【汚染土壌の再利用】「汚染土を所沢に持ち込むな」「第2のダイオキシン問題に発展しかねない」市民抗議のなか〝密室〟〝3時間超〟の住民説明会 福島からも反対の声
- 2022/12/17
- 20:26
福島第一原発事故後の除染で生じた8000Bq/kg以下の汚染土壌を中間貯蔵施設から埼玉県所沢市に運び込み、環境省所有地内の芝生整備に再利用して安全性をアピールする実証事業計画が浮上している問題で、住民説明会が16日夜、「環境省環境調査研修所」(埼玉県所沢市並木3丁目)で開かれた。説明会は22時近くまで3時間半にわたって行われたが、取材が許されたのは冒頭の5分弱のみ。記者たちに住民の生の声を聴かせまいと別室に隔離するのが「ていねいな説明」なのか。説明会場外では市民たちが抗議の声をあげたほか、福島からも県外再利用に反対の声があがっている。

【頭撮りだけでメディア隔離】
厳戒態勢、密室、閉鎖的、排除…。どんな言葉を使っても表現しきれないような環境省の対応だった。
筆者が環境調査研修所に到着したのは、既に真っ暗になった17時すぎ。研修所の鉄門扉は閉ざされ、わずかなすき間に2人の警備員がにらみをきかせていた。中に入ろうとすると身分証を呈示しろと言う。拒むと、今度は中に居る職員に電話で了解を得ろとのこと。最終的に環境職員が門扉まで出てきて「事前申し込みはないが、今回だけ特別に許可する」。だが、実は環境省の言う「取材」とは、冒頭のみで退室させる〝頭撮り〟だった。
実際、取材陣は早々に体質を命じられ、下の階に設けられた「メディア待機室」なる部屋に隔離された。当然ながら、会場の様子が分かるような映像や音声が流されるというようなことはなかった。動画が広く配信されることもないという。なぜ密室にこだわるのか。別の職員がこう説明した。
「会場がせまいので、感染症対策という理由がひとつ。また、まずは近隣住民の方々に説明したいということなので、中身についてきちんとした議論をしたいというのも理由です。住民の方から取材されたら困るという話があったということではありません」
結局、住民説明会の会場で実際に見聞きできたのは、冒頭の新井田浩参事官のあいさつだけだった。
「除染により生じた土、除去土壌というふうに呼んでいますが、福島県内で生じたもの除去土壌につきましては、2044年度までに福島県外で最終処分することが法律にも規定された国の責務となっております。一方で、この除去土壌は非常に量が問題であるために県外最終処分にあたりましては処分量をできるだけ減らすことがカギとなっております。その手段として再生利用を進めることが重要というふうに考えております。再生利用に関しましてはこれまで、福島県内で実証事業を行い、安全性を確認してきたところでございますけれども、今回、条件が異なる福島県外での実証事業を行い、改めて安全性を確認する事都したものであります。本日は、除去土壌や再生利用実証事業の内容等につきましての説明を予定しております。みなさまのご理解を賜りますよう、よろしくお願い申し上げます。本日はどうぞよろしくお願い致します」
18時半に始まった説明会は3時間を超えた。住民の質問や意見を打ち切らなかった環境省の姿勢は評価できるが、メディアに住民の生の声を一切聞かせないやり方は「ていねいな説明」とは到底言えない。何度も説明会場前まで行ってみたが、そのたびに環境省職員に止められた。海洋放出問題と同様に、ここでも民主主義は機能していなかった。





住民説明会が行われた環境調査研修所前では、汚染土壌再利用の実証事業に反対する市民たちが思い思いのプラカードを手に声をあげた。「いても立ってもいられず飯能市から駆け付けました。福島だけの問題でも所沢だけの問題でもありませんから」と手づくりのプラカードを掲げた10代女性の姿もあった=埼玉県所沢市並木3丁目
【市長「福島だけに押し付けられぬ」】
この日午前の所沢市議会。一般質問に立った城下のり子市議(共産党)は急きょ予定を変更し、今回の問題について市の姿勢を質した。35本を超える質疑のなかで、藤本正人市長の考え方が改めてはっきりした。汚染土壌受け入れのレールは敷かれていると確信させるのに十分な答弁だった。
市長答弁によると、環境省から所沢市に打診があったのは今年6月28日。その時点で市民合意が大前提であると環境省に伝えたという。
