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【東電刑事裁判】「必要な対策を講じてこなかった国や事業者を免罪する危険な論理」控訴審判決受け郡山で報告集会 「細田裁判長は誰に忖度しているのか?」との声も

2011年3月の福島第一原発事故に対する東電旧経営陣の刑事責任を問う「東電刑事裁判」で、1月18日に東京高裁で言い渡された控訴審判決(控訴棄却)に関する報告集会が12日午後、福島県郡山市で行われた。2時間近くにおよんだ判決言い渡しを傍聴した福島県民たちが「細田裁判長は誰に忖度しているのか」などと怒りを口にしたほか、海渡雄一、大河陽子両弁護士が判決の問題点を解説した。指定弁護士は既に最高裁に上告しており、福島原発告訴団長の武藤類子さんは「最高裁の弁論がぜひとも開かれるように」と願いをこめて締めくくった。
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【「東電の法務担当社員?」】
 東京高裁での判決言い渡しを傍聴した人々の言葉が、司法と被害当事者の「ずれ」を如実に表していた。
 西会津町の男性は「海渡雄一弁護士の『審理不十分で地裁に差し戻すこともあり得る』という言葉に一縷の望みを託して法廷に入ったが、期待は瞬時に打ち砕かれた。判決理由を長々と述べている細田啓介裁判長を見ていたら、この人は果たして誰なのだろうと思ってしまった。確かに黒い法衣をまとってはいたが、東電の法務担当社員なのではないかとさえ思った」と語った。
 「最高水準の専門家による研究成果が津波の危険があると警告を発しても電力会社が納得しないのだから対策を講じなくても仕方がない、と言うのだから呆れてしまう。また、原子力事業者にとって運転そのものを停止する措置は重い選択だと。原発を止めるには相応の理由が必要だと。だが、順番が逆ではないか。原発事故が起これば甚大な被害が生じるのは明らかだ。まずは、運転するに当たっては万が一にも事故が起きないような安全対策を講じなければならない。そう言うべきだ。『長期評価』に基づいて、東海第二原発(茨城県東海村)のように、建屋の水密化対策を講じたところもある。それなのに、津波対策について細田裁判長が『後知恵』という表現を使ったことに驚いたし、非常に腹が立った」
 そして、こう呼びかけた。
 「指定弁護士がどれほど証拠を積み上げても、やっぱり裁判で勝てるはずがないとみている人もいるかと思う。しかし、そのような考え方は、何ら対策を講じなかった東電に対して『たとえ対策を講じたとしても津波被害は防げなかった』と免罪した一審判決と同じだ。この裁判を闘っているからこそ明らかになったことも多いということを忘れてはいけない。この裁判は、日本で再び原発事故を起こさないための裁判。あきらめるわけにはいかない」
 「私たちは『現地を見てから判決を書いてください』という署名を集めて提出したのに叶わなかった」と怒りを口にしたのは郡山市の女性。川俣町山木屋地区の男性は「誰に忖度しているのか、と細田裁判長に質問したい」と語気を強めた。
 「判決は〝無罪にするための理由づけ〟ではないか。細田裁判長は『高さ15・7メートルの津波が発生するという信頼性のある情報はなかった』という。だから旧経営陣の責任は問えないんだと。無罪にするための理由を上手に並べたなぁ」

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東京高裁での判決言い渡しを傍聴した西会津町、郡山市、川俣町山木屋地区の3人が細田裁判長への怒りを語った。山木屋地区の男性(写真下)は「細田裁判長は誰に忖度しているのか」と語気を強めた

