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【142カ月目の浪江町はいま】繰り返される「避難指示解除ありき」 避難住民から〝忌憚のない意見〟噴出も聴くだけで3月解除?~「特定復興再生拠点」の住民説明会始まる

原発事故による放射能汚染で帰還困難区域となった福島県双葉郡浪江町内の3地域(室原、末森、津島)で、避難住民の帰還を促そうと部分設定された「特定復興再生拠点」に関する住民説明会が30日午前、福島県福島市内で行われた。2月5日までの予定で福島県内や都内でも行われるが、国は「要件は満たしている」と再来月の解除に前向き。吉田栄光町長も「避難指示解除ありきではない」と言いながら「解除できるのであれば解除させていただく」と意欲。これでは、避難住民がいくら「忌憚のない意見」を口にしても虚しくなるばかりだ。「子や孫が住んでも大丈夫なのか」。避難住民の苦悩は続く。
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【「津島にはガソリンスタンドもない」】
 10時半に始まった住民説明会は、まず浪江町の担当課長が町の現状やこれまでの取り組みについて約40分間、説明。その後、参加住民が約45分間発言した。
 最初に挙手したのは津島地区から福島市に避難している女性だった。
 「津島には店もガソリンスタンドもありません。ガソリン代を使って町中心部まで給油しに行かなければいけない。デマンドタクシーがあるとはいえ、イオンまでの買い物は不便。ましてや子どもたちが帰れるような放射線量ではない。いくら除染したと言っても山林は除染されていない。子どもたちを連れて行かれないような状況で、帰還するとすれば高齢者が多いと思う。介護が必要な人が戻ったとして、津島地区を存続できるのか」
 これに対し、山本邦一副町長は「避難指示解除は第一歩」と答えた。
 「既に避難指示が解除されたエリアでも、解除当時に十分な生活環境が整っていたかというと、まぁ厳しい状況だった。解除した後に、一つ一つ課題に対応してきた。避難指示解除は復旧・復興のスタートだ」
 この日、内閣府原子力被災者生活支援チームの佐藤猛行支援調整官は「国としては、これまでの復興に向けた取り組みを総合的に判断した結果、浪江町の特定復興再生拠点について、避難指示解除の要件(①空間線量率で推定された年間積算線量が20ミリシーベルト以下になることが確実であること、②電気、ガス、上下水道、主要交通網、通信など日常生活に必須なインフラや医療・介護・郵便などの生活関連サービスがおおむね復旧すること、子どもの生活環境を中心とする除染作業が十分に進捗すること、③県、市町村、住民との十分な協議)は満たしている」と述べている。「避難指示解除がはゴールではない」とも。
 結局、帰還困難区域で生活するだけの環境は整っていないという意見は、「避難指示を解除しなければ復興が前に進まない」という国や浪江町の考え方に押し切られた。
 女性はさらに、「再除染の基準値が分からない。私たちが高いなと考えても承認されなければ再除染されない」と除染のあり方に疑問を投げかけた。
 しかし、環境省福島環境事務所の担当者は「個別に対応する」と答えるばかりだった。
 「一律の再除染基準をお示しできていないというのはご指摘の通り。解除後は追加被曝線量を年1ミリシーベルトを目指すというなかで、場所や状況を一つ一つご相談させていただきたい。測定して空間線量率の高い所はフォローアップ除染をする。個別にご相談させていただき、ていねいに対応したい」

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①②配付資料では、放射線量の低減が強調された。しかし、実際に測定した住民の1人は「こんなに低いはずがない」と憤った
③④「避難指示解除ありきではない」と何度も口にした吉田栄光町長だが、国側は「避難指示解除の要件は満たしている」と2カ月後の解除に前向きだ

