【原発避難者から住まいを奪うな】審理不十分のまま予告通りに結審 怒号飛び交う法廷、裁判官は判決日も指定せず逃げるように退廷~東雲追い出し訴訟第8回口頭弁論
- 2022/07/29
- 17:05
福島県が2020年3月、区域外避難者4世帯を相手取り国家公務員宿舎「東雲住宅」(東京都江東区)の明け渡しと未納家賃の支払いを求めて提訴した問題で、審理が併合された2世帯に対する第8回口頭弁論が26日午後、福島地裁203号法廷(小川理佳裁判長)で行われた。突然、今回から3人の裁判官による合議体になったうえに、人証申請もすべて却下。小川裁判長が審理終結を宣言した。一方的な結審に傍聴席から怒号が飛び交ったが、3人の裁判官は判決言い渡し日も指定せず、逃げるように退廷した。福島県の原告適格性すら十分に審理されないまま、4世帯すべての裁判が結審した(1世帯は和解成立)。

【「県の認否・反論不十分」】
「審理は終結致します」
小川裁判長の声が法廷に響いた。被告(避難者)の代理人を務める大口昭彦弁護士が勢い良く立ち上がった。
「裁判官3人を忌避致します」
しかし、小川裁判長は取り合わなかった。
「終結致しましたので忌避の権利は………」
傍聴席から野次が飛び、小川裁判長の声が聞こえなくなる。傍聴席の声は次第に大きくなった。3人の裁判官は逃げるように退廷していった。開廷から51分ほどが経っていた。
実は、裁判所はこの日での結審を予告していた。2人の被告(避難者)のほか、国際人権法の専門家2人、東京都都市整備局幹部、そして内堀知事の計6人に対する尋問もすべて却下した。柳原敏夫弁護士はブログに次のように綴っている。
「ここでようやく、本裁判は審理の夜明けに、本格的解明のとば口に立った。ところが、その矢先に、裁判所は、昨日19日、次回で審理打切りを通告してきた。これは臭いものに蓋をするという、被告(避難者)の裁判を受ける権利の露骨な剥奪だ」
だから、被告(避難者)側は当然、3つの準備書面(14、15、16)を提出。「被告らの切なる求めにも関わらず、裁判所が原告に対して適正な釈明権を行使」していないとして、結審した場合には「裁判官の忌避の申立てしかない」と強く求めた。
さらに、柳原弁護士が26分間にわたって3つの準備書面の要旨を意見陳述。
「住宅無償提供を打ち切るにあたっては、いかなる法令に基づき、いかなる調査に基づいて、いかなる検討を経て政策決定をしたのか。政策決定過程を当事者に説明する責任がある。しかし、訴状ではそのような説明はまったくない」
「原告は被告の書面に対する認否をしないまま、適用法令に関しては黙殺。裁判所も原告の黙殺を追認し、認否・反論を指示しなかった」
「ほぼ同一内容の『住まいの権利裁判』では、福島県は答弁書で個別具体的な認否・反論をしてきた。東京地裁の審議だとできるのに、どうして福島地裁の審理は認否すらしないのか理解できない」
「結審の予定であるという裁判所の考えを再考して欲しい」
しかし、小川裁判長の考えは覆らなかった。


