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【子ども脱被ばく裁判】男性原告が怒りの意見陳述「情報隠蔽、被曝線量限度引き上げは法令、正義、国際常識、ヒューマニズムに反する」~18日に仙台高裁で第3回口頭弁論

原発事故後の福島県内の被曝リスクや行政の怠慢を正面から問う「子ども脱被ばく裁判」の控訴審。第3回口頭弁論が18日午後、仙台高裁101号法廷(石栗正子裁判長)で行われる。2月14日の第2回口頭弁論では、男性原告が意見陳述。原発事故後の国や福島県の対応について「政府や福島県は、原発事故発生直後は情報を隠して住民避難を妨げた。汚染の深刻さが明らかになってくると、今度は避難指示区域を拡大せずに住民の被曝線量限度を引き上げた。いずれも法令に反し、正義に反し、国際常識にもヒューマニズムにも反するものであったことは言うまでもありません」と語気を強めた。
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【隠されたSPEEDI情報】
 「福島原発事故に対する基本的な誤解についてお話ししたいと思います」
 男性原告の意見陳述は、そんな言葉で始まった。
 「誤解」とはつまり、本来、住民を被曝リスクから守るはずの国も福島県も、いずれも事前に決められた手続きに従わなかったということだ。「大地震も大津波も想定外だった」、「国も県もやるべきことをやった」という大いなる「誤解」を解くことが狙いだった。
 「地震・津波による原発事故は想定されていましたし、それゆえに耐震補強や防潮堤かさ上げ工事が進められました。事故が起こったときにとられるべき対策も詳細に決まっていました。原子力災害特別措置法を頂点とする『原子力防災』という一連の法体系としてまとめられました」
 しかし、被曝回避の重要な情報となるはずだった「SPEEDI」(緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム)のデータは住民に開示されなかった。
 「国や福島県がこうした手続きに従わず、私たち住民に被曝を強いました。地震から2時間足らずの間に稼働を始めていたSPEEDIデータは本来、緊急時の住民避難に活かされるべきものですが、これが公開されたのは事故から10日以上経った2011年3月23日です。当時、SPEEDIを管理していた原子力安全技術センターは複数のメールやFAXを福島県庁に送りましたが、福島県は公表しませんでした。このことは2011年5月の県議会で追及されています。県は『放出源情報がなかったため公表できなかった』と説明していますが、この説明はまったく成り立ちません。事故対応の指針(「緊急時環境放射線モニタリング指針」)には、放出源情報がない場合も想定して「放出源情報が十分収集できない場合」として対応が記載されていたからです」
 男性原告は「実測の面でも情報の隠蔽とデータ取得の妨害が行われました」とも語った。
 「福島県原子力センターの職員は2011年3月12日朝から、『緊急時環境放射線モニタリング指針』に従い原発近隣まで行って環境中に放出された放射性物質を測定しました。NHKスペシャル『空白の初期被ばく』で測定に携わった職員が『文部科学省からストップがかかった』と証言しています。その結果、最も汚染が深刻だった3月14日から17日の実測値を欠いています」
 「被災地の住民は、放射性物質が大量拡散した事実も原発がメルトダウンした事実も、避難方法も知らされないまま現地に取り残されたのです。それを担う行政側の不作為や妨害によって、『住民を被曝から守る』という原子力防災の目的を果たすことができなかったのです。これが『無用の被曝を強いられた』と主張する所以です」

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男性原告は、意見陳述で「政府や福島県は、原発事故発生直後は情報を隠して住民避難を妨げた。汚染の深刻さが明らかになってくると、今度は避難指示区域を拡大せずに住民の被曝線量限度を引き上げた」と批判した

