【浪江原発訴訟】「3つの誓い」など忘れて反対尋問で牙をむく東電 賠償金額まで詳細に暴露して「払いすぎ」アピール?~福島地裁で第12回口頭弁論
- 2022/06/25
- 12:20
集団ADRでの和解案(慰謝料一律増額)を東京電力が6回にわたって拒否し続けた問題で、浪江町民が国や東電を相手取って起こした「浪江原発訴訟」の第12回口頭弁論が22日、福島地裁203号法廷(小川理佳裁判長)で終日行われた。鈴木正一原告団長など3人の原告に対する本人尋問が行われたが、東電の代理人弁護士は反対尋問で既に支払った賠償金額を1円単位まで明らかにする〝暴挙〟に出て、あたかも被害者である原告が賠償金を受け取りすぎているかのような質問攻めを続けた。そこには「最後の一人が新しい生活を迎えることが出来るまで、被害者の方々に寄り添い賠償を貫徹する」などと高らかに掲げた「3つの誓い」の精神など微塵もなかった。

【早口で責める東電代理人】
休憩時間。3人の裁判官がいったん退廷すると、傍聴席の男性原告が怒りをあらわにした。
「賠償金額なんか言うなって。それも1円単位まで…。住民それぞれで金額が違うんだから。そもそも、こちらで請求したものを審査して削って支払ったくせに、東電は何を言っているんだよ。普通は加害者側が『これで勘弁してください』って被害者に支払うのが賠償金でしょ。原発事故は逆だもん。被害者が請求したものを削ってるんだもん。原発は安全だ安全だとばかり言ってきて、事故なんか起きませんと言ってきて、いざ事故が起きたからこれだもんな。ふざけんなって」
男性が怒るのも無理もない。東電の代理人弁護士は反対尋問で原告がこれまでに受け取った賠償金を細目ごとに1円単位で口にし、記憶にあるか確かめたのだ。法廷で書面を原告に見せ、「これで間違いはないか」と尋ねることはある。しかし、少なくとも筆者が取材している限りでは、東電の代理人弁護士が具体的な賠償金額を口にするのを目の当たりにしたのは初めてだった。
「これまでに損害賠償として被告東電からいくらの支払いを受けていますか?」
「東電資料によれば、あなたの世帯では総額約××××万円の支払いを受けていますが、覚えていますか?」
「では、あなたの世帯は慰謝料としては東電からいくらの賠償を受けたでしょうか?」
「あなたの事故時の住所は避難指示解除準備区域に指定されていたが、避難指示解除準備区域の住民に対する慰謝料の基準額はご存じですか?」
「この資料は東電が賠償金請求を受けて支払った土地と建物に対する賠償金額です。右端の算定額欄に××××万××××円と記載されていますね?」
東電の代理人弁護士は、原告の答えが終わらないうちに矢継ぎ早に次の質問をぶつける。これではまるで、原発事故の被害者である原告が賠償金を不正に受け取ったと責め立てられているかのようだ。
これは刑事裁判ではない。原告は原発事故の被害者であって被告人ではない。小川裁判長もさすがに「争いがあるという前提での質問なんですか?」と質したが、東電の代理人弁護士は意に介さず答えた。
「認識を確認しております。賠償金額の事実関係を…」


尋問に臨んだ原告たちは一様に「何の尋問だったのか」と首をかしげ、「カチンときた」と怒りを口にした=ラコパ福島
【「聞かれたことに答えろ」】
そもそも、ただでさえ緊張する法廷のど真ん中で、細かい賠償金額を示されて「受け取りましたよね?」、「覚えていますか?」などと詰め寄られても、正確に答えられるはずがない。
だから、尋問に臨んだ女性原告は次のように答えるしかなかった。
「ちょっと詳しいことは分かりません」
「よく分かりませんね、ごめんなさい」
「詳しくは分かりません」
「書いてある通りなんでしょうね。はっきりした数字は分かりません」
この女性原告は、あまりに矢継ぎ早に質問されて混乱してしまった。
「なんだか分からなくなってきました。その通りでしょう」
こうして被害者を責め立てるのが、加害企業・東電の法廷での姿なのだ。
男性原告も、同じような質問に「細かい数字は分かりませんが、だいたいそのぐらいだと…」、「細かい数字は分かりません」、「金額的なことは覚えてないです」と答えるしかない。しかし、東電の代理人弁護士による質問攻めにとうとう、怒りを抑えられなくなって反論した。
「この金額は、私が請求した金額ではありません。それに、この金額で納得したという同意書を東電からもらっているんですよ」
この言葉は、休憩時間にある原告が筆者に発した「こちらで請求したものを審査して削って支払った」という言葉に通じる。賠償金は請求した満額が支払われるわけではない。あれこれ難癖をつけた挙げ句、東電が渋々納得して支払われたものだ。それを今になって「むしろ多く支払った」、「東電は被害者に支払いすぎている」と言わんばかりの尋問。しかし、東電側にとっては想定内の反論なのか、まったく動じることなく言い放った。
「こちらからの質問に答えていただければ良いです」
「聞かれたことに答えていただければ…」
そこには加害企業としての想いや、被害者への寄り添った姿勢など微塵もない。「福島原発かながわ訴訟」控訴審での反対尋問でも露呈したように、「これ以上請求するな」、「東電相手に裁判など起こすとこういう仕打ちを受けるのだぞ」と言わんばかりの態度なのだ。


