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【原発事故と廃炉措置】「何が何でも燃料デブリを取り出せ!」福島県知事が改めて「石棺方式NO」を強調 専門家からは「非現実的」の声

福島第一原発の廃炉措置を巡り、福島県の内堀雅雄知事が3日午前の定例会見で改めて「石棺方式NO」を強調した。内堀知事は2016年、「廃炉のための技術戦略プラン」に「石棺方式」の四文字が盛り込まれた事に猛反発。経産省に抗議をし、文言を削除・修正させた経緯がある。この日の会見でも「しっかりと取り出して、いずれ県外できちんと最終処分をしていただく」と燃料デブリの取り出しと福島県外処分はゆずれないと力をこめた。しかし、東電は燃料デブリの取り出しに難航しているのが現状で、専門家からは「取り出しは現実的でない」との声があがっている。
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【「福島県外で最終処分を」】
 「結構です」
 内堀知事は身を乗り出しながら、きっぱりと言った。
 定例会見の終盤、河北新報の男性記者から「2016年当時と変わらず、石棺というものに対しては断固として認めないと。すべて取り出して県外に出すんだということは変わらないという理解で大丈夫ですか?」と質されての回答。
 普段、明言を避ける物言いの多い内堀知事にしては珍しく、毅然とした態度だった。
 当該記者が挙げたのが、9月で原子力規制委員長を退任した更田豊志氏の発言。日本テレビのインタビューに対し、燃料デブリの取り出しについて次のように語っている。
 「すべての放射性物質を取り出すとか、ゼロにするということは、技術的にはなかなか考えにくくて。できるだけ量を減らす努力はするけど、あとは現場をいったん固めてしまう、安定化させてしまうということは、現実的な選択肢なんだと思います」
 内堀知事は、このインタビューを「観ていない」としたうえで、廃炉措置や燃料デブリの取り出しに関する県のスタンスを改めて述べた。
 「今回のご発言、全体の流れや背景が分かっていないので直接のコメントは難しい。福島県として使用済み燃料、あるいは燃料デブリも含めてしっかりと取り出していただくこと。いずれ県外できちんと最終処分をしていただくこと。これを立地自治体等を含めて経済産業大臣等に毎年、要請を行っている」
 一昨年2月の福島県議会では、古市三久県議(県民連合、いわき市)が「福島第1原発は、溶融デブリの取り出しを目指していますが、被曝労働と死の灰の拡散が懸念されます。環境汚染が発生しないように、遮蔽して半永久的に隔離保管すべき」、「福島第1原発は放射性物質が漏えいしないよう石棺方式により半永久的に管理すべき」などと県の見解を質している。このときの成田良洋危機管理部長も同じ答弁だった。
 「石棺方式につきましては、平成28年(2016年)7月、知事から経済産業大臣に対し、避難区域の復興再生や地域住民の帰還に取り組む本県にとって到底容認できるものではないと申し入れたところ」
 「県といたしましては、使用済燃料や燃料デブリを含む放射性廃棄物については、原子力政策を推進してきた国の責任において処分方法の議論を進め、県外において適切に処分するよう引き続き求めてまいる」

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定例会見で改めて「石棺NO」を強調した内堀知事。2016年には県議会議長も「石棺反対」のコメントを発表。原子力損害賠償・廃炉等支援機構は「技術戦略プラン2016」から「石棺方式」の文字を削除した。現在は修正版のみ公表されている。

