【11年目の汚染水はいま】エネ庁や東電「福島県漁連との約束反故にしないが海洋放出計画もやめない」 公聴会開催の求めにもゼロ回答~東電・政府交渉
- 2022/03/30
- 22:07
国と東電が多くの反対意見を無視して「原発汚染水海洋放出計画」の準備を進めている問題で、海洋放出をやめるよう求める市民団体共同の政府・東電交渉が29日午後、東京・永田町の参議院議員会館で行われた。エネ庁の官僚や東電「福島第一廃炉推進カンパニー」の担当者らが出席したが、何を尋ねても用意したペーパーを読み上げるばかりで「ご説明を尽くす」、「ご理解得られるよう努める」に終始。来年からの海洋放出方針は意地でも変えない姿勢に、福島県いわき市から参加した男性は「説明さえすれば私たちの意見は無視するのか」と怒りの声をあげた。

【「ていねいな説明続ける」】
言質をとられぬよう余計なことを言わないのは国や東電の常。原発避難者の住宅問題に関する政府交渉でも、同じような場面を何度も目にして来た。そして今回も、木で鼻をくくったような発言が繰り返された。
例えば3つ目の質問「福島県漁連との約束に反するのではないか」。
国と東電は2015年、福島県漁連への文書で「関係者の理解なくしていかなる処分も行わない」と明記している。県漁連が反対を貫いている現状は決して「理解を得られた」状況とは言えない。しかし、東電「福島第一廃炉推進カンパニー」の担当者は「当社と致しましては、福島県漁連様との約束を反故にすることは考えてございません」としたうえで、「漁業者の皆様をはじめ地元の方々や、関係する皆様へのていねいな説明などを行い1人でも多くの皆様のご懸念を払拭し、ご理解やご信頼を賜れるよう努力を続けてまいりたい」と繰り返すばかりだった。
「美浜・大飯・高浜原発に反対する大阪の会」(美浜の会)代表の小山英之さんが「関係者の理解が得られない以上、いかなる処分も行わず敷地内タンクに貯留すると理解して良いか?」、「県漁連の賛同を得られない場合はいったん止めるのか。それとも、どうしても計画通り実施していきたいという考えなのか?」、「2015年の書面に『関係者の理解なしにいかなる処分も行いません』と書いてある。この理解でよろしいか?」と質しても、東電側は用意したペーパーを読み上げることに徹した。
「当社としては関係者の皆様にご理解を深めていただけるようしっかりと向き合い、ご説明を尽くしてまいる所存でございます」
「当社と致しましては、関係者の皆様にまずはご理解を深めて頂けるようしっかりと向き合ってご説明を尽くしてまいりたいと考えてございます」
「関係する皆様へのていねいな説明などを行いまして、ご懸念を払拭し、ご理解やご信頼を賜れるよう努力を続けてまいりたいと考えております」
小山さんが「関係者の理解を得られないときには処分を行わないということですね?」と念を押しても、答えは変わらなかった。
「ご理解やご信頼を賜れるよう努力を続けてまいりたいと考えております」
「ご理解やご信頼を賜れるよう努力を続けてまいるということでございます」
海洋放出方針を決めてから理解を得るという矛盾に気付いているはずだが、それでも強行突破しようというのが国と東電なのだった。


エネ庁の官僚や東電担当者は用意したペーパーを読み上げるばかり。一方、取材者には「個人が特定されないよう」要求した
【「県漁連は放出の必要性理解」】
経産省エネルギー庁「原子力発電所事故収束対応室」の官僚に至っては、「福島県漁連の理解」を得られない場合の対応について「仮定の話なので答えることができない」と言う始末。東電と同じく「われわれ政府としては、まずは県漁連の皆さんからご理解をいただくよう誠心誠意取り組んでいくこと。これが最も重要だと考えておりますので、われわれとしても引き続き様々な取り組みを行っていきたいというふうに考えております」と答えるばかりだった。
