福島地裁が「判決文Tシャツ」を問題視 「脱げ」「裏返せ」の末に庁舎外へ追い出す 「納得できない。次回も着ていく」と女性
- 2022/07/27
- 14:12
福島地方裁判所で26日午後、裁判傍聴に訪れた女性が着ていたTシャツの文言が問題だとして、裁判所職員に庁舎外に追い出される事態が起きた。女性は刃物を振り回したわけでも大声をあげたわけでもない。しかし、裁判所側はTシャツの背面に印刷された判決文の一説を「メッセージ性がある」と判断。「脱げ」、「裏返しにしろ」と迫った挙げ句、「できないのなら敷地外に出ろ」と命じた。女性はやむなく羽織るものを借りて着用して傍聴したが、「他の裁判所では認められているのに、なぜ脱がなければいけないのか。納得できない。次回も着て来る」と怒り心頭。弁護士からも福島地裁の対応に疑問の声があがっている。

【「メッセージ性がある」】
「判決文が印刷されているから駄目だって。庁舎から出ろって。このTシャツを着て東京地裁でも横浜地裁でも傍聴したのに…」
避難先の神奈川県から福島県郡山市に一時的に戻っている松本徳子さん(郡山市、60歳)は、裁判所からの指摘に怒りと驚きの表情を浮かべていた。
この日は、国家公務員宿舎から退去できずにいる区域外避難者に対する〝追い出し訴訟〟(福島県が原告)の第8回口頭弁論が予定されていた。傍聴券を受け取った直後のこと。松本さんも法廷に向かうべく裁判所職員の指示を待っていたところ、女性職員がいきなり背後から近づいてきたという。
「『このTシャツを脱いでいただけますか?』と言われたんです。どうして?と聞き返したら、『背中にメッセージ性のある文言が書かれているので脱いでください』と。でも、暑いから羽織るものなんか持ってきていない。Tシャツの下は当然、下着です。それでも『脱いでいただかないと…』の一点張りでした」
松本さんは女性職員と押し問答になり、周囲にいた他の傍聴者も加勢。ロビーは騒然となった。女性職員は譲らず、松本さんに「羽織るものがないのであれば、裏返しにしていただけませんか」と言ってきたという。
Tシャツは、原発事故で神奈川県内に避難した人々が起こした「福島原発かながわ訴訟」の原告団が2014年につくった。背面に「豊かな国土とそこに国民が根を下ろして生活していることが国富であり、これを取り戻すことができなくなることが国富の喪失である」と白色の文字で印刷されている。これは2014年5月21日、福井地裁の樋口英明裁判長(当時)が関西電力大飯原発3、4号機の運転差し止めを命じる判決文のなかに書かれている一節だ。
つまり、判決文の一節が印刷されているだけなのだ。「住まいを奪うな」や「避難の権利を認めろ」など、傍聴した裁判の趣旨に沿うように裁判所に訴える内容の文言でもない。
納得できない松本さんは「それなら結構です」と手元の傍聴券を突き返した。しかし、女性職員は怯むどころか、こう言い放ったという。
「すみません、裁判所の敷地から出てください」

福島地裁が問題視したTシャツ。「脱げ」、「裏返せ」の末に庁舎外へ追い出された松本さんは「何が問題なのか納得できない。次回もこれを来て傍聴する」と話している=福島県福島市
【「庁舎管理権で判断」】
裁判所ロビーが騒然とするなか、当該の女性職員は筆者に対し「プラカードだとかメッセージ性のあるもの。それはTシャツも同じです。メッセージの書いてあるものを身につけて構内に入ることはできません」と語気を強めた。Tシャツには判決文のごく一部が印刷されているだけだが、それが「メッセージ」に該当するかを尋ねると、女性職員は「はい」ときっぱり。「判決文ですよ」と重ねて質問したが「はい」と答えるばかりだった。
閉廷後、男性職員に改めて〝追い出し〟の根拠を尋ねると「服装に関する規程もあります。メッセージ性のあるTシャツとか、そういったものはお控えいただいている」と答えた。「Tシャツに書かれていたのは単なる判決文であって、直接的な『メッセージ』ではないのではないか」と問うたが、男性職員は「なるほど」としか答えなかった。
傍らにいた別の男性職員は、次のように答えた。
「判断ということで申しますと、庁舎管理権というものがある。庁舎管理規程のなかで、のぼりとか旗とかの持ち込みを禁じている。『それに類似するもの』というところがありまして、確かに『類似』の範囲は広くなりますが、今回は判決内容ということで、それに該当すると判断。庁舎立ち入りの制限という話になりました。職員からの報告を受けて、庁舎管理者である所長が最終的に判断しました」
だとすれば、運用でいかようにもできてしまう。極端に考えれば、司法にとって都合の悪い傍聴者を排除できることになってしまう。
この点について、男性職員は「最終的には庁舎管理権者の判断になってしまいます」としたうえで、「庁舎管理規程上、例示されているものに該当する場合は、われわれは退去を命じなければなりません」とだけ答えた。
実はこの日、言葉での表現ではなかったが、ロシアのウクライナ侵攻に反対するものを身につけて傍聴した人がいた。しかし、小さくて目立たなかったためか、庁舎外に出るよう命じられることはなかった。


