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【浪江原発訴訟】「避難先で楽しんでる」「賠償金でタワマン買った」…原発事故被害の実相無視した東電代理人弁護士の反対尋問に呆れる浪江町民~福島地裁で第16回口頭弁論

集団ADRでの和解案(慰謝料一律増額)を東京電力が6回にわたって拒否し続けた問題で、浪江町民が国や東電を相手取って起こした「浪江原発訴訟」の第16回口頭弁論が1月31日、福島地裁203号法廷(小川理佳裁判長)で終日行われた。被告東電が申請した5人の原告に対する本人尋問。長引く避難生活での苦痛やふるさとはく奪などには目もくれず、東電代理人弁護士は原告たちを責め立てるような尋問に終始した。次回期日は今月27日。次回も東電側が要求した5人に対する本人尋問が予定されている。2018年11月27日の提訴から5年。裁判は6月にも結審する予定だ。
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【避難者の心情は複雑】
 70代の男性原告は、帰還困難区域に指定された大堀地区から避難。現在は山形県内で家族と暮らしている。
 大堀では消防団の分団長も務め、懇親のための飲食代を削るなどして皆でお金を貯めて、LED電灯を設置した。真夜中でも消防設備を確認できるようになった。そのような地域活動も奪ったのが原発事故。2011年3月12日に津島集会所に避難したのをはじめ、福島市の渡利小学校体育館や国見町の知人宅、いわき市内の借り上げアパートなどを転々とした。
 長引く避難生活で疲れ切った妻は、外出が減り、自宅でじっと黙ったまま過ごすようになった。自身も報告書に「心から笑うことがほとんどない」、「疎外感や孤独感がある」などと綴った。東電の代理人弁護士はここに着目した。
 町の広報紙に掲載された「浪江のこころ通信」。東電の代理人は6年前に男性と妻について書かれた記事のなかから「栽培方法を話し合い、今までより作物が大きく実り、喜んでもらうとなによりうれしいですね」、「冗談を言って笑い合い、支えてくれる仲間がいて、それが私たちの今の暮らしの安心につながっています」などの男性の言葉を読み上げたうえで、こう迫った。
 「先ほど確認したような『心から笑うことがほとんどない』、『疎外感や孤独感がある』というようなことは無いのではないですか?」
 つまり、東電は「避難先でも十分楽しんでいるじゃないか」、「充実した生活を送れているのに何を言っているんだ」とでも言いたいのだろう。男性はすぐさま反論した。
 「ここに書かれていることも正しい。私の報告書も正しい。どちらも正しいのです。原発事故後のさまざまな想いを語ると複雑になります。そもそも広報紙に悪い話は載りません」
 大堀で有機農業に取り組んでいた男性が、避難先でも畑仕事にかかわり、そのなかで喜びや楽しみを見出すのは当然のことだ。そのことと原発事故によって奪われたものの大きさや喪失感、長期化した避難生活での疲労感、避難先での疎外感はまったく性質が異なる。
 尋問の終わりに、男性は改めて複雑な想いを述べた。
 「避難元は除染も終わっていないし、気持ちは複雑。心情をどのように表現したら良いか分からないときもあります」
 男性は「浪江に帰りたい」とはっきりと答えた。しかし、戻れる見通しは立っていない。ともすれば鬱々とする日々のなかで少しでも前向きに生きようとする避難者の心情を全否定するのが東電の〝法廷戦術〟だとしたら、自ら掲げた「3つの誓い」などすぐに取り消すべきだ。

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本人尋問に臨んだ男性は、閉廷後の報告集会で「すごく緊張した。東電の反対尋問にはかなり血圧が上がったが、考えていたことの7~8割は話せたかな」と振り返った