「当初から環境省に対して『まずは市民の安全…市民のみなさんの安全・安心が確保され、市民の理解が得られることが大前提でありますよ』と伝えた。そのことをふまえ、住民説明会の開催については私から申し入れをしていた」
「先ほども申し上げました通り、今回お願いしているのは説明会。市民の理解なしに本事業は実施できないと初めから言ってある。市民のみなさんの安全安心を確保し、あわせて理解を得られることが大前提だと、繰り返し環境省にも申し上げてきた」
しかし、本音は別のところにある。藤本市長は「なお、そうは言っても、福島の人々にすべてを押し付けていられることではないと考えています」と自身の想いを述べた。
「除去土壌の再生利用というか、それをどういうふうに取り扱っていくかについては、風評被害に苦しむ福島県だけの問題ではなく、安全が確認されれば全国的に取り組まなければならない重要な課題であります。それはみなさん共通の想いだと思います。私としては、当市として協力できることは協力していきたいと考えています。環境省からは『これまでの実証事業等を通じて安全性が確認されている』という説明がありました。移動するときも放射性の曝露については1日中そこにいるのか、一瞬で通り過ぎるのか、2時間いるのか、さまざまなことによっても変化しているものでありまして、覆土されたうえに人がずっといるというものではないと考えています。そういう点で安全性が確認されているという説明がありましたので、それを受けて住民説明会の開催については了承しているものです。ですから、これをもって事業開始とは初めから思っていません。あくまで市民の合意を待つものであります」
環境クリーン部長は「対象範囲外の市民の方々から説明を求める声が届いていること、環境省からも今後の対応について相談があったことをふまえまして、市としては市民の方々に広く適切な情報が伝わるよう、追加の説明会開催などについて環境省に対して働きかけを行っている」などと答弁したが、果たして誰がどのような尺度で「市民の合意」を判断するのか。





①②定員の50人を超える住民が参加した説明会だが、メディアの取材が許されたのは冒頭の参事官挨拶まで。下の階の「待機室」に〝隔離〟され、扉の前で住民の声を聴こうとすると排除された。室内が見えないよう、扉の前に環境省職員が立ちはだかるほどだった
③④⑤配布資料では、当然ながら「再生利用の必要性」や「安全性」が強調されている
【「愚挙と言わずに何と言うか」】
環境調査研修所前には、実証事業に反対する市民たちが18時すぎから続々と集まった。13日に急きょ、公民館に集まり、対応を話し合ったという。ミニ集会では「福島原発の汚染土 所沢に持ち込むな」、「わずか50人だけの説明会で、34万市民の理解を得られるのか」、「8000ベクレル ホントに大丈夫?」などと抗議の声をあげた。
城下市議のもとには、市民から「第二のダイオキシン問題(所沢市ホームページ「ダイオキシン対策のあらまし」を参照)に発展するのではないか」など不安の声が寄せられているという。
では、汚染土壌再利用の〝理由〟にされている福島の人々はどう考えるのか。「みんなでつくる二本松・市政の会」事務局の鈴木久之さんは「実証事業の内容を説明会後に公表という、またもやコソコソ感があるように思います」と語る。
「飯舘村は除染実施を条件に押し切った実証事業でしたが、二本松市では市民の反対で路床材への汚染土再生利用実証事業をストップさせることができました。再生利用事業は実質的な最終処分です。原発事故以前の放射性汚染物基準の何十倍の8000Bq/kg以下を安全だとして見えないところに埋めてしまおうとすることは、将来に禍根を残す行為です。福島県民としては汚染物が中間貯蔵施設からなくなることは望みますが、県外の人々の理解と合意のない再利用は容認しません。どのように最終処分をしていくかを、広く英知を集めて追求してほしいものです」
飯舘村の伊藤延由さんも「核の汚染物は集めて閉じ込めるもの。そもそも県外搬出に反対です。『これ以上福島県民に被害を負わせるな』という言葉は確かに説得力があるように聞こえますが、では、福島県民が良ければ他の地域が被害を受けて良いのか。何兆円もかけた除染で汚染物を集め、今度は何兆円もかけてばら撒くのです。これを愚挙と言わずに何と言うのでしょう。原発事故はゼネコンにとっての〝打ち出の小づち〟と化しました」と県外再利用を批判する。