(上)報告集会で「裁判所がいずれ判決期日を指定してくるだろう。それをそのまま、おめおめと飲んで受けるというようなことでない」と語った大口昭彦弁護士
(下)柳原敏夫弁護士は「民主主義国家の裁判とは言えない。こんなことを許したら未来はない」と語気を強めた=福島市市民会館
【いきなり合議審に変更】
「忌避」とは、民事訴訟法第24条で「裁判官について裁判の公正を妨げるべき事情があるときは、当事者は、その裁判官を忌避することができる」と定められている制度で、裁判官を職務執行から外す申立てをすることができる。
ただ、忌避のハードルは高い。最高裁第一小法廷は1973年10月の判決で「手続内における審理の方法、態度などは、それだけでは直ちに忌避の理由となしえないものであり、これらに対しては異議、上訴などの不服申立方法によつて救済を求めるべきであるといわなければならない。したがつて、訴訟手続内における審理の方法、態度に対する不服を理由とする忌避申立は、しよせん受け容れられる可能性は全くない」と却下している。
小川裁判官を含め、今回の〝追い出し訴訟〟を審理した福島地裁の3人の裁判官は本来の争点(「なぜ国有財産の明け渡しを所有者でもない福島県が求めるのか」、「原発避難者には国際法上の居住権は認められないのか」など)を直視せず、時に原告である福島県の代弁者であるかのような発言を繰り返した。
4世帯(2世帯の審理は併合されたため裁判としては3件)の審理は1人の裁判官で行う「単独審」で行われたが、被告(避難者)側は一貫して複数の裁判官による「合議審」を求めてきた。しかし、福島地裁は一切耳を貸さなかったにもかかわらず、この日の弁論期日だけ突然、男女一人ずつの裁判官が新たに加わり「合議審」になった。
構成が変わったため冒頭で弁論が更新されたが、これに対して大口弁護士が意見を述べようとしたところ、小川裁判長は「予定している20分間の意見陳述とは別にか」、「事前に伺っていた予定と違う」などと難色を示した。最終的に大口弁護士は意見することができたが、小川裁判長はその後も原告(福島県)に甘く、被告(避難者)に厳しい態度をとり続けた。
大口弁護士が「そのもの福島県が国に対して持っている『債権』とは何なのか、何がどう不履行なのか、まったく明らかではない」などと意見を述べると、福島県の代理人弁護士が発言する前に、小川裁判長が「準備書面を読んでください」と一喝。準備書面のどこに書いてあるのかと柳原弁護士が問うと、小川裁判長は「後でご覧ください」。とても中立とは思えない訴訟指揮で、原発避難者の住宅問題という非常に重要な問題に正面から真摯に向き合う姿勢は皆無だった。
柳原弁護士の意見陳述についても、小川裁判長がそれまでの発言を遮る形で「被告準備書面の要旨を述べられるのであればどうぞ」とめんどくさそうに言って始まったほどだった。


福島地裁は原発避難者の生存権にも居住権にも正面から向き合わないまま、4件すべての審理を終結させた=福島県福島市
【「判決をおめおめと受けぬ」】
閉廷後の報告集会で、柳原弁護士は「忌避を申し立てる前に終結を言われてしまった。判決日を言う心の余裕もなかったのか、小川裁判長たちはそそくさと退廷してしまった。私に向かってあっかんべーと舌を出していたのだろう。民主主義国家の裁判とは言えない。それを止めるのは私たちしかいない。こんなことを許したら未来はない」と述べた。
大口弁護士も「福島県の肩を持って代わりに説明するというスタイルで先を急いで結審してしまった。今の裁判所のあり方が端的に表れた例ではないか。裁判所が非常に偉そうで当方の意見を取り合わないで先へ先へと進めようとする。裁判所がいずれ判決期日を指定してくるだろう。それをそのまま、おめおめと飲んで受けるというようなことでない。第2ラウンドの闘争へ進んでいく」と力をこめた。
大口弁護士によると、この日の弁論では忌避申立てが不発に終わったが、仙台高裁への即時抗告や最高裁への特別抗告など「福島地裁の姿勢に忍従していない姿勢を示す手段」はいくつかあるという。
これで、福島県が県外で暮らす区域外避難者を提訴した福島地裁での〝追い出し訴訟〟は、4件すべてが結審(別表参照)。いまのところ判決は言い渡されてはいない。

