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【中通りに生きる会・損害賠償請求訴訟】「平穏に暮らす権利を侵害された」、「私たちの気持ちに『半減期』など無い」~東電に精神的賠償求め52人提訴

福島市や郡山市、田村市など、政府の避難指示が出ていない福島県「中通り」で暮らす住民が立ち上がった。「中通りに生きる会」(平井ふみ子代表)に参加している男女52人が4月22日、原発事故に伴う放射性物質の拡散で精神的損害を被ったとして、東電を相手取り提訴。今月17日には、2回目の口頭弁論が福島地方裁判所206号法廷(金澤秀樹裁判長)で行われた。原発事故で乱された平穏な生活。目を逸らしたくても、放射性物質の存在から逃れる事は出来ない。しかし一律に支払われた賠償金は12万円。原告らは個々の損害に応じた賠償を求めている。「私たちの気持ちに『半減期』など無い」という原告の言葉は重い。次回期日は12月19日11時半。


【「勇気を振り絞って訴えた」】
 原告らが主張している損害は、実に34項目に及ぶ。
 「放射線被曝を避けるための避難をするかどうかの決断を迫られた」、「放射線被曝を余儀なくされると分かっていても、中通りにとどまり仕事や生活をせざるを得なかった」、「原発事故後、病気になったり原因不明の体調不良に悩まされて、放射線被曝が原因なのではないかと不安を抱く」、「放射性物質の拡散により、中通りの清らかで豊かな自然を堪能する豊かな食生活を奪われた」、「放射線被曝に対する考え方の違いから生じた周囲の人々とのすれ違い」、「居住している建物が放射能汚染され、その建物の中で寝食を含む生活をしなければならない」、「自宅の庭や敷地にそのまま置かれた、または埋められた除染廃棄物を日常生活の中で見なければならない」、「現在も続く放射能汚染のため、離れて暮らす家族に里帰りを勧められない」など多岐にわたる。もちろん「初期被曝した」も含まれる。
 放射線被曝による健康被害に関しては一切争わず、あくまでそれらによって生じる精神的損害に対する賠償を求めている。原告の年齢は20代から70代と幅広い。受けた損害が個々人で異なるため、賠償金額も110万円から900円まで様々だ。
 提出された原告らの陳述書では「さまざまな心配をしなければならないこと自体が、原発事故による精神的な負担そのものだ」、「自宅に出入りするたびに目につく汚染土壌やブルーシートは原発事故の記憶を呼び起こし、大変な苦痛を伴う」などの表現で、原発事故によって生じた損害が記されている。
 会の代表を務める平井ふみ子さん(67)=福島市=は「切り刻まれる思いで、勇気を振り絞って訴えた。声をあげなければ駄目なんだということで準備を進めてきた。原告になって一緒に闘おうと誘っても『商売に差し障る』などと断られた事もあったが、悔しい気持ちは皆、抱いている」と話す。「普段は放射能の事は考えないように胸の奥に封印しているけれど、散歩中などふとした時にモニタリングポストやフレコンバッグを見ると思い出してしまう。あきらめてしまえば良いのだけれど…」と涙ぐむ。
 福島第一原発から飛来した放射性物質は、約60km離れた中通りにも降り注いだ。汚染や被曝の原因となる放射性物質が存在するという現実が、平井さんたちに付きまとう。目を逸らしたくても逃れられない苦しみ。原因者である東電にきちんと責任を果たしてもらいたいと強く求めている。




(上)「中通りに生きる会」代表で、自身も原告となっている平井ふみ子さん。「普段は放射能の事は考えないように封印しているけれど、ふとした時に思い出して苦しくなる」と胸の内を語る
(下)52人の代理人を務める野村吉太郎弁護士。「原告らは平穏に暮らす権利が原発事故で侵害された」と語る

