【原発事故と甲状腺ガン】福島県知事を表敬したUNSCEAR3人に当事者らが〝直訴〟 「被曝影響なし」強調する3人 「あくまで情報の提供者」と逃げる場面も
- 2022/07/20
- 17:10
福島県の内堀雅雄知事に「原発事故による被曝影響はない」と報告した「UNSCEAR」(原子放射線の影響に関する国連科学委員会)のギリアン・ハース前議長らに、小児甲状腺ガンの当事者たちが「報告書を見直して欲しい」などと〝直訴〟した。20日午前、「2020/2021報告書」を内堀知事に手渡した前議長らは放射線被曝による健康影響を否定する一方、今年1月に6人の若者が起こした「311子ども甲状腺がん裁判」について問われると「個々のケースにコメントする立場にない」、「私たちはあくまでも科学的な情報の提供者」などと逃げる場面も。当事者の女性は言う。「正しい調査もせず勝手に結論づけるな」

【「正しい調査をしてほしい」】
前議長ら3人の囲み取材が終わると、甲状腺ガン支援グループ「あじさいの会」事務局長を務める千葉親子さんが3人に英文の文書を手渡した。
正午から会見を開いた千葉さんは「これで福島第一原発事故をおしまいにしたいというのが見え見え。あったことをなかったことにしたくない。もう終わったことだよと言われているようで切ない」と語気を強めた。
「この間の福島県の対応にUNSCEAR報告書が大きく影響しているのではないかと思っている。昨日の会見をみると、被曝線量がチェルノブイリと比べて少ないんだ、高性能の機器で検査をしているので、見つけなくても良いガンを見つけているんだということを話していた。そればかりで片付けることはできない。2016年から患者や家族と交流を深めてきた。再発をして再手術を受けた人もいる。治療のために大学を中退せざるを得なかった人もいる。そういうことを無視した進め方に怒りを抱いている」
今年2月には、EU欧州委員会宛ての書簡のなかで「多くの子供たちが甲状腺がんに苦しみ」と表現した元首相5人に対し、「遺憾だ」と述べて被曝影響を否定した内堀知事に抗議した。
「一切返事がない。再度、封筒に切手まで貼って渡したが、音沙汰なし。これが患者や家族に寄り添った姿勢なのか。UNSCEARに県民の声、当事者の声がなかなか届かないのではないか。福島の現状をきちんと知って欲しい。メディアのみなさんにも正しく実際の姿を報道していただきたい」
会見には、小児甲状腺ガンと診断され手術を受けた女性も出席。「データもあいまい、現状把握もできていないなかで結論づけるのは早いと思う」と語った。
女性は原発事故発生当時、中学生。大学生のときに県民健康調査で小児甲状腺ガンと診断され、手術を受けた。社会人になって体調不良が続き、勤め先を辞めざるを得なかったという。
「政治家など力のある人が『UNSCEARが全て正しい』と言ってしまうことで、私たちが小児甲状腺ガンに罹患したことは因果関係がないとはっきり言われていることになるので、それは苦しい。慎重に発言していただきたい」
女性はそして、こう強調した。
「罹患した人たちをしっかり調べないと因果関係は分からないと思う。そこをしっかりと調査していただきたい。正しい調査をしてほしい。はっきりとした状況が分かっていないなかで勝手に結論づけて世界に発信されていくことには怒りを覚える。やめてほしい」



(上)UNSCEARの3人に〝直訴〟した千葉親子さん(左)
(中)小児甲状腺ガンに罹患した女性は「正しい調査をしてほしい」と訴える
(下)千葉さんが手渡した文書(実際の文書は英文)
【「私たちは情報の提供者」】
内堀知事を表敬したのは、UNSCEARの前議長ギリアン・ハース氏、筆頭執筆者のミハイル・バロノフ氏、プロジェクトオフィサーのモリッジ・マーマン氏の3人。