【「測定もせず学校再開」】
 「さらに驚くべきことがあります」
 男性原告が次に指摘したのが福島県教育委員会や文部科学省の対応だった。
 「福島県教委は2011年3月末、福島県内学校での授業を4月6日から8日に始めると決めました。放射線量の測定もせずにです。4月になり、『保護者の心配に配慮して放射線量の測定を始める』という記事が地元紙に掲載されました」
 一方で文科省は、子どもたちの被曝線量限度の引き上げを画策していた。
 「文科省は2011年4月4日、浪江町津島・赤宇木において、3月23日からの積算線量が10ミリシーベルトを超えたと発表しています。それほどの汚染を把握していたにもかかわらず、児童生徒の被曝線量限度を年1ミリシーベルトから年20ミリシーベルトに引き上げる方針だと報じられました。避難指示区域を拡大させないために、被曝線量限度の方を引き上げることで解決しようとしたのです。そして福島県では今なお、年20ミリシーベルトを基準に避難指示が解除されています」
 引き上げられたのは被曝線量限度だけではなかった。
 「スクリーニングレベルや食品の安全基準(残留放射線限度)、放射性廃棄物の規制値など、さまざまな基準が作り替えられました。安全基準を事故後に変更するなど、法治国家の行うことでしょうか」
 男性原告は語気を強めた。
 「政府や福島県は、原発事故発生直後は情報を隠して住民避難を妨げた。汚染の深刻さが明らかになってくると、今度は避難指示区域を拡大せずに住民の被曝線量限度を引き上げた。いずれも法令に反し、正義に反し、国際常識にもヒューマニズムにも反するものであったことは言うまでもありません」
 「私も含めて、被災地の誰もが自分がどれだけ被曝したかを知らず、健康不安を抱えたまま過ごしてきました。風邪の症状が長引いたとき、喉が痛むとき、だるいとき、『もしや…』と考えるわけです。こうした日々がどれほど耐えがたいものであるか想像していただきたい。わが子の健康や将来を心底心配しながら、そのことを口に出して言えない人が被災地には多くいます。誰がそういう社会をつくったのでしょうか。法令に反し、正義にも反し、国際常識にもヒューマニズムにも反する行いを見て見ぬふりをする人たちがつくったのではなりませんか」
 そして、次のような言葉で意見陳述をしめくくった。
 「今こそ、被災地に押しつけられた理不尽の数々を取り除き、不正を改めるときではないでしょうか。裁判所の適切な判断を切に切に願っています」

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弁護団長の井戸謙一弁護士は法廷で「LNTモデルを前提に被曝防護対策が講じられるべきであるし、裁判でもそれが前提とされるべきだ。なぜなら、それ以上に『科学的にもっともらしい』モデルが存在しないからだ」と訴えた

【「LNTモデルを前提に」】
 この日は一審原告の代理人弁護士も準備書面の要旨を口頭説明した。
 ▼井戸謙一弁護士
 「100ミリシーベルト以下の低線量被曝の健康影響が科学的に立証されていないということは『健康影響がない』ということではない。ICRPですらLNTモデル(線量に応じて直線的に健康影響が生じるという考え方)が『科学的にもっともらしい』と評価している。そうであれば、LNTモデルを前提に被曝防護対策が講じられるべきであるし、裁判でもそれが前提とされるべきだ。なぜなら、それ以上に『科学的にもっともらしい』モデルが存在しないからだ。年1ミリシーベルトの被曝をすれば、人生70年として生涯70ミリシーベルト被曝する。これはICRPによれば10万人中350人が余分にガンで死亡すると考えられる被曝量。控訴人らは、主観的な恐怖感や不安感を主張しているわけではない。被曝によって健康被害が生じる可能性が高まることは、科学的・客観的な根拠がある」

 ▼田辺保雄弁護士
 「2011年3月に原発事故が発生したとき、具体的な対策や救済について国内法令に備えがなかった。このような場合、私たちには法秩序の原点に立ち返ることが求められる。それが法体系の序列論。つまり、上位規範である憲法や条約に適合するよう法の欠缺(けんけつ)を補充するべきだ。国連特別報告者・グローバー氏による『グローバー報告』でも、年1ミリシーベルトを超える被曝を強いられることは健康に対する権利の侵害であることが指摘されている。2017年の国連人権理事会における第3回UPR(普遍的・定期的審査)でも、『許容放射線量を年1ミリシーベルト以下に戻し、避難者および住民への支援を継続することによって福島地域に住んでいる人々(特に妊婦および児童)の最高水準の心身の健康に対する権利を尊重すること』と勧告されており、日本政府は拒絶せずフォローアップに同意する旨、回答している」

 開廷に先立って開かれた事前集会で、男性原告は「放射線被曝というのは、一度浴びてしまったら現時点で病気を発症していなくても将来、病気に罹患する可能性を持ってしまう。それは十分な『被害』だと当事者は考えます。今日は、放射線被曝を強いられていることの問題性を中心に話したい。ハードルは高いが、そこが認められないと、この裁判は先に進めない。それをどう裁判所に求めてもらうか」と語った。
 「『放射線量は下がったのだから帰れるでしょ』というような議論があります。しかし、下がったとはいえ事故直後は高かったし、事故前の数値より高い。それは余計な被曝であることは間違いないと思う。余計な被曝をさせていることの問題性をどのように裁判長に訴えられるかも論点になると思う」
 事故発生から11年が経過したが、「無用な被曝」を強いられた人々の闘いはまだまだ続いている。



(了)
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鈴木博喜

Author:鈴木博喜
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