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【福島県知事の2022年】人権侵害や民主主義軽視への批判もどこ吹く風の「今年の漢字は『開』」 内堀知事が年内最後の定例会見で「成果が形となって現われた1年」 

福島県の内堀雅雄知事が26日午前に行われた年内最後の定例会見で、県政記者クラブの求めに応じて「今年の漢字は『開』」と用意した紙を掲げた。2016年以降「創」、「共」、「進」、「再」、「機」ときて今年は「開」。内堀知事は「唯一全町避難が続いていた双葉町の一部で避難指示が解除され…『希望の扉』が町民のみなさんの手によって勢いよく開かれた」などと語ったが、一方で発生から丸12年になろうとしている原発事故はいまだ課題が山積し、希望の扉も明るい道も開けていない。人権侵害と民主主義軽視が継続した今年の内堀県政を振り返った。
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【「双葉町で避難指示部分解除」】
 「今年の漢字は『開』であります」
 地元紙・福島民報記者の質問を待っていたかのように、内堀知事は大きく印刷された「開」を掲げた。
 「今年の福島は、これまでの挑戦の成果が形となって現われた1年でありました。まず、唯一全町避難が続いていた双葉町の一部で避難指示が解除され、解除の瞬間、双葉駅前に設置された『希望の扉』が町民のみなさんの手によって勢いよく〝開かれた〟ほか、英国等において福島県産食品の輸入規制が解除され、本格的な輸出の道が〝開かれ〟ました。また11年ぶりにJR只見線において全線で運行が〝再開〟〝再び開かれた〟ほか、連日多くの利用客で混雑するなど大変な盛り上がりがみられました」
 「さらに、若隆景関の3月場所優勝、只見高校の甲子園出場、聖光学院の甲子園ベスト4進出、いわきFCのJ3優勝とJ2昇格など、積み上げた努力によって様々な壁を乗り越えて、新たな扉が〝開かれ〟ました。特に只見高校は全国有数の豪雪地帯という厳しい練習環境下においても創意工夫して練習に励まれ、また平成23年の新潟福島豪雨を乗り越えての甲子園初出場であり、県民のみなさんに大きな勇気と希望を届けてくれました」
 しかし、内堀知事のお決まりの言葉を待つまでもなく、まだまだ震災・原発事故に伴う課題が山積しているのが現実だ。
 「こうした様々なものが〝開かれた〟一方で、いまだ本県は困難な課題が山積しています。この状況を〝打開〟〝打ち開く〟ためにも、これまでの挑戦をシンカさせていくことが重要です。今年は未曾有の複合災害からの復興をはじめ、3月の福島県沖地震や8月の大雨被害などのさらなる自然災害。さらに長引く新型コロナウイルス感染症の拡大防止と社会経済活動との両立、原油価格、物価高騰などに対応するため様々な施策を〝展開〟してまいりました。来年も4月から〝開始〟をした県の新しい総合計画の下、福島の未来を〝切り開く〟挑戦を続けてまいります」

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①1月、元首相5人がEU欧州委員会宛てに連名で送った書簡で「多くの子供たちが甲状腺がんに苦しみ」と表現したことに対し、内堀知事は文書で抗議した
②海洋放出に反対する声には耳を傾けず、内堀知事は8月、東電からの「ALPS処理水希釈放出設備等の設置に係る事前了解願い」を正式に了解した