東電は「3つの誓い」で「最後の一人が新しい生活を迎えることが出来るまで、被害者の方々に寄り添い賠償を貫徹する」などと掲げているが、法廷での振る舞いは真逆。弁護団事務局長の濱野泰嘉弁護士は「改善されるべき」と語った
【「何の尋問だったのか…」】
閉廷後の報告集会で、尋問に臨んだ3人の原告たち尾は一様に怒りと困惑を口にした。
鈴木団長は「正直言って緊張しました。東電も国も何を質問しているのか分からない。賠償金額の確認ばかり。あんなくだらないことで何で大事な時間をつぶしてしまうのか。東電の代理人弁護士は裁判をなんだと思っているのか。私たちが当たり前にやってきたことをいちいち確認するばかり。何の尋問だったのかさっぱり分からなかった」と首をかしげた。
男性原告は、改めて東電への怒りを口にした。
「何とか無事に終わってホッとしているところです。向こうの挑発に乗るな、興奮するなと事前に言われていたのですが、あの場に立つと、ふざけんなという気持ちになってしまって…。あの賠償金は俺が計算した金額ではないんです。あんた方がこれでどうだと同意書をつくって俺がサインしただけの話。カチンときて、それを法廷で言った。金額を羅列するだけであんな時間を費やすなんて無駄です」
既に支払った賠償金について、東電の代理人弁護士が法廷で1円単位で明らかにしたことについて、弁護団事務局長の濱野泰嘉弁護士は「必ずしも〝なし〟ではないが、改善されるべきところだと考えている」と語った。
次回8月19日の弁論期日では、4人の原告に対する尋問が予定されている。また、原告側は大阪公立大の除本理史氏など3人の専門家証人に対する尋問を申請しているが、この採否も次回期日には決まる見通しだという。
東電はホームページでも公開している「3つの誓い」で「最後の一人が新しい生活を迎えることが出来るまで、被害者の方々に寄り添い賠償を貫徹する」などと掲げている。しかし、現実には被害者に寄り添うどころか責め立てる。そして被爆不安や避難生活の苦労には正面から向き合わない。どちらが本音か、もはや明らかであろう。
(了)

【早口で責める東電代理人】
休憩時間。3人の裁判官がいったん退廷すると、傍聴席の男性原告が怒りをあらわにした。
「賠償金額なんか言うなって。それも1円単位まで…。住民それぞれで金額が違うんだから。そもそも、こちらで請求したものを審査して削って支払ったくせに、東電は何を言っているんだよ。普通は加害者側が『これで勘弁してください』って被害者に支払うのが賠償金でしょ。原発事故は逆だもん。被害者が請求したものを削ってるんだもん。原発は安全だ安全だとばかり言ってきて、事故なんか起きませんと言ってきて、いざ事故が起きたからこれだもんな。ふざけんなって」
男性が怒るのも無理もない。東電の代理人弁護士は反対尋問で原告がこれまでに受け取った賠償金を細目ごとに1円単位で口にし、記憶にあるか確かめたのだ。法廷で書面を原告に見せ、「これで間違いはないか」と尋ねることはある。しかし、少なくとも筆者が取材している限りでは、東電の代理人弁護士が具体的な賠償金額を口にするのを目の当たりにしたのは初めてだった。
「これまでに損害賠償として被告東電からいくらの支払いを受けていますか?」
「東電資料によれば、あなたの世帯では総額約××××万円の支払いを受けていますが、覚えていますか?」
「では、あなたの世帯は慰謝料としては東電からいくらの賠償を受けたでしょうか?」
「あなたの事故時の住所は避難指示解除準備区域に指定されていたが、避難指示解除準備区域の住民に対する慰謝料の基準額はご存じですか?」
「この資料は東電が賠償金請求を受けて支払った土地と建物に対する賠償金額です。右端の算定額欄に××××万××××円と記載されていますね?」
東電の代理人弁護士は、原告の答えが終わらないうちに矢継ぎ早に次の質問をぶつける。これではまるで、原発事故の被害者である原告が賠償金を不正に受け取ったと責め立てられているかのようだ。
これは刑事裁判ではない。原告は原発事故の被害者であって被告人ではない。小川裁判長もさすがに「争いがあるという前提での質問なんですか?」と質したが、東電の代理人弁護士は意に介さず答えた。
「認識を確認しております。賠償金額の事実関係を…」