【「中通りにも『被害』はある」】
 「中通りは原発事故の被害は無いことになってしまっています。特に福島県外の方々はそのように誤解しているのではないでしょうか」。福島市に住む原告の女性は言う。「原発事故が起きたことで、被曝などどれだけ心配したか。でも、こういう訴えを起こすと『復興の妨げになる』とか『中通りの汚染を認める事になってしまうからやめてくれ』などと言われてしまいます」。
 政府の避難指示が出ている大熊町や双葉町などと異なり、避難指示「区域外」の中通りは一般的に原発事故の影響が無い、もしくは、以前は汚染があったが今は解消されたと誤解されている。挙げ句には「そんなに心配なら自力で福島県外に避難すれば良い」と責められてしまうことも。別の女性は「そもそも原発事故が無ければ、避難するかしないかなんて悩みも無かった。避難と言ったって、いろんな事情でしたくても出来ない人も多いんです。国が生活も仕事も保障してくれていたら避難しましたよ。でも、19歳以上には12万円の精神的賠償金が支払われただけですからね」と語る。「一企業の怠慢で起きた原発事故で、何で被害者の私たちが外に出なければいけないのか」と怒りを口にする原告の女性もいる。
 別の女性も涙ながらに話す。「子どもは甲状腺検査で『A2』判定でした。しかし、『再検査不要』で片づけられてしまいます。原発事故による影響か否か、現時点では分からないのになぜ、予防原則に立ってくれないのでしょうか。避難していない私たちが悪いのですか?原発事故が起きなければ、こんな想いもしなくて済んだんですよ」
 田村市の男性の言葉は重い。
 「原子力損害賠償紛争審査会(原賠審)が、ロクに現場を見もしないで2011年12月に中間指針追補(『原子力発電所事故による原子力損害の範囲の判定等に関する中間指針追補(自主的避難等に係る損害について)』)を決めた事に対して違和感がある。実態を無視した内容となっている。私たち当事者と、東京で机上の空論を闘わせている人たちの感覚との間に温度差がある」
 そして、こう締めくくった。
 「放射性物質と違って、私たちの気持ちには『半減期』など無いんです」




原発事故が無ければ、空間線量を測定・表示するモニタリングポスト(上)も、除染土壌を自宅敷地内に仮置きすること(下)も必要なかった。

【「年20mSvの議論は無関係」】
 17日の口頭弁論では、被告・東電側は「既に支払われた避難区域外の賠償金は原発事故に伴う生活費の増額や避難費用も考慮されており、包括的慰謝料だと考えている。精神的損害等の賠償は済んでいる」との認識を改めて主張した。
 また、原告が放射線被曝による健康被害については主張していないにもかかわらず、被告側が提出した準備書面で「年20mSv以下の低線量被曝では健康被害は無い」などと反論しているため、原告側代理人の野村吉太郎弁護士が「議論がかみ合っていない」と指摘した。野村弁護士は「逆に年20mSvを超えるケースでは、具体的にどのような権利利益の侵害が生じるのか」と質したが、被告側から明快な回答は無かった。
 前回期日で、原賠審の見解を確認するよう原告側が調査嘱託を申し立ててが、金澤裁判長は「原賠審の中間指針は非常にあいまいな書きっぷりをしている。どう考えているか照会しても、文字で書かれている以上のものは出て来ないだろう。必要性は無いと考えている」と述べた。
 閉廷後に開かれた集会で、野村弁護士は「東電は年20mSvの議論に持ち込もうとしているが、線量の問題ではない。平穏に暮らす権利が侵害されたんだ」と語った。原告の男性から「東電の準備書面からは、中通りは原発事故と全然関係ないというような意図が伝わってくる。既に提出した陳述書を書き足す事は可能か」と質問が出たが、野村弁護士は「むしろ書き足していただきたい。主張し切れているか、改めて確認して欲しい」と呼びかけた。
 次回期日は12月19日。その後は来年2月、4月と続く。


(了)
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鈴木博喜

Author:鈴木博喜
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