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【134カ月目の汚染水はいま】福島の市民団体が東電に要請「理解と合意のない海洋放出設備工事は中止を」 内堀知事にも「事前了解願いに同意するな」

政府が昨年4月に決定した汚染水海洋放出方針に反対している福島の市民団体「これ以上海を汚すな!市民会議」のメンバーなどが25日午前、東京電力HD福島復興本社福島分室と福島県庁を訪れて要請書を提出。改めて東電に「理解と合意のない汚染水海洋放出設備工事の中止」などを、福島県には「事前了解願いに同意しないこと」などを求めた。まだ福島県からの同意もなく反対の声もあるが、東電は「許可の要らない工事」として海洋放出に向けた準備を着々と進めている。要請を受けた東電は取材者を退室させて意見交換したが具体的な回答はなし。民の声が無視されるなか、内堀雅雄知事の判断時期が迫っている。
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【「『きれいな海』約束できぬ」】
 東電への要請書で求めているのは5点。
 ①理解と合意のない汚染水海洋放出設備工事の本格着工は中止すること
 ②放出する全放射性核種の濃度、総量などの全情報の公開
 ③地下水の止水など、汚染水についての抜本対策を早急に確立すること
 ④福島県内はじめ全国での説明・公聴会の開催
 ⑤原子力センター所長発言の取り消しと謝罪


 また、福島県の内堀雅雄知事に対しては、次の4点を求めている。
 ①理解と合意なき海洋放出の事前了解には同意しないこと
 ②政府と東電に対し、放出する全放射性核種の濃度、総量などの全情報を公開させること
 ③政府と東電に対し、地下水の止水など汚染水対策の確立を求めること
 ④政府と東電に対し、説明・公聴会を県内および全国で開催するよう求めること


 東電福島復興本社福島分室では福島広報部の柴野剛氏が要請書を受け取った。市民団体からは4人が代表して意見交換に臨んだが、東電が取材者に許したのは〝頭撮り〟のみ。「私たちは意見交換の場での取材はお断りしている」、「取材者がいると本音で話せない」、「他の場面でもそうしている」などとして取材者に退室を求めた。記者たちが取材を求めると「退室しなければ始めない」と口にする始末。出席者によると、要請に対する東電側からの具体的なコメントはなかったという。
 東電に対しては「原子力センター所長発言の取り消しと謝罪」が含まれているが、これは今月13日に東電本社を訪れ、6月着工中止などを申し入れた際の発言に対する抗議。参加した母親が「子どもたちにきれいな海を残すことを約束してください」と求めたところ、原子力センター所長が「お約束しかねます」と答えた。この母親は東電本社前で「福島を馬鹿にするな」と叫んだという。要請書では「原発事故の責任を顧みない住民無視の企業体質が現れている」と強い口調で取り消しと謝罪を求めた。東電側は「発言を確認できていない」と答えたにとどまったという。

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(上)東電は福島広報部の柴野氏(左)が要請書を受け取った=東電福島復興本社福島分室
(中)福島県庁では、原子力安全対策課の伊藤繁課長が対応
(下)東電や福島県に提出された要請書。「理解と合意のない汚染水海洋放出設備工事の中止」などを改めて求めた

【「『漁連との約束』重い」】
 福島県庁では、原子力安全対策課の伊藤繁課長が対応。4項目の要請に対し、次のように答えた。
 「『漁連との約束』はわれわれも大変重いものだと考えている。経産大臣も『約束は守る』と言っており、確実に守られるよう求めていく」
 「水の安全性については、64核種以外の放射性物質も検出される可能性があり、改めて再検討するよう東電に求めている。放射性物質以外にも様々な化学物質もあるので適宜、情報の開示を求めていく」
 「凍土遮水壁も一定程度の遮水能力はあるが、年数も経過している。汚染水の発生そのものをゼロに近づけていくよう国と東電が早急に検討することを求めている」
 「県としても県民への説明の機会を設けるよう、国や東電に求めていきたい」

