【原発避難者から住まいを奪うな】〝目には目を〟の内堀県政 知事を訴えた区域外避難者10世帯を逆提訴へ~国家公務員宿舎追い出し問題
- 2022/06/08
- 06:00
2011年3月の原発事故発生後に福島県から区域外避難(いわゆる〝自主避難〟)し、国家公務員宿舎への入居を続けている県民の追い出しを福島県が加速させている問題で、福島県が新たに10世帯を対象に〝追い出し訴訟〟を提起することが分かった。21日に始まる6月県議会に議案を提出するが、反対少数で可決される見通し。しかも〝追い出し〟の対象となっているのは、住宅提供打ち切りや家賃2倍請求など福島県の施策で精神的苦痛を受けたとして、今年3月に東京地裁に提訴した避難者。まさに〝目には目を〟とも言える逆提訴で、区域外避難者に対する内堀雅雄知事の姿勢が如実に現れた格好だ。

【「話し合い難しいと判断」】
福島県が新たに〝追い出し訴訟〟の対象として検討しているのは、福島県の避難指示区域外から避難した後に都内や埼玉県内の国家公務員宿舎に入居し、退去できないでいる10世帯。正式に提訴されれば現在、福島地裁で係争中の4世帯(うち1世帯は和解成立)に続く〝追い出し訴訟〟となる。
県避難地域復興局が県議会各会派に対して行った説明の資料には、次のように書かれている。
「11世帯が(応急仮設住宅)供与終了の違法性を主張し、県に対し損害賠償を求めて今年3月に訴えを起こしたため、話し合いによる解決が困難であると判断し、応訴の上、既に令和4年2月議会で民事調停について議決済みである1世帯を除く10世帯について、明渡しなどを求め提訴を検討しております」
21日に始める福島県議会6月議会に提訴議案が提出される見込みだが、福島県議会は共産党以外は〝オール与党〟状態。汚染水の海洋放出問題では「やや反対」の姿勢を打ち出している立憲民主党系の県議たちも、区域外避難者の住宅問題になると1人を除いてダンマリ。賛成意見も反対意見も表明しないまま〝追い出し訴訟議案〟に賛成してきた。今回も反対少数で可決されるとみられる。
実は、この10世帯は今年3月11日、福島県を相手取り損害賠償請求訴訟を東京地裁に起こしている。①福島県知事が応急仮設住宅としての住宅無償提供を2017年3月31日で打ち切った②福島県が避難先で災害復興住宅を建設しなかった③2019年4月1日以降、福島県が原告らを不法占拠者として扱い、親族訪問などの嫌がらせをした―によって精神的苦痛を味わったとして、1人100万円、計1100万円の支払いを請求。7月25日には、第1回口頭弁論が予定されている。
取材に応じた県生活拠点課の担当者は「相手の裁判に応じないと敗訴してしまうので、損害賠償請求訴訟については応訴したうえで、それとは別に、明け渡しについては話し合いによる解決が難しいと判断したので提訴を検討しているということ。相手(避難者側)の提訴がなければ話し合いによる解決の道を模索したと思う。国家公務員宿舎は国に返さなければならない。相手(避難者側)が提訴したことで、話し合いによる決着は難しくなった。われわれの望むところは話し合いによる解決だが、それが無理だとなればやむにやまれず訴訟を起こすしかない。同じ福島県民を訴えることなど好き好んでやっていない。それに訴訟費用もかかるから、話し合いによる解決が一番いい。それは支援団体の方々も同じだと思う」と語った。


(上)県当局が県議会各会派に配った資料。「話し合いによる解決が困難」、「転居支援を頑なに拒否」という言葉が並ぶ
(下)内堀雅雄知事は、区域外避難者への住宅無償提供を打ち切った2017年最後の定例会見で「共」という漢字を掲げた。しかし、原発避難者と共に話し合い、共に解決を目指す姿勢はみじんもみられない
【公開質問状にもゼロ回答】
「同じ福島県民を訴えることなど好き好んでやっていない」と県職員は言うが、これまで26回にわたって行われてきた「ひだんれん」(原発事故被害者団体連絡会)などとの話し合いは常に平行線をたどって来た。そもそも、内堀知事は避難当事者や支援者たちと一度も面会せず、意見や提言に耳を貸そうとして来なかった。
