【原発事故と国内避難民】国連特別報告者ダマリーさんの訪日調査、ようやく秋に実現へ 訪日要請から4年「区域外避難者の問題明らかにされること期待」
- 2022/05/16
- 20:46
国内避難民の人権に関する国連特別報告者セシリア・ヒメネス・ダマリーさんが2018年から4年にわたって求めている訪日調査を日本政府が放置してきた問題で、今秋にもようやく訪日が実現しそうだ。国会で外務副大臣が「9月最終週から10月中旬にかけての訪日を打診する旨、伝達した」と答弁。外務省人権人道課の担当者も電話取材に対し一歩前進を認めた。避難指示区域外からの原発避難者は住宅無償提供が打ち切られたばかりか、福島県が〝追い出し訴訟〟を起こす異常事態。それだけに、訪日実現に奔走してきた避難当事者や弁護士は喜びを口にしている。

【「9月最終週から10月中旬」】
5月11日の衆議院経済産業委員会。立憲民主党の山崎誠代議士がこの問題を取り上げた。
山崎誠委員「前回4月27日の質疑では『早期に結論を出して公式な回答をする』とのことだった。早期に、ということなので動きがあることを期待している。副大臣、現状をご説明ください」
これに対し、小田原潔外務副大臣はようやく一歩、踏み込んだ答弁をした。
「現地5月10日、ジュネーヴの日本政府代表部から国連人権高等弁務官事務所に対し、ダマリー特別報告者が希望する9月最終週から10月中旬にかけての訪日を打診する旨、口上書により伝達した。今後、より具体的な日程や訪日内容等についてご本人と国連人権高等弁務官事務所の担当部局とも意思疎通のうえで調整を進めたい。政府としては今後とも、被災者の方々の声に耳を傾けながら、責任をもって復興支援を行い、国際社会に対して復興の現状を適切に説明していく」
実は、山崎代議士がこの問題を取り上げるのはこれが初めてではない。4月13日の同委員会では「事実上放置されている。2019年にも東日本大震災復興特別委員会で質問をして、当時の阿部外務副大臣も『福島の事実を見ていただく、福島にきて応援していただくことも含めて検討している』と、外務省が窓口となってしっかりと省庁で検討していきたいと答弁をいただいた。いまだにこれ実現できていない。どうして受け入れが進んでいないのか、お答えいただけますか? どうしてここまで先延ばしになってるんですか?」と質した。
同月27日にも「いつまで調整をしているのか、検討しているのか。いつまでたっても変わらない。もういい加減に、ダマリーさんの任期も迫ってきているということなので、今日結論出していただきたい。訪問の承認の公式の書簡が届いていないので、ダマリーさんも先の様々な調整がなかなかできない」、「PCR検査を実施して、安全確保してやったらいい。被災者が『(感染が)怖いから来ないでくれ』と言っているのか? そういう方がたくさんいるのか? 会ってほしい、自分たちの状況を訴えたいという人が多いのではないか? 副大臣、先伸ばし、いい加減にしてください。いつ結論を出して受け入れるのか。明確に回答してください」と語気を強めた。
昨年12月10日は、参議院本会議で立憲民主党の青木愛議員が質問。岸田文雄首相は「特別報告者の訪日受入れについては、新型コロナウイルス感染症の流行状況も見つつ、関係府省庁において検討を行っているところであると報告を受けている。東日本大震災の避難民の数は10年前より大きく減少はしているが、現在もなお避難されている方々は避難生活の長期化により状況が多様化しており、それぞれの状況に応じた丁寧な支援を行っていかなければならないと考えている」と答弁していた。


(上)再三にわたって日本政府の〝放置〟を指摘してきた山崎誠代議士。12日の衆議院経済産業委員会でも質問。小田原外務副大臣は「9月最終週から10月中旬にかけての訪日を打診する旨、伝達した」と答弁した
(下)国連人権高等弁務官事務所のホームページには、今月10日付で日本政府から招待された旨の記載がある
【「日本政府の招待必要」】
ダマリーさんは2018年8月30日、日本政府に訪日を要請。その後2020年1月と2021年6月にも念押しや督促を意味する「リマインダー」を出している。しかし、日本政府は新型コロナウイルスの感染拡大などを理由に〝放置〟。要請から4年経った今も実現には至っていない。
