【参院選2022】今回も原発事故被災地・福島で第一声 平身低頭する〝前座長〟への応援演説で岸田首相が語ったこと、語らなかったこと
- 2022/06/23
- 22:24
田んぼ、果樹園、温泉街に続いて選んだのは農産物直売所―。第26回参議院選挙が22日公示され、岸田文雄首相(自民党総裁)が原発事故から11年3カ月後の福島県福島市で第一声を行った。昨秋の総選挙と同様「しっかり」を連呼しながら「福島に対する想いは、まだまだ強い」、「これからもしっかりと私たちは大事にしていきます」などとリップサービスを連発したが、汚染水の海洋放出計画や原発事故への国の責任、区域外避難者の住宅問題など、原発事故後に山積する課題には一切言及しなかった。国政選挙のたびに利用されながら、本当の意味での被害回復にはほど遠い原発事故被災地・福島。そこで岸田首相は何を語り何を語らなかったのか。

【「福島は特別な場所」】
「第26回参議院選挙。いよいよ今日、公示されました。私はここ福島から第一声をあげさせていただきます」
昨秋の総選挙では福島市の土湯温泉を訪れた岸田首相。今回は福島県福島市内の農産物直売所で〝第一声〟を行った。
「福島は私たち自民党にとって特別な場所です」
原発事故被害の矮小化に努め、原発再稼働を加速させようとする自民党にとって、原発事故被災地・福島は〝初心〟を思い出させる場所なのだそうだ。
「東日本大震災からの復興、これは10年前政権を奪還した自民党にとって原動力でありました。11年前の震災のとき、私たち自民党は野党でありました。野党であった自民党が当時謙虚に自らを振り返り、改めて国民政党として、また責任政党として、国民のために働こう、こうした強い決意。福島はそうした私たちの初心。さらには当時野党であった自民党に対して多くの皆さんから厳しい叱責をいただきました。また激励もいただきました。そうした多くのみなさんの想いを思い返させてくれる場所、それが福島であります」
そして、今月5日に葛尾村を訪れたことが「うれしかった」と語った。
「私は今月初め、えー葛尾村を訪問させていただきました。特定復興再生拠点区域の避難指示解除を直接、葛尾村の皆さんに伝えさせていただくため、足を運ばさせていただき、地元の皆さんのお祭りにも参加させていただき、前向きにがんばっておられる皆さんの気持ちに心打たれました。震災から11年。なかなか帰還することが難しいと言われてきたこの帰還困難地域に初めて住民の方に帰っていただくことを直接、お伝えすることができたこと。大変うれしく思いました」
しかし、同じく帰還困難区域に指定されている浪江町津島地区の住民は冷ややかだ。
「昨秋の住民説明会では『特定復興再生拠点区域外の住民に帰還意向調査をする』と言っていたけれど、いまだに何もない。結局は拠点区域だけ除染して避難指示を解除し、ごまかすのだろう」




岸田首相は第一声で「福島は私たち自民党にとって特別な場所です」とは口にしたものの、原発汚染水の海洋放出計画や原発事故への国の責任、区域外避難者の住宅問題には一切、言及しなかった
【リップサービスの陰で…】
岸田首相の応援演説は17分間続いた。リップサービスのたびに、動員されたJA関係者や亀岡偉民代議士後援会関係者などから拍手が起きた。
「福島に対する想いは、まだまだ強いものがあり、そしてこれからもしっかりと私たちは大事にしていきます」
「福島においては福島国際教育研究機構という新しい組織が立ち上がる。世界的な研究拠点が福島において立ち上がる。これは福島のみならずニッポンそして世界が注目する大きな出来事です。ぜひここから福島の未来を切り開いていかなければなりません」
「福島の日本酒は全国新酒鑑評会において9年連続金賞の数が一番。日本一のお酒、これが福島のお酒ですが、政府においては2024年、この日本酒、そして酒造りをユネスコの世界文化遺産登録をするということで今努力を続けています」
しかし、原発事故に対する国の責任に関する言及は一切なし。いまだ反対の声が多い原発汚染水の海洋放出計画についても何も語らなかった。福島県による追い出し訴訟にまで発展している区域外避難者の住宅問題など知らないのだろう。語れるはずもなかった。
逆にリップサービスに隠れさせるように重要な発言もあった。
「安全保障環境が不安定ななかにあって、国民の命や暮らしを守るために十分な備えができているのか今一度見直していこうということで、年末に向けて国家安全保障戦略という国の基本的な計画を見直すなかで、十分な備えができているかしっかりと確認していく」
「世界中の国々が物価高騰に耐えながら努力をしている。アフリカにおいては食糧不足に耐えながらも平和を守るためだということで努力をしている。こうした世界の状況ですから、ニッポンにおいても国民のみなさんのご協力をいただきながら、政府は国民のみなさんの命、そして暮らし、そして仕事を守るために万全の体制をしっかり用意し備えていきたい。ぜひご理解いただきたい」
〝軍拡〟については自民党福島県連会長で、星北斗候補の総合選対本部長を務める根本匠代議士(郡山市)が踏み込んだ発言をした。
「今回のウクライナ危機、これは対岸の火事ではない。ニッポンの安全を自らの手で守る。抜本的な安全保障を強化します。そして憲法。いまだに自衛隊の違憲論がある。憲法に自衛隊の根拠規定を書くこと。これが他の国からの侵略の抑止力になる」




