【143カ月目の汚染水はいま】雨中の抗議「海に流すな!」小名浜で〝13日スタンディング〟 太平洋の島々からも続々と「海洋放出NO」の声
- 2023/02/14
- 05:47
2021年4月13日に政府が海洋放出方針を決定したことに抗議し、福島県の市民団体「これ以上海を汚すな!市民会議」(織田千代、佐藤和良共同代表)が中心となって毎月続けているスタンディングが今月も、いわき市小名浜で行われた。朝から雨が降り続いたが、いわき市民たちが改めて「あきらめずに海洋放出を止める」と声をあげた。国や東電は夏までに海洋放出を始めたい考えだが、漁業者は反対姿勢を貫いている。太平洋の島々からも計画の白紙撤回を求める勧告が出された。一方、これは福島だけの問題なのか。海はつながっている。あなたの問題でもある。

【「『流すな』言い続ける」】
朝から降り続いていた雨が一瞬、やんだ。だが、織田さんたちの「海を汚すな」の想いは、天候に左右されるような軽いものではなかった。「これまで、もっと酷い天候でもやってきたから」と笑顔で準備を始めた。
「毎月13日にこうやってスタンディングをして、『海洋放出を止める』という願いが叶うといいなと思いながらやってきたけれど、(今春から今夏という)放出開始時期が取り沙汰されてしまって、計画が前に進められてしまっている感じです。でも、私たちの想いは全然変わっていません。原発事故になんか遭いたくなかったし、事故のおかげでこういうことになっているのです。あきらめるとかそういう問題ではありません。『海洋放出などやめてくれ』と、ずっと言い続けなければいけないなと思っています」
経産省資源エネルギー庁の完了を何度もいわき市に招き、意見交換会を開いた。2021年4月11日に行った小名浜緊急スタンディングでは「決定を急ぐのは間違っていると思います。私たちの声を聴いて決めて欲しいです。どうか汚染水を海に流さないでください」と訴えた。
昨年4月のスタンディングでも「いつの間にか海底トンネルで汚染水を海に流す計画になっているし、どうしたら良いのかなと考える事態になってしまいました。『汚染水を海に流さないで』と叫び続けるのは大切です。やめろ!と言い続けなければいけません。それぞれの立場でがんばっていきましょう」と声をあげた。
しかし、国と東電は反対意見を無視するように海洋放出設備の工事を着々と進め、福島県の内堀雅雄知事も海洋放出計画への賛否を明言しないまま、事実上容認している。
織田さんは昨年7月、海の日に会わせた集会で、こう訴えた。
「多くのみなさんが反対し続けています。しかし、東電は『関係者の理解なしには、いかなる処分も行わない』という約束があるにもかかわらず、事前了解の要らない工事を始めてしまっています。漁業者のみなさんをはじめ、私たち市民のアクションや要請書の提出など、訴えているたくさんの声があるはずなのに、いったいどこに行ってしまったのでしょうか」
「大型タンクで長期保管して放射性物質の減衰を待つとか、モルタル固化をするとか、地下水の流入を止める土木工事も提案されています。海洋放出をする前に、まだできることがあるということです。それなのに、国と東電は流す流すと言っています。なぜそんなに急ぐのでしょうか。子どもたちの未来にきれいな海を残したい。声をあげ続けましょう!」



(上)雨のなか、いわき市民たちが「汚染水を海に流すな」と声をあげた=アクアマリンふくしま前
(中)環境水族館「アクアマリンふくしま」入り口では、「よみがえれ私たちの海」と書かれた大漁旗がはためいていた
(下)全漁連は今年1月、改めて「我々JFグループは、ALPS処理水の海洋放出に反対であることはいささかも変わるものではない」とする会長談話を発表している
【「原発事故まで水に流すな」】
短い時間だったが、参加したいわき市民たちがそれぞれの想いを口にした。
「海洋放出することで原発事故まで〝水に流す〟なんてことはやってはいけないと思う。自然を大切にするのは人間の使命」(女性)
「トリチウムの危険性は隠されてきた」(男性)
