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【67カ月目の福島はいま】「生態系が壊れる」「土砂崩れの危険高まる」…〝森のプロ〟が指摘する「里山除染」の限界と原発事故の罪深さ~福島市・小鳥の森

原発事故によって拡散された放射性物質は、人々や動植物を育んだ森林も汚した。しかも、放射線量の低減を優先すれば森としての機能を喪失してしまうというジレンマに陥っている。福島県福島市に広がる52ヘクタールの里山「小鳥の森」を管理している「レンジャー」が、里山除染の難しさを語った。悩んだ末に限定的除染にとどめたものの、それでも生態系への影響は避けられなかった。自然低減を待つしかないと語るレンジャーからは、森を愛する人々の怒りや悲哀も伝わってくる。〝野鳥のオアシス〟を歩きながら、里山除染の限界や原発事故の罪深さを考えた。


【下げ止まった放射線量】
 2012年以降、毎年のように訪れている森。今年も、阿武隈川に面した県道「渡利岡部線」側から入った。静まり返った森に野鳥の鳴き声が響く。「外来種のガビチョウかもしれませんね」とレンジャーが教えてくれた。レンジャーとは、一般的にはアメリカやカナダの国立公園で自然環境を保護するために働く人々の総称だが、小鳥の森を管理する「日本野鳥の会ふくしま」のスタッフも、自然解説員として「レンジャー」と呼ばれている。
 落ち葉を踏みしめながら登っていくと「シジュウカラの小径」に入った。車道から山道に入った時点で手元の線量計は激しく反応していたが、登り進んで行くにしたがって数値は上がっていく。あくまで歩いた範囲だが、最も高い場所で0.65μSv/hに達した。かつてのように1μSv/hを超えるような個所は無かったが、それでもまだまだ高い数値。動植物のオアシスであり、地元の小学生なら一度は必ず校外学習で訪れた事がある癒しの森は、残念ながら放射能汚染から抜け出せないでいる。
 小一時間歩くと、車道が見えてきた。レンジャーの事務所であり、訪れた人々が休憩も兼ねて立ち寄れるネイチャーセンターがある。車道の脇に、放射線量が掲示された看板が設置されている。「0.41μSv/h」 原発事故によって、これまで森とは無縁だった放射性物質が降り注いだ。以前には必要なかった放射線量の測定と掲示。公式ホームページでは、30カ所を超える地点の放射線量が公表されている(http://f-kotorinomori.org/radiation/)。
 確かに原発事故直後の驚くような数字ではなくなった。だが、レンジャーも「下げ止まり。あとは長い年月での自然減衰を待つしかない」と汚染の存在を認めざるを得ないのが現実。しかも、森には大規模な除染を行えない事情があった。国や行政が高らかに「森林回復」などと叫ぶほど、簡単な話ではないのだ。






(上)「シジュウカラの小径」で手元の線量計は0.65μSv/hに達した=2016年10月13日撮影
(中)「ネイチャーセンター」前の森に掲示された放射線量は0.41μSv/hだった
(下)公式ホームページでは、スタッフが測定した詳細な空間線量が公表されている

