【137カ月目の汚染水はいま】矛盾だらけの西村経産大臣 「福島県漁連との約束は遵守」でも「海洋放出は方針変えぬ」~ペーパー棒読みの福島県知事表敬
- 2022/08/19
- 06:28
西村康稔経済産業大臣が18日夕、福島県の内堀雅雄知事を表敬訪問した。所管する原発汚染水の海洋放出問題では、会見で「福島県漁連に対する『関係者の理解なしにはいかなる処分も行わない』そうした方針はしっかり遵守していきたい」と述べる一方で、官僚が用意したペーパーを棒読みしながら「科学的なデータをしっかりとお示ししながら風評対策を徹底することで、皆さまの疑問や懸念の払拭に着実に取り組んでいきたい」と語るなど矛盾だらけ。「海に流すな」と反対の声が多いが、それらの声は無視して海洋放出を強行するのが岸田政権の〝民主主義〟。それを宣言しているかのようだった。

【「近く県漁連会長と会う」】
17時20分に始まった記者会見。県政記者クラブ幹事社(時事通信社)が事前に用意した質問に、これまた経産官僚が事前に準備したペーパーを読み上げる。そのなかで、西村大臣はこう述べた。
「まずALPS処理水の海洋放出についてですけれども、これまでにお答えをしてきている例えば福島県漁連に対する『関係者の理解なしにはいかなる処分も行わない』そうした方針はしっかり遵守していきたいというふうに考えております」
福島県漁連は「海洋放出には反対だ」との姿勢を貫いている。つまり「理解」など得られていない。しかし、現実には福島県や大熊町、双葉町が海洋放出設備新設を事前了解する前から東電は工事を始め、来春にも予定されている海洋放出開始に向けた準備を着々と進めている。海洋放出方針は微塵も変わらないのだ。だから、次のような言葉が続く。
「引き続き国内外に対して説明、情報発信、科学的なそうしたデータも含めてですね、しっかりとお示ししながら風評対策を徹底することで皆さまの疑問や懸念の払拭に着実に取り組んでいきたいというふうに考えております」
海洋放出するなと言い続ける漁業者との約束を遵守すると言いながら「疑問や懸念の払拭に着実に取り組む」と語る矛盾。これが自民党流の〝民主主義〟なのだろう。反対の声が多くても結論は変えない。先に方針を決めてしまい、理解を得るために「努力」する。結局は札束で黙らせるのだろうか。西村大臣はこう続けた。
「近く全漁連の坂本会長、それから福島県漁連の野崎会長ともお会いしてお話しをしたいというふうに考えておりますし、今後もそうした話し合い、話を続けていければというふうに思っております」
なお、「囲み取材」とは名ばかりで、実際に受けた質問は幹事社の3問のみ。朝日新聞の男性記者が「処理水の約束を守られるということですが………」と投げかけたが、西村大臣は「すいません、新幹線の時間があるもんですから申し訳ないです」と会見場を後にした。
筆者も「方針だけ先に決めて理解を得るというのは逆なんじゃないですか?」と続いたが無視した。他に声を発した記者はいなかった。官僚の資料には「17時30分ぶら下がり会見終了、17時51分福島駅発」と書かれていた。会見時間は約8分間だった。

知事表敬後の会見で「福島県漁連に対する『関係者の理解なしにはいかなる処分も行わない』そうした方針はしっかり遵守していきたい」と語った西村大臣=福島県庁
【知事「正確な情報発信を」】
西村大臣は今月10日の就任会見で、福島民報の男性記者からの質問に、次のように答えている。
「ALPS処理水の処分につきましては、まさに漁業者、消費者、自治体など幅広い皆さん方に理解をしていただくことが必要だと重要だというふうに考えております。経産省として、昨年4月に海洋放出の方針を決定してから約700回の説明会や意見交換を実施してきたというふうに聞いております。一方で、こうした説明が十分でないとのご指摘もございます。これは真摯に受け止めて、国内外の多くの方々に対して科学的根拠に基づいた情報をより効果的にお届けするため、様々なツールを使って、ご理解いただくための取り組みを強化していかなきゃいけないというふうに考えております」