裁判所への立ち入りには一定のルールがあるが、運用は裁判所によって異なる。今回、福島地裁が問題視したTシャツも、東京地裁や横浜地裁では傍聴を拒まれていない
【「恣意的な判断、問題」】
「裁判所の庁舎等の管理に関する規程」第12条では「管理者は、庁舎等において次の各号の一に該当する者に対し、その行為若しくは庁舎等への立入りを禁止し、又は退去を命じなければならない」として、次のように例示されている。
①銃器、凶器、爆発物その他の危険物を持ち込み、又は持ち込もうとする者
②職員に面会を強要する者
③立入りを禁止した区域に立ち入り、又は立ち入ろうとする者
④放歌高唱し、若しくはねり歩き、又はこれらの行為をしようとする者
⑤宣伝カーを持ち込み、又は持ち込もうとする者
⑥座り込み若しくは通行の妨害になるような行為をし、又はしようとする者
⑦寄附を強要し、又は押売りをする者
⑧裁判所の禁止に反し写真機、録音機その他これらに類する物を持ち込み、又は持ち込もうとする者
⑨旗、のぼり、プラカード、拡声器その他これらに類する物を持ち込み、又は持ち込もうとする者
⑩はちまき、ゼッケン、腕章その他これらに類する物を着用する者
⑪前各号に掲げる者のほか、庁舎等の管理に支障がある行為をし、又はしようとする者
今回、福島地裁は⑩を根拠としているが、松本さんは東京地裁や横浜地裁では何ら注意されていない。「福島原発かながわ訴訟」原告団長の村田弘さんも、今月14日に横浜地裁で行われた口頭弁論期日にTシャツを着て出席したが、一切問題視されていない。
「公になっている判決文の一部分を印刷したTシャツがなぜ問題なのか。いくらでも恣意的に判断できてしまう。大変な問題だ」
柳原敏夫弁護士も「審理を妨害するなどの理由であれば分かるが、例えば『他人を不快にするデザインのTシャツ』というように、見る人によっていかようにも判断できてしまう。庁舎管理権は無限に認められるわけではない」と指摘する。別の弁護士も「時代錯誤の対応だ」と批判した。
松本さんは、近くにいた女性が上着の提供を申し出たためそれを借りて着用して傍聴した。しかし、裁判所の言い分に納得したわけではなかった。
「裏返したり、ましてや脱ぐなんて屈辱。納得していない。次回もこのTシャツを着て傍聴するつもりです」
(了)

【「メッセージ性がある」】
「判決文が印刷されているから駄目だって。庁舎から出ろって。このTシャツを着て東京地裁でも横浜地裁でも傍聴したのに…」
避難先の神奈川県から福島県郡山市に一時的に戻っている松本徳子さん(郡山市、60歳)は、裁判所からの指摘に怒りと驚きの表情を浮かべていた。
この日は、国家公務員宿舎から退去できずにいる区域外避難者に対する〝追い出し訴訟〟(福島県が原告)の第8回口頭弁論が予定されていた。傍聴券を受け取った直後のこと。松本さんも法廷に向かうべく裁判所職員の指示を待っていたところ、女性職員がいきなり背後から近づいてきたという。
「『このTシャツを脱いでいただけますか?』と言われたんです。どうして?と聞き返したら、『背中にメッセージ性のある文言が書かれているので脱いでください』と。でも、暑いから羽織るものなんか持ってきていない。Tシャツの下は当然、下着です。それでも『脱いでいただかないと…』の一点張りでした」
松本さんは女性職員と押し問答になり、周囲にいた他の傍聴者も加勢。ロビーは騒然となった。女性職員は譲らず、松本さんに「羽織るものがないのであれば、裏返しにしていただけませんか」と言ってきたという。
Tシャツは、原発事故で神奈川県内に避難した人々が起こした「福島原発かながわ訴訟」の原告団が2014年につくった。背面に「豊かな国土とそこに国民が根を下ろして生活していることが国富であり、これを取り戻すことができなくなることが国富の喪失である」と白色の文字で印刷されている。これは2014年5月21日、福井地裁の樋口英明裁判長(当時)が関西電力大飯原発3、4号機の運転差し止めを命じる判決文のなかに書かれている一節だ。
つまり、判決文の一節が印刷されているだけなのだ。「住まいを奪うな」や「避難の権利を認めろ」など、傍聴した裁判の趣旨に沿うように裁判所に訴える内容の文言でもない。
納得できない松本さんは「それなら結構です」と手元の傍聴券を突き返した。しかし、女性職員は怯むどころか、こう言い放ったという。
「すみません、裁判所の敷地から出てください」

