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【原発避難者から住まいを奪うな】福島県職員が驚きの発言 国連特別報告者の予備的所見を「あれはダマリーさんの個人的なご意見」と一蹴

昨年9月26日から10月7日まで行われた国内避難民の人権に関する国連特別報告者セシリア・ヒメネス・ダマリーさんの訪日調査に関し、福島県は3日、ダマリーさんが公表した「予備的所見」を「個人的なご意見」と一蹴した。同日午前にリモートで行われた「ひだんれん」などとの話し合いの席上、県職員が発言した。最終報告書は今年6月に国連人権理事会に提出されるが、現時点での「予備的所見」も特別報告者の公式な見解であることには変わりない。驚くべき発言に、避難当事者や弁護士から福島県の認識不足や不見識さを指摘する声があがっている。
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【「正式な報告書でない」とも】
 問題の発言は、話し合いの中盤に飛び出した。ダマリーさんが昨年10月7日に公表した「予備的所見」について、「ひだんれん」(原発事故被害者団体連絡会)幹事の村田弘さん(福島県南相馬市小高区からの避難継続中)が「内堀雅雄知事は内容を把握しているのか」と質したときだった。
 ダマリーさんの「予備的所見」では、「強制避難指示が執行されている地域から来たかそうでないかにかかわらず、全員が国内避難民」、「援助や支援を受けるという点での『強制避難者』と『自主避難者』という分類はやめるべき」という点が強調されている。
 また、国家公務員宿舎に入居している区域外避難者(いわゆる〝自主避難者〟)に対する追い出し訴訟を念頭に、「ある種の公営住宅に今も居住している国内避難民は、彼ら/彼女らを相手取って提訴された立ち退き訴訟に直面している。政府は特に脆弱な状態にある国内避難民に対して住宅支援の提供を再開すべきである、と勧告する」という記述もある。
 つまり、自民党政権とそれに追従する内堀県政の原発避難者施策は国際人権法の観点から誤っていると指摘しているのだ。
 だからこそ、村田さんは内堀知事がダマリーさんの「予備的所見」の内容を把握しているか否かを確認した。だが、福島県職員は「概要については情報として(知事に)あげております」としたうえで、次のように言い放った。
 「ただ、あくまでもこの時点でのダマリーさんの個人的なご意見ということもありますので、正式な報告書ではないようにわれわれとしては思っております。それ以上のことにつきましてはコメントを差し控えさせていただきます」
 驚いた避難当事者の1人が「個人的見解などではなく、国連特別報告者としての公式な発表だった。『個人的意見』というのは間違い。きちんと認識していただきたい」と指摘したが、県職員からの発言はなかった。

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事前に出された質問に対しても、福島県側はまともに答えていない。この日の話し合いでも「ダマリーさんの最終報告がどのような形になるか分からない時点で、それを尊重するのか従うのかと尋ねられても答えにくい」と述べるにとどまった

【「筋金入りの専門家」】
 国連特別報告者とはどういう立場か。過去記事を基におさらいしておきたい。
 先月、京都で行われた報告会に参加した研究者は、次のように解説している。
 「国連人権理事会のなかに特別手続きがあり、その一環で任命される人権の専門家が『特別報告者』です。個人資格で、独立性を認められた専門家が投票で任命されます」
 「ダマリーさんの任期は2022年10月末で終わっており、訪日調査の結果は今年6月の人権理事会に報告されます。特別報告者の見解や勧告に法的拘束力はありませんが、人権理事会の手続きの一環で独立性を確保する専門家によって実施されることを考えると、国連加盟国である国家は助言・勧告を誠実に履行することを求められていると言えます」
 「裁判で、行政側が『法的拘束力がないから従わなくて良い』というような反論をしてきたら、それは国際法の観点から言えば完全に『論外』です」
 また、「武器としての国際人権~日本の貧困・報道・差別」(集英社新書)の著者・藤田早苗さん(エセックス大学人権センターフェロー)も、ダマリーさんのような特別報告者について「筋金入りの専門家」と表現した。
 「世界中の候補者のなかから公募で選ばれ、報酬などない〝筋金入りの専門家〟に対し、日本政府は『誤解している』とか『一方的だ』などと言います。何を言っているんだ。恥ずかしくないのかと思います」
 藤田さんは一昨年夏にも、次のように語っている。
 「国連特別報告者は人権理事会の慎重な審査を経て任命されます。私人として行動しているわけではありません。『王冠にのせる宝石』と言われるほど重要な役割を担っています。国連憲章に根拠があるので、特別報告者を尊重し協力しないと国連憲章に反します」
 福島県職員の認識がどれほど間違っているか。これ以上の説明は不要だろう。

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午前8時45分から1時間だけ、リモートで行われた27回目の話し合い。問題の発言はこのなかで飛び出した

【「不見識も甚だしい」】
 「国内避難民の人権に関する国連特別報告者による訪日調査を実現する会」の代表世話人・田辺保雄弁護士は「いまの段階では正式書面ではないのだから取り合わなくて良いという趣旨で県職員が言っているのだとしたら、不見識も甚だしい」と指摘した。
 田辺弁護士はダマリーさんからの訪日調査受け入れ要請を無視し続けた外務省を避難当事者たちと訪れ、要請を受け入れるよう求めるなど、訪日調査実現に奔走してきた1人。
 「県職員は、言外に正式な報告書でないという意味に捉えているようだが、それは誤りだ。国連特別報告者の予備的所見は暫定的なものであるけれど、それ自体も『正式な』ものであることを誤解している。暫定的とはいっても、国連特別報告者が調査を遂げたうえで明らかにしているものであり、調査結果の方向性が明らかになっているとみるべきだ。政府や県には、その指摘に真摯に耳を傾ける姿勢が望まれる」
 この日の話し合いでは、村田さんは「ダマリーさんの報告書が6月に国連人権理事会に提出されたら、福島県はそれを尊重して従うと考えて良いか」とも質した。だが、福島県側は答えなかった。
 「ダマリーさんの最終報告がどのような形になるか分からない時点で、それを尊重するのか従うのかと尋ねられても答えにくい」
 これには村田さんも苦笑するしかなかった。
 「福島県の態度は世界中から見られている。ダマリーさんの予備的所見では『強制的に追い出してはいけない』、『住宅提供を再開せよ』、『避難指示の有無で区別してはいけない』、『政策決定にあたっては避難当事者の意見を聴け』とズバリ指摘された。重く受け止めて欲しい」
 終了後、武藤類子さん(ひだんれん共同代表)は「福島県の勧告の受け止め方は間違っている。ひだんれんとして何かアクションを起こせるか話し合いたい」と語った。



(了)
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鈴木博喜

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