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【福島原発かながわ訴訟】 「これほど被害者を馬鹿にした加害者があるか」 一審原告への反対尋問で露呈した東電の無反省、厚顔無恥~控訴審第11回口頭弁論

福島第一原発の事故で神奈川県内に避難した人々が国と東電を相手取って起こした「福島原発かながわ訴訟」(村田弘原告団長)の控訴審。第11回口頭弁論が3日、東京高裁101号法廷(小野瀬厚裁判長)で行われた。前回3月の期日に続き、男女3人の一審原告が尋問を受けたが、東電は避難生活の苦労や苦痛を全否定し、既に支払った賠償金も払いすぎたと詰め寄る厚顔無恥ぶり。尋問に臨んだ一審原告や代理人弁護士たちは閉廷後、「これほど被害者を馬鹿にした加害者がいるか」と怒りを口にした。次回期日は8月19日午前10時。一審原告側は秋にも裁判官による現地検証を実現させたい考え。
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【法廷で避難の苦痛を否定】
 閉廷後、衆議院第一議員会館で開かれた報告集会。東電に対する激しい怒りを口にしたのは、弁護団副団長の小賀坂徹弁護士だった。
 「これほど被害者を馬鹿にした加害者っていますか?それが今日の尋問に端的に現れていたのです。今日の尋問だけじゃなく、これまでずっとこうなんです。こんなことを繰り返していると原発事故などなくならないですよ。何の反省もないのだから。そのことを改めてかみしめて、東電に対して改めて強い抗議を示していかなきゃいけない」
 ふるさと喪失被害を訴える一審原告たちに対し、この日、東電の代理人弁護士が反対尋問で質したのは生い立ちや家族間のやりとりなど、NHKの番組「ファミリーヒストリー」を見せられているかのような内容ばかり。そして最終的には原発避難による苦労や苦痛を過小評価する方向に持って行く。その繰り返しだった。
 浪江町を追われた女性には、夫が若い頃横浜で暮らしていたことに関して根掘り葉掘り質問した挙げ句に「(現在の生活圏は)なじみの地域なのではないか」と言い放った。浪江でピアノ講師をしていた長女についても、横浜でピアノを有償で借り受け、生徒1人から苦労して生徒数を少しずつ増やしてきたことなど無視して「避難前より生徒数は増えている」、「(ピアノ講師としての力を高めるための)セミナーは地方より都会の方が多い」など、避難したことで好結果をもたらしているといわんばかりだった。
 「彼らが反対尋問で聴きたかったのは、要するに『避難生活っていうのはさほど大した苦労はないんだ』ということ。それをいろんな角度から突こうとしていた。横浜に以前暮らしていたことがありますよね、神奈川に友達いますよね…。これって何を聴きたかったのかというと、ふるさとを離れてふるさと喪失を主張している人に対して『いやいや元々横浜に住んでいたのだから、そんなに大したことないでしょ』、『そんなに寂しくないでしょ』ということ。馬鹿にするなという話です。仮に箱根に避難したら、温泉があるから良かったと言うのか。今日たまたまじゃなくて、これまでの東電の主張はずっとこうなのです」(小賀坂弁護士)

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(上)「これほど被害者を馬鹿にした加害者があるか」と怒りを口にした小賀坂弁護士
(下)弁護団事務局長の黒澤知弘弁護士も「東電は、原告に対して裁判をやっていることの不利益を感じさせるようなやり方をしている」と批判した=衆議院第一議員会館