「海洋放出にあたっては福島県漁連皆さんのご理解を得るということが非常に大切という考えは一貫して変わらない。昨年4月の政府基本方針決定以降、福島県漁連の皆様からはALPS処理水の安全性であったり風評対策の内容などについて、たびたびご説明や意見交換の機会をいただいている。県漁連の皆さんとしては放出による風評影響を非常に懸念されているというところでございますので、引き続きご説明を重ねて、そういったご懸念を払拭してご理解を得られるように努めていきたい」
官僚はまた「福島県漁連の方々とお話をしておるところでは、当然復興にあたっての廃炉の重要性だとか、その一環であるALPS処理水の処分をしなければならないものだというところはご理解いただいている」とも話した。
「海洋放出を行う時期まで1年程度時間がある。その時間をしっかり活用して、ご理解いただくための準備を進めていきたい。やはり風評被害の発生をかなり懸念されている。そこを払拭できるように、われわれとしても東電さんとしても、しっかり取り組んで行く所存でございます」
エネ庁幹部との意見交換会を続けている「これ以上海を汚すな!市民会議」は、反対意見もきちんと言える形での公聴会を国の責任において福島県内市町村で開くよう再三にわたって求め続けている。
しかし、エネ庁の官僚は「ご指摘の『公聴会』が具体的にどういうものを指しているのかちょっと明らかではない」ととぼけたうえで、次のように繰り返した。
「われわれの方からご説明をさせていただきたいとお願いするのも当然ですが、逆に皆さんの方から説明して欲しいというお願いをいただいたときには可能な限りご対応させていただいているところでございます」
「形式にこだわる必要はないと考えております。形式にこだわらず、様々な方法で皆様にご説明できる機会を考えていきたい」
形式にこだわらないのなら公聴会を何度でも開けば良い。しかし、それはやらない。


(上)「国際環境NGO FoE Japan」は「トリチウムに焦点が当たりがちだが、タンク内の水の約7割でトリチウム以外の放射性物質が基準を超えている」と指摘する
(下)福島だけでなく、全国そして海外からも計225団体が海洋放出反対に賛同している
【海外からも反対の声】
福島県いわき市から駆け付けた米山努さん(「これ以上海を汚すな!市民会議」)は「説明をしていけば仮に約束を反故にしてもかまわない、説明をしていけば良いんだというふうに言っているようにしか受け取れません。だって既にお金もかけて準備を進めているんですから。私たちの意見は無視するということなのだろう」と語気を強めた。
「美浜の会」の島田清子さんは「口だけかもしれないが『福島県漁連との約束を反故にすることは考えていない』という点は確認できた。皆さんから厳しい意見も出たし、東電や官僚は『反対』を肌で感じたと思う。ぜひ公聴会開催につなげて欲しい」と感想を口にした。
また、リモート参加した織田千代さん(「これ以上海を汚すな!市民会議」共同代表)も「私たちは次の世代のことまで考えて話をしている。おかしいことはおかしいと追及するしかない。それに『福島の人たちが望んでいるから海に流すしかない』というような言われ方をされるのはとても心外。ひとくくりにしないで欲しい」と語った。
「福島県だけの問題ではないのだから、全国で公聴会を開くよう国に求めていく」との声もあった。
交渉は「これ以上海を汚すな!市民会議」、「避難計画を案ずる関西連絡会」、「国際環境NGO FoE Japan」、「原子力規制を監視する市民の会」の呼びかけで行われ、事前に提出していた7項目の質問書に沿って進められた。冒頭で海洋放出しないよう求める要望書を提出した。要望書には賛同した国内外225団体の名前も添えられた。
賛同団体からは「将来にわたって全世界の海を汚し続けることになる」(岐阜県)、「決定のプロセスに問題がある。白紙撤回して再度、検討しなおすべき」(宮城県)、「薄めて流しても放射能を含んだ水に変わりはない。そのままタンク保管してください」(兵庫県)、「いったん海に流してしまったら回収できず取り返しがつかない。これ以上、汚染を拡げないで」(京都府)、「都合の良い情報だけでなく、危険性を指摘する研究者の声に真摯に耳を傾けて」(香川県)、「安易に海洋放出することに反対します」(長野県)、「有機結合型トリチウムは生体凝縮し、食物連鎖に取り込まれ、経口摂取による内部被曝の原因になる」(フランス)、「汚染水は安全性が確認できるまで、それを生み出してしまった企業と、認可を与えた政府の責任で保管管理するのが妥当な処理方法だ」(スイス)、「限りなく努力して環境への負荷を減らすことが大切だ」(ドイツ)などの意見が寄せられている。