表敬後の囲み取材では、改めて「甲状腺ガン、乳ガン、白血病など、あらゆる形態のガンの放射線被曝による発症率の上昇は識別不可能と結論づけている。放射線被曝のレベルが極めて低かった。将来にわたっても、識別可能な健康に及ぶ影響はない、検出できない」、「例えば甲状腺ガン。放射線被曝によってガンのリスクが高まるかというと、高まらない。すなわち、放射線被曝によって通常の自然レベルよりも発症率が高くなるかというと、高くならない」などと原発事故の健康影響を否定した。
19日の日本記者クラブでの会見でも①原発事故による放射線被曝に直接、起因すると思われる健康被害は認められない②将来のガン発生率も、取るに足らない水準にとどまる③日本の子どもに観察された甲状腺ガンの発生率は、超高感度スクリーニング検査を広範に行った結果―との見解を示している。
しかし、筆者が「311子ども甲状腺がん裁判」について問うと、逃げに徹した。
筆者「報告書が正しいのであれば、6人の若者の主張は間違っているということか?」
「UNSCEARとしては、個々の案件について回答するのは大変難しい立場にある。放射線被曝をしたと主張されたとしても、われわれとしてはあくまでも科学的・学術的な視点に立って、あくまでも科学に基づいた判断をせざるを得ない。そのためには、どの個人がどの程度の線量を受けたのか、被曝したのかということを知る必要がある。具体的な情報なしにわれわれとして判断することはできない。個々のケースにコメントする立場にはない。対応するべきは政府や裁判所だ」
筆者「であれば『健康影響なし』などと言えないのではないか」
「私たち科学委員会は、科学に基づいた知識を提供する立場。科学的な情報や知識をどのように活用し、決定を下すかというのは政府次第。私たちは、あくまでも科学的な情報の提供者であり、それをどう判断するかは当局側の問題だ」
「OurPlanetTV」の白石草さんは、報告書の誤りが複数指摘されている点を質したが、ミハイル・バロノフ氏は「何名の日本の科学者がコメントしていることは存じている。そのうち2、3のケースはタイプミス、ミスプリントに関するもの。報告書の結論を変えるようなコメントはいただいていない」と答えた。



(上)内堀知事に報告書を手渡すUNSCEARの前議長ギリアン・ハース氏
(中)内堀知事は予定時間超過を伝える職員を制止して3人と話した
(下)囲み取材に応じた3人だが、最後は「私たちは、あくまでも科学的な情報の提供者」と逃げた
【「科学的、客観的な報告だ」】
内堀知事は3人の表敬を歓迎し、予定時間を過ぎても話に耳を傾けた。
「みなさん、福島県へようこそいらっしゃいました。心から歓迎を致します。2011年の原発事故は世界でも類を見ない過酷なものでした。様々な不安や心配をもたれている方もいる。いろんな意見がある。こういう状況だからこそ、UNSCEARが科学的な見地から客観的なレポートをまとめて今回のようにわかりやすく公表されることには意義があると考えている。今後も可能な範囲でお力添えいただきたい」
内堀知事にとってUNSCEARは、原発事故被害を矮小化する力強い後ろ盾。今年2月の定例会見では次のように述べている。
「5人の元首相経験者が、欧州委員会委員長に宛てた書簡の中で、東京電力福島第1原子力発電所の事故において『多くの子供たちが甲状腺がんに苦しみ』という表現が含まれていたことから、元首相経験者である方々の発言の影響力を踏まえ、県として書簡を送付したところであります」
「甲状腺に関する放射線の健康影響については、県民健康調査検討委員会において、平成28年3月に、いわゆる先行検査に関してですが『総合的に判断して放射線の影響とは考えにくい』と評価をされました。そして、令和元年7月には、現時点において甲状腺検査の本格検査、この時は検査の2回目でありましたが、ここで『発見された甲状腺がんと放射線被ばくの間の関連は認められない』とする見解が示されております」
「福島県の復興にとって、こういう見解を含め、正確な情報を繰り返し発信していくことが極めて重要であることから、科学的知見に基づく客観的な情報を発信していただくよう、書簡により申し入れたものであります」