【「限定的除染でも昆虫減った…」】
 「2年かけて除染をしました。そうは言っても…」。レンジャーは、里山での放射線量低減の難しさを語った。「学校の校庭のように表土を剥いでしまっては生態系が壊れてしまいます。大雨の際に土砂崩れが起きる危険性も増してしまいます。ですから市役所の方たちと何度も話し合い、除染と言っても落ち葉と腐葉土、朽ち木の撤去だけにとどめました。いったん離れた生き物は戻って来ないですから」。
 いわゆる除染作業は、ネイチャーセンター周辺など人の利用の多い場所に限って行われた。「それでも、昆虫がかなり減ってしまいました。動植物にとって、環境は大きく変わってしまったと思います」とレンジャー。センター前の土は色が変わり、車道に面した山林は木の根元の腐葉土が無くなったために寂しい状態になってしまっている。朽ち木を撤去したことで、そこを住みかとしていた昆虫も同時にいなくなってしまった。もし、放射線量低減を優先して大規模除染を行えば、木を伐採して表土を削り取るようになる。もはや森が森でなくなってしまう。しかし何もしないわけにもいかない。苦渋の判断だった。
 「放射線量は下がったとはいえ、まだまだ高い個所もあります。私たちから『もう森は安全』とは言えません。ですから、放射線量を測定して公表し、判断していただくしかありません」
 原発事故から丸5年が経った今年、事故後初めて小学校の校外学習が実施された。事前に教師が線量計を持参して森を訪れ、子どもたちが歩くルートを確認。レンジャーとも話し合って実施を決めたという。「残念ながら、実際に子どもたちが森を訪れたのはまだ1校だけですが、先生方の中にも『長時間の滞在でなければ大丈夫だろう』という考え方が少しずつ増えているようです」。
 短時間なら大丈夫という考え方はにわかに同意できないが、国や行政が放射線防護に消極的である以上、そして福島県外に避難せず福島市内に生活している以上、現実的に存在する線源と〝上手に付き合っていく〟という事になるのだろうか。それを教師が率先しているというのは残念だが。
 「地元の方々が大切にしている森ですからね。原発事故さえなければ、こんな苦悩も必要なかったのですが…」とレンジャー。「里山除染ですか?正直なところ、無理だと思いますよ。信夫山でも除染作業が行われていますけどね」と語った。ここにも、原発事故で大切なものを汚された人々がいる。「復興」の大合唱に隠れて、森の汚染に心を痛めている人がいる事も、忘れてはならない。






(上)落ち葉と腐葉土を取り除いただけだが、すっかり地表が寂しくなった「小鳥の森」
(中)全面除染を断念したスタッフは福島市と協議の上で、人の多く利用する道路などを除染した
(下)福島市が除染を進めている信夫山も状況は同じ。平面の公園は放射線量が下がったが、「冒険の森」のような斜面に設けられた遊び場は0.4μSv/hを超える=2016年10月13日撮影

【「斜面の除染は難しい」】
 福島市のシンボルとも言える「信夫山」でも、除染作業が進められている。福島市除染推進室によると、国の言う「森林再生も含めた里山除染」ではなく、法面や道路、宅地を除染する「生活圏森林」の除染として行われているという。「子どもたちも多く訪れるため、少しでも放射線量を下げるために取り組んでいる」と担当者は話す。
 市公園緑地課は市内に500カ所以上ある公園の空間線量を外部委託して測定・掲示しているが、信夫山でも11カ所で測定。例えば「駒山公園」は2013年7月1日現在で1.78μSv/h(高さ50センチ)だったが、今年8月1日現在では0.16μSv/h。自然減衰も手伝って全体的には低減傾向にあるが、ここでも問題となるのは斜面だ。
 信夫山内にある「冒険の森」は、なだらかな斜面にアスレチックの遊具が設置されている遊び場だが、今年8月1日現在の空間線量は0.46μSv/h(高さ50センチ)。2013年7月1日時点での空間線量が1.07μSv/h(同)だから半減しているものの、決して安全な数値とは言い難い。「天狗の森」も同様に、依然として0.38μSv/hある。子どもを安心して遊ばせる環境には無い。「平面の公園は低減出来るのですが、斜面は難しいですよね」と公園緑地課の職員。信夫山には民家も多いだけに、小鳥の森のレンジャーが指摘するように、自然減衰を待つしか無いのだ。
 林野庁によると、福島県の森林面積は97万5000ヘクタールで全国4位の広さ。県土の約7割を占める。同庁が2015年11月に発効したパンフレット「放射性物質の現状と森林・林業の再生」の中で「20年後の空間線量率を予測すると福島県下のほとんどが0.23μSv/h未満になると考えられる」とした上で、林業再生や福島県産木材の利用推進をPRしているが、現実的には厳しい。飯舘村は村面積の15%しか除染が完了していないが、それは村土の多くが山林だからだ。しかも、せっかく宅地を除染しても汚染の残る山から放射性物質が雨水などと一緒に流れ込んでしまう。それは中通りに暮らす人々も抱えるジレンマだ。
 原発事故は山を汚し、人々から山の幸を奪った。イノシシなどの肉は高濃度に汚染されている。「前向きさ」や「復興」ももちろん大切だ。しかし、現実から目を逸らしてはいけない。



(了)
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プロフィール

Author:鈴木博喜
大手メディアが無視する「汚染」、「被曝」、「避難」を追い続けています。

福島取材にはコストがかかります。往復の交通費と宿泊費だけで約2万円です。
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