(了)

【「ていねいな説明続ける」】
言質をとられぬよう余計なことを言わないのは国や東電の常。原発避難者の住宅問題に関する政府交渉でも、同じような場面を何度も目にして来た。そして今回も、木で鼻をくくったような発言が繰り返された。
例えば3つ目の質問「福島県漁連との約束に反するのではないか」。
国と東電は2015年、福島県漁連への文書で「関係者の理解なくしていかなる処分も行わない」と明記している。県漁連が反対を貫いている現状は決して「理解を得られた」状況とは言えない。しかし、東電「福島第一廃炉推進カンパニー」の担当者は「当社と致しましては、福島県漁連様との約束を反故にすることは考えてございません」としたうえで、「漁業者の皆様をはじめ地元の方々や、関係する皆様へのていねいな説明などを行い1人でも多くの皆様のご懸念を払拭し、ご理解やご信頼を賜れるよう努力を続けてまいりたい」と繰り返すばかりだった。
「美浜・大飯・高浜原発に反対する大阪の会」(美浜の会)代表の小山英之さんが「関係者の理解が得られない以上、いかなる処分も行わず敷地内タンクに貯留すると理解して良いか?」、「県漁連の賛同を得られない場合はいったん止めるのか。それとも、どうしても計画通り実施していきたいという考えなのか?」、「2015年の書面に『関係者の理解なしにいかなる処分も行いません』と書いてある。この理解でよろしいか?」と質しても、東電側は用意したペーパーを読み上げることに徹した。
「当社としては関係者の皆様にご理解を深めていただけるようしっかりと向き合い、ご説明を尽くしてまいる所存でございます」
「当社と致しましては、関係者の皆様にまずはご理解を深めて頂けるようしっかりと向き合ってご説明を尽くしてまいりたいと考えてございます」
「関係する皆様へのていねいな説明などを行いまして、ご懸念を払拭し、ご理解やご信頼を賜れるよう努力を続けてまいりたいと考えております」
小山さんが「関係者の理解を得られないときには処分を行わないということですね?」と念を押しても、答えは変わらなかった。
「ご理解やご信頼を賜れるよう努力を続けてまいりたいと考えております」
「ご理解やご信頼を賜れるよう努力を続けてまいるということでございます」
海洋放出方針を決めてから理解を得るという矛盾に気付いているはずだが、それでも強行突破しようというのが国と東電なのだった。


エネ庁の官僚や東電担当者は用意したペーパーを読み上げるばかり。一方、取材者には「個人が特定されないよう」要求した
【「県漁連は放出の必要性理解」】
経産省エネルギー庁「原子力発電所事故収束対応室」の官僚に至っては、「福島県漁連の理解」を得られない場合の対応について「仮定の話なので答えることができない」と言う始末。東電と同じく「われわれ政府としては、まずは県漁連の皆さんからご理解をいただくよう誠心誠意取り組んでいくこと。これが最も重要だと考えておりますので、われわれとしても引き続き様々な取り組みを行っていきたいというふうに考えております」と答えるばかりだった。
「海洋放出にあたっては福島県漁連皆さんのご理解を得るということが非常に大切という考えは一貫して変わらない。昨年4月の政府基本方針決定以降、福島県漁連の皆様からはALPS処理水の安全性であったり風評対策の内容などについて、たびたびご説明や意見交換の機会をいただいている。県漁連の皆さんとしては放出による風評影響を非常に懸念されているというところでございますので、引き続きご説明を重ねて、そういったご懸念を払拭してご理解を得られるように努めていきたい」
官僚はまた「福島県漁連の方々とお話をしておるところでは、当然復興にあたっての廃炉の重要性だとか、その一環であるALPS処理水の処分をしなければならないものだというところはご理解いただいている」とも話した。