業を煮やした避難者側が「ひだんれん」、「『避難の権利』を求める全国避難者の会」、「避難の協同センター」連名で内堀知事に対する公開質問状を提出したが、5月23日までに寄せられた回答は全く答えになっていなかった。
「ひだんれん」幹事の村田弘さんは福島県庁内の記者クラブで開いた記者会見で「残念ながら私たちの質問について全く答えていない。非常に残念だし、一緒に話し合おうという姿勢がない。私たちはあきらめるつもりはありません。住宅問題では、たくさんの犠牲者が出ている。今後も話し合いを続けていくつもりです」と語った。
「県民と県知事が司法の場で争うなど最悪の状況だと考えています。こういう状況を招かないために、私たちは真剣に県当局にいろいろな話をしてきた。しかし、それについて全く誠意ある回答がなされずに、この状況に至っているのです。ちょっと考えてみてください。原発事故で同じ被害を受けた県民が県知事を相手取って法廷で争わなければならない。そういう事態になっているのです。異常事態だと思いませんか」
やはり「ひだんれん」幹事の熊本美彌子さんも「あまりにも言葉が上っ面でしかない。避難者の置かれた現状は回答のような上っ面なものではありません。住まいを奪われて、本当にどうすれば良いのか分からないのです。やむにやまれず福島県を訴えているのが現状ということを、ご理解いただきたい」と怒りを口にした。
「担当部局が対応する」という理由で自分は県庁の奥に引っ込み、その一方で国家公務員宿舎から退去できない県民を〝不法占拠〟だとして追い出し訴訟を起こす。福島県内で暮らす親族宅を本人に無断で調べて訪問し、退去に向けた〝協力〟が得られなければ法的手段も辞さないと脅す。それら職員の行為を止めるどころかゴーサインを出している。それが「原発避難者一人一人に寄り添う」と公言してはばからない内堀知事の真の姿なのだ。


「ひだんれん」などからの公開質問状に対し、福島県の内堀知事は正面から全く答えなかった。県庁内での記者会見で避難当事者たちは落胆と怒りを改めて口にした
【〝公平性〟と自立の強制】
「避難の協同センター」事務局長の瀬戸大作さんは、7日夜のオンライン学習会で区域外避難者の住宅問題について次のように指摘した。
「国会や福島県議会での十分な審議や本人合意がないまま進められてきた。福島県議会にはこの間、様々な要請をしてきたが、『(避難せず)福島で暮らしている県民感情を考えると区域外避難者だけを支援するわけにはいかない』という〝公平性〟を野党系議員も口にする。福島では全会一致状態でそういう雰囲気になっている。原発避難者たちがどういう暮らしをしているかということよりも〝公平性〟が優先されてしまう。そのなかで避難者たちが少数派にされてきた歴史がある」
「国は、期限を決めての『自立の強制』を続けている。以前、今村雅弘復興大臣が『原発避難は自己責任』という趣旨の発言をして辞任した。彼も『(避難者には)そろそろ自立してもらわないといけない』と言った。そもそも、原発事故の加害者である国が言うことなのか」
「国も福島県も2016年10月以降、区域外避難者の実数公表や生活実態についての調査を行っていない。区域外避難者についてあえて調査せずに、2017年3月で住宅の無償提供を打ち切っている。これは『住まいの権利裁判』でも出てくることになる」
「原発事故は水俣病の問題と共通することが多い。『賛否両論』を持ち込んだり、被害者同士を対立させたりする。証拠を残さない、時間稼ぎをする、被害を過小評価する…。僕らが一番恐れているのは被害者を疲弊させ、あきらめさせること。国がやっていることはずっと変らない」
「東京都の調査で、避難前と避難後で家計における収入と支出が大きく変ったことが分かっているにもかかわらず、よくも住宅無償提供を打ち切れたと今更ながら思う。長期間にわたる避難生活のなかで、ストレスやPTSD(心的外傷後ストレス障害)の問題は今も変らないと聞いている。精神的にも原発避難者は追い込まれている。『避難の協同センター』は、生活が苦しくて今日明日が厳しいという人に対して給付支援やアパート探し、初期費用の支援などをずっと行ってきた」