「『反対してもしょうがないだろう』と汚染水に無関心な人が多いが、自分の生き方として初めて参加した。この輪が少しでも大きくなったら良いと思う」(男性)」
「身体に悪いものをどうして海に流すのか。日本には科学者が大勢いるのだから、きちんと予算をつけて海洋放出したらどのくらいの被害が生じるのかを解明してもらいたい」(女性)
「知人からいわきで水揚げされたヒラメとスズキをもらったが、ちょうどその日にスズキから85・5ベクレルが検出されたというニュースが出たので食べなかった。海洋放出して、何も知らずに食べたら子どもたちはどうなってしまうのか」(女性)
共同代表の佐藤和良さん(いわき市議)は「一昨年6月から毎月13日にここでスタンディングをして、『汚染水を海に流すな』という意思表示をしながら市民にもこの声が広がるようにと、雨の日も風の日も立ち続けています」と語った。
「1月13日に関係閣僚等会議を開いて、今年春から夏にかけて流し始めますよということを確認した。では、いつから始めるのか。IAEAが〝お墨付き〟を与える最終報告書が6月末にまとまるようで、それを受け取ってから7月から始めるというのが政府の狙いのようだ。国は『風評対策』などとして数百億円規模の基金を用意したが、まさに札束で漁業者を屈服させようとしている。全漁連も県漁連も反対の姿勢に変わりはない。生業が成り立たなくなるのだから当然だ。われわれは東北の蝦夷。抵抗する精神を忘れないでがんばっていきたい」
なお、福島大学教授で2013年から「福島県廃炉安全協議会」の専門委員を務める柴崎直明さん(昨年4月の講演記事はここをクリック)が中心となっている「福島第一原発地質・地下水問題団体研究グループ」は、昨年7月に発行したブックレット「福島第一原発の汚染水はなぜ増え続けるのか―地質・地下水から見た汚染水の発生と対策―」のなかで「薄めて流せば大丈夫とするだけで総量規制の観点がない」などと海洋放出計画を批判している。
「どんなに薄めても放出する総量は変わりません。命と環境を守るために海洋放出をしてはいけません」



(上)アクアマリンパーク内に掲示された看板は、皮肉にも「海を汚すな」と訴えている
(中)小名浜と言えばメヒカリ。国や東電は海洋放出による影響を販売減など「風評被害」に矮小化させようとしている
(下)東京駅構内で始まったデジタルサイネージ(電子看板)での海洋放出安全PR。これも〝理解醸成〟の一環
【太平洋の島々も「NO」】
国際社会からも「海洋放出NO」の声が続々とあがっている。
あくまで仮訳の段階だが、1月31日に実施された日本のUPR審査(普遍的定期的審査)では、これまで〝核の実験場〟とされてきた太平洋の島々を中心に次のような勧告が出されている。
・国際社会の合法的で正当な懸念を真摯に受け止め、オープンで透明性のある安全な方法で核の汚染水を処理すること(中国)
・人体の健康に害を及ぼすこと、環境への悪影響を最小限に留める核廃棄物の放出代替法や貯蔵方法の研究、投資、活用を強化すること
・特に海洋法に関する国際連合条約など、福島第一の放出計画に関する包括的な環境影響評価を含む国際的な義務を十分に遵守すること
・情報格差を含めた太平洋諸国の全ての懸念に対処するまで、太平洋への放射性廃水の放出を控えること、人間や海洋生物に与える放出による影響について検証可能な科学的データを利用可能にすること(サモア)
・太平洋諸島フォーラムの独立した評価による許容判断がされない限り、太平洋に放射性廃水の放出計画を停止すること
・放射性廃棄物による被害から太平洋の人々と生態系を守るため、放出計画に代わる案を進展させ実施すること(マーシャル諸島)
・太平洋への放射性廃水の放出計画を停止し、現在進行中の放出案に関する独立的な評価について、太平洋諸島フォーラムとの対話を継続すること
・放射性廃水の太平洋への放出が許容できる措置であるかどうか検証し評価を進めるため、太平洋諸島フォーラムの独立した科学の専門家が要求する全データの完全開示を提供すること(フィジー)
・福島第一原子炉からの放射性廃水の投棄に関するいかなる決定も、適切な国際的協議が行われるまで延期を検討すること(東ティモール)
