【汚染土壌の再利用】除染土再利用が復興支援なのか? 埼玉・所沢で福島県外初の実証実験計画 周知不足のまま16日夜に限定的な住民説明会 市役所には苦情相次ぐ
- 2022/12/08
- 13:57
〝航空発祥の地〟が揺れている。福島第一原発事故後の除染で生じた8000Bq/kg以下の汚染土壌を中間貯蔵施設から埼玉県所沢市に運び込み、環境省所有地内の芝生整備に再利用して安全性をアピールする実証事業を行う計画が浮上したためだ。16日夜には環境省が住民説明会が開くが、周知不足で人数も対象エリアも限定。説明会後まで事業の概要も「非公開」という有り様。一方の所沢市も実証事業の是非は問わない姿勢で、「福島県外での最終処分」という大命題を受けて汚染土壌量を少しでも減らしたい環境省が「福島県外での再利用」に向けて大きく動き出した。

【「福島の問題〝福島事〟でない」】
実証実験が計画されているのは、西武新宿線・航空公園駅のほど近く。防衛医科大学校に隣接する環境省の「環境調査研修所」(埼玉県所沢市並木3丁目)。敷地奥の芝生広場の造成に中間貯蔵施設から運ばれた土壌が使われるとみられる。
「藤本正人市長宛ての文書は11月30日付ですが、今年の夏ごろに環境省から話がありました。主にメールでのやり取りでしたが、実際にどのくらい被曝するリスクがあるのか分からないと住民のみなさんは安心できないと思うので、そのあたりは確認してきました。市としては、安全は担保されているという認識です。安全性は確認していますし、それほど大きな面積ではありません。道路からも離れていますから」
取材に応じた所沢市職員は、そう説明した。
「研修所の敷地内はほとんどが建物なのですが、奥の一角に芝生広場があり、その整備に使うと聞いています。実施時期や整備面積、土壌の搬入量は非公開なので申し上げることはできません。住民説明会が終わった後に、環境省から正式なプレスリリースが出ると思います。住民説明会での感触をふまえて今後どうするのかを検討したい、まずは住民に説明したいということでした。住民説明会を聴いてもらえれば、ある程度は納得していただけるのではないでしょうか」
だが、肝心の住民説明会は平日の夜に開かれるうえに対象住民を限定。事前に申し込んだ50人しか参加できない。しかも、案内のチラシは対象地域に全戸配布されておらず、町内会の掲示板など数カ所で掲示されているだけ。実際に住宅街を歩いてみると、住民説明会の開催を知らない人ばかりだった。
「回覧板は新型コロナウイルス感染症の関係でやっていないので、町内会の掲示板を使っています。市役所の庁舎内には掲示していません。新聞折り込みなど、紙で各世帯に配っているわけではありません」(所沢市職員)
報道を受け、所沢市役所には問い合わせや抗議の電話が相次いでいるという。筆者が訪れた際も、窓口で市職員に詰め寄る市民の姿があった。市職員は「やらなければいけない…やらなければいけないというか…福島の問題は〝福島事〟ではないということは恐らくみなさん分かっていて、ただ、なぜ所沢なのかというところは説明が足りないのかもしれません」と語った。




①金曜の夜に開催される住民説明会の案内チラシ。全戸配布はされていない
②環境省から所沢市長あてに届いた文書。実際には夏頃から、水面下での事務方協議が進められてきたという
③今年8月に開かれた「中間貯蔵施設における除去土壌等の再生利用方策検討ワーキンググループ」の資料(抜粋)。事務局は「福島県外での最終処分という目標の実現に向けて………福島県外においても除去土壌等の再生利用の実証事業を行いたい」と説明していた
④実証事業が行われるとみられる「環境調査研修所」内の芝生広場=埼玉県所沢市並木
【「地元を無視して強行しない」】
実証事業の詳細について環境省環境再生・資源循環局に電話取材すると、確かに実施時期などすべてが〝極秘〟だった。
「所沢市役所の方のお答え通りです。芝生広場に使うかなど、具体的な内容は住民説明会当日以降のご説明にさせていただきます。住民の方々に説明させていただいて、その後にメディアの皆さんにご説明するという流れです。まだ資料なども調整中でありますし、まずは住民の方々に説明したいと考えております」
