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【中通りに生きる会・損害賠償請求訴訟】被曝リスクによる「精神的損害」認めた仙台高裁判決が確定 最高裁が東電の上告受理申立を不受理 

福島県福島市や郡山市などで暮らす「中通りに生きる会」(平井ふみ子代表)の男女52人が、原発事故で精神的損害を被ったとして東電に計約1億円の支払いを求めた損害賠償請求訴訟で、最高裁第三小法廷が今月7日、裁判官全員一致で東電の上告受理申立を棄却。原告たちの精神的損害を認めた仙台高裁判決が確定した。法廷では東電に「あんたらのは『漠然とした不安感』だ」と愚弄され続けてきただけに、代理人を務めた野村吉太郎弁護士は「皆さんは間違っていなかった。自信を持って」と語りかけた。8年におよぶ長い闘いが終わった。
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【他訴訟への影響を懸念?】
 2016年4月22日の提訴から6年。提訴前に陳述書を書き上げるなど、準備期間を含めれば8年におよぶ。避難指示が出されなかった福島県中通りの住民たちによる闘いがようやく終わった。
 仙台高裁(小林久起裁判長)は昨年1月26日に言い渡した判決のなかで、原告たちの主張してきた精神的損害について「控訴人が主張する『漠然とした不安感』というような軽いものでもない」と東電を一蹴。次のように述べていた。
 「たとえ政府による避難指示がでていなくても、放射線被曝に対して相当程度の恐怖や不安を抱いてもやむを得ないといえ、相当の期間が経過するまでの間、被曝を避けるために避難したことには合理性が認められる」
 「平成23年12月31日までの期間に被った精神的苦痛については、社会生活上の受忍限度を超えて法律上保護される利益が侵害されたものと評価するのが相当」
 そして「(1人)30万円の慰謝料の損害を認める」と東電に支払いを命じた。それを受けて東電は最高裁に上告をしていたが、最高裁第三小法廷は「本件を上告審として受理しない」と5人の裁判官全員一致で決定した。
 代理人を務めた野村吉太郎弁護士によると、最高裁への上告手続きには「上告」と「上告受理申立」の二通りあるが、昨秋になって東電が「上告」を取り下げ、「上告受理申立」だけを維持したという。
 「なぜそんなことをするのかと思ったが、上告受理申立事件で東電が負けても、上告を受理しないというだけ。『上告棄却』という主文もないし、最高裁のコメントもない。今回は東電の申立てを受理しないという判断を最高裁がしたわけだが、主文がそれだけで終わっており、理由を書く必要もない。それで仙台高裁の判決が確定した。東電がなぜ上告を取り下げたのかというと、他の事件に影響が出ないようにということなんだと思う。最初は両方やっていて、途中で上告を取り下げた。少しでもダメージを減らして、他の訴訟に影響しないようにしたのではないか。負けたときのことを考えたとしか考えられない」
 確かに最高裁の書面には「民訴法318条1項により受理すべきものとは認められない」としか書かれていない。

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最高裁第三小法廷は今月7日、全員一致で東電の上告受理申立の不受理を決定。仙台高裁判決が確定した