福島地裁が問題視したTシャツ。「脱げ」、「裏返せ」の末に庁舎外へ追い出された松本さんは「何が問題なのか納得できない。次回もこれを来て傍聴する」と話している=福島県福島市
【「庁舎管理権で判断」】
裁判所ロビーが騒然とするなか、当該の女性職員は筆者に対し「プラカードだとかメッセージ性のあるもの。それはTシャツも同じです。メッセージの書いてあるものを身につけて構内に入ることはできません」と語気を強めた。Tシャツには判決文のごく一部が印刷されているだけだが、それが「メッセージ」に該当するかを尋ねると、女性職員は「はい」ときっぱり。「判決文ですよ」と重ねて質問したが「はい」と答えるばかりだった。
閉廷後、男性職員に改めて〝追い出し〟の根拠を尋ねると「服装に関する規程もあります。メッセージ性のあるTシャツとか、そういったものはお控えいただいている」と答えた。「Tシャツに書かれていたのは単なる判決文であって、直接的な『メッセージ』ではないのではないか」と問うたが、男性職員は「なるほど」としか答えなかった。
傍らにいた別の男性職員は、次のように答えた。
「判断ということで申しますと、庁舎管理権というものがある。庁舎管理規程のなかで、のぼりとか旗とかの持ち込みを禁じている。『それに類似するもの』というところがありまして、確かに『類似』の範囲は広くなりますが、今回は判決内容ということで、それに該当すると判断。庁舎立ち入りの制限という話になりました。職員からの報告を受けて、庁舎管理者である所長が最終的に判断しました」
だとすれば、運用でいかようにもできてしまう。極端に考えれば、司法にとって都合の悪い傍聴者を排除できることになってしまう。
この点について、男性職員は「最終的には庁舎管理権者の判断になってしまいます」としたうえで、「庁舎管理規程上、例示されているものに該当する場合は、われわれは退去を命じなければなりません」とだけ答えた。
実はこの日、言葉での表現ではなかったが、ロシアのウクライナ侵攻に反対するものを身につけて傍聴した人がいた。しかし、小さくて目立たなかったためか、庁舎外に出るよう命じられることはなかった。


裁判所への立ち入りには一定のルールがあるが、運用は裁判所によって異なる。今回、福島地裁が問題視したTシャツも、東京地裁や横浜地裁では傍聴を拒まれていない
【「恣意的な判断、問題」】
「裁判所の庁舎等の管理に関する規程」第12条では「管理者は、庁舎等において次の各号の一に該当する者に対し、その行為若しくは庁舎等への立入りを禁止し、又は退去を命じなければならない」として、次のように例示されている。
①銃器、凶器、爆発物その他の危険物を持ち込み、又は持ち込もうとする者
②職員に面会を強要する者
③立入りを禁止した区域に立ち入り、又は立ち入ろうとする者
④放歌高唱し、若しくはねり歩き、又はこれらの行為をしようとする者
⑤宣伝カーを持ち込み、又は持ち込もうとする者
⑥座り込み若しくは通行の妨害になるような行為をし、又はしようとする者
⑦寄附を強要し、又は押売りをする者
⑧裁判所の禁止に反し写真機、録音機その他これらに類する物を持ち込み、又は持ち込もうとする者
⑨旗、のぼり、プラカード、拡声器その他これらに類する物を持ち込み、又は持ち込もうとする者
⑩はちまき、ゼッケン、腕章その他これらに類する物を着用する者
⑪前各号に掲げる者のほか、庁舎等の管理に支障がある行為をし、又はしようとする者
今回、福島地裁は⑩を根拠としているが、松本さんは東京地裁や横浜地裁では何ら注意されていない。「福島原発かながわ訴訟」原告団長の村田弘さんも、今月14日に横浜地裁で行われた口頭弁論期日にTシャツを着て出席したが、一切問題視されていない。
「公になっている判決文の一部分を印刷したTシャツがなぜ問題なのか。いくらでも恣意的に判断できてしまう。大変な問題だ」
柳原敏夫弁護士も「審理を妨害するなどの理由であれば分かるが、例えば『他人を不快にするデザインのTシャツ』というように、見る人によっていかようにも判断できてしまう。庁舎管理権は無限に認められるわけではない」と指摘する。別の弁護士も「時代錯誤の対応だ」と批判した。
松本さんは、近くにいた女性が上着の提供を申し出たためそれを借りて着用して傍聴した。しかし、裁判所の言い分に納得したわけではなかった。
「裏返したり、ましてや脱ぐなんて屈辱。納得していない。次回もこのTシャツを着て傍聴するつもりです」
(了)
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