【「タワマン」「タワマン」連呼】
 50代の男性原告(浪江町川添)に対しては、東電の代理人弁護士は何度も「タワマン」、「タワマン」と連呼。あたかも避難先で裕福な生活を送っているかのように印象づけようとしている様子がうかがえた。
 男性は震災・原発事故前、双葉町の「標葉せんだん太鼓保存会」に参加。妻とも和太鼓の活動のなかで知り合った。結婚式での演奏や「太鼓フェスティバル」などで演奏したが、原発事故でその機会を奪われた。
 結婚前の職場が千葉県内にあったこともあり、社宅の近くに新たに完成したマンションを購入した。東電の代理人弁護士はマンションの写真や間取り、広さを示しながら、執拗に質した。
 「31階建ての何階に住んでいますか?」
 「いわゆる〝大規模レジデンス〟ということでよろしいでしょうか?」
 「首都圏で初めて、顔認証システムが導入されたマンションですね?」
 「東電から支払われた賠償金で購入されたのでしょうか?」
 そもそも、原発事故がなければ生まれ育った浪江を離れる必要はなかった。要介護3だった母親は避難先で要介護5になり、ほぼ寝たきりの状態になった末に亡くなった。それらへの謝罪はもちろん、言及も一切ない。
 原告の男性は主尋問のなかで「原発事故直後、防護服姿の警察官が避難を呼びかけていたが、なぜ私たちには防護服を配ってくれなかったのか」と語っているが、そこにも東電代理人弁護士は触れるはずもない。
 首都圏のマンションは浪江に比べれば確かに利便性は高い。では、そこに移り住んだら原発事故の責任は問われないのだろうか。男性は故郷だけでなく、妻とともに参加していた和太鼓演奏も奪われた。練習への参加は難しくなり、仲間と電話で話す程度しかできなくなってしまった。
 男性は言う。
 「『損害賠償』として受け取ったお金で、避難生活のつらさなどが解消されるとは考えていません。浪江は魅力的な街です。愛着があります。浪江に戻りたい気持ちはどのくらい強いか?とても強いです」

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弁護団長の日置雅晴弁護士は「東電は『十分に賠償している』と印象づける趣旨の尋問。次回も同じような形になり、4月の期日を経て、6月に結審する予定だ。来年3月までに判決が言い渡されると思われる」と語った=福島市市民会館

【「金ではふるさとは戻らない」】
 70代の男性(浪江町田尻)は妻の兄の介護のため、避難先の会津若松市から往復3時間かけて郡山市に通った。原発事故がなければ他のきょうだいも一緒に面倒を見ることができたが原発避難でバラバラになってしまった。妻と一緒に150回以上も通ったが、もう限界だった。郡山市内に自宅を購入した。だが、東電の代理人弁護士はまるで自宅の転売で不当に利益を得たかのように男性を責め立てた。
 実は自宅購入と相前後して、義理の兄のリハビリ病院への転院が決定。介護の必要がなくなった。維持費や税金などを考慮し、不動産会社と相談した結果、購入したばかりだったが売却することにした。東電の代理人弁護士はこれが利益を不当に得るための「転売」だと何度も質した。だが、原告側弁護士は言う。
 「東電が男性に支払った住居確保費用に問題があるのなら、この訴訟の尋問で執拗に問い質すのではなく、単純に返還を求めれば良いだけのこと。そもそも男性は、請求書類を出す前に東電に相談窓口で確認している。返還を求めずに法廷でネチネチと質問するのはおかしい」
 男性は主尋問で「天災であれば仕方ないが、原発事故がなければ人生は狂わなかった。金じゃない。元の浪江を返して欲しい」と訴えたが、当然だ。
 70代男性(浪江町高瀬)は、「サンプラザ」内で経営していたスーパーが原発事故で閉店。3年前に解体されてしまった。原発事故で仕事を失ったが、東電側は「創業者との対立で代表取締役を解任されたのであって本件事故とは関係ない」と主張した。
 60代の男性(浪江町川添)は工務店を経営。原発事故後は除染に付随する業務や仮置き場管理業務などを環境省の仕事を請け負った。しかし、それらは原発事故が起きたことによって生じた仕事。「そういう仕事に携わるのは本意ではない」と、2017年3月末で避難指示が部分解除されたのを機に、環境省の業務から手を引いた。
 「私たちは原発事故後12年、避難生活を続けております。国や東電の事故後の姿勢を見ていると、非常に釈然としない想いを抱きながら生活しています。原発事故で人生を台無しにされた。悔しい想いをしているのは私だけではありません。裁判が1日も早く結審し、晴れ晴れとした気持ちで生活したいです。国と東電には被害者の立場に立った真摯な対応を望みます」
 こうも述べた。
 「これは被災者全員が考えていると思いますが、お金ではふるさとは戻りません。賠償金ですべてが解決するとは思いません」



(了)
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プロフィール

鈴木博喜

Author:鈴木博喜
(メールは hirokix39@gmail.com まで)
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