「初めて私自身がこの書簡を読んだ時の思いでありますが、特に、元首相を経験された5名の方々の欧州委員会の委員長に宛てた書簡の中に、こうした表現が含まれていたことは遺憾であります」
当事者の話は聴かず、UNSCEARなどの〝科学的知見〟を基に被曝影響を否定する内堀知事。これが「被災者に寄り添う為政者」の実像なのだ。
(了)

【「正しい調査をしてほしい」】
前議長ら3人の囲み取材が終わると、甲状腺ガン支援グループ「あじさいの会」事務局長を務める千葉親子さんが3人に英文の文書を手渡した。
正午から会見を開いた千葉さんは「これで福島第一原発事故をおしまいにしたいというのが見え見え。あったことをなかったことにしたくない。もう終わったことだよと言われているようで切ない」と語気を強めた。
「この間の福島県の対応にUNSCEAR報告書が大きく影響しているのではないかと思っている。昨日の会見をみると、被曝線量がチェルノブイリと比べて少ないんだ、高性能の機器で検査をしているので、見つけなくても良いガンを見つけているんだということを話していた。そればかりで片付けることはできない。2016年から患者や家族と交流を深めてきた。再発をして再手術を受けた人もいる。治療のために大学を中退せざるを得なかった人もいる。そういうことを無視した進め方に怒りを抱いている」
今年2月には、EU欧州委員会宛ての書簡のなかで「多くの子供たちが甲状腺がんに苦しみ」と表現した元首相5人に対し、「遺憾だ」と述べて被曝影響を否定した内堀知事に抗議した。
「一切返事がない。再度、封筒に切手まで貼って渡したが、音沙汰なし。これが患者や家族に寄り添った姿勢なのか。UNSCEARに県民の声、当事者の声がなかなか届かないのではないか。福島の現状をきちんと知って欲しい。メディアのみなさんにも正しく実際の姿を報道していただきたい」
会見には、小児甲状腺ガンと診断され手術を受けた女性も出席。「データもあいまい、現状把握もできていないなかで結論づけるのは早いと思う」と語った。
女性は原発事故発生当時、中学生。大学生のときに県民健康調査で小児甲状腺ガンと診断され、手術を受けた。社会人になって体調不良が続き、勤め先を辞めざるを得なかったという。
「政治家など力のある人が『UNSCEARが全て正しい』と言ってしまうことで、私たちが小児甲状腺ガンに罹患したことは因果関係がないとはっきり言われていることになるので、それは苦しい。慎重に発言していただきたい」
女性はそして、こう強調した。
「罹患した人たちをしっかり調べないと因果関係は分からないと思う。そこをしっかりと調査していただきたい。正しい調査をしてほしい。はっきりとした状況が分かっていないなかで勝手に結論づけて世界に発信されていくことには怒りを覚える。やめてほしい」



(上)UNSCEARの3人に〝直訴〟した千葉親子さん(左)
(中)小児甲状腺ガンに罹患した女性は「正しい調査をしてほしい」と訴える
(下)千葉さんが手渡した文書(実際の文書は英文)
【「私たちは情報の提供者」】
内堀知事を表敬したのは、UNSCEARの前議長ギリアン・ハース氏、筆頭執筆者のミハイル・バロノフ氏、プロジェクトオフィサーのモリッジ・マーマン氏の3人。
表敬後の囲み取材では、改めて「甲状腺ガン、乳ガン、白血病など、あらゆる形態のガンの放射線被曝による発症率の上昇は識別不可能と結論づけている。放射線被曝のレベルが極めて低かった。将来にわたっても、識別可能な健康に及ぶ影響はない、検出できない」、「例えば甲状腺ガン。放射線被曝によってガンのリスクが高まるかというと、高まらない。すなわち、放射線被曝によって通常の自然レベルよりも発症率が高くなるかというと、高くならない」などと原発事故の健康影響を否定した。
19日の日本記者クラブでの会見でも①原発事故による放射線被曝に直接、起因すると思われる健康被害は認められない②将来のガン発生率も、取るに足らない水準にとどまる③日本の子どもに観察された甲状腺ガンの発生率は、超高感度スクリーニング検査を広範に行った結果―との見解を示している。