原発事故で県外に避難した県民がどのような暮らしを送っているか。生活実態を調べもせず、一方的に期限を決めて〝自立〟を迫り、できない県民には「家賃2倍請求」や「親族訪問」などで追い込んだ挙げ句に〝追い出し訴訟〟で国家公務員宿舎から立ち退かせる。こんな極悪非道の仕打ちを続ける内堀知事を県議会も支える。これが「話し合いによる解決」の実態なのだ。
(了)

【「話し合い難しいと判断」】
福島県が新たに〝追い出し訴訟〟の対象として検討しているのは、福島県の避難指示区域外から避難した後に都内や埼玉県内の国家公務員宿舎に入居し、退去できないでいる10世帯。正式に提訴されれば現在、福島地裁で係争中の4世帯(うち1世帯は和解成立)に続く〝追い出し訴訟〟となる。
県避難地域復興局が県議会各会派に対して行った説明の資料には、次のように書かれている。
「11世帯が(応急仮設住宅)供与終了の違法性を主張し、県に対し損害賠償を求めて今年3月に訴えを起こしたため、話し合いによる解決が困難であると判断し、応訴の上、既に令和4年2月議会で民事調停について議決済みである1世帯を除く10世帯について、明渡しなどを求め提訴を検討しております」
21日に始める福島県議会6月議会に提訴議案が提出される見込みだが、福島県議会は共産党以外は〝オール与党〟状態。汚染水の海洋放出問題では「やや反対」の姿勢を打ち出している立憲民主党系の県議たちも、区域外避難者の住宅問題になると1人を除いてダンマリ。賛成意見も反対意見も表明しないまま〝追い出し訴訟議案〟に賛成してきた。今回も反対少数で可決されるとみられる。
実は、この10世帯は今年3月11日、福島県を相手取り損害賠償請求訴訟を東京地裁に起こしている。①福島県知事が応急仮設住宅としての住宅無償提供を2017年3月31日で打ち切った②福島県が避難先で災害復興住宅を建設しなかった③2019年4月1日以降、福島県が原告らを不法占拠者として扱い、親族訪問などの嫌がらせをした―によって精神的苦痛を味わったとして、1人100万円、計1100万円の支払いを請求。7月25日には、第1回口頭弁論が予定されている。
取材に応じた県生活拠点課の担当者は「相手の裁判に応じないと敗訴してしまうので、損害賠償請求訴訟については応訴したうえで、それとは別に、明け渡しについては話し合いによる解決が難しいと判断したので提訴を検討しているということ。相手(避難者側)の提訴がなければ話し合いによる解決の道を模索したと思う。国家公務員宿舎は国に返さなければならない。相手(避難者側)が提訴したことで、話し合いによる決着は難しくなった。われわれの望むところは話し合いによる解決だが、それが無理だとなればやむにやまれず訴訟を起こすしかない。同じ福島県民を訴えることなど好き好んでやっていない。それに訴訟費用もかかるから、話し合いによる解決が一番いい。それは支援団体の方々も同じだと思う」と語った。


(上)県当局が県議会各会派に配った資料。「話し合いによる解決が困難」、「転居支援を頑なに拒否」という言葉が並ぶ
(下)内堀雅雄知事は、区域外避難者への住宅無償提供を打ち切った2017年最後の定例会見で「共」という漢字を掲げた。しかし、原発避難者と共に話し合い、共に解決を目指す姿勢はみじんもみられない
【公開質問状にもゼロ回答】
「同じ福島県民を訴えることなど好き好んでやっていない」と県職員は言うが、これまで26回にわたって行われてきた「ひだんれん」(原発事故被害者団体連絡会)などとの話し合いは常に平行線をたどって来た。そもそも、内堀知事は避難当事者や支援者たちと一度も面会せず、意見や提言に耳を貸そうとして来なかった。
業を煮やした避難者側が「ひだんれん」、「『避難の権利』を求める全国避難者の会」、「避難の協同センター」連名で内堀知事に対する公開質問状を提出したが、5月23日までに寄せられた回答は全く答えになっていなかった。
「ひだんれん」幹事の村田弘さんは福島県庁内の記者クラブで開いた記者会見で「残念ながら私たちの質問について全く答えていない。非常に残念だし、一緒に話し合おうという姿勢がない。私たちはあきらめるつもりはありません。住宅問題では、たくさんの犠牲者が出ている。今後も話し合いを続けていくつもりです」と語った。