【結婚の有無まで質問】
 長女だけではない。次女についても、目指していたイラストレーターの仕事ができているではないかと言わんばかりの質問を母親に浴びせた。やはり音楽の道に進んだ三女に関しても然り。しかも、東電の代理人弁護士は音楽教室や勤務先、音大のツイッターやブログなどSNSを入念にチェックしていて母親を驚かせた。反対尋問を担当した女性弁護士は、3人の娘全員について現在、結婚しているのかどうかまで尋ねた。
 だから、母親は尋問の最後にこう語気を強めた。
 「三女が内部被曝検査を受けたとき、検査結果を伝える方から『あなたたちは女の子だから、もしかしたら被曝している可能性もある。将来、子どもを産むときに何かあるかもしれないことだけは覚えておきなさい』と言われました。娘たちは、それを一生背負っていかなくちゃいけないという現実があります。簡単に結婚に踏み切れない部分もあります。そういう想いを心の奥に押し込めながら、今を楽しく生きなければならない。浪江で過ごした年数分の時間が突然なくなり、将来も訳が分からなくなり、でも時々、グーグルアースを通じてふるさとを想う…。原発避難しているということは、私たちの心の中に一生あり続けるのです」
 東電の代理人弁護士は、まるで一審原告たちが賠償金の不正受給をしているかのような物言いもした。
 楢葉町から避難した男性(現在はいわき市在住)に対して、東電側は妻の就労不能損害請求に関して「具体的にどのような求職活動をしていたのか」、「避難先での収入を考慮せず避難前の収入を基に賠償額を計算したことを知っているか」などと詰め寄った。
 南相馬市小高区から避難した男性(現在は宮城県仙台市在住)にも、「あなたはこの裁判で、自宅の土地・建物の財物損害の賠償を請求していますね。控訴審でも請求は維持されていますね。この裁判によって財物損害の額が確定した場合、その結果をふまえて住居確保損害の支払い可否や内容が判断されるということは聞いていないですか」とプレッシャーをかけた。
 閉廷後の報告集会で、原告団長の村田弘さん(南相馬市小高区からの避難継続中)は、呆れたように語った。
 「東電は、私たち原告一人一人について『個別準備書面』というものを出しています。『村田は会社勤めなどで横浜に二十数年暮らしていた。土地勘もあるし知人もいる』と。現在、一番下の娘夫婦と同居していますが、それについても『年齢を考えれば、孫と一緒に過ごしていることで平穏な生活を取り戻している』などと堂々と書いているのです。さらにみなし仮設住宅から民間賃貸住宅に転居した時期をとらえて『あなたの避難生活は2013年3月で終わってます』とまで。あなたに言われたくないよ、と東電に言いたい。東電の主張は全部そういう理屈で成り立っているのです」

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(上)浪江町からの避難を強いられた女性は、東電代理人弁護士による反対尋問に「変な質問ばかりだったが、裁判の一助になればと思って答えた」と怒りを押し殺して語った
(下)原告団長の村田弘さんも、避難生活の苦痛を過小評価する東電に「あなたに言われたくないよ」と怒った

【「3つの誓い」どこ吹く風】
  東電は5日、「福島原発避難者訴訟」の原告団に対し、小早川智明社長名の文書で〝謝罪〟した。
 「当社の起こした事故により、皆さまのかけがえのない生活やふるさとにとても大きな損害を与えたことにより、皆さまの人生を狂わせ、心身ともに取り返しのつかない被害を及ぼすなど、様々な影響をもたらしたことに対し、心から謝罪いたします。誠に申し訳ございません」
 「当社事故の避難指示により、着の身着のまま、状況も不透明な中で緊急的に避難されたことや、慣れない土地での生活に対する大変なご苦労をおかけし、いつふるさとに戻ることが出来るのかといったご不安など大変な苦悩を抱えられたこと、また、いまだ当社事故による爪跡は大きく、11年の歳月が経過しても、まちの風景や情景が元に戻っていないことなど、事故による被害の甚大さについて、事故の当事者として、その責任を痛切に感じております」
 しかし、法廷で被害者と対峙する姿はまるで逆。原発事故被害など大したことはなかった、これ以上ビタ一文払わないぞ、と上から見下しているのだ。ホームページでも公表されている「損害賠償の迅速かつ適切な実施のための方策」(いわゆる「3つの誓い」)など、どこ吹く風だ。
 報告集会で、小賀坂弁護士は語気を強めた。
 「東電は『直接請求やADRでむしろ必要以上に賠償金を払いすぎている、だから差し引け』と堂々と言っている。払いすぎている内容として『実際は大して苦しくないでしょ』と。こんなことを許して良いのかということをもう一度考えて欲しい。税金で生き長らえている企業ですよ、東電は。被害の実態よりも水増しをして請求しているのならともかく、本当は訴訟なんかやりたくない。裁判所に出てきて尋問など受けたくないが、どうしようもない賠償実態があるから苦労して立ち上がっている。そういう被害者に対して、『おまえら大したことないだろう』、『十分にもらいすぎているだろう』と。これはないでしょ。区域外避難者に対しては、書面では『避難指示が出ているわけではないから、いつ、どこに避難するかは自分で選べる。単身赴任と変わらないじゃないか』とまで言っているんですよ」
 一審原告側は秋にも、裁判官による現地検証を実現させたい考え。男性原告は尋問の最後に、裁判官にこう訴えた。
 「震災・原発事故後1年目、5年目、10年目と現地を見ていらっしゃるんですか?感じているんですか?町に行ったことはあるんですか?泊まったことはあるんですか?そういうことを踏まえたうえで判決を言い渡して欲しいです。あと、震災・原発事故前に戻して欲しい。私が見てきた自然、鳥の鳴き声や風の音、美味しい食べ物が戻って欲しい。それが今の私の気持ちです」
 東電の否定する原発事故被害の実相を見てから判断して欲しい。一審原告たちの切なる願いだ。



(了)
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鈴木博喜

Author:鈴木博喜
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