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【133カ月目の汚染水はいま】「これ以上、余計な放射能を海に出すな!」今中哲二さんがいわき市で講演 「事故は防げた。東電の責任で長期保管を」

京都大学「複合原子力科学研究所」研究員の今中哲二さんが17日午後、福島県いわき市で講演し、福島第一原発事故後にたまり続ける汚染水の海洋放出計画について「これ以上、余計な放射能を海に出すな」などと海洋放出しないよう訴えた。東電が昨年11月に公表した「多核種除去設備等処理水(ALPS 処理水)の海洋放出に係る放射線影響評価報告書」についても「10㎞四方の平均濃度で被曝評価するのはまずい」と一蹴。「東電は『土地がない』なんて言ってはいけない。たくさん持っているじゃないか」として「東電の責任で長期保管するべき」と陸上保管の継続を求めた。「認定NPO法人いわき放射能市民測定室たらちね」の主催。
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【「東通に広い土地ある」】
 「とにかく私が言いたいのは、これ以上、余計な放射能を海に出すなということです」
 今中さんの結論は単純明快だった。
 「そもそも、あの敷地を選んだのが間違い。崖を削って水の多いところに原発を建設してしまった。確証はないが、事故前からあの建物はガタがきていて、水が入っていたのではないか。それなのに抜本的な建物の改修をしていなかった。何より、原発事故を起こしたのは東電です。対策を真面目に考えていたら事故は容易に防げましたた。事故直後も金を〝節約〟して遮水壁をつくらなかった。代わりにつくった凍土壁は役立たず。それで『汚染水が貯まると困るから海に流してしまえ』は筋が通らないと思います。東電の責任で長期保管するべきです」
 資源エネルギー庁原子力発電所事故収束対応室の奥田修司室長(当時)は昨年6月、福島県の市民団体「これ以上海を汚すな!市民会議」(織田千代、佐藤和良共同代表)との意見交換で「ALPS処理水の処分をしていかないと廃炉作業が進まなくなってしまう。単に陸上保管をし続けるだけでは復興と廃炉は両立できない」、「廃炉を進めるということをあきらめればタンクを増設できる」、「取り出したデブリを保管しておく場所などを敷地内につくらないと廃炉作業が進まない」などと語り、陸上での保管を否定している。
 後任の福田光紀室長も、昨年12月の意見交換で「原発敷地内の貯蔵タンクは1000基を超えており、敷地を圧迫している。原子炉そのもののリスクを下げるには、なかにある燃料デブリを分析して取り出すことが必要。敷地内の余地をなくしてしまうと廃炉作業を圧迫するから、貯蔵タンクの数をこれ以上増やせない。いかにして汚染水を減らしながらタンクを増やさないかだ」と発言した。
 これについて今中さんは「タンク保管はできる。国家石油備蓄を知っていますよね?あれはでっかいタンクを使っています。東電は青森県下北郡東通村に広い敷地を持っているんですよ。東通原子力発電所をつくる計画だったがまだ建設できていない。その敷地で十分に保管できます。東電は『土地がない』なんて言ってはいけません。いっぱい持っているじゃないか」と述べた。

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講演で「これ以上、余計な放射能を海に出すな」と汚染水の海洋放出に反対姿勢を示した今中哲二さん=いわき駅前の「ラトブ」

