【南相馬訴訟】「20mSvで指定解除するな」~国は住民の意見など初めから無視していた。「反対されても解除強行」情報公開で明らかに
- 2016/06/07
- 06:32
空間線量が年20mSvを下回ったことを理由に「特定避難勧奨地点」の指定を一方的に解除したのは違法だとして、福島県南相馬市の住民808人が国を相手取って起こした民事訴訟の第4回口頭弁論が6日午後、東京地裁で開かれた。弁護団は、指定解除に至るまでの国と南相馬市のやり取りが克明に記された膨大な議事録を情報公開制度で入手。証拠提出するとともに、事実上の〝意見陳述〟でも、住民の意見など初めから無視して指定解除を強行した国の姿勢と手続きの違法性を原告の1人が批判した。第5回口頭弁論は9月28日。
【「説明会であり、協議の場ではない」】
法廷で読み上げられた事実上の〝意見陳述〟が、国の「住民無視」を次々と明らかにしていった。
感情論ではない。議事録として克明に記録された「客観的な事実」。
弁護団が情報公開制度を利用して内閣府と南相馬市から取り寄せた、国と市の打ち合わせの膨大な議事録が証拠として裁判所に提出されたのだ。
「住民の意見は無視され一方的に解除された」。原告の1人、大原行政区長でもある佐藤信一さんが読み上げる。佐藤さんの指は小刻みに震えていた。緊張ばかりでは無かった。放射能汚染に対する自分たちの考えが完全に無視された事への怒りが表れていた。
例えば、2014年4月16日。内閣府原子力被災者生活支援チームの井上博雄参事官が、南相馬市職員に向かって、こう言い放っている。「説明会であり、協議の場ではない」。つまり、住民説明など形式だけ。反対意見が出ようと関係ない。あくまで国の方針を貫くという意思を強く打ち出しているのだった。同年11月19日付の議事録にも、内閣府原子力災害現地対策本部の福島班長が「12月の住民説明会では解除反対の声が強く出るだろうが、覚悟をもってやるということだと考えている」と発言したことが記録されている。
同年12月21日。朝のNHKニュースが「特定避難勧奨地点の解除決定」と報じた。この日の午後には、区長説明会と住民説明会が開かれる予定だった。原告はもっぱら「指定解除が決定事項であることを示すために国が報道させたのではないか」との見方をしている。とにかく指定解除ありき。帰還ありきの国の姿勢に、佐藤さんはこう述べた。
「指定解除までに行われた住民説明会や区長説明会では反対意見しか出ていない。それにもかかわらず、私たちの要望は聞き入れられることはなく、指定時の基準を下回ったという理由で一方的に解除されてしまった」

口頭弁論で、事実上の〝意見陳述〟を行った佐藤信一さん。「住民無視の実態が国と南相馬市の打ち合わせの議事録から明らかになった」と怒りを込めて話した=東京地裁
【「室内には放射線は入っていない前提」】
知識不足なのか、とぼけているのか。国の放射線に対する認識を疑う発言もあった。
住民たちが拙速な指定解除に反対していた理由の一つに、子どもたちへの被曝リスクがある。住民説明会では「農地除染や、子どもが歩く可能性のある市道、農道などの除染が終わってから解除するべき」、「子どもたちに安全で安心を宣言するにはまだ早い」との意見が出されていた。子どもたちの行動までコントロール出来ない、親がホットスポットには近づくなと注意しても子どもは近づいてしまうという想いがあるからだ。しかし、内閣府原子力災害現地対策本部の福島班長は、こう述べている。
「子どもの行動範囲は様々なので、ご心配であれば清掃で対応したい」
道路清掃をすれば被曝しないという軽い認識。
原告らの綿密な測定で、自宅室内外での放射線量に差が無い事が分かったと前回口頭弁論で示されたが、指定解除にあたっては玄関先と庭先の空間線量が測られただけ。これに関し、環境省福島環境再生事務所の松岡直之企画官は2014年3月13日、南相馬市職員の前で「室内には放射線は入っていない前提でやっている」と信じられない発言している。