しかし、筆者が「311子ども甲状腺がん裁判」について問うと、逃げに徹した。
筆者「報告書が正しいのであれば、6人の若者の主張は間違っているということか?」
「UNSCEARとしては、個々の案件について回答するのは大変難しい立場にある。放射線被曝をしたと主張されたとしても、われわれとしてはあくまでも科学的・学術的な視点に立って、あくまでも科学に基づいた判断をせざるを得ない。そのためには、どの個人がどの程度の線量を受けたのか、被曝したのかということを知る必要がある。具体的な情報なしにわれわれとして判断することはできない。個々のケースにコメントする立場にはない。対応するべきは政府や裁判所だ」
筆者「であれば『健康影響なし』などと言えないのではないか」
「私たち科学委員会は、科学に基づいた知識を提供する立場。科学的な情報や知識をどのように活用し、決定を下すかというのは政府次第。私たちは、あくまでも科学的な情報の提供者であり、それをどう判断するかは当局側の問題だ」
「OurPlanetTV」の白石草さんは、報告書の誤りが複数指摘されている点を質したが、ミハイル・バロノフ氏は「何名の日本の科学者がコメントしていることは存じている。そのうち2、3のケースはタイプミス、ミスプリントに関するもの。報告書の結論を変えるようなコメントはいただいていない」と答えた。



(上)内堀知事に報告書を手渡すUNSCEARの前議長ギリアン・ハース氏
(中)内堀知事は予定時間超過を伝える職員を制止して3人と話した
(下)囲み取材に応じた3人だが、最後は「私たちは、あくまでも科学的な情報の提供者」と逃げた
【「科学的、客観的な報告だ」】
内堀知事は3人の表敬を歓迎し、予定時間を過ぎても話に耳を傾けた。
「みなさん、福島県へようこそいらっしゃいました。心から歓迎を致します。2011年の原発事故は世界でも類を見ない過酷なものでした。様々な不安や心配をもたれている方もいる。いろんな意見がある。こういう状況だからこそ、UNSCEARが科学的な見地から客観的なレポートをまとめて今回のようにわかりやすく公表されることには意義があると考えている。今後も可能な範囲でお力添えいただきたい」
内堀知事にとってUNSCEARは、原発事故被害を矮小化する力強い後ろ盾。今年2月の定例会見では次のように述べている。
「5人の元首相経験者が、欧州委員会委員長に宛てた書簡の中で、東京電力福島第1原子力発電所の事故において『多くの子供たちが甲状腺がんに苦しみ』という表現が含まれていたことから、元首相経験者である方々の発言の影響力を踏まえ、県として書簡を送付したところであります」
「甲状腺に関する放射線の健康影響については、県民健康調査検討委員会において、平成28年3月に、いわゆる先行検査に関してですが『総合的に判断して放射線の影響とは考えにくい』と評価をされました。そして、令和元年7月には、現時点において甲状腺検査の本格検査、この時は検査の2回目でありましたが、ここで『発見された甲状腺がんと放射線被ばくの間の関連は認められない』とする見解が示されております」
「福島県の復興にとって、こういう見解を含め、正確な情報を繰り返し発信していくことが極めて重要であることから、科学的知見に基づく客観的な情報を発信していただくよう、書簡により申し入れたものであります」
「初めて私自身がこの書簡を読んだ時の思いでありますが、特に、元首相を経験された5名の方々の欧州委員会の委員長に宛てた書簡の中に、こうした表現が含まれていたことは遺憾であります」
当事者の話は聴かず、UNSCEARなどの〝科学的知見〟を基に被曝影響を否定する内堀知事。これが「被災者に寄り添う為政者」の実像なのだ。
(了)
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