【町長「解除ありきでない」】
 下津島の女性は、避難指示解除に対する吉田栄光町長の考え方を質した。
 「3月に必ず解除するものではないという確実なお返事をいただけるのか」
 実は、吉田栄光町長は開会のあいさつのなかで「解除ありきの説明会ではない。ご意見をふまえて私が判断する」と先手を打つように述べている。一方、意見交換では、こんな本音も口にした。
 「すべて100点をとることはできないが、みなさんのご理解と、そして今、町で解除に向けて進めてきた課題解決の説明を内容をもう一度確認しながら、解除できるのであれば解除させていただいて、そして農業の地域に住んでいた方々以外の農業意欲のある方が室原や末森、津島に来られる方がおられないかとか、私もいくつかの考えがある。そのためには、解除したうえで新たな施策を展開できることもある。今日の説明会では、インフラが一定程度解除すべき要件を満たしていますという報告をさせていただいた」
 解除ありきではないと言いながら、一方では解除への意欲を口にする町長。避難女性の疑問はもっともだが、吉田栄光町長は最後まで明言を避けた。
 「先ほど来から申し上げているように、解除ありきではない。ただ、町長に就任する前の拠点計画のなかで令和5年3月を目標と定められている。ここで解除しない、解除すると言うものではない。計画に合っているかどうか町長として判断したい」
 女性は住民票の取り扱い(〝二拠点居住〟の是非)についても質問したが、吉田栄光町長は「平時であれば、半年間居住したらそこに住民票を移さなければいけない。原発事故避難者については浪江町に住民票を置いたまま避難先で生活することが特例で認められている。二重の住民票については議論されていない。将来は当然、住民票をいまの法律の立て付けにしなければならない時が来るが、現在は心配ない」と答えるにとどまった。
 説明会に出席した原子力災害現地対策本部の師田晃彦副本部長は閉会後、取材に応じ「住民票に関する特例が未来永劫続くわけではないが、解除することで制度が変わるものではない。避難指示解除とは直接連携しない」と説明した。
 住民票に関しては、逆に避難先に移してしまうと東電が「原発避難者」として扱わないという問題も避難住民から指摘されている。
 「発災当時13歳だった子どもも25歳。就職もすれば結婚もする。当然、住民票を移すでしょう。そうなったら『原発避難者』ではなくなる?これまでの12年間の被害を訴えることができなくなる?そんなおかしな話がありますか?」

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空席も目立った住民説明会。5人がマイクを握って発言した。住民からは「どうせ避難指示解除なんでしょ?いつもそうじゃない」とあきらめの声も聞かれた
 
【「拠点内外、全面除染して」】
 国も町も「除染で拠点内の放射線量は低減した」と強調する。配付資料の100メートルメッシュマップによれば、津島地区ではほぼすべてのエリアが「毎時3・8マイクロシーベルト以下」で、そのなかでも大部分が「毎時1・9マイクロシーベルト以下」(高さ1メートルの平均値)とされている。原発事故以前の空間線量率が概ね毎時0・04マイクロシーベルトだから、これでも十分高いのだが、津島地区の男性は「こんなに低いはずがない」と憤った。
 「昼曽根で年間の被曝線量を推計すると35ミリシーベルトから40ミリシーベルトだよ。昨秋、俺の畑を除染したときも、一番高いところで毎時19マイクロシーベルト。このマップはおかしいよ」
 しかし、住民説明会では「町と国で実施した準備宿泊町民への戸別訪問で得られたご意見」として「放射線量は低いので心配していない」が紹介された。逆の意見は配付資料にも掲載されていない。ある町職員は「準備宿泊する人は被曝リスクへの心配は当然、少ない」と口にした。ちなみに、1月25日現在で準備宿泊している町民は対象302世帯のうち9世帯(室原6、末森2、津島1)にとどまっているという。自宅が朽ちてしまって「宿泊」などできない住民も少なくないが、そこへの言及もない。
 住民説明会には、自宅が特定復興再生拠点外にある女性の姿もあった。
 「小学校6年生の孫は、ばあちゃんの実家は福島市だと思っている。次の世代に土地を残したい。ここまで汚しておいて黙って何もしないのか。除染をしてくれれば帰るが、帰還意思のある人だけでなく全面的に除染してもらわなければ帰ることはできない」
 内閣府原子力被災者生活支援チームの佐藤支援調整官によると現在、拠点外住民の意向調査を行っているところ。帰還意思を示した住民の生活圏を除染するという方針に変わりないという。
 この日は午後に仙台でも開催されたため、福島市での住民説明会は正午で閉じられた。「忌憚のない意見」をいくら発しても既に敷かれたレールは動かない。虚しさが募るが、参加した女性は言った。
 「でもね、こうして言い続けないとね。発信することに意味がある。そう思うしかないわね」



(了)
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鈴木博喜

Author:鈴木博喜
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