それほど住民への説明を重視するのなら、なぜもっとていねいに周知しないのか。なぜ人数や対象エリアを限定するのか。
「新型コロナウイルス感染症の対策もあり、事前申込制にさせていただいております。会場の広さを考慮して50人としました。事業や工事の内容から、対象範囲を近隣で設定させていただきました。案内チラシの配布方法などについては、所沢市さんと相談のうえで決定させていただきました」
そもそも、除染で生じた汚染土壌の再利用について、安全性は担保されているのか。環境省の担当者は「これまで福島県内で実施してきた実証事業などで安全性は確認できたという認識です」と話す。仮に、住民説明会で反対意見が大勢を占めたら計画を白紙撤回するのか。これについても担当者は「当日の状況をみながらになるので、今は何とも言いかねます」と答えるにとどまった。「もちろん、地元の方々を無視して強行するものではありませんが、どのようになるかというのは当日の状況やいただいたご意見をみながらになろうかと思います」。
当日は、地元記者クラブを含めてメディアの取材を認めない可能性もあるという。
「オープンにするかどうかは検討中でして、何らかの形でお知らせずるかと思います。取材を認めない可能性も含めてフラットに検討中です」
福島県外の実証事業は所沢市だけではなく、新宿御苑や国立環境研究所(茨城県つくば市)など他の環境省所有地でも計画されているとの報道もあるが、担当者は「環境省として公表しておりますのは所沢の研修所1カ所のみです。計画そのものもない?えっと、そうですね…環境省としては研修所しか公表しておりません」
騒ぎを大きくしたくないのだろう。とにかく秘密裏に進めたい姿勢だけは伝わった。




①②住民説明会の案内チラシは対象エリア内の町内会掲示板や集合住宅入り口に掲示されているだけ。これでは積極的に周知しているとは言い難い
③筆者が取材に訪れた際も、実証事業に反対する男性が所沢市職員に詰め寄っていた。電話も相次いでいるという=所沢市役所
④福島県二本松市で実証事業の計画が浮上した際には、住民の反対運動があった。ビラには「県外どこにでも持ち出す第一歩となりかねません」、「全国に広める実験台にされてはたまりません」と書かれていた=2018年
【市議は急きょ一般質問】
所沢市議会の城下のり子市議(共産党)は、住民説明会当日の午前に予定されている一般質問で急きょ、取り上げる。
「議会には今月2日、市長名で議長宛てに文書(環境省から市長宛てに送られた文書と同じもの)がメールで送られてきました。私たちはそれで初めて計画を知りました」(城下市議)
こんなことが勝手に行われてはならないとその日に、共産党市議団で議長に対して申し入れをしたという。「勝手に持ち込まれて、何かあったときに誰が責任をとるのか。市長が決裁しなければ、こんなことはあり得ない…」(平井明美市議)。
しかし、市当局の答弁は期待できそうもない。ここでも環境省による〝待った〟がかかっているからだ。
「住民説明会の後だったら話せることはあると思うのですが…。なぜ環境省がストップをかけているのか?それは分からないです。本当に理解を得たいのなら腹を割って話せば良いのに」(市職員)
既に実証事業のレールは敷かれていて、安全性や是非は論じられない。民主主義の手続きも軽んじられている。市職員は「一番は市民の安全安心だと市長も言っています。(福島復興の)お手伝いはしますが、市民の安全安心が前提のうえでの話ですよとはっきり言っています。私個人も、そうあって欲しいと思います」と話したが、それであれば、なぜ議会で時間をかけて議論しないのか。なぜ周知不足の住民説明会を許すのか。議論は尽きない。この構図は〝震災ガレキ問題〟を思い出させる。
福島県大熊町・双葉町に建設された中間貯蔵施設は「最終処分場ではない」というのが国や福島県の一致した考え方。そのため、2044年度までに最終処分地を決め、持ち出さなければならない。「福島県外での最終処分に向け、除染で生じた土壌を少しでも減らしたいという前提は変わりません」と環境省。2016年5月に行われた院内集会では、当時の環境省官僚が「100Bq/kgは『どのように再利用しても良い』という基準。8000Bq/kgは『用途や管理を明確にして部材として限定的に使うことが出来ないか』という基準だ」と苦しい説明に終始していた。
