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【子ども脱被ばく裁判】〝子ども人権裁判〟二審も敗訴 汚染・被曝リスクの司法判断避け「安全な地域で教育を受ける権利」退ける~仙台高裁

原発事故後の福島県内の被曝リスクや行政の怠慢を正面から問う「子ども脱被ばく裁判」の控訴審で、審理が分離された行政訴訟(子ども人権裁判)に対する判決が1日午後、仙台高裁で言い渡された。石栗正子裁判長は一審・福島地裁判決を全面支持。中学生以下の子どもが求めた「安全な地域で教育を実施すること」など3つの請求をすべて棄却した。一審同様、原発事故後の汚染や被曝リスク、法の欠缺、規制基準の甘さへの判断は避けており、弁護団からは批判の声があがった。なお、今春で全員が中学校を卒業するため、最高裁への上告はできない。
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【「具体的危険生じていない」】
 「子ども人権裁判」は福島県内の公立の小・中学生(提訴時40人)が原告で、福島県内の福島市や川俣町、郡山市、田村市、いわき市が被告。安全な地域で教育を実施すること安全な地域で教育を受ける権利があることの確認現在、通学している学校施設で教育しないこと─の3つを求めていた。
 一審福島地裁(遠藤東路裁判長)は2021年3月1日に言い渡した判決で、「請求の特定性を欠いている」などと棄却。
 原告らが主張した被曝リスクについても、「年20mSv基準は直ちに不合理とはいえない」、「甲状腺検査(県民健康調査)によって発見された甲状腺がんの症例増加が、本件原発事故に伴う放射線の影響によるものであると認めるには足りない」、「原告らが通う公立中学校については、除染・改善措置を講じながら、当該学校施設において教育を実施することは可能」などと全否定していた。
 中学校を卒業すると資格を失うため原告数は徐々に減少。この日は、最終的に残った2人に対する判決が言い渡された。
 石栗裁判長は、①について「実施すべき結果が具体的に特定されていない」、「被控訴人(被告の市町)がすべき行為も具体的に特定され得ない」、「『安全な場所』も十分な特定がされているとはいえない」として、「請求の特定を欠く」と棄却した。②も「不特定な権利の存在を確認しても即時確定の利益を欠く」として退けた。
 ③の差し止め請求については、控訴人(子どもたち)側が提出した学校周辺の放射線量について「いずれも学校外の場所」、「直ちに通学している学校施設において教育を受ける際に被曝する危険がある放射線量を推測することができない」などと一蹴。
 「直ちに控訴人(子どもたち)らの生命又は健康の維持に具体的影響を及ぼす相当の蓋然性が認められる程度の放射線に被曝する危険が生じているとは認められず、控訴人らの人格権が違法に侵害されているということはできない」として、これも「棄却した原判決は相当」とした。

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(上)閉廷後に行われた記者会見は重い空気に包まれた
(中)弁護団長の井戸謙一弁護士は「今後も〝放射性物質の特別扱い〟を一刻も早くやめさせる努力を続けなければいけない」と改めて決意を口にした
(下)柳原敏夫弁護士は「正面からわれわれの主張に反論していない。理由を示さず〝理由なき結論〟を繰り返しているだけ」と判決を批判した=仙台市戦災復興記念館

