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【福島原発かながわ訴訟】「故郷を奪った原発事故、放射能が憎い」男性原告が意見陳述~横浜地裁で第2陣の第1回口頭弁論

2011年3月の福島第一原発事故で福島県から神奈川県に避難した人々が、事故の原因と責任の所在を明らかにすることや完全賠償を求めて起こした「福島原発かながわ訴訟」。昨年9月3日に提訴した第2陣(5世帯16人)の第1回口頭弁論が14日午前、横浜地裁101号法廷(高取真理子裁判長)で行われた。南相馬市小高区から避難した男性原告が意見陳述。3人の代理人弁護士が責任論と損害論の両面から意見陳述した。次回期日は10月6日10時半。なお、第1陣の控訴審は人事異動で元法務省訟務局長が裁判長になったため担当部が変更。審理再開のめどは立っていないという。
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【「逃げるも地獄、戻るも地獄」】
 「自分の人生から故郷を奪った原発事故、放射能が憎いです。東京で使う電力は東京でつくるべきだと思いますリスクだけを福島に推しつける東京電力と日本政府が憎いです。これが今回、私たち家族が訴訟を起こした想いです」
 海に近かった自宅は大津波で全壊し、残っていたのは床板だけだった。
 両親と連絡がつかなくなってしまったが、捜索を阻んだのが原発事故だった。親を探すこともできず、生まれ育った地での再建もできないのではないかと落胆し、怒りを覚えながら避難を始めた。父親とは一週間ほどで連絡がついたが、母親は変わり果てた姿で見つかった。原発事故が起きていなければ、大津波が収まったところで捜索できたはずだった。無事に再開できた父親も、仮設住宅での慣れない独り暮らしで転倒し、3年前に老人ホームで亡くなった。
 原発事故後の男性は「避難するのも地獄、戻るのも地獄」だったという。
 それは、3週間ほど家族とともに避難した後、いったん職場に戻ったときのことだった。
 「『よく戻ってくれた』と言ってくれる人もいたのですが、『逃げていたくせに』と言われたこともありました」
 避難先では、もっと「地獄」だった。家族が他の避難者とともに地域のイベントに参加した際、「地元チーム」と「放射能チーム」に分けられ、原発避難者が「放射能チーム」に振り分けられるという屈辱を味わった。
 それだけではない。
 「福島ナンバーの私の車、硬貨で車体を傷つけられたこともありました」
 原発事故は男性を含む多くの人の人生を狂わせた。しかし、6月17日の最高裁判決は国の賠償責任を認めなかった。
 「非常に落胆しました。とても受け入れられません。なぜ事故が起きたのか、国や東電がどうすべきだったのか。説明が全くない酷い判決でした。私たちは、このような判決で原発事故を終わらせるわけにはいきません
 だから、男性は最後に3人の裁判官にこう訴えた。
 「私たち被害者が前に進んで行くために、改めて裁判長、裁判官の良心に期待します」 

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意見陳述を行った男性は「(緊張で)心臓が飛び出そうになった。何を話したか記憶にないくらいだが、多くのみなさんが来てくれて本当に心強い」と振り返った。法廷で語るということは、あの頃の様々な想いと再び向き合うということ。多くの苦痛を伴う=横浜情報文化センター