平身低頭の星候補は、岸田首相と何度もグータッチ。そこには、座長を務めた県民健康調査検討委員会で見せたふてぶてしさはなかった
【平身低頭は仮の姿?】
公認候補への賛辞も忘れない。
「郡山の中核病院の理事長として、また医療だけではなくして介護、看護、保育、えー福祉…さまざまな分野で活躍してこられた。かつては厚生省の医系技官としても活躍をされた。東日本大震災の際には県民のみなさんの健康調査の検討委員の座長として先頭に立って難しい課題に取り組んでこられた。まさに福島県の県民のみなさんの命と暮らしを守り続けた」
「星さんと接した多くのみなさんが『星さんは話し好きで本当に温かい人、ユーモアのある人だ』と言います。ウクレレ、音楽を愛し、さらには料理を愛する。こうした星さん。素晴らしい人間力を持っているということも、ぜひ私からも申し上げさせていただきたいと思います。この人間力で間違いなくみなさんの気持ちに寄り添って国会で仕事をしてくれる。また素晴らしい行動力で即戦力として国会でがんばってくれる。これが星さんだ」
根本代議士も「私は星北斗候補がいかに優れた候補か。私は一緒にやってきたから分かりますよ。星北斗さんは使命感そして構想力が豊かで、そして具体的にコロナ対応の具体的な仕組みをつくってきた。政策をつくる力がある。調整能力がある。だからわれわれは星北斗さんは即戦力だと思っています。だから私も星北斗さんに期待しているのは、国政も県政も私の右腕になってもらって、そしてこれからのしっかりとした国政を切り開いていきたいと、心の底からそう思います」と持ち上げた。
しかし、「話し好きでユーモアのある人」がなぜ、座長を務めた県民健康調査検討委員会では委員に皮肉交じりの言葉を連発したのだろう。「素晴らしい人間力」や「調整能力」を備えた人がなぜ、記者会見では正面から答えず、早く帰りたいとばかりにリュックサックを腕で抱えるような振る舞いをしたのだろうか。
星候補の人間性について自民党福島県連関係者にぶつけると、否定はしなかった。
「われわれのところにも『何だあいつは』、『ふんぞり返りやがって』という声が届いている。でも、公示に向けて県内各地を巡っているうちに本人も変わった。選挙は人を変える。ただ、議員になって元に戻らないようにしなければ…」
それが岸田首相の言う「素晴らしい人間力」の正体なのだ。駆けつけた岸田首相に深々と頭を下げ、何度もグータッチをした姿がもし本物なら、原発事故被害者にもっと寄り添ってきたはずだからだ。
(了)

【「福島は特別な場所」】
「第26回参議院選挙。いよいよ今日、公示されました。私はここ福島から第一声をあげさせていただきます」
昨秋の総選挙では福島市の土湯温泉を訪れた岸田首相。今回は福島県福島市内の農産物直売所で〝第一声〟を行った。
「福島は私たち自民党にとって特別な場所です」
原発事故被害の矮小化に努め、原発再稼働を加速させようとする自民党にとって、原発事故被災地・福島は〝初心〟を思い出させる場所なのだそうだ。
「東日本大震災からの復興、これは10年前政権を奪還した自民党にとって原動力でありました。11年前の震災のとき、私たち自民党は野党でありました。野党であった自民党が当時謙虚に自らを振り返り、改めて国民政党として、また責任政党として、国民のために働こう、こうした強い決意。福島はそうした私たちの初心。さらには当時野党であった自民党に対して多くの皆さんから厳しい叱責をいただきました。また激励もいただきました。そうした多くのみなさんの想いを思い返させてくれる場所、それが福島であります」
そして、今月5日に葛尾村を訪れたことが「うれしかった」と語った。
「私は今月初め、えー葛尾村を訪問させていただきました。特定復興再生拠点区域の避難指示解除を直接、葛尾村の皆さんに伝えさせていただくため、足を運ばさせていただき、地元の皆さんのお祭りにも参加させていただき、前向きにがんばっておられる皆さんの気持ちに心打たれました。震災から11年。なかなか帰還することが難しいと言われてきたこの帰還困難地域に初めて住民の方に帰っていただくことを直接、お伝えすることができたこと。大変うれしく思いました」
しかし、同じく帰還困難区域に指定されている浪江町津島地区の住民は冷ややかだ。
「昨秋の住民説明会では『特定復興再生拠点区域外の住民に帰還意向調査をする』と言っていたけれど、いまだに何もない。結局は拠点区域だけ除染して避難指示を解除し、ごまかすのだろう」