福島県外最終処分に向けて汚染土壌を全国に持ち出すことが本当に「福島支援」なのか。あなたも無関心ではいられない。
(了)

【頭撮りだけでメディア隔離】
厳戒態勢、密室、閉鎖的、排除…。どんな言葉を使っても表現しきれないような環境省の対応だった。
筆者が環境調査研修所に到着したのは、既に真っ暗になった17時すぎ。研修所の鉄門扉は閉ざされ、わずかなすき間に2人の警備員がにらみをきかせていた。中に入ろうとすると身分証を呈示しろと言う。拒むと、今度は中に居る職員に電話で了解を得ろとのこと。最終的に環境職員が門扉まで出てきて「事前申し込みはないが、今回だけ特別に許可する」。だが、実は環境省の言う「取材」とは、冒頭のみで退室させる〝頭撮り〟だった。
実際、取材陣は早々に体質を命じられ、下の階に設けられた「メディア待機室」なる部屋に隔離された。当然ながら、会場の様子が分かるような映像や音声が流されるというようなことはなかった。動画が広く配信されることもないという。なぜ密室にこだわるのか。別の職員がこう説明した。
「会場がせまいので、感染症対策という理由がひとつ。また、まずは近隣住民の方々に説明したいということなので、中身についてきちんとした議論をしたいというのも理由です。住民の方から取材されたら困るという話があったということではありません」
結局、住民説明会の会場で実際に見聞きできたのは、冒頭の新井田浩参事官のあいさつだけだった。
「除染により生じた土、除去土壌というふうに呼んでいますが、福島県内で生じたもの除去土壌につきましては、2044年度までに福島県外で最終処分することが法律にも規定された国の責務となっております。一方で、この除去土壌は非常に量が問題であるために県外最終処分にあたりましては処分量をできるだけ減らすことがカギとなっております。その手段として再生利用を進めることが重要というふうに考えております。再生利用に関しましてはこれまで、福島県内で実証事業を行い、安全性を確認してきたところでございますけれども、今回、条件が異なる福島県外での実証事業を行い、改めて安全性を確認する事都したものであります。本日は、除去土壌や再生利用実証事業の内容等につきましての説明を予定しております。みなさまのご理解を賜りますよう、よろしくお願い申し上げます。本日はどうぞよろしくお願い致します」
18時半に始まった説明会は3時間を超えた。住民の質問や意見を打ち切らなかった環境省の姿勢は評価できるが、メディアに住民の生の声を一切聞かせないやり方は「ていねいな説明」とは到底言えない。何度も説明会場前まで行ってみたが、そのたびに環境省職員に止められた。海洋放出問題と同様に、ここでも民主主義は機能していなかった。





住民説明会が行われた環境調査研修所前では、汚染土壌再利用の実証事業に反対する市民たちが思い思いのプラカードを手に声をあげた。「いても立ってもいられず飯能市から駆け付けました。福島だけの問題でも所沢だけの問題でもありませんから」と手づくりのプラカードを掲げた10代女性の姿もあった=埼玉県所沢市並木3丁目
【市長「福島だけに押し付けられぬ」】
この日午前の所沢市議会。一般質問に立った城下のり子市議(共産党)は急きょ予定を変更し、今回の問題について市の姿勢を質した。35本を超える質疑のなかで、藤本正人市長の考え方が改めてはっきりした。汚染土壌受け入れのレールは敷かれていると確信させるのに十分な答弁だった。
市長答弁によると、環境省から所沢市に打診があったのは今年6月28日。その時点で市民合意が大前提であると環境省に伝えたという。
「当初から環境省に対して『まずは市民の安全…市民のみなさんの安全・安心が確保され、市民の理解が得られることが大前提でありますよ』と伝えた。そのことをふまえ、住民説明会の開催については私から申し入れをしていた」
「先ほども申し上げました通り、今回お願いしているのは説明会。市民の理解なしに本事業は実施できないと初めから言ってある。市民のみなさんの安全安心を確保し、あわせて理解を得られることが大前提だと、繰り返し環境省にも申し上げてきた」