あれから6年。汚染土壌の福島県外再利用が動き出す。周知不足の限定的な住民説明会で所沢市民はどんな声をあげるのか。今の段階で何人から参加申し込みがあったのか?環境省の担当者は「申し訳ないですがお伝えできません」と回答を拒んだ。
(了)

【「福島の問題〝福島事〟でない」】
実証実験が計画されているのは、西武新宿線・航空公園駅のほど近く。防衛医科大学校に隣接する環境省の「環境調査研修所」(埼玉県所沢市並木3丁目)。敷地奥の芝生広場の造成に中間貯蔵施設から運ばれた土壌が使われるとみられる。
「藤本正人市長宛ての文書は11月30日付ですが、今年の夏ごろに環境省から話がありました。主にメールでのやり取りでしたが、実際にどのくらい被曝するリスクがあるのか分からないと住民のみなさんは安心できないと思うので、そのあたりは確認してきました。市としては、安全は担保されているという認識です。安全性は確認していますし、それほど大きな面積ではありません。道路からも離れていますから」
取材に応じた所沢市職員は、そう説明した。
「研修所の敷地内はほとんどが建物なのですが、奥の一角に芝生広場があり、その整備に使うと聞いています。実施時期や整備面積、土壌の搬入量は非公開なので申し上げることはできません。住民説明会が終わった後に、環境省から正式なプレスリリースが出ると思います。住民説明会での感触をふまえて今後どうするのかを検討したい、まずは住民に説明したいということでした。住民説明会を聴いてもらえれば、ある程度は納得していただけるのではないでしょうか」
だが、肝心の住民説明会は平日の夜に開かれるうえに対象住民を限定。事前に申し込んだ50人しか参加できない。しかも、案内のチラシは対象地域に全戸配布されておらず、町内会の掲示板など数カ所で掲示されているだけ。実際に住宅街を歩いてみると、住民説明会の開催を知らない人ばかりだった。
「回覧板は新型コロナウイルス感染症の関係でやっていないので、町内会の掲示板を使っています。市役所の庁舎内には掲示していません。新聞折り込みなど、紙で各世帯に配っているわけではありません」(所沢市職員)
報道を受け、所沢市役所には問い合わせや抗議の電話が相次いでいるという。筆者が訪れた際も、窓口で市職員に詰め寄る市民の姿があった。市職員は「やらなければいけない…やらなければいけないというか…福島の問題は〝福島事〟ではないということは恐らくみなさん分かっていて、ただ、なぜ所沢なのかというところは説明が足りないのかもしれません」と語った。




①金曜の夜に開催される住民説明会の案内チラシ。全戸配布はされていない
②環境省から所沢市長あてに届いた文書。実際には夏頃から、水面下での事務方協議が進められてきたという
③今年8月に開かれた「中間貯蔵施設における除去土壌等の再生利用方策検討ワーキンググループ」の資料(抜粋)。事務局は「福島県外での最終処分という目標の実現に向けて………福島県外においても除去土壌等の再生利用の実証事業を行いたい」と説明していた
④実証事業が行われるとみられる「環境調査研修所」内の芝生広場=埼玉県所沢市並木
【「地元を無視して強行しない」】
実証事業の詳細について環境省環境再生・資源循環局に電話取材すると、確かに実施時期などすべてが〝極秘〟だった。
「所沢市役所の方のお答え通りです。芝生広場に使うかなど、具体的な内容は住民説明会当日以降のご説明にさせていただきます。住民の方々に説明させていただいて、その後にメディアの皆さんにご説明するという流れです。まだ資料なども調整中でありますし、まずは住民の方々に説明したいと考えております」
それほど住民への説明を重視するのなら、なぜもっとていねいに周知しないのか。なぜ人数や対象エリアを限定するのか。
「新型コロナウイルス感染症の対策もあり、事前申込制にさせていただいております。会場の広さを考慮して50人としました。事業や工事の内容から、対象範囲を近隣で設定させていただきました。案内チラシの配布方法などについては、所沢市さんと相談のうえで決定させていただきました」