「県民と県知事が司法の場で争うなど最悪の状況だと考えています。こういう状況を招かないために、私たちは真剣に県当局にいろいろな話をしてきた。しかし、それについて全く誠意ある回答がなされずに、この状況に至っているのです。ちょっと考えてみてください。原発事故で同じ被害を受けた県民が県知事を相手取って法廷で争わなければならない。そういう事態になっているのです。異常事態だと思いませんか」
やはり「ひだんれん」幹事の熊本美彌子さんも「あまりにも言葉が上っ面でしかない。避難者の置かれた現状は回答のような上っ面なものではありません。住まいを奪われて、本当にどうすれば良いのか分からないのです。やむにやまれず福島県を訴えているのが現状ということを、ご理解いただきたい」と怒りを口にした。
「担当部局が対応する」という理由で自分は県庁の奥に引っ込み、その一方で国家公務員宿舎から退去できない県民を〝不法占拠〟だとして追い出し訴訟を起こす。福島県内で暮らす親族宅を本人に無断で調べて訪問し、退去に向けた〝協力〟が得られなければ法的手段も辞さないと脅す。それら職員の行為を止めるどころかゴーサインを出している。それが「原発避難者一人一人に寄り添う」と公言してはばからない内堀知事の真の姿なのだ。


「ひだんれん」などからの公開質問状に対し、福島県の内堀知事は正面から全く答えなかった。県庁内での記者会見で避難当事者たちは落胆と怒りを改めて口にした
【〝公平性〟と自立の強制】
「避難の協同センター」事務局長の瀬戸大作さんは、7日夜のオンライン学習会で区域外避難者の住宅問題について次のように指摘した。
「国会や福島県議会での十分な審議や本人合意がないまま進められてきた。福島県議会にはこの間、様々な要請をしてきたが、『(避難せず)福島で暮らしている県民感情を考えると区域外避難者だけを支援するわけにはいかない』という〝公平性〟を野党系議員も口にする。福島では全会一致状態でそういう雰囲気になっている。原発避難者たちがどういう暮らしをしているかということよりも〝公平性〟が優先されてしまう。そのなかで避難者たちが少数派にされてきた歴史がある」
「国は、期限を決めての『自立の強制』を続けている。以前、今村雅弘復興大臣が『原発避難は自己責任』という趣旨の発言をして辞任した。彼も『(避難者には)そろそろ自立してもらわないといけない』と言った。そもそも、原発事故の加害者である国が言うことなのか」
「国も福島県も2016年10月以降、区域外避難者の実数公表や生活実態についての調査を行っていない。区域外避難者についてあえて調査せずに、2017年3月で住宅の無償提供を打ち切っている。これは『住まいの権利裁判』でも出てくることになる」
「原発事故は水俣病の問題と共通することが多い。『賛否両論』を持ち込んだり、被害者同士を対立させたりする。証拠を残さない、時間稼ぎをする、被害を過小評価する…。僕らが一番恐れているのは被害者を疲弊させ、あきらめさせること。国がやっていることはずっと変らない」
「東京都の調査で、避難前と避難後で家計における収入と支出が大きく変ったことが分かっているにもかかわらず、よくも住宅無償提供を打ち切れたと今更ながら思う。長期間にわたる避難生活のなかで、ストレスやPTSD(心的外傷後ストレス障害)の問題は今も変らないと聞いている。精神的にも原発避難者は追い込まれている。『避難の協同センター』は、生活が苦しくて今日明日が厳しいという人に対して給付支援やアパート探し、初期費用の支援などをずっと行ってきた」
原発事故で県外に避難した県民がどのような暮らしを送っているか。生活実態を調べもせず、一方的に期限を決めて〝自立〟を迫り、できない県民には「家賃2倍請求」や「親族訪問」などで追い込んだ挙げ句に〝追い出し訴訟〟で国家公務員宿舎から立ち退かせる。こんな極悪非道の仕打ちを続ける内堀知事を県議会も支える。これが「話し合いによる解決」の実態なのだ。
(了)
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