しかし、本音は別のところにある。藤本市長は「なお、そうは言っても、福島の人々にすべてを押し付けていられることではないと考えています」と自身の想いを述べた。
「除去土壌の再生利用というか、それをどういうふうに取り扱っていくかについては、風評被害に苦しむ福島県だけの問題ではなく、安全が確認されれば全国的に取り組まなければならない重要な課題であります。それはみなさん共通の想いだと思います。私としては、当市として協力できることは協力していきたいと考えています。環境省からは『これまでの実証事業等を通じて安全性が確認されている』という説明がありました。移動するときも放射性の曝露については1日中そこにいるのか、一瞬で通り過ぎるのか、2時間いるのか、さまざまなことによっても変化しているものでありまして、覆土されたうえに人がずっといるというものではないと考えています。そういう点で安全性が確認されているという説明がありましたので、それを受けて住民説明会の開催については了承しているものです。ですから、これをもって事業開始とは初めから思っていません。あくまで市民の合意を待つものであります」
環境クリーン部長は「対象範囲外の市民の方々から説明を求める声が届いていること、環境省からも今後の対応について相談があったことをふまえまして、市としては市民の方々に広く適切な情報が伝わるよう、追加の説明会開催などについて環境省に対して働きかけを行っている」などと答弁したが、果たして誰がどのような尺度で「市民の合意」を判断するのか。





①②定員の50人を超える住民が参加した説明会だが、メディアの取材が許されたのは冒頭の参事官挨拶まで。下の階の「待機室」に〝隔離〟され、扉の前で住民の声を聴こうとすると排除された。室内が見えないよう、扉の前に環境省職員が立ちはだかるほどだった
③④⑤配布資料では、当然ながら「再生利用の必要性」や「安全性」が強調されている
【「愚挙と言わずに何と言うか」】
環境調査研修所前には、実証事業に反対する市民たちが18時すぎから続々と集まった。13日に急きょ、公民館に集まり、対応を話し合ったという。ミニ集会では「福島原発の汚染土 所沢に持ち込むな」、「わずか50人だけの説明会で、34万市民の理解を得られるのか」、「8000ベクレル ホントに大丈夫?」などと抗議の声をあげた。
城下市議のもとには、市民から「第二のダイオキシン問題(所沢市ホームページ「ダイオキシン対策のあらまし」を参照)に発展するのではないか」など不安の声が寄せられているという。
では、汚染土壌再利用の〝理由〟にされている福島の人々はどう考えるのか。「みんなでつくる二本松・市政の会」事務局の鈴木久之さんは「実証事業の内容を説明会後に公表という、またもやコソコソ感があるように思います」と語る。
「飯舘村は除染実施を条件に押し切った実証事業でしたが、二本松市では市民の反対で路床材への汚染土再生利用実証事業をストップさせることができました。再生利用事業は実質的な最終処分です。原発事故以前の放射性汚染物基準の何十倍の8000Bq/kg以下を安全だとして見えないところに埋めてしまおうとすることは、将来に禍根を残す行為です。福島県民としては汚染物が中間貯蔵施設からなくなることは望みますが、県外の人々の理解と合意のない再利用は容認しません。どのように最終処分をしていくかを、広く英知を集めて追求してほしいものです」
飯舘村の伊藤延由さんも「核の汚染物は集めて閉じ込めるもの。そもそも県外搬出に反対です。『これ以上福島県民に被害を負わせるな』という言葉は確かに説得力があるように聞こえますが、では、福島県民が良ければ他の地域が被害を受けて良いのか。何兆円もかけた除染で汚染物を集め、今度は何兆円もかけてばら撒くのです。これを愚挙と言わずに何と言うのでしょう。原発事故はゼネコンにとっての〝打ち出の小づち〟と化しました」と県外再利用を批判する。
福島県外最終処分に向けて汚染土壌を全国に持ち出すことが本当に「福島支援」なのか。あなたも無関心ではいられない。
(了)
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