そもそも、除染で生じた汚染土壌の再利用について、安全性は担保されているのか。環境省の担当者は「これまで福島県内で実施してきた実証事業などで安全性は確認できたという認識です」と話す。仮に、住民説明会で反対意見が大勢を占めたら計画を白紙撤回するのか。これについても担当者は「当日の状況をみながらになるので、今は何とも言いかねます」と答えるにとどまった。「もちろん、地元の方々を無視して強行するものではありませんが、どのようになるかというのは当日の状況やいただいたご意見をみながらになろうかと思います」。
当日は、地元記者クラブを含めてメディアの取材を認めない可能性もあるという。
「オープンにするかどうかは検討中でして、何らかの形でお知らせずるかと思います。取材を認めない可能性も含めてフラットに検討中です」
福島県外の実証事業は所沢市だけではなく、新宿御苑や国立環境研究所(茨城県つくば市)など他の環境省所有地でも計画されているとの報道もあるが、担当者は「環境省として公表しておりますのは所沢の研修所1カ所のみです。計画そのものもない?えっと、そうですね…環境省としては研修所しか公表しておりません」
騒ぎを大きくしたくないのだろう。とにかく秘密裏に進めたい姿勢だけは伝わった。




①②住民説明会の案内チラシは対象エリア内の町内会掲示板や集合住宅入り口に掲示されているだけ。これでは積極的に周知しているとは言い難い
③筆者が取材に訪れた際も、実証事業に反対する男性が所沢市職員に詰め寄っていた。電話も相次いでいるという=所沢市役所
④福島県二本松市で実証事業の計画が浮上した際には、住民の反対運動があった。ビラには「県外どこにでも持ち出す第一歩となりかねません」、「全国に広める実験台にされてはたまりません」と書かれていた=2018年
【市議は急きょ一般質問】
所沢市議会の城下のり子市議(共産党)は、住民説明会当日の午前に予定されている一般質問で急きょ、取り上げる。
「議会には今月2日、市長名で議長宛てに文書(環境省から市長宛てに送られた文書と同じもの)がメールで送られてきました。私たちはそれで初めて計画を知りました」(城下市議)
こんなことが勝手に行われてはならないとその日に、共産党市議団で議長に対して申し入れをしたという。「勝手に持ち込まれて、何かあったときに誰が責任をとるのか。市長が決裁しなければ、こんなことはあり得ない…」(平井明美市議)。
しかし、市当局の答弁は期待できそうもない。ここでも環境省による〝待った〟がかかっているからだ。
「住民説明会の後だったら話せることはあると思うのですが…。なぜ環境省がストップをかけているのか?それは分からないです。本当に理解を得たいのなら腹を割って話せば良いのに」(市職員)
既に実証事業のレールは敷かれていて、安全性や是非は論じられない。民主主義の手続きも軽んじられている。市職員は「一番は市民の安全安心だと市長も言っています。(福島復興の)お手伝いはしますが、市民の安全安心が前提のうえでの話ですよとはっきり言っています。私個人も、そうあって欲しいと思います」と話したが、それであれば、なぜ議会で時間をかけて議論しないのか。なぜ周知不足の住民説明会を許すのか。議論は尽きない。この構図は〝震災ガレキ問題〟を思い出させる。
福島県大熊町・双葉町に建設された中間貯蔵施設は「最終処分場ではない」というのが国や福島県の一致した考え方。そのため、2044年度までに最終処分地を決め、持ち出さなければならない。「福島県外での最終処分に向け、除染で生じた土壌を少しでも減らしたいという前提は変わりません」と環境省。2016年5月に行われた院内集会では、当時の環境省官僚が「100Bq/kgは『どのように再利用しても良い』という基準。8000Bq/kgは『用途や管理を明確にして部材として限定的に使うことが出来ないか』という基準だ」と苦しい説明に終始していた。
あれから6年。汚染土壌の福島県外再利用が動き出す。周知不足の限定的な住民説明会で所沢市民はどんな声をあげるのか。今の段階で何人から参加申し込みがあったのか?環境省の担当者は「申し訳ないですがお伝えできません」と回答を拒んだ。
(了)
スポンサーサイト