【「甲状腺ガン多発」に抗議】
 内堀知事はしかし、肝心な原発事故後の課題には一切、触れなかった。自身が進めてきた原発事故対応の問題点など口にするはずがなかった。
 年頭には、元首相5人(小泉純一郎、細川護熙、菅直人、鳩山由紀夫、村山富市)が1月27日付でEU欧州委員会宛てに連名で送った書簡を巡る内堀知事の対応に批判の声があがった。
 5人の元首相が書簡のなかで「多くの子供たちが甲状腺がんに苦しみ」と表現したことに内堀知事は強く反応。2月2日付で文書を送付し、「令和元年7月には『現時点において、甲状腺検査本格検査(検査2回目)に発見された甲状腺がんと放射線被ばくの間の関連は認められない』とする見解が示されている」、「福島県の現状について述べられる際は、本県の見解を含めて…科学的知見に基づき、客観的な発信を」などと抗議。定例会見でも「元首相を経験された5名の方々の欧州委員会の委員長に宛てた書簡の中に、こうした表現が含まれていたことは遺憾であります」と述べた。
 これに対し、小児甲状腺ガン患者と家族、支援者による支援グループ「あじさいの会」は「『多くの子どもたちが甲状腺がんに苦し』んでいることは事実です」、「現時点で、福島の小児甲状腺がんのすべてが原発事故による放射線被ばくと無関係であるとは断定できないことこそが科学的事実」などと抗議をした。
 6月には、国と東電が着々と準備を進めている「原発汚染水海洋放出計画」を巡り、市民団体「これ以上海を汚すな!市民会議」などが「理解と合意なき海洋放出の事前了解には同意しないこと」などを文書で内堀知事に求めた。
 対応した原子力安全対策課の伊藤繁課長は「『漁連との約束』はわれわれも大変重いものだと考えている」、「県としても県民への説明の機会を設けるよう、国や東電に求めていきたい」などとする一方、筆者の取材には「県に出されている『事前了解願い』は、海洋放出計画に対する是非を検討するものではなく、安全確保協定という土俵のなかで、あくまでも設備計画の安全面の確認、周辺地域の放射線影響の確認という議論にならざるを得ない。科学的に安全面で問題ないという確認ができれば事前了解をしないという選択はかなり少なくなる」とも述べていた。
 6月県議会初日にも、県民たちが福島県庁前で「どうか私たちの声を聴いてください。みんなの海を守ってください。事前了解をしないでください」とマイクを握ったが、内堀知事は8月2日、大熊町、双葉町と足並みを揃えるように東電からの「ALPS処理水希釈放出設備等の設置に係る事前了解願い」を正式に了解。海洋放出計画に事実上のゴーサインを出した

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①国内避難民の人権に関する国連特別報告者セシリア・ヒメネス・ダマリーさんは訪日調査後「〝追い出し裁判〟など受け入れられません。国内避難民に対する明確な嫌がらせです」などと内堀知事による人権侵害を批判した
②10月30日投開票の知事選挙で三選を果たした内堀知事。しかし、選挙期間中は汚染水海洋放出問題などは完全に封印した

【国際法違反の〝追い出し〟】
 9月には、国内避難民の人権に関する国連特別報告者セシリア・ヒメネス・ダマリーさんが何年にもわたって求めてきた訪日調査がようやく実現。10月7日に日本記者クラブで行われた記者会見では、次のような表現で内堀知事の棄民政策を厳しく批判した。
 「残念ながら住宅支援の多くは打ち切られ、暮らしの見通しが立っていない貧困層や高齢者、障害者にとって大きな打撃となった。支援住宅に残る避難民は立ち退き訴訟に直面している。政府は、特に脆弱な立場にある避難民に対して移住先を問わず住宅支援策を再開することが推奨される」
 「どのような試みであれ、人の移動の自由を制限しようということは国際法違反だ。たとえ国内法に基づいたとしても国際法違反となる」
 「〝追い出し裁判〟など受け入れられません。国内避難民に対する明確な嫌がらせです」
 「支援や援助を受ける上での強制避難や自主避難の区別は取り除くべきである」
 「避難当事者の意見が反映されるような権利を堅持しなければならない。意思決定プロセスにおいて、何がどのような動機で決められるのかについて意見を述べる権利も保障されなければならない」
 しかし、内堀知事は国家公務員宿舎から退去できずにいる県民(区域外避難者)に対する人権侵害を続けている。退去や未払い家賃の支払いを求めて次々と提訴。〝追い出し裁判〟で住まいを奪おうとしている。ダマリーさんの指摘に対しては、10月31日に東京地裁で開かれた「住まいの権利裁判」第2回口頭弁論に提出した準備書面で、次のように主張している。
 「国連人権規約の『国内避難民の指導原則』には法的拘束力がなく、従う必要がない」
 内堀知事は10月30日投開票の知事選挙で三たび、当選した。
 選挙期間中は「『被災地』、『原発事故の福島』という定義を、『希望の地・福島』、『復興の地・福島』になんとしても変えていきたい」、「県民に対する優しい想い、大好きだという想い、その熱い想いがあってこそ県政の本質的な原動力にある。そう内堀雅雄は思っています」、「福島県知事として『ウォームハート』、『クールヘッド』を駆使して政府や東京電力としっかりと対峙をして福島県の未来、被災の地、原発事故の地から希望の地にもっていく」などと訴えたが、海洋放出問題や避難者住宅問題への自身の考えを有権者に伝えることはしなかった。
 3月になれば、原発事故発生から丸12年になる。事故で平凡な日常を奪われ、人生を大きく狂わされた県民を守るのは知事の重要な役目だ。それにはまず、人権と民主主義に関する認識を改めることから求めたい。



(了)
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プロフィール

鈴木博喜

Author:鈴木博喜
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