実は、大臣の表敬を受けた内堀知事も「正確な情報発信」という表現を使っている。
知事は「大臣とこうして直接お話しができる貴重な機会ですので、経済産業大臣あるいは経済産業省として、いま抱えておられる3つの重い使命、ミッションについてお話ししたいと思います」と前置きしたうえで、次のように語った。
「2つ目の使命は喫緊の課題、『ALPS処理水の問題』であります。本当にこの問題は深刻で複雑で難しい課題であります」
「今なお県民のなかで、あるいは国民のなかで『海洋に放出しないで欲しい』、『もう少し他の方法がないのか』、いろんな議論があります。一方で立地自治体にとってみると、この1000本以上のタンク、今日ご覧になったと思いますが、あれが今でも一週間の間に増え続けています。この状況が続くということが、あの大熊町、双葉町、あるいは双葉郡にとってどういうメッセージになっているかという状況もございます」
「こういったなかで、やはり大事なことは正確な情報発信、あるいは万全の風評対策でありますが、やはり漁業者の皆さんを含め『本当に心配だ』という声が上がっているのが現実。ぜひこういった複雑な状況のなかで経済産業大臣として特に漁業者の皆さんとの信頼関係これをしっかりと構築していただくことをお願いしたい」
一見、海洋放出に反対する県民に心を寄せているようで、実は「正確な情報発信」を求めている知事。これでは「海に流すな」と言い続けている人々が間違いで、海洋放出に「理解」する方が正しいと言っているようなものだ。
ちなみに、1つ目の使命は「帰還困難区域の復興再生」、3つ目は「福島第一、第二原発の廃炉対策」だった。

大臣の表敬を受けた内堀知事(左)も一見、注文をつけているようで海洋放出計画には反対せず。「やはり大事なことは正確な情報発信」などと発言した
【無視される専門家の声】
原発汚染水の海洋放出計画を巡っては今月2日、東電から出されていた「福島第一原子力発電所におけるALPS処理水希釈放出設備及び関連施設の新設に係る事前了解願い」を福島県や大熊町、双葉町が了解。早ければ来春にも始まる海洋放出に〝ゴーサイン〟を出した。
一方で福島県内7割の市町村議会が海洋放出に反対もしくは慎重な対応を求める意見書を可決。市民団体「これ以上海を汚すな!市民会議」などが反対の声をあげ続けている。
専門家も同様で、工学博士の天野光さん(日本原子力研究所(現・日本原子力研究開発機構)の元主任研究員)は「燃料デブリには水銀やヒ素、カドミウム、テルル、鉛などが含まれている。どの程度汚染水に溶け出すのか、ALPSでどの程度取り除けるのか分からない」と指摘する。
政府は海洋放出しなければならない理由として「タンク群が原発敷地を圧迫し、燃料デブリの取り出しなど廃炉作業に支障が生じる」と言っているが、京都大学「複合原子力科学研究所」研究員の今中哲二さんは懐疑的だ。
「燃料デブリが中でどうなっているのか、いまだに分からない。1号機から3号機まで合わせて880トンもある。取り出しがいつ終わるか見込みさえ立っていない。40年でさら地になるようなことはあり得ない」
2013年から県の「廃炉安全協議会」専門委員を務める福島大学・柴崎直明教授も、地質学の専門家の立場から「海洋放出の前に、まずは地下水の流入を止めろ」と訴えている。
「増える汚染水をゼロにすれば、いま溜まっている水を海に流さなくて済む。増え続ける汚染水を放置せず、いち早く抜本的な削減策を講じるべきだ」
しかし、それらの声に岸田政権は耳を傾けない。それどころか「間違っていますよ」と「正確な情報発信」にますます力を入れるという。
今春には、経済産業省資源エネルギー庁や復興庁が作成した〝安全偏重チラシ〟(「復興のあと押しはまず知ることから」と「ALPS処理水について知ってほしい3つのこと」)を文科省が小中高校に送りつける事態があった。