【「非力でも行動起こせる」】
 ひと口に「裁判」と言っても勝手が分からず、陳述書を書けと言われても何をどう書いて良いのか分からない。原告たちの被った精神的損害を裁判所に理解させるために、野村弁護士は陳述書を何度も書き直させた。「これ以上できない」と〝脱落〟していった人も少なくない。
 そして、ようやく提訴にこぎつけたと思ったら、今度は本人尋問が待っていた。2回も3回もリハーサルをし、そのたびに野村弁護士は容赦なく〝駄目出し〟をした。反対尋問では東電の代理人弁護士から心無い言葉を浴びせられ、法廷のど真ん中で怒りに震えた。原発事故という未曽有の公害事件の被害者が裁判で加害企業と闘うことの現実を嫌というほど味わった。原告の1人は「本人尋問では頭が真っ白になってしまった」と振り返る。世話人会の中心として原告を束ねて来た植木律子さんも「最高裁が不受理を決定したと連絡を受けたとき、陳述書を書き始めてからの道のりが走馬灯のようによみがえりました」としみじみと語る。
 しかし、それだけ苦労を重ねたからこそ、ともすれば代理人弁護士が目立ちがちな原発訴訟にあって、原告一人一人の顔が見える裁判だった。弁論期日には原告が集まり、閉廷後の会では本音をぶつけ合った。
 地道な取り組みが功を奏したのか、2020年9月の控訴審第1回口頭弁論(即日結審)では、小林裁判長が出廷した一審原告11人の名前と顔を一致させるように、名前(フルネーム)を読み上げる場面があった。原告たちからは「書類の確認もていねいで、私たちの想いが受け止められていると思えた」、「裁判長の人間味を感じられた」との声があがった。
 〝勝訴〟を受け、久しぶりに原告たちが集まった。ある原告は「原発事故を風化させてはならないという一心で陳述書を書きました」と振り返り、こんな句を詠んだ。
 「胸の内/司法が裁き/金メダル」
 別の女性は、志半ばで天国に旅立った母親の遺志を受け継いで原告に名を連ねた。「墓前での報告になってしまったけれど、母に勝ったと伝えたい」。
 「中通りに生きる会」の代表として走り続けた平井ふみ子さんは「この裁判を通して、自分の権利を表していくことを学びました」と感慨深げに語った。
 「非力な庶民でも行動を起こせるということを多くの人に伝えられたのではないでしょうか。一緒に闘った皆さんを誇りに思っています」

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原告とともに歩んで来た野村吉太郎弁護士も勝訴を喜んだ。「皆さん自身ががんばってきた成果。間違っていなかったんだと自信を持っていただきたい」=チェンバおおまち

【「低線量被曝のなかで生きる」】
 一方、「これで原発事故被害が終わったわけではない」との声も相次いだ。
 原告の男性は、薪ストーブに使う薪を山形県から取り寄せているという。
 「念のために燃やした後の灰を測定してもらったら1キログラムあたり150ベクレルのセシウム。一方、福島県内で調達した薪は4700ベクレルもある。いつまで山形から取り寄せなければならないのか。今も精神的苦痛は続いているのです」
 今月16日には福島県沖を震源とするマグニチュード7・3の強い揺れがあった。
 「地震で真っ先に頭に浮かんだのが『原発は大丈夫か』ということでした。万一に備えてガソリンを満タンにしました。『原発事故』はまだまだ続いているのです」(女性原告)
 孫の話をした女性原告もいた。
 「当時、除染していないグラウンドでサッカーをしていた次男に子どもが生まれました。新生児検診のときに、医師から甲状腺異常を指摘されたのです。結果的に何も問題ありませんでしたが、医師から可能性を指摘されたとき、次男の第一声は『放射能のせいでしょ』でした。この裁判は終わりますが、私たちはこれからも低線量被曝のなかで生きていく。不安や心配を抱えながら生きていくのです」
 仙台高裁判決も、不十分な点はある。
 原告たちが「私たちの精神的苦痛はあの年だけで終わったわけではない」と口を揃えるが、控訴審判決は2011年12月31日までの利益侵害しか認めなかった。2012年1月1日以降の精神的苦痛は法律上保護されなくて良いのか。
 また「30万円」という賠償額の根拠も示していない。野村弁護士は「ブラックボックス。判決文を読んでも、なぜ1人30万円なのか分からない」と語る。もちろん原告たちは金欲しさに裁判を起こしたわけではない。しかし、中通りに暮らす人々が被った精神的損害に対する慰謝料としてはあまりに低額と言わざるを得ない。
 とはいえ、最高裁が東電の主張を退けた意義は大きい。放射線被曝に対する原告たちの恐怖心や不安感を、東電は「漠然とした不安感」と何度も言い放ったが、そんな軽いものではないことを司法が認めた。
 原告たちは口々にこう言った。
 「この勝訴が次の世代にきっと役立つだろうと思っています」
 「未来につながっていく裁判であって欲しい」
 原発事故の被害者は浜通りの住民だけではないのだ。


 
(了)
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鈴木博喜

Author:鈴木博喜
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