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【133カ月目の汚染水はいま】「一刻も早く広域遮水壁で地下水止めて」福島大・柴崎直明教授がいわき市で講演 「汚染水増えなければ海洋放出不要」とも

福島大学の柴崎直明教授が24日午後、福島県いわき市で行われた「海といのちを守るタウンミーティング」で講演し、地質学の専門家の立場から「増え続ける汚染水を放置せず、いち早く抜本的な削減策を講じれば海に流す必要はなくなる」などと地下水の原子炉建屋への流入をまず止めるよう求めた。「流入する地下水を減らさないと海洋放出の問題はエンドレスになってしまう」として、一刻も早く広域遮水壁を設置するよう強調した。市民団体「海といのちを守る福島ネットワーク」の主催で、5月14日にも郡山市内でタウンミーティングが予定されている。
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【「効果なかった〝切り札〟」】
 「海に流す前に、まずは地下水の流入を止めろ」。これが柴崎教授の結論だった。
 「汚染水は2015年から減っているが、2018年以降は下げ止まり。今でも1日あたり140トンくらいずつ増えています。下げ止まっているということは止水対策が不十分だということです。その理由を検証しました。1つはなぜ『地下水バイパス』が駄目だったのかということです。砂だと思っていたところに泥が多く、水が流れにくい層が多かったのです。泥が多い層ではほとんど水をくめていない。つまり地下水バイパスの効果がほとんどなかったのです」
 「もう1つは『凍土遮水壁』。ぐるりと氷の壁をつくるというアイデアですが、170カ所くらい配管や構造物があって下まで突き通せない。突き通すと逆に汚染水が発生してしまう。下まで凍結菅が入っていないということと、きちんと調べていなかったので透水層まで届いていないのではないか。私たち研究グループの調べでは、深度30メートルよりさらに深いところまで水の通りやすい地層が分布していて、きちんと遮水できていません。だから下から回り込んで内側に今でも水が入って来ている。これが汚染水発生がまだ続いている原因」
 「地下水バイパス」も「凍土遮水壁」も、国や東電がこれまで〝汚染水対策の切り札〟としてきたが、柴崎教授は「残念ながらあまり効かなかった。地下水バイパスはほとんど効果なし。凍土壁も効果は限定的です」。このまま汚染水が増え続けると、仮に廃炉に30年かかったとして30年後には153万トン、タンク1500基以上もの汚染水が発生してしまうという。
 「長期間耐え得る遮水壁をつくるべきです。一刻も早くやってくれ、というのが私たちの提案です」
 「建屋に流入する地下水を減らさないと海洋放出の問題はエンドレスになってしまいます。氷の壁なんていつまで持つか分からない。設置に345億円かかって、しかも電気代が1年間で十数億円もかかっている。私たちの提案する広域遮水壁はもっと安い。凍土壁の半額以下で維持管理も要らない。増える汚染水をゼロにすれば、いま溜まっている水を海に流さなくて済む。増え続ける汚染水を放置せず、いち早く抜本的な削減策を講じるべきです」

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(上)講演した福島大学の柴崎教授は、2013年から「福島県廃炉安全協議会」の専門委員を務める。「東電は各委員の質問に十分に答えていない。これで県がOKを出したら県民に対して説明がつかない」
(下)武藤類子さんは「海はあらゆる命の共有財産。これ以上、意図的に汚染を拡げることは許されません」と訴えた