25日には、国家公務員宿舎に入居する区域外避難者11人(1人は退去済み)が福島県を訴えた「住まいの権利裁判」の第1回口頭弁論が東京地裁で行われた。
この訴訟に逆ギレした福島県の内堀雅雄知事が〝追い出し訴訟議案〟を県議会に提出。反対少数(共産党のみ)で可決されたため、いずれ訴状が福島地裁に提出される見通しだ。
原発事故被災県が県外避難した県民を裁判で追い出すという異常事態がこれからも続く。
福島県議会でも福島地裁でも実質的な議論・審理が十分に尽くされないまま、住まいが奪われていく。
安倍晋三元首相が銃殺されてから「民主主義」を口にする政治家が急に増えたが、原発事故の後始末こそ、民主主義などまったく無視していることを肝に銘じたい。
(了)

【「県の認否・反論不十分」】
「審理は終結致します」
小川裁判長の声が法廷に響いた。被告(避難者)の代理人を務める大口昭彦弁護士が勢い良く立ち上がった。
「裁判官3人を忌避致します」
しかし、小川裁判長は取り合わなかった。
「終結致しましたので忌避の権利は………」
傍聴席から野次が飛び、小川裁判長の声が聞こえなくなる。傍聴席の声は次第に大きくなった。3人の裁判官は逃げるように退廷していった。開廷から51分ほどが経っていた。
実は、裁判所はこの日での結審を予告していた。2人の被告(避難者)のほか、国際人権法の専門家2人、東京都都市整備局幹部、そして内堀知事の計6人に対する尋問もすべて却下した。柳原敏夫弁護士はブログに次のように綴っている。
「ここでようやく、本裁判は審理の夜明けに、本格的解明のとば口に立った。ところが、その矢先に、裁判所は、昨日19日、次回で審理打切りを通告してきた。これは臭いものに蓋をするという、被告(避難者)の裁判を受ける権利の露骨な剥奪だ」
だから、被告(避難者)側は当然、3つの準備書面(14、15、16)を提出。「被告らの切なる求めにも関わらず、裁判所が原告に対して適正な釈明権を行使」していないとして、結審した場合には「裁判官の忌避の申立てしかない」と強く求めた。
さらに、柳原弁護士が26分間にわたって3つの準備書面の要旨を意見陳述。
「住宅無償提供を打ち切るにあたっては、いかなる法令に基づき、いかなる調査に基づいて、いかなる検討を経て政策決定をしたのか。政策決定過程を当事者に説明する責任がある。しかし、訴状ではそのような説明はまったくない」
「原告は被告の書面に対する認否をしないまま、適用法令に関しては黙殺。裁判所も原告の黙殺を追認し、認否・反論を指示しなかった」
「ほぼ同一内容の『住まいの権利裁判』では、福島県は答弁書で個別具体的な認否・反論をしてきた。東京地裁の審議だとできるのに、どうして福島地裁の審理は認否すらしないのか理解できない」
「結審の予定であるという裁判所の考えを再考して欲しい」
しかし、小川裁判長の考えは覆らなかった。