エネ庁のチラシでは、海洋放出計画について「浄化処理した水を安全に処分していきます」として「これ(海洋放出)によって、『環境や生物が汚染される』といった、事実とは違う認識が広まる『風評被害』を心配する声もあります。その影響が出ないよう、国は、安全性を伝える取組を続けていきます」と表記。海洋放出に反対する人々の声を「事実とは違う認識」と一刀両断している。それを教育委員会を通さずに直接、各学校に送りつけた。
合意形成など無視して海洋放出に向けた既成事実だけが着々と積み上げられているのだ。
(了)

【「近く県漁連会長と会う」】
17時20分に始まった記者会見。県政記者クラブ幹事社(時事通信社)が事前に用意した質問に、これまた経産官僚が事前に準備したペーパーを読み上げる。そのなかで、西村大臣はこう述べた。
「まずALPS処理水の海洋放出についてですけれども、これまでにお答えをしてきている例えば福島県漁連に対する『関係者の理解なしにはいかなる処分も行わない』そうした方針はしっかり遵守していきたいというふうに考えております」
福島県漁連は「海洋放出には反対だ」との姿勢を貫いている。つまり「理解」など得られていない。しかし、現実には福島県や大熊町、双葉町が海洋放出設備新設を事前了解する前から東電は工事を始め、来春にも予定されている海洋放出開始に向けた準備を着々と進めている。海洋放出方針は微塵も変わらないのだ。だから、次のような言葉が続く。
「引き続き国内外に対して説明、情報発信、科学的なそうしたデータも含めてですね、しっかりとお示ししながら風評対策を徹底することで皆さまの疑問や懸念の払拭に着実に取り組んでいきたいというふうに考えております」
海洋放出するなと言い続ける漁業者との約束を遵守すると言いながら「疑問や懸念の払拭に着実に取り組む」と語る矛盾。これが自民党流の〝民主主義〟なのだろう。反対の声が多くても結論は変えない。先に方針を決めてしまい、理解を得るために「努力」する。結局は札束で黙らせるのだろうか。西村大臣はこう続けた。
「近く全漁連の坂本会長、それから福島県漁連の野崎会長ともお会いしてお話しをしたいというふうに考えておりますし、今後もそうした話し合い、話を続けていければというふうに思っております」
なお、「囲み取材」とは名ばかりで、実際に受けた質問は幹事社の3問のみ。朝日新聞の男性記者が「処理水の約束を守られるということですが………」と投げかけたが、西村大臣は「すいません、新幹線の時間があるもんですから申し訳ないです」と会見場を後にした。
筆者も「方針だけ先に決めて理解を得るというのは逆なんじゃないですか?」と続いたが無視した。他に声を発した記者はいなかった。官僚の資料には「17時30分ぶら下がり会見終了、17時51分福島駅発」と書かれていた。会見時間は約8分間だった。

知事表敬後の会見で「福島県漁連に対する『関係者の理解なしにはいかなる処分も行わない』そうした方針はしっかり遵守していきたい」と語った西村大臣=福島県庁
【知事「正確な情報発信を」】
西村大臣は今月10日の就任会見で、福島民報の男性記者からの質問に、次のように答えている。
「ALPS処理水の処分につきましては、まさに漁業者、消費者、自治体など幅広い皆さん方に理解をしていただくことが必要だと重要だというふうに考えております。経産省として、昨年4月に海洋放出の方針を決定してから約700回の説明会や意見交換を実施してきたというふうに聞いております。一方で、こうした説明が十分でないとのご指摘もございます。これは真摯に受け止めて、国内外の多くの方々に対して科学的根拠に基づいた情報をより効果的にお届けするため、様々なツールを使って、ご理解いただくための取り組みを強化していかなきゃいけないというふうに考えております」
実は、大臣の表敬を受けた内堀知事も「正確な情報発信」という表現を使っている。
知事は「大臣とこうして直接お話しができる貴重な機会ですので、経済産業大臣あるいは経済産業省として、いま抱えておられる3つの重い使命、ミッションについてお話ししたいと思います」と前置きしたうえで、次のように語った。
「2つ目の使命は喫緊の課題、『ALPS処理水の問題』であります。本当にこの問題は深刻で複雑で難しい課題であります」