【「放射性物質の基準ゆるい」】
 閉廷後の記者会見で、弁護団長の井戸謙一弁護士は「一審に続いて大変残念な結果になった」と述べた。 
 「私たちが求めているのは、被曝についての安全確保義務。学校を運営する者として、子どもたちを被曝から守る義務があるはずだと。ところが一審ではそのように捉えず、いまの学校施設で教育を受けていると健康被害が生じる具体的危険があるから、いまの環境では教育するなという請求だと曲解して請求を棄却した」
 「放射性物質の規制基準は他の公害物質に比べて非常にゆるい。年20ミリシーベルト基準では7000倍もゆるい。そんな基準であって良いはずがない。現在、放射性物質についての学校環境衛生基準はないが、他の公害物質と同じレベルで基準を判断するべきだ。それなりの判断が出るのではないかと期待していたが、判決を読むと『放射性物質については学校環境基準が定められていないが、適切な環境の維持に努めるべきである』ということろまでは認めた。ただ『放射性物質についても他の公害物質と同じレベルで規制するべき』という主張に対して、司法としての判断が出なかった。本当に残念でならない」
 学校環境衛生基準について、井戸弁護士は昨年4月に会津若松市で行った講演で次のように述べている。
 「学校には、化学物質について『学校環境衛生基準』があるが、放射性物質についてはない。学校環境が放射性物質で汚染されることを想定していなかった。現実に汚染が発生しているわけだから、放射性物質についての環境基準が定められなければならない」
 結局、仙台高裁も汚染や被曝リスクについての判断から逃げた。
 「控訴人(子どもたち)の通う学校環境は放射線管理区域の基準(年1ミリシーベルト、1平方メートルあたり4万ベクレル)を超えているが、それを裁判所は認めるのか認めないのか。その認定をしていないので結局、努力義務にすぎないと逃げられてしまっている。こういう逃げ道があったかと非常に残念だ」
 古川健三弁護士も「現状を維持するために、どのような理屈をこねるかということしか考えていない判決。誰も病気になっていないでしょ、というような話。何のために行政があるのか、何のために学校環境衛生基準があるのか」と怒りを口にした。

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開廷前、雪が凍って滑りやすいなか仙台高裁周辺をデモ行進。横断幕を手に入廷したが、判決は一審判決を全面支持し、子どもたちは敗訴した。事前集会で「うれし涙を流したい」と話していた原告団代表の今野寿美雄さんは裁判所前で悔し涙を浮かべた

【「公害訴訟と何が違うのか」】
 判決には「特定」という言葉が何度も出て来るが、何を特定することを求めているのか。会見で井戸弁護士は「平米4万ベクレル以下(『安全な場所』)がどこなのか、学者の協力を得て詳細な地図をつくった。きちんと特定したのに、あれ以上何をすれば良いのか」と首を傾げた。
 「安全な環境を定義し、そこで教育するためにはどのような方法があるのか。学校教育法上、分校をつくるなどいくらでも方法がある。地方公共団体ができる方法を使えばいい。こちらが特定する必要はないと考えている。道路騒音公害訴訟では60ホーン以上の騒音を出してはならないという請求は認められているが、そのための方法までを住民が特定する必要はない。この裁判でも同じだと一審の当初から主張しているが、公害訴訟と何が違うのか。理解できない」
 柳原敏夫弁護士も「正面からわれわれの主張に反論していない。理由を示さず〝理由なき結論〟を繰り返しているだけ。裁判の本質は理由を挙げて説明することなのに…」と判決を批判した。
 石栗裁判長は判決の主文を述べただけで閉廷。傍聴した支援者が「テレビ局の冒頭撮影が2分で、判決言い渡しは1分」と呆れたように話したが、実は弁護団は「判決理由も法廷で読み上げて欲しい」と申し入れていた。一審・福島地裁での判決言い渡しで、遠藤裁判長が主文だけを読んでそそくさと退席したからだ。
 井戸弁護士は「どのような判決内容であっても、どのように裁判所が判断したのか要旨を述べるだろうと思っていたら、今回も主文を読んだだけでそそくさと退席した。十分に熟慮したうえで、この判断が正当であると考えたのであれば、傍聴人の視線はきついかもしれないが、理由をきちんと法廷で説明するべき。内容もあることながら、あのような形で判決が言い渡されたことは重ねて残念に思う」と語った。
  判断を避けるという形で〝放射性物質の特別扱い〟にお墨付きを与えた格好の仙台高裁。
 井戸弁護士は「こんな極端な特別扱いが許されるのか。7000倍の特別扱いが許されるなら、理由を説明しなければいけないが、なし崩し的に特別扱いが続いている。今後も〝放射性物質の特別扱い〟を一刻も早くやめさせる努力を続けなければいけない」と改めて決意を口にした。



(了)
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鈴木博喜

Author:鈴木博喜
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