【「平均濃度で被曝評価するな」】
 菅義偉内閣が海洋放出方針を正式決定したのが、ちょうど1年前。
 「関係閣僚会議の方針を内閣が承認したという形になっています。その前に何とか小委員会というのがあって知人も参加していましたが『いつの間にか委員長が報告書をつくって海洋放出になっていた』と言っていました。小委員会は福島県内や都内でヒアリングをやったが40人くらい出てきてほとんどが『反対』。そういう意見は全部無視しちゃってこんな話(海洋放出)になっています」
 反対意見を無視するように東電は海洋放出に向けた準備を着々と進めている。昨年11月には「多核種除去設備等処理水(ALPS 処理水)の海洋放出に係る放射線影響評価報告書」を公表した。
 「どのくらい周囲の人が被曝するか見積もっている。そういう報告書です。そうすると1年間1ミリシーベルトと比べて大したことないですよという結論になっています」
 しかし、問題なのは被曝影響を評価する手法だという。
 「1500Bq/kgのトリチウムがどう流れていくか。拡散シミュレーションをして、最終的に被曝濃度を決めています。一見、合理的ですが、被曝評価に使っている値は10㎞四方の平均値です。しかし、しかし、実際には海岸線が高い。10キロ先になるとあるかないか分かりません。どう見ても海の間際の濃度が明らかに高い。で、計算した結果、年間0.0003ミリシーベルトの内部被曝だと。1ミリシーベルトと比べたら軽微なものであるというのが結論です。海洋放出による1年間の被曝は軽微だということですが、被曝評価の常道は〝安全側〟に立つことです。大きめに評価するのが原則。浜辺の濃度で評価しなければいけません。それが常識です。平均濃度を使うなんて、あまりにも酷いんじゃないの?それが私の印象です。たぶん東電もそれを分かっているはずで、規制委員会でこのまま通るとは思えません」
 エネ庁は「規制基準以下になるまで何度もALPSにかけるのが大前提。しっかりと規制基準未満に浄化した後、海水で大幅に希釈する。100倍以上に希釈し、トリチウム濃度をしっかり下げる。規制基準と比較しても低いレベルまでしっかりと希釈する」と強調するが、本当に東電の言うように被曝リスクはないのか。
 「10㎞四方の平均濃度で被曝評価するのはまずい。学生がそういうレポートを出してきたら点数を下げます。海岸での最大値を使うべきです。詳細にモニタリングしますと書いてあるが、その詳細が全く分からない。きっちりやっていく必要があります」(今中さん)

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今中さんはスライドで、東電が10㎞四方の平均濃度で被曝評価をしていることの問題点や、タンクでの陸上保管を継続するだけの土地は十分にあることを指摘した

【「40年でさら地にならない」】
 エネ庁は「タンクが燃料デブリ取り出しなど廃炉作業の妨げになる」と主張する。
 「1つの大きなポイントは燃料デブリの取り出しです。原子炉建屋の中に880トンのデブリが残ったままでいるのは(地震や津波などの)リスクになりますので、安定的に管理をしたい。デブリは線量が高いのでロボットアームなんかを使って遠隔操作で取り出すことになります。するとメンテナンス設備や訓練設備、取り出したデブリを保管しておく場所を敷地内につくっていかないと進まない。廃炉全体が進んで行かないということになります。デブリの取り出しは可能だと考えています」(原子力発電所事故収束対応室の奥田修司室長=当時=)
 では、そもそも燃料デブリの取り出しなどできるのか。今中さんは非常に懐疑的だ。
 「あそこで行われているのは、まだ〝現場検証〟にすぎません。燃料デブリが中でどうなっているのか、いまだに分かりません。確かにロボットを使ってピンセットでつまむ程度はやりましたが、来年あたり取り出すというのは、欠片をちょこっとだけ出すという計画。1号機から3号機まで合わせて880トンもあるのですよ。いまだに〝現場検証〟が続いていて、それがいつ終わるか見込みさえ立っていません。40年であそこがさら地になるようなことはあり得ません」
 取り出せたところで、どこで保管・管理するのか。燃料デブリの取り出しの延長線上に汚染水の海洋放出がある。であれば、取り出しをやめればいい。
 だいたい、東電は汚染水の発生抑止に真剣に取り組んで来たのだろうか。今中さんの答えは「NO」だ。
 「原発事故直後から原子炉を冷やすために水を入れていました。当初は1日300トンくらい入れていたのかな。格納容器に溜まるかと思ったら穴が空いていて漏れて、隣接するタービン建屋に溜まった。地下水もどんどん入って来ます。原子炉の燃料デブリにかけた水が地下水と一緒になってタービン建屋に溜まった。それをどんどんタンクにくみ上げたのが『汚染水』の元です。地下水が混じるものだから汚染水がどんどん増えていく。これは事故直後に分かっていたことです。国は東電に『建物の周囲にきちんとした遮水壁をつくれ、水が通らない遮蔽用の壁をつくれ』と言いましたが、東電は金がかかることはようやらんという話があったりして、妥協策として出てきたのが国が金を出して氷の壁をつくるということ。へえ、おもろいことをやるんだなと思っていたら、凍土壁をつくっても今でも150トンくらい隙間から抜けています。今や〝氷のすだれ〟です。抜本的にきちんとした壁をつくらなきゃいけないのです」



(了)
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鈴木博喜

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