【「最高裁判決鵜呑みにするな」】
 法廷では、3人の代理人弁護士も意見陳述。国の責任や原告たちが被った損害について改めて主張した。
 弁護団長の水地啓子弁護士「原子力損害の判定に関する中間指針」(いわゆる中間指針)について「賠償額の基準が被害の実態とかい離して極めて不十分」、「政府による非難指示を基準としたもので合理的な根拠に欠けている」と指摘。ADRを含め「被害者が失ったものの賠償としては極めて不十分なものしか得られなかった」ことが全国各地で損害賠償請求訴訟が提起された背景にあると述べた。
 かながわ訴訟(第1陣)は2013年8月11日、横浜地裁に提訴。2018年2月の〝現地検証〟を経て2019年2月、国と東電に4億1963万円余の支払いを命じる判決が言い渡された。「国の法的責任も認めましたが、原告らの受けた被害の回復には全く及ばなかった」。第1陣は現在、東京高裁での控訴審が行われている。
 6月17日の最高裁判決について「原発に対する規制が本来どのようなものであるべきか、をふまえずに表層的な論理で結論を導いており、あまりにも非現実的と言わざるを得ない」と指摘したのは栗山博史弁護士
 「国の責任を考えるにあたっては、当時どうだったかではなく、どうあるべきだったかと考えなければなりません本訴訟においては、あまりにも空虚な内容の最高裁判決を鵜呑みにすることなく、深い洞察に基づいた審理の進行をお願いします」
 「原告らが予備的主張としている平成21年9月時点の予見可能性とそれに伴う防護措置に関する主張は最高裁判決の射程外であり、本訴訟において独自の判断が求められます」
 石畑晶彦弁護士は、原告たちが被った「筆舌に尽くしがたい損害」について述べた。
 原告たちは原発事故で「放射線被曝による健康不安」を強いられ、それまでの「平穏な生活」を侵害され、避難によって「生活基盤や故郷」を失った(奪われた)。男性原告が陳述したように、避難所や避難先での苦難も強いられた。原発事故がなければ生じなかった家族間の無用ないさかいもある。「原発事故や避難生活によって被って来た被害や苦難は生活全般に及んでおり、その程度は甚大です」。
 しかも、不十分な除染や、さらなる事故の危険などで帰りたくても帰れない。
 石畑弁護士は「中間指針等にとらわれずに本県の賠償額を認める裁判所の判断を強く求めます」と陳述を締めくくった。

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「政府や福島県などが原発事故被害の回復は概ね終わったんだという雰囲気をつくっていますが、決してそうではありません」と語った原告団長の村田弘さん(右)。左は弁護団事務局長の黒澤知弘弁護士

【「本当の責任を認めさせる」】
 閉廷後の報告集会で、原告団長の村田弘さん(福島県南相馬市小高区から神奈川県横浜市への避難継続中)は「今日の意見陳述の最後(「このような判決で原発事故を終わらせるわけにはいきません」)、あれが私たちの共通の気持ちです」とマイクを握った。
 「最高裁判決、あんなもので原発事故を終わらせるわけには絶対にいきません。『かながわ訴訟』だけではなくて、全国各地で集団訴訟が続いています。最高裁判決の誤りを事実をもって直させていく。そして本当の責任を認めさせる。そして被害者救済をさせる。そして、原発事故を二度と起こさせないというところまで持って行く。事故を経験した者として最後までやっていかなければいけないと思っています」
 「損害賠償を求める集団訴訟のほかにも、今年1月には小児甲状腺ガンを罹患した若者たちの裁判が起こされました。区域外避難者の住宅追い出しの問題もあります。原発事故で追われた避難者の住まいを、生きていく根本である住まいを権力を持って追い出すという理不尽なことが進んでいるということを絶対に許すことはできません。政府や福島県などが原発事故被害の回復は概ね終わったんだという雰囲気をつくっていますが、決してそうではありません」
 先行している第1陣の控訴審について、弁護団事務局長の黒澤知弘弁護士から驚くべき報告があった。
 「東京高裁第23民事部で小野瀬厚裁判長の下で審理されてきましたが、人事異動がありました(6月24日付で千葉地裁所長)。後任は以前、法務省訟務局という国側が被告になる訴訟を取りまとめる部署にいた人。敵側でやっていた人間がこの訴訟を担当するわけにはいかないということになって、担当が第1民事部に急きょ変更されました。もちろん事件記録は全て送られますが、まっさらな裁判官たちが担当することになってしまった。次回期日が8月19日に予定されていますが、恐らく開かれないだろうと思います。担当者すら決まっていないので交渉すらできません」
 第23民事部の舘内比佐志裁判官(61)は2017年7月から2020年9月まで、法務省の訟務局長を務めていた。
 黒澤弁護士は「何だ、この国の司法は。馬鹿にしてるのか。大きな憤りを感じます」と語気を強めた。審理再開のめどは立っていないという。



(了)
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鈴木博喜

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