「この前提だけでも納得できない」。40ページに及ぶ準備書面の取りまとめを担当した斎藤悠貴弁護士は語る。議事録は国、南相馬市双方から取り寄せたが、実は表現に違いがあるという。「国の議事録は当たり障りのない表現が多いが、南相馬市の議事録には、国側の〝失言〟も克明に記されている」。法廷でも紹介された井上参事官の「説明会であり、協議の場ではない」という発言には、下線が引かれている上に文末に「!!!」と加えられている。「よほど強い口調だったのだろう。心ある市職員が議事録に残したと思われる」と斎藤弁護士は分析する。
かくして国の方針通り、2014年12月28日に特定避難勧奨地点の指定は解除された。「住民の意見は無視され、指定解除が強行された」(斎藤弁護士)。「関係者と充分な協議を行うこと」とした原子力災害特別措置法の手続き要件に違反するというのが住民らの主張だ。

経済産業省前で行われた抗議行動。昼食から戻った役人や会社員らは原告らの前を足早に通り過ぎて行った
【「我々はモルモットじゃない」】
国も福島県も被曝リスクを語らなくなり、東京五輪を見据えた公共事業中心型の「復興」を進めようと躍起になっている。しかし、汚染の解消されない土地の生活を強いられるのは住民たちだ。開廷前、経済産業省や東京地裁前で抗議行動を行った原告らは、一様に「年1mSvが世界基準なのに、なぜ福島県民だけが20mSvなのか」、「我々はモルモットじゃない。子どもが将来、病気にならない保証が本当にありますか」、「きちんと土壌調査をして欲しい。1平方メートルあたり1億ベクレルに達する土地もある」と声をあげた。
マイクロバスを借り、午前6時に南相馬市を出発した。狭い車内での往復は身体への負担も大きい。脚が痛む。帰宅は22時。自分たちの想いを無視して指定解除を強行した国への怒りが、原告らを突き動かす。改めて「原告団の会」が結成され、菅野秀一団長を筆頭に力を合わせて国と闘う事を再確認した。
ある原告の自宅は、今でも地表真上で空間線量を測定すると2~3μSv/hもあるという。「放射線管理区域に相当する1平方メートルあたり4万ベクレルを超えても低いと判断するなら、どうぞ土をプレゼントしますと言いたい。いつでも証拠提出する用意は出来ている」と語った。そして、足早に通り過ぎる人々にこう語りかけた。
「毎時3μSvという数字の意味を理解していますか?」
福島第一原発が爆発してから間もなく5年3カ月。しかし、汚染は現在進行形だ。国の理不尽な被曝強要と闘う人々がここにもいる。原発で生産された電力を享受してきた私たちこそ、原発事故を過去の出来事にしてはならない。次回期日は9月28日。
(了)
【「説明会であり、協議の場ではない」】
法廷で読み上げられた事実上の〝意見陳述〟が、国の「住民無視」を次々と明らかにしていった。
感情論ではない。議事録として克明に記録された「客観的な事実」。
弁護団が情報公開制度を利用して内閣府と南相馬市から取り寄せた、国と市の打ち合わせの膨大な議事録が証拠として裁判所に提出されたのだ。
「住民の意見は無視され一方的に解除された」。原告の1人、大原行政区長でもある佐藤信一さんが読み上げる。佐藤さんの指は小刻みに震えていた。緊張ばかりでは無かった。放射能汚染に対する自分たちの考えが完全に無視された事への怒りが表れていた。
例えば、2014年4月16日。内閣府原子力被災者生活支援チームの井上博雄参事官が、南相馬市職員に向かって、こう言い放っている。「説明会であり、協議の場ではない」。つまり、住民説明など形式だけ。反対意見が出ようと関係ない。あくまで国の方針を貫くという意思を強く打ち出しているのだった。同年11月19日付の議事録にも、内閣府原子力災害現地対策本部の福島班長が「12月の住民説明会では解除反対の声が強く出るだろうが、覚悟をもってやるということだと考えている」と発言したことが記録されている。
同年12月21日。朝のNHKニュースが「特定避難勧奨地点の解除決定」と報じた。この日の午後には、区長説明会と住民説明会が開かれる予定だった。原告はもっぱら「指定解除が決定事項であることを示すために国が報道させたのではないか」との見方をしている。とにかく指定解除ありき。帰還ありきの国の姿勢に、佐藤さんはこう述べた。
「指定解除までに行われた住民説明会や区長説明会では反対意見しか出ていない。それにもかかわらず、私たちの要望は聞き入れられることはなく、指定時の基準を下回ったという理由で一方的に解除されてしまった」