【「現場も見ずに判断した」】
 では、控訴審判決の何が問題なのか。
 2人の弁護士は、昨年7月13日に東京地裁で言い渡された『東電株主代表訴訟』の判決(東電元役員らの責任を認め、13兆円余の賠償を命じた)と対比しながら、今回の控訴審判決の誤りを解説。
 海渡弁護士は「科学的知見に対して、判決が言うような形で『現実的な可能性』を求めたら、大地震が明日にも発生することが分かっていない限り何ら対策を講じなくても良いということになりかねない。必要な対策を講じてこなかった国や事業者を免罪し、次の過酷事故を準備する非常に危険な論理だ」と指摘した。
 控訴審判決は「長期評価(地震調査研究推進本部が2002年7月に公表した『三陸沖から房総沖にかけての地震活動の長期評価について』)は、本件原発の10メートル盤を超える津波の襲来についての現実的な可能性を認識させるような情報ではない」と一蹴している。これについて、大河弁護士は「科学的知見に過度の信頼性を求めている。こんなことを言っていると科学的知見など確立しない」と批判した。
 海渡弁護士も「2007年10月に静岡地裁で言い渡された『浜岡原発運転差止請求訴訟』の判決(請求棄却)は『抽象的な可能性の域を出ない巨大地震を国の施策上むやみに考慮することは避けなければならない』としたが、今回の控訴審判決もこれとまったく同じ誤りをしている」との見方を示した。
 ちなみに、2022年6月の最高裁判決(生業訴訟、群馬訴訟、千葉訴訟、愛媛訴訟に関し、国の責任を認めず)では、三浦守裁判官が反対意見のなかで「長期評価の不確かさ」について認めつつも、「自然現象の予測が困難であって、不確実性を伴うことは、むしろ当然のこと」、「確立した見解に基づいて確実に予測される津波に限られるものではない」と述べている。
 東京高裁は現地進行協議と呼ばれる現場検証を拒んだ。証人申請も却下した。
 「株主代表訴訟では、東京地裁の朝倉佳秀裁判長が『たしかに写真も図面もあるが、現地を三次元的に理解して判決を書きたい』と言って、2021年10月に現地進行協議が実現した。しかし、控訴審判決は現場も見ずに判断してしまった」
 最後に、海渡弁護士はこう強調した。
 「こういうケースで刑事責任を問うのは難しいと多くの〝識者〟が語っているが、そんなことはない。部下に防火対策を進言されながらやらなかった『ホテルニュージャパン事件』(1982年2月)は東電のケースと酷似しているが、横井英樹社長に実刑判決が言い渡された。部下が津波対策を講じてくださいと進言したのに、東電は利益追求のため、そして原子炉停止を恐れて対策を講じなかった。そういう単純な事件だ。勝つべき証拠は揃えた。論理的な考え方ができ、公平な見方をできる裁判官であれば有罪判決を書けると思う。三浦裁判官の反対意見を書いた調査官が最高裁にはいる。勝機はある」

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(上)控訴審判決の問題点について改めて確認した報告集会
(中)海渡雄一、大河陽子両弁護士は80ページを超えるスライドを用意して解説
(下)福島原発告訴団長の武藤類子さんは「細田裁判長は原発事故被害の実相や双葉病院からの避難の過酷さをどこまで理解しているのか」と怒りを口にした=郡山市市民交流プラザ

【「最高裁の弁論ぜひ開いて」】
 報告会では、福島原発刑事訴訟支援団の佐藤和良団長(いわき市議)が「2012年6月11日の告訴から11年。控訴審判決はとても納得いかず、断固抗議したい。あの原発事故の原因をつまびらかにして、責任のありかをきちんとさせようということで始まった裁判。1月24日に指定弁護士が最高裁に上告してくれたが、これからが難関に次ぐ難関ではないか。最高裁での逆転は一筋縄ではいかないと思うが、これからも心一つにしてがんばっていきたい」とあいさつ。
 武藤類子さん(福島原発告訴団長)は「私たちの社会はこれで良いのか」と語った。
 「2019年9月の一審・東京地裁判決(永渕健一裁判長、全員無罪)から3年半、できる限りの活動をしてきた。しかし、東京高裁は現場検証や新たな証人尋問、東電株主代表訴訟の証拠採用と弁論再開などの申請をことごとく却下した。それでも公正な判決を心から願い、希望を捨てることなく判決日を迎えたが、再び『全員無罪』の判決を聞かなければならなかった。とても、東電株主代表訴訟と同じ証拠を採用し同じ元経営陣を裁いたとは思えない。細田裁判長は原発事故被害の実相や双葉病院からの避難の過酷さをどこまで理解しているのか。歴史的な裁判にかかわっている気概も誇りも感じられなかった」
 武藤さんは、街頭で裁判に関するチラシを配っていたところ、女子高生から声をかけられ「どうして、いつまでもこんなことをしているの?もっと夢や希望のある前向きなことをした方が良いんじゃない?こんなことをしているから、いつまでも福島が汚染していると見られてしまう。原発事故の責任は東電だけにあるの?」と問われたという。
 「私は『あなたに夢や希望のあることをしてほしいから、私たちの世代が事故の後始末をしなければならない。原発事故の責任は私にもあると考えている。もっと責任のある人に責任をとってもらって、二度と悲劇が起こらないようにしていくことが私の責任の取り方なんだよ』と答えた。わずか4、5分だったが、少しでも東電刑事裁判の意義が伝わったらいいなと思う」
 そして、来場者に呼びかけた。
 「少しでも良い社会を未来の世代に手渡せるように。そして最高裁の弁論がぜひとも開かれるように。明日からできることをやっていきましょう」



(了)
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鈴木博喜

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