【】
 何が何でも燃料デブリを取り出せ─。その姿勢が端的に現れたのが、県議会の答弁でも引き合いに出された2016年7月の〝猛抗議〟だ。
 原子力損害賠償・廃炉等支援機構が2016年7月13日に公表した「東京電力ホールディングス(株)福島第一原子力発電所の廃炉のための技術戦略プラン2016」「石棺方式」の四文字が盛り込まれていると福島県が反発。2日後の7月15日には内堀知事自ら上京して午前10時から経産省を訪問。当時の高木陽介経済産業副大臣に対し「公表された『福島第一原子力発電所の廃炉のための技術戦略プラン』は『石棺方式』の選択の余地を残した計画となっており、本県としては到底容認できるものではない」と抗議。「世界の英知を結集し、国の威信をかけて、燃料デブリを安全かつ確実に取り出し、県外において適切に処分」するよう改めて求めた。
 実は、問題となった「技術戦略プラン2016」では、福島第一原発への「石棺方式」導入を積極的に提唱していたわけではない。むしろ否定的に「チェルノブイリ原子力発電所4号機の事故に対してとられた、通称“石棺方式”の適用は、原子炉建屋の補強などによる当面の閉じ込め確保に効果があるとしても、長期にわたる安全管理が困難である」と記載されただけだった。
 しかし、内堀知事は「『石棺方式』という言葉を初めて見たとき、福島県民は大きなショックを受けた」、「私自身の第一印象は『ありえない』その一言」、「『石棺方式』は避難区域の復興・再生、県全体の風評風化対策、イノベーションコースト構想を『あきらめる』と同義語だ」などと猛反発。高木副大臣は「国として『石棺』で処理するという考え方は一切ない」、「原子力損害賠償・廃炉等支援機構に、技術戦略プランの記述を書き直すよう指示した」と答えた。機構は削除・修正したものをホームページで公開している。
 福島県は、この経緯を原子力安全対策課のホームページ上で公開している。情報公開に消極的な場面が多いだけに、いかに「石棺反対」に注力しているかが分かる。そして「今も福島県の姿勢は変わっていない」というのが、定例会見での内堀知事の答弁だった。

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東電は燃料デブリの取り出しを前提に廃炉作業を進めている(写真上、中)が、今中哲二氏は「40年であそこがさら地になるようなことはあり得ません」と懐疑的だ(写真下)

【「ペテン。廃炉詐欺だ」】
 ある県議は「燃料デブリの取り出しなんてペテン。廃炉詐欺だよ。そんなことできるはずがない」と語る。「内堀知事も現実的でないことは分かっているはず。でも、双葉町や大熊町の手前、そう言わざるを得ないのだろう」。
 しかし、県議会も多くが知事に同調。2016年9月議会で阿部裕美子県議(共産党)が「石棺方式は認められず、燃料デブリの取り出しを確実に行い、責任を持って適切に最終処分するよう国に求めるべき」と質問。2017年2月議会でも、高橋秀樹県議(民進党・県民連合)が質問のなかで「昨年は石棺化の話まで出るなど、県民としては復興に水をかけられた思いもありました」と述べている。前述のような議員は少数派だ。「何十年にもわたって燃料デブリ取り出しに取り組んでいれば儲かる連中もいる」との声もある。
 実は「燃料デブリの取り出し」は、「原発汚染水の海洋放出」にもかかわってくる。多数のタンクがあることで、燃料デブリの取り出し作業などに支障をきたすと国は繰り返し主張しているからだ。
 では、現実問題として燃料デブリの取り出しなど可能なのか。
 京都大学「複合原子力科学研究所」研究員の今中哲二さんは今年4月にいわき市内で行った講演会で次のように述べている。
 「あそこで行われているのは、まだ〝現場検証〟にすぎません。燃料デブリが中でどうなっているのか、いまだに分かりません。確かにロボットを使ってピンセットでつまむ程度はやりましたが、来年あたり取り出すというのは、欠片をちょこっとだけ出すという計画。1号機から3号機まで合わせて880トンもあるのですよ。いまだに〝現場検証〟が続いていて、それがいつ終わるか見込みさえ立っていません。40年であそこがさら地になるようなことはあり得ません」
 原子力市民委員会も、昨年4月に発行した特別レポート「燃料デブリ『長期遮蔽管理』の提言~実現性のない取出し方針からの転換~ 」のなかで「当事者たちが2022年度からデブリの取出しを開始する予定に固執している」として、改めて「長期遮蔽管理方式」を提言している。
 13日には福島県知事選挙が告示される。今後も「燃料デブリ取り出し」に固執するのか、石棺方式に転換して福島第一原発を過酷事故の〝墓標〟とする覚悟を決めるのか。有権者も真剣に考える必要がある。



(了)
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鈴木博喜

Author:鈴木博喜
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