・あらゆる核の汚染廃水放出の安全性について、さらに納得のいく科学的証拠を提供せずに、福島原子力発電所からいかなる核汚染廃水及び廃棄物を太平洋に放出投棄しないこと(バヌアツ)
政府は林芳正外務大臣がマーシャル諸島共和国の外務・貿易大臣と会談するなど、懐柔を始めている。
(了)

【「『流すな』言い続ける」】
朝から降り続いていた雨が一瞬、やんだ。だが、織田さんたちの「海を汚すな」の想いは、天候に左右されるような軽いものではなかった。「これまで、もっと酷い天候でもやってきたから」と笑顔で準備を始めた。
「毎月13日にこうやってスタンディングをして、『海洋放出を止める』という願いが叶うといいなと思いながらやってきたけれど、(今春から今夏という)放出開始時期が取り沙汰されてしまって、計画が前に進められてしまっている感じです。でも、私たちの想いは全然変わっていません。原発事故になんか遭いたくなかったし、事故のおかげでこういうことになっているのです。あきらめるとかそういう問題ではありません。『海洋放出などやめてくれ』と、ずっと言い続けなければいけないなと思っています」
経産省資源エネルギー庁の完了を何度もいわき市に招き、意見交換会を開いた。2021年4月11日に行った小名浜緊急スタンディングでは「決定を急ぐのは間違っていると思います。私たちの声を聴いて決めて欲しいです。どうか汚染水を海に流さないでください」と訴えた。
昨年4月のスタンディングでも「いつの間にか海底トンネルで汚染水を海に流す計画になっているし、どうしたら良いのかなと考える事態になってしまいました。『汚染水を海に流さないで』と叫び続けるのは大切です。やめろ!と言い続けなければいけません。それぞれの立場でがんばっていきましょう」と声をあげた。
しかし、国と東電は反対意見を無視するように海洋放出設備の工事を着々と進め、福島県の内堀雅雄知事も海洋放出計画への賛否を明言しないまま、事実上容認している。
織田さんは昨年7月、海の日に会わせた集会で、こう訴えた。
「多くのみなさんが反対し続けています。しかし、東電は『関係者の理解なしには、いかなる処分も行わない』という約束があるにもかかわらず、事前了解の要らない工事を始めてしまっています。漁業者のみなさんをはじめ、私たち市民のアクションや要請書の提出など、訴えているたくさんの声があるはずなのに、いったいどこに行ってしまったのでしょうか」
「大型タンクで長期保管して放射性物質の減衰を待つとか、モルタル固化をするとか、地下水の流入を止める土木工事も提案されています。海洋放出をする前に、まだできることがあるということです。それなのに、国と東電は流す流すと言っています。なぜそんなに急ぐのでしょうか。子どもたちの未来にきれいな海を残したい。声をあげ続けましょう!」



(上)雨のなか、いわき市民たちが「汚染水を海に流すな」と声をあげた=アクアマリンふくしま前
(中)環境水族館「アクアマリンふくしま」入り口では、「よみがえれ私たちの海」と書かれた大漁旗がはためいていた
(下)全漁連は今年1月、改めて「我々JFグループは、ALPS処理水の海洋放出に反対であることはいささかも変わるものではない」とする会長談話を発表している
【「原発事故まで水に流すな」】
短い時間だったが、参加したいわき市民たちがそれぞれの想いを口にした。
「海洋放出することで原発事故まで〝水に流す〟なんてことはやってはいけないと思う。自然を大切にするのは人間の使命」(女性)
「トリチウムの危険性は隠されてきた」(男性)
「『反対してもしょうがないだろう』と汚染水に無関心な人が多いが、自分の生き方として初めて参加した。この輪が少しでも大きくなったら良いと思う」(男性)」
「身体に悪いものをどうして海に流すのか。日本には科学者が大勢いるのだから、きちんと予算をつけて海洋放出したらどのくらいの被害が生じるのかを解明してもらいたい」(女性)
「知人からいわきで水揚げされたヒラメとスズキをもらったが、ちょうどその日にスズキから85・5ベクレルが検出されたというニュースが出たので食べなかった。海洋放出して、何も知らずに食べたら子どもたちはどうなってしまうのか」(女性)