「海洋放出を行う時期まで1年程度時間がある。その時間をしっかり活用して、ご理解いただくための準備を進めていきたい。やはり風評被害の発生をかなり懸念されている。そこを払拭できるように、われわれとしても東電さんとしても、しっかり取り組んで行く所存でございます」
エネ庁幹部との意見交換会を続けている「これ以上海を汚すな!市民会議」は、反対意見もきちんと言える形での公聴会を国の責任において福島県内市町村で開くよう再三にわたって求め続けている。
しかし、エネ庁の官僚は「ご指摘の『公聴会』が具体的にどういうものを指しているのかちょっと明らかではない」ととぼけたうえで、次のように繰り返した。
「われわれの方からご説明をさせていただきたいとお願いするのも当然ですが、逆に皆さんの方から説明して欲しいというお願いをいただいたときには可能な限りご対応させていただいているところでございます」
「形式にこだわる必要はないと考えております。形式にこだわらず、様々な方法で皆様にご説明できる機会を考えていきたい」
形式にこだわらないのなら公聴会を何度でも開けば良い。しかし、それはやらない。


(上)「国際環境NGO FoE Japan」は「トリチウムに焦点が当たりがちだが、タンク内の水の約7割でトリチウム以外の放射性物質が基準を超えている」と指摘する
(下)福島だけでなく、全国そして海外からも計225団体が海洋放出反対に賛同している
【海外からも反対の声】
福島県いわき市から駆け付けた米山努さん(「これ以上海を汚すな!市民会議」)は「説明をしていけば仮に約束を反故にしてもかまわない、説明をしていけば良いんだというふうに言っているようにしか受け取れません。だって既にお金もかけて準備を進めているんですから。私たちの意見は無視するということなのだろう」と語気を強めた。
「美浜の会」の島田清子さんは「口だけかもしれないが『福島県漁連との約束を反故にすることは考えていない』という点は確認できた。皆さんから厳しい意見も出たし、東電や官僚は『反対』を肌で感じたと思う。ぜひ公聴会開催につなげて欲しい」と感想を口にした。
また、リモート参加した織田千代さん(「これ以上海を汚すな!市民会議」共同代表)も「私たちは次の世代のことまで考えて話をしている。おかしいことはおかしいと追及するしかない。それに『福島の人たちが望んでいるから海に流すしかない』というような言われ方をされるのはとても心外。ひとくくりにしないで欲しい」と語った。
「福島県だけの問題ではないのだから、全国で公聴会を開くよう国に求めていく」との声もあった。
交渉は「これ以上海を汚すな!市民会議」、「避難計画を案ずる関西連絡会」、「国際環境NGO FoE Japan」、「原子力規制を監視する市民の会」の呼びかけで行われ、事前に提出していた7項目の質問書に沿って進められた。冒頭で海洋放出しないよう求める要望書を提出した。要望書には賛同した国内外225団体の名前も添えられた。
賛同団体からは「将来にわたって全世界の海を汚し続けることになる」(岐阜県)、「決定のプロセスに問題がある。白紙撤回して再度、検討しなおすべき」(宮城県)、「薄めて流しても放射能を含んだ水に変わりはない。そのままタンク保管してください」(兵庫県)、「いったん海に流してしまったら回収できず取り返しがつかない。これ以上、汚染を拡げないで」(京都府)、「都合の良い情報だけでなく、危険性を指摘する研究者の声に真摯に耳を傾けて」(香川県)、「安易に海洋放出することに反対します」(長野県)、「有機結合型トリチウムは生体凝縮し、食物連鎖に取り込まれ、経口摂取による内部被曝の原因になる」(フランス)、「汚染水は安全性が確認できるまで、それを生み出してしまった企業と、認可を与えた政府の責任で保管管理するのが妥当な処理方法だ」(スイス)、「限りなく努力して環境への負荷を減らすことが大切だ」(ドイツ)などの意見が寄せられている。
(了)
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