口頭弁論で、事実上の〝意見陳述〟を行った佐藤信一さん。「住民無視の実態が国と南相馬市の打ち合わせの議事録から明らかになった」と怒りを込めて話した=東京地裁
【「室内には放射線は入っていない前提」】
知識不足なのか、とぼけているのか。国の放射線に対する認識を疑う発言もあった。
住民たちが拙速な指定解除に反対していた理由の一つに、子どもたちへの被曝リスクがある。住民説明会では「農地除染や、子どもが歩く可能性のある市道、農道などの除染が終わってから解除するべき」、「子どもたちに安全で安心を宣言するにはまだ早い」との意見が出されていた。子どもたちの行動までコントロール出来ない、親がホットスポットには近づくなと注意しても子どもは近づいてしまうという想いがあるからだ。しかし、内閣府原子力災害現地対策本部の福島班長は、こう述べている。
「子どもの行動範囲は様々なので、ご心配であれば清掃で対応したい」
道路清掃をすれば被曝しないという軽い認識。
原告らの綿密な測定で、自宅室内外での放射線量に差が無い事が分かったと前回口頭弁論で示されたが、指定解除にあたっては玄関先と庭先の空間線量が測られただけ。これに関し、環境省福島環境再生事務所の松岡直之企画官は2014年3月13日、南相馬市職員の前で「室内には放射線は入っていない前提でやっている」と信じられない発言している。
「この前提だけでも納得できない」。40ページに及ぶ準備書面の取りまとめを担当した斎藤悠貴弁護士は語る。議事録は国、南相馬市双方から取り寄せたが、実は表現に違いがあるという。「国の議事録は当たり障りのない表現が多いが、南相馬市の議事録には、国側の〝失言〟も克明に記されている」。法廷でも紹介された井上参事官の「説明会であり、協議の場ではない」という発言には、下線が引かれている上に文末に「!!!」と加えられている。「よほど強い口調だったのだろう。心ある市職員が議事録に残したと思われる」と斎藤弁護士は分析する。
かくして国の方針通り、2014年12月28日に特定避難勧奨地点の指定は解除された。「住民の意見は無視され、指定解除が強行された」(斎藤弁護士)。「関係者と充分な協議を行うこと」とした原子力災害特別措置法の手続き要件に違反するというのが住民らの主張だ。

経済産業省前で行われた抗議行動。昼食から戻った役人や会社員らは原告らの前を足早に通り過ぎて行った
【「我々はモルモットじゃない」】
国も福島県も被曝リスクを語らなくなり、東京五輪を見据えた公共事業中心型の「復興」を進めようと躍起になっている。しかし、汚染の解消されない土地の生活を強いられるのは住民たちだ。開廷前、経済産業省や東京地裁前で抗議行動を行った原告らは、一様に「年1mSvが世界基準なのに、なぜ福島県民だけが20mSvなのか」、「我々はモルモットじゃない。子どもが将来、病気にならない保証が本当にありますか」、「きちんと土壌調査をして欲しい。1平方メートルあたり1億ベクレルに達する土地もある」と声をあげた。
マイクロバスを借り、午前6時に南相馬市を出発した。狭い車内での往復は身体への負担も大きい。脚が痛む。帰宅は22時。自分たちの想いを無視して指定解除を強行した国への怒りが、原告らを突き動かす。改めて「原告団の会」が結成され、菅野秀一団長を筆頭に力を合わせて国と闘う事を再確認した。
ある原告の自宅は、今でも地表真上で空間線量を測定すると2~3μSv/hもあるという。「放射線管理区域に相当する1平方メートルあたり4万ベクレルを超えても低いと判断するなら、どうぞ土をプレゼントしますと言いたい。いつでも証拠提出する用意は出来ている」と語った。そして、足早に通り過ぎる人々にこう語りかけた。
「毎時3μSvという数字の意味を理解していますか?」
福島第一原発が爆発してから間もなく5年3カ月。しかし、汚染は現在進行形だ。国の理不尽な被曝強要と闘う人々がここにもいる。原発で生産された電力を享受してきた私たちこそ、原発事故を過去の出来事にしてはならない。次回期日は9月28日。
(了)
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