国連特別報告者の訪日について、イギリス在住でエセックス大学人権センターフェローの藤田早苗さんはこう解説する。
「国連特別報告者は世界からの公募を受け、人権理事会の慎重な審査を経て任命されます。私人として行動しているわけではありません。世界中の候補者のなかから公募で選ばれた、世界レベルの筋金入りの専門家。『王冠にのせる宝石』と言われるほど重要な役割を担っています。しかし、日本政府が公式に招待してくれないと訪日できません。日本政府は2011年3月1日以降、調査は原則として常時受け入れると表明していますが、NOとは言わないがいろいろな理由をつけて承諾しない。『居住の権利に関する特別報告者』も2017年8月に訪日する予定でしたが、内閣改造を理由にキャンセルされました。もし訪日が実現していたら、原発避難者の住宅問題も調査対象になっていたはずです」
昨年8月には、原発避難者などでつくる「国内避難民の人権に関する国連特別報告者による訪日調査を実現する会」が外務省に要望書を提出。
「国内避難に関する指導原則は,国内避難民である自主的避難者に対する基本的な避難所及び住宅の提供を求めていますから、住宅の無償提供打ち切りをそのまま放置するかのような状況が続くことは,指導原則の趣旨に反するのではないかという懸念を生じさせます。住宅の無償提供打ち切りでは複数の自死者が出ており,緊急かつ重要な問題であると私たちは考えています」
「それだけではなく,国内避難民の安全、健康の確保、教育の保障、家族の離散防止、差別の防止など、さまざまな問題で人としの尊厳、身体的、精神的、道徳的に健全である権利が尊重されているとは言えません」としたうえで「日本政府としてすみやかにダマリー特別報告者の訪日調査の受入の意思表明を行い、ダマリー特別報告者に連絡をとった上、年内に同氏が訪日した折りには同氏が必要な調査を行うことについて協力をしていただきたい」と求めていた。


2021年8月には、原発避難者たちが外務省に要望書を提出。「国内避難民の人権に関する国連特別報告者による訪日調査の要請について、速やかに受入の意思表明をした上、年内の訪日日程を確定してください」と求めた
【「避難者たちの生の声聞いて」】
これでようやく、ダマリーさんの訪日が実現するということで良いのか。
電話取材に応じた外務省人権人道課の担当者は小田原副大臣の答弁を読み上げたうえで「日程を打診しているというところから…。文書で日程を打診しておりますので」と繰り返し、日本政府から正式に打診していることを認めた。
長らく〝放置〟していたのに、なぜこのタイミングで訪日へ動き出したのか。その理由については「これまでずっと国内調整をしてきたし、特別報告者本人とも意見交換を随時してきた。それが整ったということ」と答えるにとどまった。
「原発賠償京都訴訟」や「子ども脱被ばく裁判」の代理人を務め、昨夏の要望書提出にも同行した田辺保雄弁護士は「ようやく実現することになり、うれしい。私たちが働きかけを続けてこなければ実現しなかったと思うし、一方で山崎誠代議士など各党の国会議員が動いてくれたことも大きかった」と話した。「ダマリーさんの訪日調査で、被害を見えなくされてしまっている区域外避難者(いわゆる〝自主避難者〟)の問題が明らかにされることを期待しています」。
要望書提出後に開かれた記者会見で、「原発避難者を公権力が裁判で訴えてでも追い出すという現実を海外の目でしっかり見ていただいて必要な勧告を日本政府に対してしてもらいたい」と話したのは、村田弘さん(南相馬市小高区から神奈川県に避難継続中)。
「全国に避難した人たちがこの10年間、どんな目に遭って来たか。その最たるものが住宅支援の打ち切り。命に関わる問題を政府は10年間ほったらかしにしてきた。原発避難者は棄てられた、棄民されたのです。国策として進めてきた原発が事故を起こして、それで生じた避難者たちを避難民として認めない、必要な手当てをしない、ということがまかり通っていることは本当に許せない」