共同代表の佐藤和良さん(いわき市議)は「一昨年6月から毎月13日にここでスタンディングをして、『汚染水を海に流すな』という意思表示をしながら市民にもこの声が広がるようにと、雨の日も風の日も立ち続けています」と語った。
「1月13日に関係閣僚等会議を開いて、今年春から夏にかけて流し始めますよということを確認した。では、いつから始めるのか。IAEAが〝お墨付き〟を与える最終報告書が6月末にまとまるようで、それを受け取ってから7月から始めるというのが政府の狙いのようだ。国は『風評対策』などとして数百億円規模の基金を用意したが、まさに札束で漁業者を屈服させようとしている。全漁連も県漁連も反対の姿勢に変わりはない。生業が成り立たなくなるのだから当然だ。われわれは東北の蝦夷。抵抗する精神を忘れないでがんばっていきたい」
なお、福島大学教授で2013年から「福島県廃炉安全協議会」の専門委員を務める柴崎直明さん(昨年4月の講演記事はここをクリック)が中心となっている「福島第一原発地質・地下水問題団体研究グループ」は、昨年7月に発行したブックレット「福島第一原発の汚染水はなぜ増え続けるのか―地質・地下水から見た汚染水の発生と対策―」のなかで「薄めて流せば大丈夫とするだけで総量規制の観点がない」などと海洋放出計画を批判している。
「どんなに薄めても放出する総量は変わりません。命と環境を守るために海洋放出をしてはいけません」



(上)アクアマリンパーク内に掲示された看板は、皮肉にも「海を汚すな」と訴えている
(中)小名浜と言えばメヒカリ。国や東電は海洋放出による影響を販売減など「風評被害」に矮小化させようとしている
(下)東京駅構内で始まったデジタルサイネージ(電子看板)での海洋放出安全PR。これも〝理解醸成〟の一環
【太平洋の島々も「NO」】
国際社会からも「海洋放出NO」の声が続々とあがっている。
あくまで仮訳の段階だが、1月31日に実施された日本のUPR審査(普遍的定期的審査)では、これまで〝核の実験場〟とされてきた太平洋の島々を中心に次のような勧告が出されている。
・国際社会の合法的で正当な懸念を真摯に受け止め、オープンで透明性のある安全な方法で核の汚染水を処理すること(中国)
・人体の健康に害を及ぼすこと、環境への悪影響を最小限に留める核廃棄物の放出代替法や貯蔵方法の研究、投資、活用を強化すること
・特に海洋法に関する国際連合条約など、福島第一の放出計画に関する包括的な環境影響評価を含む国際的な義務を十分に遵守すること
・情報格差を含めた太平洋諸国の全ての懸念に対処するまで、太平洋への放射性廃水の放出を控えること、人間や海洋生物に与える放出による影響について検証可能な科学的データを利用可能にすること(サモア)
・太平洋諸島フォーラムの独立した評価による許容判断がされない限り、太平洋に放射性廃水の放出計画を停止すること
・放射性廃棄物による被害から太平洋の人々と生態系を守るため、放出計画に代わる案を進展させ実施すること(マーシャル諸島)
・太平洋への放射性廃水の放出計画を停止し、現在進行中の放出案に関する独立的な評価について、太平洋諸島フォーラムとの対話を継続すること
・放射性廃水の太平洋への放出が許容できる措置であるかどうか検証し評価を進めるため、太平洋諸島フォーラムの独立した科学の専門家が要求する全データの完全開示を提供すること(フィジー)
・福島第一原子炉からの放射性廃水の投棄に関するいかなる決定も、適切な国際的協議が行われるまで延期を検討すること(東ティモール)
・あらゆる核の汚染廃水放出の安全性について、さらに納得のいく科学的証拠を提供せずに、福島原子力発電所からいかなる核汚染廃水及び廃棄物を太平洋に放出投棄しないこと(バヌアツ)
政府は林芳正外務大臣がマーシャル諸島共和国の外務・貿易大臣と会談するなど、懐柔を始めている。
(了)
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