(上)報告集会で「裁判所がいずれ判決期日を指定してくるだろう。それをそのまま、おめおめと飲んで受けるというようなことでない」と語った大口昭彦弁護士
(下)柳原敏夫弁護士は「民主主義国家の裁判とは言えない。こんなことを許したら未来はない」と語気を強めた=福島市市民会館
【いきなり合議審に変更】
「忌避」とは、民事訴訟法第24条で「裁判官について裁判の公正を妨げるべき事情があるときは、当事者は、その裁判官を忌避することができる」と定められている制度で、裁判官を職務執行から外す申立てをすることができる。
ただ、忌避のハードルは高い。最高裁第一小法廷は1973年10月の判決で「手続内における審理の方法、態度などは、それだけでは直ちに忌避の理由となしえないものであり、これらに対しては異議、上訴などの不服申立方法によつて救済を求めるべきであるといわなければならない。したがつて、訴訟手続内における審理の方法、態度に対する不服を理由とする忌避申立は、しよせん受け容れられる可能性は全くない」と却下している。
小川裁判官を含め、今回の〝追い出し訴訟〟を審理した福島地裁の3人の裁判官は本来の争点(「なぜ国有財産の明け渡しを所有者でもない福島県が求めるのか」、「原発避難者には国際法上の居住権は認められないのか」など)を直視せず、時に原告である福島県の代弁者であるかのような発言を繰り返した。
4世帯(2世帯の審理は併合されたため裁判としては3件)の審理は1人の裁判官で行う「単独審」で行われたが、被告(避難者)側は一貫して複数の裁判官による「合議審」を求めてきた。しかし、福島地裁は一切耳を貸さなかったにもかかわらず、この日の弁論期日だけ突然、男女一人ずつの裁判官が新たに加わり「合議審」になった。
構成が変わったため冒頭で弁論が更新されたが、これに対して大口弁護士が意見を述べようとしたところ、小川裁判長は「予定している20分間の意見陳述とは別にか」、「事前に伺っていた予定と違う」などと難色を示した。最終的に大口弁護士は意見することができたが、小川裁判長はその後も原告(福島県)に甘く、被告(避難者)に厳しい態度をとり続けた。
大口弁護士が「そのもの福島県が国に対して持っている『債権』とは何なのか、何がどう不履行なのか、まったく明らかではない」などと意見を述べると、福島県の代理人弁護士が発言する前に、小川裁判長が「準備書面を読んでください」と一喝。準備書面のどこに書いてあるのかと柳原弁護士が問うと、小川裁判長は「後でご覧ください」。とても中立とは思えない訴訟指揮で、原発避難者の住宅問題という非常に重要な問題に正面から真摯に向き合う姿勢は皆無だった。
柳原弁護士の意見陳述についても、小川裁判長がそれまでの発言を遮る形で「被告準備書面の要旨を述べられるのであればどうぞ」とめんどくさそうに言って始まったほどだった。


福島地裁は原発避難者の生存権にも居住権にも正面から向き合わないまま、4件すべての審理を終結させた=福島県福島市
【「判決をおめおめと受けぬ」】
閉廷後の報告集会で、柳原弁護士は「忌避を申し立てる前に終結を言われてしまった。判決日を言う心の余裕もなかったのか、小川裁判長たちはそそくさと退廷してしまった。私に向かってあっかんべーと舌を出していたのだろう。民主主義国家の裁判とは言えない。それを止めるのは私たちしかいない。こんなことを許したら未来はない」と述べた。
大口弁護士も「福島県の肩を持って代わりに説明するというスタイルで先を急いで結審してしまった。今の裁判所のあり方が端的に表れた例ではないか。裁判所が非常に偉そうで当方の意見を取り合わないで先へ先へと進めようとする。裁判所がいずれ判決期日を指定してくるだろう。それをそのまま、おめおめと飲んで受けるというようなことでない。第2ラウンドの闘争へ進んでいく」と力をこめた。
大口弁護士によると、この日の弁論では忌避申立てが不発に終わったが、仙台高裁への即時抗告や最高裁への特別抗告など「福島地裁の姿勢に忍従していない姿勢を示す手段」はいくつかあるという。
これで、福島県が県外で暮らす区域外避難者を提訴した福島地裁での〝追い出し訴訟〟は、4件すべてが結審(別表参照)。いまのところ判決は言い渡されてはいない。

25日には、国家公務員宿舎に入居する区域外避難者11人(1人は退去済み)が福島県を訴えた「住まいの権利裁判」の第1回口頭弁論が東京地裁で行われた。
この訴訟に逆ギレした福島県の内堀雅雄知事が〝追い出し訴訟議案〟を県議会に提出。反対少数(共産党のみ)で可決されたため、いずれ訴状が福島地裁に提出される見通しだ。
原発事故被災県が県外避難した県民を裁判で追い出すという異常事態がこれからも続く。
福島県議会でも福島地裁でも実質的な議論・審理が十分に尽くされないまま、住まいが奪われていく。
安倍晋三元首相が銃殺されてから「民主主義」を口にする政治家が急に増えたが、原発事故の後始末こそ、民主主義などまったく無視していることを肝に銘じたい。
(了)
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