 市民団体側からは「国や東電に求めていく時期は過ぎた。具体的に計画しないと間に合わない。一緒にやりましょう」との意見が出たが、伊藤課長は「県として説明会や公聴会を開くのは難しい。国や東電に要望を伝える」と答えるにとどまった。
 南相馬市から参加した女性は「ALPS処理したり希釈したりしても『汚染水』には変わりない。塩分を控えるよう医師に指示されている人が、味噌汁にお湯を足して全部飲んだら『塩分を控えた』ことになるのか。それと同じではないか」と想いをぶつけた。
 県立学校を退職後、ベトナムで日本語教師をしている女性は「福島だけの問題でないどころか世界の問題。海水は数年かけて世界を一周する。世界中で風評ではなく実害をもたらす。みんなの声を国や東電にきちんと届けて欲しい」と訴えた。
 原発作業員として長年働いていた男性は「内堀知事は海洋放出に反対もせず国の良いなりになっているのはおかしい。福島県は国の下請け会社ではない。汚染水を海に流したら実害が生じる。海底トンネルを掘る金があるのならタンクを増やせ」と語気を強めた。
 終了後、取材に応じた伊藤課長は「県に出されている『事前了解願い』は、海洋放出計画に対する是非を検討するものではなく、安全確保協定という土俵のなかで、あくまでも設備計画の安全面の確認、周辺地域の放射線影響の確認という議論にならざるを得ない。科学的に安全面で問題ないという確認ができれば事前了解をしないという選択はかなり少なくなる」との見方を示した。「事前了解願い」に対する回答時期は「原子力規制委員会が認可をし、パブリックコメントでの意見を見たうえで判断したい」と答えた。

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(上)市民団体との意見交換では東電は取材者を排除。会議室の扉は閉ざされた
(中)福島県庁内の県政記者クラブで行われた記者会見。記者の数は少なかった
(下)共同代表の織田千代さんは記者会見で地元メディアに「反対の声を新聞やテレビでしっかり報じてください」と訴えた

【「県民は許していない」】
 「これ以上海を汚すな!市民会議」共同代表の織田千代さんは、福島県庁内の県政記者クラブで開いた記者会見で記者たちにこう訴えた。
 「先日、都内で抗議行動をしたときに『福島の人たちは汚染水の海洋放出を許してるんですか?』と質問されました。『報道からも、あまり反対の声は伝わってこないですね』と言われました。福島の報道関係者にお願いしたいです。私たちは本当に心配しています。汚染水を海に流して欲しくないです。その声を新聞やテレビでしっかり報じてください。本当に心配しています。やめて欲しいです。福島県民が許したなんて思われたくないです。どうぞよろしくお願いします」
 織田さんは東電でも福島県庁でも要請書を読み上げたが、声や手が震えていた。もちろん緊張もあったが、怒りに震えていたのだ。どれだけ反対の声をあげても無視される。事前了解の要らない工事だとして着々と海洋放出に向けた設備工事が進められる。地元メディアも反対の声を正面から取り上げてくれない…。記者クラブで怒りをぶつけたくなるのも当然だった。
 「これだけ反対しているのに工事が始まっている。東電にそれを指摘すると『あれは海に印をつけているようなものです』と言った。それで安心すると思っているのか。原発事故を起こした企業として責任をとろうとする姿勢が全く感じられない」
 「『風評を懸念している』とひとくくりにされるのは心外。そんなに風評を心配するなら汚染を拡げるような海洋放出をやめれば良い」
 同じく共同代表の佐藤和良さん(いわき市議)は「政府や東電は『漁業者はあきらめるだろう』と考えている。いわゆる〝風評対策〟にいくばくか積み増しすれば、全漁連が折れて福島県漁連も折れるんじゃないかと。生態系における海の意味を軽視しているというか想像力に欠けている」と国や東電の姿勢を批判した。そして、こう強調した。
 「県民は『理解』などしていないし、県民も汚染水の海洋放出に加担したと言われるのは本意ではない」
 市民団体のメンバーは東電でも頭を下げ、県職員の前でも頭を下げ、記者クラブでも頭を下げた。それでも「廃炉作業(燃料デブリの取り出し)の邪魔になる」との大義名分で海洋放出計画が着々と前進している。民の声は常に無視される。それでも声をあげる。



(了)
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プロフィール

鈴木博喜

Author:鈴木博喜
(メールは hirokix39@gmail.com まで)
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