ダマリーさん訪日調査実現に向けて奔走してきた区域外避難者の1人は、「2018年8月に最初の訪日調査要請を出されてから約4年間、ダマリーさんは福島原発事故による国内避難民の状況を心から心配し、救済策を支援することを願ってきました。約1年前に『実現する会』が立ち上がり、多方面からの協力を得て、正式決定まであと一歩の所まで来ています。外務省による誠意のない対応が続く中、辛抱強く、ネットワークを最大限に活用し、市民の力によって実現に向かっています。原発事故避難者、帰還者、避難したくてもできなかった方達など、さまざまな生の声をダマリーさんに聞いていただきたいです」との声を寄せた。
(了)

【「9月最終週から10月中旬」】
5月11日の衆議院経済産業委員会。立憲民主党の山崎誠代議士がこの問題を取り上げた。
山崎誠委員「前回4月27日の質疑では『早期に結論を出して公式な回答をする』とのことだった。早期に、ということなので動きがあることを期待している。副大臣、現状をご説明ください」
これに対し、小田原潔外務副大臣はようやく一歩、踏み込んだ答弁をした。
「現地5月10日、ジュネーヴの日本政府代表部から国連人権高等弁務官事務所に対し、ダマリー特別報告者が希望する9月最終週から10月中旬にかけての訪日を打診する旨、口上書により伝達した。今後、より具体的な日程や訪日内容等についてご本人と国連人権高等弁務官事務所の担当部局とも意思疎通のうえで調整を進めたい。政府としては今後とも、被災者の方々の声に耳を傾けながら、責任をもって復興支援を行い、国際社会に対して復興の現状を適切に説明していく」
実は、山崎代議士がこの問題を取り上げるのはこれが初めてではない。4月13日の同委員会では「事実上放置されている。2019年にも東日本大震災復興特別委員会で質問をして、当時の阿部外務副大臣も『福島の事実を見ていただく、福島にきて応援していただくことも含めて検討している』と、外務省が窓口となってしっかりと省庁で検討していきたいと答弁をいただいた。いまだにこれ実現できていない。どうして受け入れが進んでいないのか、お答えいただけますか? どうしてここまで先延ばしになってるんですか?」と質した。
同月27日にも「いつまで調整をしているのか、検討しているのか。いつまでたっても変わらない。もういい加減に、ダマリーさんの任期も迫ってきているということなので、今日結論出していただきたい。訪問の承認の公式の書簡が届いていないので、ダマリーさんも先の様々な調整がなかなかできない」、「PCR検査を実施して、安全確保してやったらいい。被災者が『(感染が)怖いから来ないでくれ』と言っているのか? そういう方がたくさんいるのか? 会ってほしい、自分たちの状況を訴えたいという人が多いのではないか? 副大臣、先伸ばし、いい加減にしてください。いつ結論を出して受け入れるのか。明確に回答してください」と語気を強めた。
昨年12月10日は、参議院本会議で立憲民主党の青木愛議員が質問。岸田文雄首相は「特別報告者の訪日受入れについては、新型コロナウイルス感染症の流行状況も見つつ、関係府省庁において検討を行っているところであると報告を受けている。東日本大震災の避難民の数は10年前より大きく減少はしているが、現在もなお避難されている方々は避難生活の長期化により状況が多様化しており、それぞれの状況に応じた丁寧な支援を行っていかなければならないと考えている」と答弁していた。


(上)再三にわたって日本政府の〝放置〟を指摘してきた山崎誠代議士。12日の衆議院経済産業委員会でも質問。小田原外務副大臣は「9月最終週から10月中旬にかけての訪日を打診する旨、伝達した」と答弁した
(下)国連人権高等弁務官事務所のホームページには、今月10日付で日本政府から招待された旨の記載がある
【「日本政府の招待必要」】
ダマリーさんは2018年8月30日、日本政府に訪日を要請。その後2020年1月と2021年6月にも念押しや督促を意味する「リマインダー」を出している。しかし、日本政府は新型コロナウイルスの感染拡大などを理由に〝放置〟。要請から4年経った今も実現には至っていない。
国連特別報告者の訪日について、イギリス在住でエセックス大学人権センターフェローの藤田早苗さんはこう解説する。
