け渡さなければ裁判を起こすなどと説明した」(訴状より抜粋)
 提訴後の報告集会で、柳原敏夫弁護士はこう語気を強めた。
 「日本の法律には原発事故被害者を救済する法律はゼロ。ノールール。そこで出てきたのが『行政裁量』という考え方。法律とは無関係に年20ミリシーベルトに引き上げたり、安定ヨウ素剤を配らなかったり、SPEEDI情報を公開しなかったり、諸々の人権侵害をやってきた。人権が侵害されるような行政の裁量など許されるはずがない。内堀雅雄知事の区域外避難者への住宅打ち切り決定がいかに避難者の居住権などを脅かす人権侵害だったか。東京五輪など政治的な日程を理由に住宅打ち切りを決めたなんて絶対に許されない。福島県知事の決定、裁量権の行使が適切だったのかを問いたい。それが許されるのかを根本から問いたい」

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(上)提訴後の報告集会で拳を突き上げる弁護団と支援者たち。区域外避難者への住宅無償提供打ち切りが妥当だったのかを問う裁判が始まる=衆議院第一議員会館
(中)提訴に先立ち、避難当事者たちが復興庁を訪れ、4万7000筆を超えるネット署名を提出した
(下)埼玉県内の国家公務員宿舎に入居する避難者は「福島に戻らないのはわがままなのでしょうか?」と訴える

【「居住権を確保する闘いだ」】
 「私たち原発避難者は国内避難民です。国連人権規約では居住の権利が保障されています。今回の裁判は、人権や居住権を確保するための真正面からの闘いになると思う。原告たちは初めての裁判に不安を抱えているので温かく見守って欲しい」
 そう呼びかけたのは熊本美彌子さん(福島県田村市からの避難を継続中)
 村田弘さん(福島県南相馬市小高区からの避難を継続中)も「一般的に『11年も経ったのにまだ避難者などとと言っているのか』という風潮がある」とマイクを握った。
 「時の政府方針が非常に大きかった。2013年に安倍政権ができて、直後から五輪を招致。2020年までに福島の原発事故を収束させる。収束したことを世界に示す五輪が目標だと旗を掲げた。そのなかで生きていくための基本である住宅も打ち切られた。内堀雅雄知事は本来なら福島県民を守らなければならないが、残念ながら政府の大方針を先駆けるような形で避難者を追い詰めてきた。『国家公務員宿舎からただちに出て行け、出て行かなければ2倍家賃を請求する』と3年間も言い続けてきた。これは人道を超えた問題だ」
 弁護団は6人の弁護士で構成される。弁護団長を務める井戸謙一弁護士は「この国の原発事故被災者に対する施策は大変冷酷であり非人道的なものだった。とりわけ、区域外避難者に対する施策は過酷なものだった」と語る。
 「住宅提供を打ち切られ、泣く泣く福島に帰還した人もかなりいる。帰還できない人は公営住宅に移るか自力で民間賃貸住宅に移るか、そこに居座るかしか選択肢がない。ほとんどの方は公営住宅に応募する資格すらない。資格があっても、いくら申し込んでも当たらない。東京や埼玉で民間賃貸住宅に移るといっても、経済力がなければどうしようもない。国家公務員宿舎に住み続けるしかない。2倍請求がどんどんたまっていく。でもどうしようもないという状況に追い込まれてきた」
 「自分たちは不法占拠者なのか?いや、そうじゃないんだ。自分たちは国際的に認められた国内避難民であって国際人権上は居住権が保障されているんだ。むしろそれを保障せず不法占拠者だと言っている国が間違えているということが分かってきた。それを司法の場で訴えたいということで決意を固めた。この国は避難者の存在自体が邪魔で仕方がない、何とか避難者という存在をなくしてしまいたいと考えているとしか思えない。原発事故被災者に対する非人道的な施策の是非を正面から問う裁判になると思う」

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(上)井戸謙一弁護士は「原発事故被災者に対する非人道的な施策の是非を正面から問う裁判になる」と語る
(中)「福島県知事の決定、裁量権の行使が適切だったのかを問いたい」と語気を強めたのは柳原敏夫弁護士
(下)2017年最後の定例会見で内堀知事は「今年は、県民の皆さんと共に、様々な課題にチャレンジして復興が着実に前進しています」と語ったが、この年の3月末で区域外避難者への住宅無償提供を打ち切った

【「『原発事故の救済』問い直す」】
 訴状は、こんな言葉で締めくくられている。
 「2020年3月、被告(福島県)は、原告(避難者)らと同様、東京都国家公務員住宅に身を寄せている避難者に対し建物明渡しを求めて訴えを提起した。しかし、その訴状の書きっぷりは、一読してただの不法占拠者の立退き問題と何ら変わらない、形式論理一点張りで、ひからびた、実に素っ気ないものであった」
 「しかし、これらの避難者はそもそも自ら望んで福島県からはるばる東京までやって来て不法占拠者になったのではない。国策で推進された原発の過酷事故からわが身と家族の生命、健康、暮らしを守るための自衛措置として必死になって避難し、その果てにようやく応急仮設住宅に辿り着いたものである。上記訴状には、避難者が置かれた苦難の状況と避難者の今後の生活再建に対する行政の責任遂行という行政が本来果すべき責任の観点が微塵もうかがわれない。この意味で、血も涙もない上記訴状は、苦難の状況に置かれた避難者に対し、応急仮設住宅の無償提供以外に、生活再建に必要十分な支援を行政からろくに提供されないまま、行政の都合で、一方的に応急仮設住宅の無償提供を打ち切るという血も涙もない本件福島県知事決定と軌を一にしている。これは紛れもなく避難者の生存権、居住権に対する看過し難い人権侵害である」
 「被告(福島県)のこうした形式的、表面的な建物明渡しの請求に対し、原告(避難者)らは、そもそも福島県知事が福島第1原発の設置計画に同意し、この意味で被告は福島原発事故を起した側に属する行政庁として、原発事故の危険から生命、健康、暮らしを守るため避難を余儀なくされた避難者たちの居住権を含めた生活再建のために本来何をなすべきであるかという、原発事故という国難に対する根本的、本質的な救済の責任の取り方を問い直すためにも、本裁判の提起に及んだものである」
 報告集会では、原告の女性が急きょ、マイクを握った。
 「今日で震災から11年。。いま、福島県から早急な退去を求められています。2019年から毎月、2倍家賃が損害金として請求されていて、とても心の負担になっています。いつ福島県から訴えられるかと不安も募る。私個人の力ではどうすることもできない状況に陥っています。みなさんの力をお借りして乗り越えていきたい」
 戦争で住まいを奪われたウクライナの人々と同じように、原発事故で住まいを奪われた人々が日本にもいる。あなたの身近にもいるのだ。



(了)
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鈴木博喜

Author:鈴木博喜
(メールは hirokix39@gmail.com まで)
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