岸田首相は第一声で「福島は私たち自民党にとって特別な場所です」とは口にしたものの、原発汚染水の海洋放出計画や原発事故への国の責任、区域外避難者の住宅問題には一切、言及しなかった
【リップサービスの陰で…】
岸田首相の応援演説は17分間続いた。リップサービスのたびに、動員されたJA関係者や亀岡偉民代議士後援会関係者などから拍手が起きた。
「福島に対する想いは、まだまだ強いものがあり、そしてこれからもしっかりと私たちは大事にしていきます」
「福島においては福島国際教育研究機構という新しい組織が立ち上がる。世界的な研究拠点が福島において立ち上がる。これは福島のみならずニッポンそして世界が注目する大きな出来事です。ぜひここから福島の未来を切り開いていかなければなりません」
「福島の日本酒は全国新酒鑑評会において9年連続金賞の数が一番。日本一のお酒、これが福島のお酒ですが、政府においては2024年、この日本酒、そして酒造りをユネスコの世界文化遺産登録をするということで今努力を続けています」
しかし、原発事故に対する国の責任に関する言及は一切なし。いまだ反対の声が多い原発汚染水の海洋放出計画についても何も語らなかった。福島県による追い出し訴訟にまで発展している区域外避難者の住宅問題など知らないのだろう。語れるはずもなかった。
逆にリップサービスに隠れさせるように重要な発言もあった。
「安全保障環境が不安定ななかにあって、国民の命や暮らしを守るために十分な備えができているのか今一度見直していこうということで、年末に向けて国家安全保障戦略という国の基本的な計画を見直すなかで、十分な備えができているかしっかりと確認していく」
「世界中の国々が物価高騰に耐えながら努力をしている。アフリカにおいては食糧不足に耐えながらも平和を守るためだということで努力をしている。こうした世界の状況ですから、ニッポンにおいても国民のみなさんのご協力をいただきながら、政府は国民のみなさんの命、そして暮らし、そして仕事を守るために万全の体制をしっかり用意し備えていきたい。ぜひご理解いただきたい」
〝軍拡〟については自民党福島県連会長で、星北斗候補の総合選対本部長を務める根本匠代議士(郡山市)が踏み込んだ発言をした。
「今回のウクライナ危機、これは対岸の火事ではない。ニッポンの安全を自らの手で守る。抜本的な安全保障を強化します。そして憲法。いまだに自衛隊の違憲論がある。憲法に自衛隊の根拠規定を書くこと。これが他の国からの侵略の抑止力になる」




平身低頭の星候補は、岸田首相と何度もグータッチ。そこには、座長を務めた県民健康調査検討委員会で見せたふてぶてしさはなかった
【平身低頭は仮の姿?】
公認候補への賛辞も忘れない。
「郡山の中核病院の理事長として、また医療だけではなくして介護、看護、保育、えー福祉…さまざまな分野で活躍してこられた。かつては厚生省の医系技官としても活躍をされた。東日本大震災の際には県民のみなさんの健康調査の検討委員の座長として先頭に立って難しい課題に取り組んでこられた。まさに福島県の県民のみなさんの命と暮らしを守り続けた」
「星さんと接した多くのみなさんが『星さんは話し好きで本当に温かい人、ユーモアのある人だ』と言います。ウクレレ、音楽を愛し、さらには料理を愛する。こうした星さん。素晴らしい人間力を持っているということも、ぜひ私からも申し上げさせていただきたいと思います。この人間力で間違いなくみなさんの気持ちに寄り添って国会で仕事をしてくれる。また素晴らしい行動力で即戦力として国会でがんばってくれる。これが星さんだ」
根本代議士も「私は星北斗候補がいかに優れた候補か。私は一緒にやってきたから分かりますよ。星北斗さんは使命感そして構想力が豊かで、そして具体的にコロナ対応の具体的な仕組みをつくってきた。政策をつくる力がある。調整能力がある。だからわれわれは星北斗さんは即戦力だと思っています。だから私も星北斗さんに期待しているのは、国政も県政も私の右腕になってもらって、そしてこれからのしっかりとした国政を切り開いていきたいと、心の底からそう思います」と持ち上げた。
しかし、「話し好きでユーモアのある人」がなぜ、座長を務めた県民健康調査検討委員会では委員に皮肉交じりの言葉を連発したのだろう。「素晴らしい人間力」や「調整能力」を備えた人がなぜ、記者会見では正面から答えず、早く帰りたいとばかりにリュックサックを腕で抱えるような振る舞いをしたのだろうか。
星候補の人間性について自民党福島県連関係者にぶつけると、否定はしなかった。
「われわれのところにも『何だあいつは』、『ふんぞり返りやがって』という声が届いている。でも、公示に向けて県内各地を巡っているうちに本人も変わった。選挙は人を変える。ただ、議員になって元に戻らないようにしなければ…」
それが岸田首相の言う「素晴らしい人間力」の正体なのだ。駆けつけた岸田首相に深々と頭を下げ、何度もグータッチをした姿がもし本物なら、原発事故被害者にもっと寄り添ってきたはずだからだ。
(了)
スポンサーサイト