「国連特別報告者は世界からの公募を受け、人権理事会の慎重な審査を経て任命されます。私人として行動しているわけではありません。世界中の候補者のなかから公募で選ばれた、世界レベルの筋金入りの専門家。『王冠にのせる宝石』と言われるほど重要な役割を担っています。しかし、日本政府が公式に招待してくれないと訪日できません。日本政府は2011年3月1日以降、調査は原則として常時受け入れると表明していますが、NOとは言わないがいろいろな理由をつけて承諾しない。『居住の権利に関する特別報告者』も2017年8月に訪日する予定でしたが、内閣改造を理由にキャンセルされました。もし訪日が実現していたら、原発避難者の住宅問題も調査対象になっていたはずです」
昨年8月には、原発避難者などでつくる「国内避難民の人権に関する国連特別報告者による訪日調査を実現する会」が外務省に要望書を提出。
「国内避難に関する指導原則は,国内避難民である自主的避難者に対する基本的な避難所及び住宅の提供を求めていますから、住宅の無償提供打ち切りをそのまま放置するかのような状況が続くことは,指導原則の趣旨に反するのではないかという懸念を生じさせます。住宅の無償提供打ち切りでは複数の自死者が出ており,緊急かつ重要な問題であると私たちは考えています」
「それだけではなく,国内避難民の安全、健康の確保、教育の保障、家族の離散防止、差別の防止など、さまざまな問題で人としの尊厳、身体的、精神的、道徳的に健全である権利が尊重されているとは言えません」としたうえで「日本政府としてすみやかにダマリー特別報告者の訪日調査の受入の意思表明を行い、ダマリー特別報告者に連絡をとった上、年内に同氏が訪日した折りには同氏が必要な調査を行うことについて協力をしていただきたい」と求めていた。


2021年8月には、原発避難者たちが外務省に要望書を提出。「国内避難民の人権に関する国連特別報告者による訪日調査の要請について、速やかに受入の意思表明をした上、年内の訪日日程を確定してください」と求めた
【「避難者たちの生の声聞いて」】
これでようやく、ダマリーさんの訪日が実現するということで良いのか。
電話取材に応じた外務省人権人道課の担当者は小田原副大臣の答弁を読み上げたうえで「日程を打診しているというところから…。文書で日程を打診しておりますので」と繰り返し、日本政府から正式に打診していることを認めた。
長らく〝放置〟していたのに、なぜこのタイミングで訪日へ動き出したのか。その理由については「これまでずっと国内調整をしてきたし、特別報告者本人とも意見交換を随時してきた。それが整ったということ」と答えるにとどまった。
「原発賠償京都訴訟」や「子ども脱被ばく裁判」の代理人を務め、昨夏の要望書提出にも同行した田辺保雄弁護士は「ようやく実現することになり、うれしい。私たちが働きかけを続けてこなければ実現しなかったと思うし、一方で山崎誠代議士など各党の国会議員が動いてくれたことも大きかった」と話した。「ダマリーさんの訪日調査で、被害を見えなくされてしまっている区域外避難者(いわゆる〝自主避難者〟)の問題が明らかにされることを期待しています」。
要望書提出後に開かれた記者会見で、「原発避難者を公権力が裁判で訴えてでも追い出すという現実を海外の目でしっかり見ていただいて必要な勧告を日本政府に対してしてもらいたい」と話したのは、村田弘さん(南相馬市小高区から神奈川県に避難継続中)。
「全国に避難した人たちがこの10年間、どんな目に遭って来たか。その最たるものが住宅支援の打ち切り。命に関わる問題を政府は10年間ほったらかしにしてきた。原発避難者は棄てられた、棄民されたのです。国策として進めてきた原発が事故を起こして、それで生じた避難者たちを避難民として認めない、必要な手当てをしない、ということがまかり通っていることは本当に許せない」
ダマリーさん訪日調査実現に向けて奔走してきた区域外避難者の1人は、「2018年8月に最初の訪日調査要請を出されてから約4年間、ダマリーさんは福島原発事故による国内避難民の状況を心から心配し、救済策を支援することを願ってきました。約1年前に『実現する会』が立ち上がり、多方面からの協力を得て、正式決定まであと一歩の所まで来ています。外務省による誠意のない対応が続く中、辛抱強く、ネットワークを最大限に活用し、市民の力によって実現に向かっています。原発事故避難者、帰還者、避難したくてもできなかった方達など、さまざまな生の声をダマリーさんに聞いていただきたいです」との声を寄せた。
(了)
スポンサーサイト