「今なお県民のなかで、あるいは国民のなかで『海洋に放出しないで欲しい』、『もう少し他の方法がないのか』、いろんな議論があります。一方で立地自治体にとってみると、この1000本以上のタンク、今日ご覧になったと思いますが、あれが今でも一週間の間に増え続けています。この状況が続くということが、あの大熊町、双葉町、あるいは双葉郡にとってどういうメッセージになっているかという状況もございます」
「こういったなかで、やはり大事なことは正確な情報発信、あるいは万全の風評対策でありますが、やはり漁業者の皆さんを含め『本当に心配だ』という声が上がっているのが現実。ぜひこういった複雑な状況のなかで経済産業大臣として特に漁業者の皆さんとの信頼関係これをしっかりと構築していただくことをお願いしたい」
一見、海洋放出に反対する県民に心を寄せているようで、実は「正確な情報発信」を求めている知事。これでは「海に流すな」と言い続けている人々が間違いで、海洋放出に「理解」する方が正しいと言っているようなものだ。
ちなみに、1つ目の使命は「帰還困難区域の復興再生」、3つ目は「福島第一、第二原発の廃炉対策」だった。

大臣の表敬を受けた内堀知事(左)も一見、注文をつけているようで海洋放出計画には反対せず。「やはり大事なことは正確な情報発信」などと発言した
【無視される専門家の声】
原発汚染水の海洋放出計画を巡っては今月2日、東電から出されていた「福島第一原子力発電所におけるALPS処理水希釈放出設備及び関連施設の新設に係る事前了解願い」を福島県や大熊町、双葉町が了解。早ければ来春にも始まる海洋放出に〝ゴーサイン〟を出した。
一方で福島県内7割の市町村議会が海洋放出に反対もしくは慎重な対応を求める意見書を可決。市民団体「これ以上海を汚すな!市民会議」などが反対の声をあげ続けている。
専門家も同様で、工学博士の天野光さん(日本原子力研究所(現・日本原子力研究開発機構)の元主任研究員)は「燃料デブリには水銀やヒ素、カドミウム、テルル、鉛などが含まれている。どの程度汚染水に溶け出すのか、ALPSでどの程度取り除けるのか分からない」と指摘する。
政府は海洋放出しなければならない理由として「タンク群が原発敷地を圧迫し、燃料デブリの取り出しなど廃炉作業に支障が生じる」と言っているが、京都大学「複合原子力科学研究所」研究員の今中哲二さんは懐疑的だ。
「燃料デブリが中でどうなっているのか、いまだに分からない。1号機から3号機まで合わせて880トンもある。取り出しがいつ終わるか見込みさえ立っていない。40年でさら地になるようなことはあり得ない」
2013年から県の「廃炉安全協議会」専門委員を務める福島大学・柴崎直明教授も、地質学の専門家の立場から「海洋放出の前に、まずは地下水の流入を止めろ」と訴えている。
「増える汚染水をゼロにすれば、いま溜まっている水を海に流さなくて済む。増え続ける汚染水を放置せず、いち早く抜本的な削減策を講じるべきだ」
しかし、それらの声に岸田政権は耳を傾けない。それどころか「間違っていますよ」と「正確な情報発信」にますます力を入れるという。
今春には、経済産業省資源エネルギー庁や復興庁が作成した〝安全偏重チラシ〟(「復興のあと押しはまず知ることから」と「ALPS処理水について知ってほしい3つのこと」)を文科省が小中高校に送りつける事態があった。
エネ庁のチラシでは、海洋放出計画について「浄化処理した水を安全に処分していきます」として「これ(海洋放出)によって、『環境や生物が汚染される』といった、事実とは違う認識が広まる『風評被害』を心配する声もあります。その影響が出ないよう、国は、安全性を伝える取組を続けていきます」と表記。海洋放出に反対する人々の声を「事実とは違う認識」と一刀両断している。それを教育委員会を通さずに直接、各学校に送りつけた。
合意形成など無視して海洋放出に向けた既成事実だけが着々と積み上げられているのだ。
(了)
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