【「元々、地下水多かった」】
 そもそも、原発を建設する土地としてふさわしくなかったという。
 「福島第一原発がなぜこんな場所に立地しているのか。十分に地質や地下水の調査をして選ばれたのでは決してありません。本格的な調査事務所を設置してから許可申請の提出まで1年半。許可がおりるまでわずか半年。バタバタと用地を選定して買収し、調査をして営業運転。原発建設ありきで進んでいたということが良く分かります。これは『大熊町史』にも書かれていますが、地質や地下水の条件が良かったからではありません。東京(首都圏)から遠いこと。人口密集地から離れていて人があまり住んでいないこと─が理由でした。電力供給網の外側に発電所をつくって首都圏に送電する。その一環で福島が狙われたということです」
 実は建設当時の資料に汚染水問題のヒントがあるという。 
 「地層の断面図です。原発建設前は、海まで続く高さ30~35メートルの台地でした。海の近くなのに海の際まで浅いところで地下水が出ていた。地下水が浅かったことが当時の資料から分かります。しかし、当時はあまり深刻に考えずに、土木工事が始まりました。しかし、掘り下げたら水が出てきてしまった。この土地は地下水が浅くて、ある程度掘削すると水浸しになってしまったということです。だから、事故前にも『サブドレン』と呼ばれる井戸が原子炉建屋の周囲にたくさん設置されていて、常に水をくみ上げないといけなかったのです。1~4号機の平均で1日700トン以上をずっとくみ上げていました。原発事故後は電源喪失でポンプが止まり、原子炉建屋の地下が水浸しになりました。地下水がたくさん存在したのが今につながる汚染水問題の背景です」
 東電の地質調査もいい加減だった。
 「東電が公表していた砂の層には、私たちの解析では水の通しにくい泥岩が複雑に存在していることが分かりました。東電の調査が不十分だったのです。肝心なところが東電と私たちの解析結果がずれていました。前提条件が違うと当然、地下水の流入をどう防ぐかという対策の考え方も変わってきてしまいます。国や東電は事故前からきちんと調べておくべきでした。事故後も、ちゃんと調べたうえで汚染水対策を講じれば今のようにタンクで敷地がいっぱいになることもなかったし、海洋放出なんてことにもならなかったのではないでしょうか」

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柴崎教授は国や東電がこれまで〝汚染水対策の切り札〟としてきた「地下水バイパス」も「凍土遮水壁」も効果がなかったとして、「地下水流入を防ぐ抜本的な広域遮水壁を一刻も早くつくるべきだ」と訴えた

【「幅広い人が意思表示を」】
 主催した「海といのちを守る福島ネットワーク」はこれまで、福島市と三春町で同様のタウンミーティングを開催している。
 呼びかけ人の1人、武藤類子さんは「反対意見を無視し、モルタル固化などの代替案も全く無視され25日から工事が始まりました。政府や東電は『廃炉を進めるためには海洋放出が必要』と言っています。しかし廃炉の最終形態も決まっていません。東電がつくったロードマップは虚構としか思えません。廃炉のためには海に流すしかないという政府や東電の主張は明らかに間違っていると思います。海はあらゆる命の共有財産です。原発事故でおびただしい量の放射性物質を海に拡散してしまいました。これ以上、意図的に汚染を拡げることは許されません」と訴えた。
 また、「これ以上海を汚すな!市民会議」共同代表の織田千代さんは「政府の決定から1年が経ち、市民のなかには『既に決まったことで、流されるのを見ているしかないのか』というあきらめの声も聞かれます」と本音を口にした。
 海洋放出に向けて〝暴走〟する東電を止めることはできないのか。
 閉会後、取材に応じた柴崎教授は「やはり黙って見ているのではなくて、声をあげないといけません。漁業者だけの話とか一部の人だけが反対しているみたいになると、多数の人が無言で容認しているかのように考えられてしまう。幅広い人が意思表示をしないと都合の良いようにやられてしまいます。大した反対は起きていないじゃないかと言われてしまったら良くない」と話し、あきらめず意思表示をするよう強調した。
 「これ以上海を汚すな!市民会議」共同代表の佐藤和良さん(いわき市議)は、閉会のあいさつでこう語った。
 「あきらめず法に則って進めるよう求めていく。漁業者だけを矢面に立たせてはいけない。粘り強く県民全体で陸上保管を求めていきます」



(了)
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鈴木博喜

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