尋問に臨んだ原告たちは一様に「何の尋問だったのか」と首をかしげ、「カチンときた」と怒りを口にした=ラコパ福島
【「聞かれたことに答えろ」】
そもそも、ただでさえ緊張する法廷のど真ん中で、細かい賠償金額を示されて「受け取りましたよね?」、「覚えていますか?」などと詰め寄られても、正確に答えられるはずがない。
だから、尋問に臨んだ女性原告は次のように答えるしかなかった。
「ちょっと詳しいことは分かりません」
「よく分かりませんね、ごめんなさい」
「詳しくは分かりません」
「書いてある通りなんでしょうね。はっきりした数字は分かりません」
この女性原告は、あまりに矢継ぎ早に質問されて混乱してしまった。
「なんだか分からなくなってきました。その通りでしょう」
こうして被害者を責め立てるのが、加害企業・東電の法廷での姿なのだ。
男性原告も、同じような質問に「細かい数字は分かりませんが、だいたいそのぐらいだと…」、「細かい数字は分かりません」、「金額的なことは覚えてないです」と答えるしかない。しかし、東電の代理人弁護士による質問攻めにとうとう、怒りを抑えられなくなって反論した。
「この金額は、私が請求した金額ではありません。それに、この金額で納得したという同意書を東電からもらっているんですよ」
この言葉は、休憩時間にある原告が筆者に発した「こちらで請求したものを審査して削って支払った」という言葉に通じる。賠償金は請求した満額が支払われるわけではない。あれこれ難癖をつけた挙げ句、東電が渋々納得して支払われたものだ。それを今になって「むしろ多く支払った」、「東電は被害者に支払いすぎている」と言わんばかりの尋問。しかし、東電側にとっては想定内の反論なのか、まったく動じることなく言い放った。
「こちらからの質問に答えていただければ良いです」
「聞かれたことに答えていただければ…」
そこには加害企業としての想いや、被害者への寄り添った姿勢など微塵もない。「福島原発かながわ訴訟」控訴審での反対尋問でも露呈したように、「これ以上請求するな」、「東電相手に裁判など起こすとこういう仕打ちを受けるのだぞ」と言わんばかりの態度なのだ。


東電は「3つの誓い」で「最後の一人が新しい生活を迎えることが出来るまで、被害者の方々に寄り添い賠償を貫徹する」などと掲げているが、法廷での振る舞いは真逆。弁護団事務局長の濱野泰嘉弁護士は「改善されるべき」と語った
【「何の尋問だったのか…」】
閉廷後の報告集会で、尋問に臨んだ3人の原告たち尾は一様に怒りと困惑を口にした。
鈴木団長は「正直言って緊張しました。東電も国も何を質問しているのか分からない。賠償金額の確認ばかり。あんなくだらないことで何で大事な時間をつぶしてしまうのか。東電の代理人弁護士は裁判をなんだと思っているのか。私たちが当たり前にやってきたことをいちいち確認するばかり。何の尋問だったのかさっぱり分からなかった」と首をかしげた。
男性原告は、改めて東電への怒りを口にした。
「何とか無事に終わってホッとしているところです。向こうの挑発に乗るな、興奮するなと事前に言われていたのですが、あの場に立つと、ふざけんなという気持ちになってしまって…。あの賠償金は俺が計算した金額ではないんです。あんた方がこれでどうだと同意書をつくって俺がサインしただけの話。カチンときて、それを法廷で言った。金額を羅列するだけであんな時間を費やすなんて無駄です」
既に支払った賠償金について、東電の代理人弁護士が法廷で1円単位で明らかにしたことについて、弁護団事務局長の濱野泰嘉弁護士は「必ずしも〝なし〟ではないが、改善されるべきところだと考えている」と語った。
次回8月19日の弁論期日では、4人の原告に対する尋問が予定されている。また、原告側は大阪公立大の除本理史氏など3人の専門家証人に対する尋問を申請しているが、この採否も次回期日には決まる見通しだという。
東電はホームページでも公開している「3つの誓い」で「最後の一人が新しい生活を迎えることが出来るまで、被害者の方々に寄り添い賠償を貫徹する」などと掲げている。しかし、現実には被害者に寄り添うどころか責め立てる。そして被爆不安や避難生活の苦労には正面から向き合わない。どちらが本音か、もはや明らかであろう。
(了)
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